- 自分をメタ認知して、上手に操作するにはどんな視点が大切でしょうか!?
- 実は、行動経済学を知ることがポイントかも。
- なぜなら、行動経済学は、人間の性を知り、活かす学問だからです。
- 本書は、そんな行動経済学の具体論をまとめた1冊です。
- 本書を通じて、自らを俯瞰する視点とついつい行動してしまう秘訣を知るでしょう。
ナッジとスラッジとは!?
行動経済学に触れていく時、ナッジとスラッジという概念は欠かせないでしょう。いずれも「認知バイアス」を活用した人間の行動を誘発する、あるいは、阻害するために使われる日常生活の中のトリック的なものです。
オランダのスキポール空港の男子トイレには、小さなハエが描かれています。そのハエに向かって尿がたされるため、便器の外が汚れないで済むという工夫です。
罰も報酬も、知識も議論も、感動も約束もないのに、小さなハエを小便器に描いただけで、人を動かせるのだ。
私たちの行動は「誰か」に誘導されている
スキポール空港で始まった「ハエ」はいまや世界中に広がっています。ナッジとは、ノーベル経済学賞受賞者の経済学者リチャード・セイラーが定義した用語で、「望ましい行動を簡単に、楽しく、自然に促す、環境における小さな変化」のことを指します。その反対に、望ましい行動を阻害するものがスラッジです。例えば、膨大な書類に対応しないと受け取れな補助金などの、書類がそれにあたります。
ナッジ、スラッジをはじめとする行動経済学を知ることは、人間の性を知り、それを活用して人を操作することを可能にします。そこには、衛生要因や動機づけなどの認知できる報酬以前の人間の深層心理に訴えかけるなにかがあり、そのために絶大な効果があり、そして継続的です。
行動経済学をしることは、またすなわち自分自身を知ることにもなります。
ナッジ、スラッジについては、過去の投稿「【正しいナッジの見つけ方とは!?】行動経済学の使い方|大竹文雄」や「【身の回りのうざいものを探そう!?】スラッジ 不合理をもたらすぬかるみ|キャス・R・サンスティーン,土方奈美」もぜひご覧ください。
なぜ私たちはうっかり行動をしてしまうのか!?
理由は簡単です。人間の脳は、ラクをしたいと常に考えているからです。ものごとについて理解するとき、情報を処理する必要がありますが、膨大な情報を毎回処理するのは、脳にとって不都合です。そこで立ち止まっていたら、自分にとってよくないこと(例えば、脳でエネルギーが消費されて、他のことができなくなることや、あるいは、次の行動が起こせなくて、危険が迫るとか)が起こるかもしれません。
私たちが勘違いしやすいのは、脳が、目の前の現実のうちもっとも処理しやすいパターンに注目するように進化しているからだ。
あなたを「勘違い」させる脳の仕組み
と、同時に、「望ましくない情報」からはついつい目をそむけてしまうものです。脳はこのようにして「認知バイアス」という名の罠に自らハマってしまうのです。私たちは、それをわかっていても回避できません。なぜなら、それを俯瞰して認知することは自分自身を常に客観視することになり、現実的には不可能だからです。実際に、私たちは私たちの脳が何を感じて、何を考えているのか、客観的に知ることができません。
だからこそ、安全運転を促すためには、信号、罰金、監視システム、交通キャンペーンなどなども必要ではありますが、絶対的に効果的なのは、道路に描かれる錯視効果による幾何学模様なのです。ついついドライバーは危険を察知して、スピードを落として、「結果的に」安全運転が可能になります。
こうした「工夫」は自分のよりよい行動を促すためにも、自らに適用することができます。例えば、大きいお皿と小さいお皿があったとしましょう。そこに同じだけの食事を盛り付けるとどうなるか。大きいお皿の食事は同じ分量にもかかわらず、小さいお皿よりも少なく見えます。実際に、子どもを対象にした実験では大きいお皿で食事を提供された子どものほうが完食する割合が高かったそうです。
ある実験によれば、皿の大きさを2倍にすると、被験者が食べる量は41パーセントも増えた。
実験してみよう 子どもがたくさん食べるお皿はどっち?
あなたが仮にダイエットをしたい!と切望しているのであれば、小さなお皿を活用することをおすすめします。
あるいは、あなたが小売商品のマーケティング担当だった場合、まず、マーケティングコミュニケーションの予算配置を小売店舗でより良い棚を獲得するために優先的に配置することを検討するべきでしょう。アシスランドの首都レイキャビクの研究者が、試験店舗で実験した内容によると、あるブランドのポテトチップスのマーケとシェアを倍増させるためには、店頭の棚の位置を変えるだけで十分だった結果を得ています。
意思決定の95%は、自動で行われています。1日に人が意思決定する回数は35,000回以上だと言われています。ですが、人間の脳は先述の通りラクをしたいと考えているので、いちいちその全てに脳をフル活用するとは考えません。
大量の情報を提供することよりも、わかりやすい情報を少しだけシンプルに提供するほうが、効果的であることは間違いないのです。
習慣化のためには!?
実は、習慣をいかにつくるか、についても行動経済学的に説明ができます。
新しい習慣をつくるのは「途中でやめるのはもったいない」という気持ち
新しい習慣をつくるのは「途中でやめるのはもったいない」という気持ち
これに尽きます。新しい習慣を作るためには、「毎日欠かさずに行うこと」「記録をつけること」が効果的だと言われるのはこのためです。1日も休まずにやっていたら、辞めてしまうのがもったいなく感じるし、その証明として記録は大変効果的です。
人は、成し遂げたことが増えていくと、その行為をさらに続けようとするのです。一度、始めてしまったことは、今度は辞めるのが難しくなります。お酒やタバコがやめられないのは、そういう理由もあるのです。
人を夢中にさせるための4つのステップを参考にしましょう。「フック・モデル」と呼ばれるものです。
ステップ1)「トリガー」を与える・・通知音を鳴らしたり、アプリのアイコンのそばに新着メッセージ数を表示したり、人になにか変化があることを知らせるトリガーを作ります。
ステップ2)「アクション」が起きる・・通知を受け取った人がアクションを取ります。
ステップ3)変化する「リワード」を与える・・アクションに対して、ユーザーの行動を強化するためのご褒美を提供します。この時ポイントなのが、報酬の多寡が“予期せぬ”かたちで変化すると、最高のご褒美があと少しで手に入ると感じるようになります。
ステップ4)「インベストメント(投資)」を継続させます・・上記1~3の繰り返しにより、時間やコストを投資することをポジティブに捉えられるような仕組みを作ります。例えば、ポイントカードや、SNS投稿により他者から称賛されることなどが考えられます。
フック・モデルを活用すれば、相手の行動を誘発しながら、それを継続させる工夫を持つことになります。
習慣化については、こちらの1冊「【習慣は作れる!?】ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣|ジェームズ・クリアー,牛原眞弓」もぜひあわせてご覧ください。
人は知らないことを知りたい!と強く願う生き物でもあります。だから、情報を全部伝えてしまうのではなくて、小出しにしたり、全容を全てつたえない工夫も、アクションを置こ起こさせたり、継続を促進したりするためには重要です。
脳は自分が知らないこと(ギャップ)を見つけると、それを埋めようとして好奇心を起こすという考えに基づいている。
ねらうべきは「ぜんぜん知らない」と「全部知っている」の間
お笑い芸人に、なかなか決め台詞や結論を言ってくれない人いませんか?じつは、あれも聴衆の注目を集め、ジョークの面白さを強く記憶するのに役立っているのです。「自分で考えること」で、対象が記憶に残りやすくすることは、「生成効果」と呼ばれています。
「認知バイアス」を活用するには!?
認知バイアスで人を動かすために、次の7つの手順ポイントを意識してみましょう。
1 達成したい結果を明確にする。
2 必要な行動を図式化する(誰が、いつ、何をすべきか)。
3 行動の結果、事態が改善したことをどう測定するか決める(何を、いつ、どのくらいの期間測定するか)。
4 同居人の立場になってみる(頭のなかでイメージする、物理的に試す、本人と話す)。同居人は外出時に家の照明を消したくないのか、できるがしていなかったのか、その発想がなかったのか?
(*同居人に外出時には電気を消してもらうためには?という問いの場合)
5 ハウスフライ効果を使う。行動をもっと簡単にできないか、もっと魅力的にできないか、もっと社交的にできないか、もっとタイミングよくできないか。 *ハウスフライ・・スキポール空港のハエ。
6 試してみる(予想外の結果に気をつけよう!)。
7 成果を確認する。うまくいかなければ、 5に戻る!
ナッジとスラッジがあるように、認知バイアスはよりよい社会のためにも、あるいはそうでないシーンでも活用することができます。効果絶大な工夫であるからこそ、私たち使用者の倫理観や思想に大きく影響を受けると言っても良いかもしれません。
まとめ
- ナッジとスラッジとは!?――ナッジとスラッジを知り、活用しましょう。
- なぜ私たちはうっかり行動をしてしまうのか!?――脳がラクをしたいからです。
- 習慣化のためには!?――7つの手順を意識してみましょう。