- どうしたら、日本はデフレを脱却することが可能でしょうか!?
- 実は、「インフレを信じる」ことかも。
- なぜなら、各関係者がインフレに動けば、インフレが実現するからです。
- 本書は、世界経済のインフレと、長引く日本のデフレの原因に迫る1冊です。
- 本書を通じて、「信じるものごと」が実現するというメカニズムにも触れることがあります。
日本の状況とは!?
前回の投稿「【なぜ、世界の物価上昇は止められないのか!?】世界インフレの謎|渡辺努」では、世界のインフレの状態について、コロナ禍をきっかけに世界的な「同期」により、需要に供給が追いついていないことなどを知ることができました。
今回の投稿では、そんな世界の中で、日本の立ち位置と、問題点について深く知っていきましょう。いま、日本では、「急性インフレ」と「慢性デフレ」が同時進行しています。一部のガスなどのエネルギーでインフレーション(物価高騰)が起こりながらも、全体としては、長年のデフレ(つまり価格が上がらない・賃金も上がらない)構造が継続しています。
日本は、消費者物価の上昇率が非常に長い間、各国と比べて常に最下位のあたりをうろうろしています。何年も継続した最下位の結果、いまでは、日本の物価が海外の物価に比べて、3割も4割も安いという大きな「内外格差」が生まれています。
解像度を上げていくと、海外から輸入する商品の価格はたしかに上がっています。でも、なぜ、物価が上がらないかと言うと、その価格をものの販売価格として転嫁しきれていないことがあります。
日本は転嫁できていない度合いが他国と比べて突出して高いということです。
第4章 日本だけが苦しむ「2つの病」――デフレという慢性病と急性インフレ
なぜ、日本は、価格転嫁ができていないのか・・・ここに最大の病が潜んでいます。
日本の病の根源とは何か!?
価格の凍結の根本的な原因は、消費者の「インフレ予想が低すぎる」ということにあります。
人々が物価はあまり上がらないと考えていることが、デフレを慢性化させたということです。
第4章 日本だけが苦しむ「2つの病」――デフレという慢性病と急性インフレ
事実、バブル経済が弾けて不況に見舞われますが、2000代になると、実は日本の金融機関を中心に経済は立ち直っていたのです。しかし、景気が持ち直していたのにもかかわらずこの期間に価格と賃金は横ばいを続けました。
物価が長らく上がらない国において、値上げを極端に許さない人々の無言の圧力があり、これが根本原因となり、企業側は円滑に価格転嫁を進めることができていない状況にあります。
実際に、日本の消費者は、他の国々と比べると「値上げ嫌い」であると著者・渡辺努さんは言います。仮に値上げがスーパーでされた場合、日本の消費者は、他の店舗に逃げます。しかし、欧米では、価格が変動することはままあるので、そのままそのスーパーで黙って商品を買います。こうした値上げに対する感度が、日本が長引くデフレから脱却できない真因であると言えます。
もともとそうした国民性ではありませんでした。実際に、戦後、ものの値上がりを十分に経験していたことは、値上げに対して許容できていたはずです。しかし、長引く不況とデフレで、インフレ予想がつきづらい体質を長年の経緯で備えてしまってから、値上がりに対しての感度が矯正されているのが昨今であると言えるでしょう。
日本人は長いこと、今日の値札は昨日と同じという経験をたくさんの商品についてしてきました。そうした経験を経て、明日の値札もきっと今日と同じだろうと予想するようになったのです。
第4章 日本だけが苦しむ「2つの病」――デフレという慢性病と急性インフレ
値上げがされないという暗黙の規範は、日本に通奏低音のように流れています。このような社会の当たり前のことを経済学では「ソーシャル・ノルム(社会的規範)」といいます。ノルムとは、別の言い方をすれば、「相場感」という言葉になります。コンピューターなどのデフォルト設定と捉えてもいい語感の言葉です。
日本はなぜ、これまで物価に関する「ノルム」を自ら壊すことができていないのか、について、著者・渡辺努さんのご友人であるチューリヒ大学のディディエ・ソネット教授の見解が非常に興味深いです。
「日本はそもそも世界で有数の地震大国で、過去に何度も大きな地震に見舞われ、そのたびに社会がリセットされてきた」と教授は言います。つまり、日本人が国土として選んだ地は、定期的に社会の仕組みを根本から変えるリセットのタイミングを天災によって得てきたというのです。そのため、内発的になにか社会の根本的な仕組みを壊すことをせずとも済んできた・・
一方で、教授の故郷であるフランスは、自然災害が少ない変わりに、人が何らかの力で社会を主体的に変えていく必要があり、そのため、これまでも繰り返し「革命」が起きてきたのではないか、と言います。
そして、いま、私たちはコロナウイルスとの闘いを経て、これを機会に新しい社会の構築の機会を得ているのではないか、と渡辺努さんは捉えます。
日本のシナリオとは!?
では、私たちが、物価や賃金の上昇を許容する新しい「ノルム」へ移行するにはどうしたらいいのでしょうか!?
2つのシナリオを渡辺努さんは提唱します。
1)スタグフレーションの到来
日本でインフレが進行するのに、賃金が上がらない状態が続いた場合、実質賃金(賃金を物価で割ったもの)が低下していきます。こうした状況下の中で、景気がさらに悪化する動きとなった場合、インフレと、景気悪化(スタグネーション)が同時に進行する「スタグフレーション」という状況を招きます。こうした環境下でさらに消費者は、守りに入ることでしょう。物価が上がるのに、賃金が据え置きなので、なおのことです。すると、問題は板挟みの企業に及びます。賃上げの余力どころか、むしろ賃下げが行われる可能性もあります。
これまで、日本が賃金不変であってもなんとか持ちこたえていたのは、価格が動かなかったからです。しかし、スタグフレーションになって、その均衡状態が崩れるシナリオも十分に考えられるのです。
2)慢性デフレからの脱却
今回の急性インフレによって、価格許容度がなんとか上がった場合に、慢性デフレから脱却することが可能であるというシナリオも想定できます。価格と賃金が凍りついたように動かない状況に慣れすぎている私たちに、「物価も賃金も変動のものであった」という感覚が取り戻されることで、長く続くデフレから抜け出せる機会になるかもしれません。
インフレ予想が「自己実現」する。
第5章 世界はインフレとどう闘うのか
海外の各国では、インフレに対して、労働者が毅然とした態度で、企業側に賃上げを要求します。さらに、ここがポイントなのですが、現在の価格水準で満足せず、これからも「物価は高騰するだろうから」その先の分まで賃上げをしてほしいと強く要求するのです。この要望が通れば、賃金が物価に先行して上がることになります。
つまりインフレ予想が「自己実現」するというスパイラルに入ることになります。物価が上がることになれば、企業も余剰資金を得やすくなるので、賃金を上げたり、新しい投資をしやすくなります。
このような賃金と物価のスパイラルを引き起こす3つの条件があります。
1)労働需要が旺盛であること。
2)企業の価格決定力が強く、人件費の増加分を価格に転嫁しやすいこと。
3)企業が人件費増加を決定する時、ライバル企業も価格転嫁を行うと確信できること。
このためには、日本のすべての関係者が「(日銀がインフレターゲティングの目標値として掲げる)2%のインフレが実現する」という予想を、共有することが起点となります。そのためには、いかに「2%のインフレ」を関係者に共有し、整合的な行動をとってもらうアクションにあります。
まとめ
- 日本の状況とは!?――長引くデフレの中、急性インフレが起こるという状況です。
- 日本の病の根源とは何か!?――私たち生活者の「(労働も含めた)ものごとの価格は値上がりはしないだろう」というマインドセットです。
- 日本のシナリオとは!?――デフレを脱するシナリオは「2%シナリオ」をすべての関係者が信じ、共有しこれを元に一斉に行動することです。