【アウフヘーベンしようぜ?】直線は最短か?~当たり前を疑い創造的に答えを見つける実践弁証法入門~|阪原淳

直線は最短か?~当たり前を疑い創造的に答えを見つける実践弁証法入門~
  • 仕事で企画をするときや、人生の意味や働く意味を考えるときに、思考の拠り所はないものか・・?
  • 実は、「弁証法」が役に立つかも。
  • なぜなら、弁証法とは、新しい融合によって、新しい意味をもたらす考え方だからです。
  • 本書は、元電通で、映画監督でかつコンサルタントの阪原淳さんが、弁証法と活用の仕方について説きます。
  • 本書を通じて、仕事や人間関係、あるいは人生を前に進める視点を得られます。

弁証法、アウフヘーベンってなあに?

阪原淳さんは、電通を2年で退社後、アメリカにわたりMBAを取得、その後、10代のころから夢だった映画監督になられた方です。映画監督の傍ら、経営コンサルタントとしてもご活躍されています。本書は衝撃的な、書き出しから始まります。

僕は一度殺されかけたことがあります。

はじめに

地下鉄サリン事件に遭遇してしまったそうです。しかもサリンが撒かれた車両に居合わせたそうで、サリンを相当量吸い込み、ご自身は後遺症が残ってしまったといいます。それが一つのきっかけになって、電通を退社し、「映画監督を目指すために」アメリカにわたり「MBA」に挑戦したというのです。!と?の連続ですが、これらは、阪原淳さんの中で、すべて弁証法的に筋が通っているといいます。そんな書き出しから、非常にセンセーショナルに本書は、役に立つ「弁証法」の内容に触れていきます。

弁証法とは19世紀に哲学者ヘーゲルにより再発見され、経済学者のマルクスによって定式化された哲学(社会認識の方法)です。
ある物事や考え方をテーゼとし、そこに異質なアンチテーゼをアウフヘーベン(掛け合わせる=止揚)させることで、より高次なものを生み出す考え方だということはお伝えしました。

ホットドッグで弁証法を理解する

パンをテーゼとした時に、ソーセージというアンチテーゼ(異質なもの)を組み合わせ(アウフヘーベンして)、ホットドッグというまったく新しいものを生み出すことが可能になるのです。

現代は、「ロジカルシンキング」や「クリティカルシンキング」が、もてはやされているようにも感じます。これらの出現は、20世紀にフランスの文化人類学者レヴィストロースらが始めた、物事を構造、関係性や機能などで理解しようとする「構造主義」に端を発しています。そして、これらをビジネス世界で応用してきたのが、マッキンゼー、ボスコン、ローランドベルガーなどのいわゆる大手コンサルティング会社です。

もちろんこうした構造主義的アプローチも非常に有用です。正しくアプローチすれば、正解に行き着く可能性が極めて高いからです。でも、いまやVUCAの時代、一歩先も不確実な中で、正解だけを見つけようとしても、なかなかうまく行きません。大切なのはバランスです。弁証法的アプローチも活用しながら、新しい意味の構築を志向することが望ましいのかもしれません。構造主義的な、スタティック(静的)な思考で、正解を導き出す方法と、弁証法的に、ダイナミックで意味を創造するアプローチを組み合わせながら、新たな道筋や解を見つけようと努力してみましょう。

アウフヘーベンは、3つあります。

エンゲルスは、弁証法には次の3つの法則があるとしました。
1.量と質の転化
2.対立物の相互浸透
3.否定の否定

アウフヘーベンとはどういうことか?

1.量と質の転化

これは水というテーゼに、熱というアンチテーゼが徐々に加わっていく中で、沸点を迎え水蒸気に変わることを捉えれば、簡単に理解できます。水蒸気に変わるところが、アウフヘーベンです。熱は徐々に、漸次的に加わっていき、ある時(沸点)に突如として変異をもたらします。きっと人間にも当てはまるのかもしれないと、阪原淳さんは言います。

勉強でも、仕事でも、下積みで量をこなしているうちは、目立った変化がありません。でも、続けることで、質的な変化が訪れるタイミングがかならず来るはずです。だから、辞めない、あきらめない、コツコツ続けていくことも、アウフヘーベンへ向かうには大切なのかもしれません。(増田みはらし書店店主としても、非常に勇気の湧く言葉です。ありがとうございます)

2.対立物の相互浸透

飛行機を例にします。飛行機をテーゼ、社会をアンチテーゼとした場合、それぞれが相互的に浸透しながら、新たな「飛行機のある社会」を構成しました。新たな技術が社会に浸透するときには、必ずアウフヘーベンとなるのかもしれないですね。スマホも、パソコンも、インターネットも、それぞれが、社会と相互浸透しながら、それがある社会をこれまでの社会とはまったく異なる意味のものへと進化させたのかもしれません。

3.否定の否定

阪原淳さんは、黒澤明監督の銘映画『生きる』を題材に考えます。この映画は、第一幕:公務員として働いている男は、第二幕:ガンを告知され、「生きる」意味を探し始め、第三幕:公園を残して死ぬ。というストーリーです。この公務員の男性は、与えられたルールを黙々と守る男から、住民の要望を役所に通したり時にヤクザと闘うまでする、志ある人間へと変貌を描く骨子となっています。もともとの無気力主人公がテーゼで、第二幕の事件がアンチテーゼ、そして第三幕へと向かわせるアウフヘーベンが見どころです。

第二幕では、テーゼを否定するアンチテーゼを持ってきます。「規則通り働く状態」の否定は、「規則には従わない」になります。
『生きる」では、ここでもうひとひねりストーリーを展開させます。つまり、この否定を高次にアウフヘーベンするように否定するのです。つまり否定の否定です。
「規則には従わない」を否定するならば、「規則に従わなければそれでいいのか?」と問いかけるわけです。これが「否定の否定」というプロセスです。

否定の否定

この結果「単に従わないのではなく、自分の信念を貫き、意味のある仕事をする」というアウフヘーベンへと向かうのです。

アウフヘーベンに、大切なのは?

生き方をアウフヘーベンすることが、大切だといいます。そして、そのためのテーゼと、アンチテーゼを阪原淳さんはこのように語ります。

では自分の思いとは何か?本当にやりたいことは何か?
それがいちばん大切なテーゼです。そして弁証法という道具はアンチテーゼとして使う。そうしてはじめて、あなたがやろうとしているジンテーゼに至るわけです。

本当にやりたいことは何だ?

本書は全体を通して、読者にとってのアンチテーゼになるような、見事な入れ子構造の中で、あなたの変革(アウフヘーベン)のきっかけをもたらすように波状攻撃を仕掛けてきてくれているのです。ぜひ一度、ご拝読ください。

大切なことは、自分の根っこを作り上げることから始まります。根っこというのは、根本の価値観、教養のこと。芸術でいえば「ドグマ」ともいいます。つまり自分のドグマを大切に、勇気をもって挑戦していけば、いずれ意識しなくても弁証法的にアウフヘーベンしていくのです。

ドグマさえあれば何をしてもいい

自分のテーゼを持ち、どのようなアンチテーゼをかけ合わせてアウフヘーベンしていくのか!?を考えるときには、「視点」と「意味」を問い続ける姿勢が重要です。

高速道路効果を身に着けよう!(直線は最短か?)

高速道路効果とは、地点Aから、地点Bに行くときに、実は地点Cを経由したほうが早く行ける。という地点Cのずらしの重要性を説明できる考え方です。例えば、皇居から京都に行くときに、そのまま、東海道をクルマで向かうのではなくて、一度、東京駅に出て(ずらし)から、新幹線に乗れば、早くいけます。当たり前のことだ!とおもうかもしれません。でも、人生では、私たちは往々にしてまっすぐを求めがちです。

たとえば、あなたが、映画監督になりたかったとしましょう。どんな手段を思いつくでしょうか。映画専門学校にはいる?あるいは、監督に弟子入りする?でも本当にそれが最短距離なのでしょうか。

『ジュラシックパーク』の原作を書いた作家マイケル・クライトンは、医学を勉強したといいます、また、『アバター』のジェームズ・キャメロン監督は海洋生物学と物理学を勉強していたそうです。

そうなんです、それぞれの学問が、アウフヘーベンのためのアンチテーゼとなっているのです。アンチテーゼを迎え撃つのは、怖いです。なぜなら、それが遠回りのように見えるから。でも勇気をだして、半歩ずらしてみることで、もしかしたら、目的を達成するための経路に乗ることもあるのです。

大切なのは、何か本筋とは半歩離れたことを真剣にやってみること。それが、あとで必ず効いてきます。

人と同じ土俵に乗らない

「アウフヘーベン」や「哲学」については、こちらの投稿「【わかりあえない時代の対話手法とは!?】はじめての哲学的思考|苫野一徳」の書籍もとてもおすすめです!

まとめ

  • 弁証法、アウフヘーベンってなあに?――2つの異質なものを組み合わせて、新たな意味を作ることです。
  • アウフヘーベンに、大切なのは?――「視点」と「意味」を問い続ける姿勢です。
  • 高速道路効果を身に着けよう!(直線は最短か?)――「半歩ずらし」を思い切りやってみることも大切です。
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