ナラティブカンパニー―企業を変革する「物語」の力|本田哲也

ナラティブカンパニー―企業を変革する「物語」の力

企業やブランドはナラティブであることで、顧客と新しい関係性を築けます。ナラティブとは、パーパス(創業者や企業の強い思い)を起点に、顧客ひとりひとりと社会を舞台にして、未来へ向かう共有の体験を作り続けることです。ストーリーと混同されがちですが、主語が企業か顧客か、という点で決定的に異なる概念です。

ナラティブとは、結局なんなのか?

あらゆるステークホルダーが巻き込まれる。物語の「聴衆」としてではない。その「当事者」として、だ。

プロローグ ナラティブの時代がやってきた

ナラティブとは、「物語的な共創構造」であると、著者は言います。

1984年にアップルがスーパーボウルのハーフタイムショーで放映したCMがまさにそれだと語ります。盲目的な群衆の眼前に現れた改革者が、洗脳から開放するストーリーを描いたCMです。当時圧倒的シェアを誇ったIBMへの挑戦を比喩し、当時に、社会に立ち込める雰囲気と共鳴し絶大な注目を浴びた今でも語り継がれるクリエイティブです。

2020年、フォートナイトとアップルがフォートナイトアプリの手数料でもめた(売上の取り分で、フォートナイトがアップル社に対して独占禁止法であると提訴した)ときに、フォートナイトは当該CMのパロディをYouTubeで放映し、物語をひとつ先に進めました。いずれも、権力者と改革者、メジャーとニッチ、悪と善の「対立構造」の終わりなき物語を展開しています。

84年、人はアップル社製品を購入することで体験を共有しました。そして20年、フォートナイトのプレイヤーは反アップルの運動に参加しました。

ナラティブは、人を動かし、話題を作り、あらゆる企業活動に貢献します。ナラティブの考え方は、これまでの企業情報発信の手段とされてきた広告やPRとは一線を画します。

決定的に異なるのは、主語が企業ではないということ。あくまで主役は「あなた」です。上記2つの例を見ても、いずれも当事者が「盲目的なあなた」「プレイヤーとしてのあなた」であることに気づきます。

たとえば、医師の立場からすれば、「病気」はひとつの疾患ですが、患者の立場からすれば、「自分の人生」です。だからこそ、患者との対話は、人生という患者自身の物語の主人公としてとらえて、病気をどう考えてどう向き合っていくのか、が主題になるでしょう。

ナラティブを企業やブランドとして借りるときに大切なのは、この「主人公のシフト」です。

そして、もう一つ重要なのが、「パーパス」です。これは従来言われているストーリーと共通のポイントです。言い換えれば、「創業者と企業の志」となるでしょう。なぜ、そのビジネスを展開しているのかが起点になります。

ナラティブは、このパーパスという起点から、「主人公ひとりひとりが共有できる体験」を創造していく一連の構造です。

ナラティブが求められる大きな社会背景とは?

今僕たちは新たな世界――「ニューノーマル」の世界に直面している。
そしてさまざまなレイヤーで、あらゆる変化が起こっている。とりわけ企業と社会の関係性――広告やPR、マーケティングの観点から考えると、それは「3つの変化」に集約されると僕は思っている。

プロローグ ナラティブの時代がやってきた

1.「『共体験』価値の高まり」
2.「『社会的距離』の見極め」
3.「『自分らしさ』が問われる」

の3点を著者は指摘しています。

「共体験」価値は、共感と異なります。共感は他者に思いを寄せることで、ともすれば他人事です。でも、共体験価値は他者と経験をともにすることで、価値を一緒に感じることができるのです。たとえばスポーツ。共体験を得られる環境が情報化やコロナ禍で加速するデジタル世界で、飛躍的に進展しています。

社会的距離は、デジタルとリアルの使い分けのことです。

自分らしさは、すこしイメージが私たちが日常的に使う「自分らしさ」とは異なり、企業やブランドの言動に一貫性があるかどうか?であると著者は定義しています。「信念と行動の一貫性」が、特に求められていると言います。

ナラティブ実装の5ステップは、戦略的PRと異なるのか?

ナラティブはパーパスあってのものだし、ナラティブによって企業の存在意義がつたわっていく、とも言えるだろう。

PART2ナラティブを実践する5つのステップ

STEP1.パーパスの設定:ナラティブの「起点」を定める
STEP2.パーセプションの形成:ナラティブの「目的」を明確にする
STEP3.ナラティブスクリプトの作成:ナラティブを「描く」
STEP4.マルチエンゲージの展開:ナラティブを「共創」する
STEP5.効果の測定:ナラティブを「はかる」

の5つであると著者は説明しています。

とくに重要であるのが起点のパーパスの設定。これはこの2~3年ハーバード・ビジネス・レビュー等で研究が発表されてから頻出するキーワードです。創業者や企業の強い想いであると訳されます。あるいは志や存在意義とも言えるでしょう。

パーパスが明確化していることで、未来に実践するあらゆることの動機となり、現在進行形でその企業が存在している理由の輪郭をはっきりさせることにもなります。

パーパスの設定には、次の3つのポイントがあります。
1.内在する「暗黙知」を可視化する
2.ベネフィット市場を意識する
3.設定のオーナーシップを維持する

言語化し、提供先を設定し、維持する、ということになるでしょう。ベネフィット市場とは、単に業界や業種ではなく、本質的に提供している価値と捉えることもできます。

単にかわいいではなく、思いやりをもってSDGsにも取り組むサンリオは、「キャラクター」ではなく「社会貢献」。無駄を削ぎ落とし超低価格運賃で空路を広く解放したサウスウエスト航空は、「航空サービス」ではなく「自由」という具合です。

ここ数年で注目されるいわゆるD2C企業は、生まれながらにしてナラティブであると指摘します。D2Cブランドの多くにはブランドと消費者が共創する物語があります。たとえ流通しているのはプロダクトであったとしても、そこにはブランドと顧客がつくる物語と世界観があり、それによって特別なつながりができあがります。さらに、このつながり(共創関係)を通じてプロダクトも磨かれていきます。

本書は、近年着目されるナラティブの理解と、ブランドでの活かし方を明快に説明しています。世界と日本の先進ブランドの事例も多数掲載されており、具体的にナラティブを理解することができます。事業開発ご担当者の方やブランドマネージャー、あるいはマーケッターの方におすすめしたいです。P&Gパンテーンの「#この髪どうしてダメですか」キャンペーンが紹介されていますが、ヘアケア事業部マーケティング統括責任者の大倉氏が語る「ブランドは常にきっかけを与える人。」という視点もナラティブの起点のパーパスを考える上で、非常に示唆深いと、私は思いました。ニューノーマル時代のマーケティングを考えるとても貴重なきっかけを本書にもらいました。

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