【ブランドとは、「妄想」である!?】実務家ブランド論|片山義丈

実務家ブランド論
  • いかに、ブランドを取り扱っていけばいいでしょうか!?
  • 実は、いわゆるブランドの教科書の論点だけに頼ることは、リスクがあるかも。
  • なぜなら、スーパースターブランドに関する論点をすべてに適用してしまう恐れがあるからです。
  • 本書は、ダイキン工業広告宣伝グループ長をつとめる片山義丈さんによる、実務家のためのブランド論です。
  • 本書を通じて、実態に則したブランディングの考える視点を提供してくれます。
片山義丈
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いわゆるブランド論の盲点とは!?

本書は、ダイキン工業において、総務部広告宣伝グループ長をつとめる片山義丈さんによる、実務家のためのブランド論です。なぜ、実務家のための、かというと、片山義丈さんが実務の中で必要となるブランド論の必要性と重要性を見出したことによります。

多くのブランド論は、他社との「差別化」や生活者との「約束」をキーに、構築されること自体がナンセンスであると説きます。その理由は、「差別化」や「約束」ができるのはごく一部のスーパースターブランドに限られた話だからといいます。

スーパースターブランドの例として、Appleやスターバックス、NIKEを片山義丈さんはあげます。これらのブランドは、生まれ持って特殊であり、唯一無二であるのです。これらをお手本にブランドを作ろうとすると、無意識のうちにスーパースターブランドを目指してしまいます。出自も、内容も異なるのに、誰もがスーパースターを目指せるわけがありません。

ここに、ブランド論の盲点があるのではないかと指摘します。

どんなに頑張ったところで、あなたの育てようとしているかわいい子供たち(企業・商品・サービス)は絶対にスーパースターになれません。

1-2 あなたの偉業・商品・サービスは凡人です! 教科書ブランド論が与える幻想?

では、凡人企業・商品・サービスにとってのブランドとはなにか・・・「差別化」や「約束」でないとしたら何でしょうか!?

実務家は何を見るべきか!?

片山義丈さんが、33年という月日をかけて気付いた本質は、そうした凡人企業・商品・サービスにとってのブランドとは、「妄想」であるということです。

妄想という言葉に託した思いは、常にブランドの定義やイメージというのは、生活者や相手方の企業側にあるということを示唆します。また、自然発生的に生み出されるということも暗に含んでいます。かつ、ブランド(妄想)は実体と異なってしまうこともあることもあるといいます。

自分たちの知らないところで、勝手に妄想されているものごと=凡人ブランドであるというスタンスを持って、ブランディングの実務に当たることで、現実に則したアクションの構築が可能になります。

特に重要な論点として、かつ、普遍的な指摘は、知らなければブランドにはなり得ないということもあります。例えば、「梅干し」というものを知らない外国人にとっては、なんだかしわくちゃなフルーツ?のような食品にしか見えず、そこから沸き立つ妄想、例えば、酸っぱいとか、おにぎりとか、昔の思い出とかそういう想像をもたらすものでないので、それはブランドの起点にも立っていないということになると説きます。

ですから、スーパースターブランドの定義は「約束」であるのですが、凡人ブランドの定義は「知っている」「知られている」かつ「妄想」が少しでも沸き立たせられる状態にあることとなります。

ブランド実務家のしごとは、自ら担当する企業・商品をよりよいブランドにすること。

1-6 どうしてブランドを「妄想」と定義したのか

「ブランドは、生活者、つまりお客さまが持っているものである」という絶対的な本質をぶらさず、よりよい商品やサービスを構築し、結果的によりよい妄想が生まれる環境をつくることが、実務家に課せられた仕事です。

妄想は、確実に、企業・商品・サービスが持っているものから生み出されるものでなくてはならないものだと言います。そうでなければ、実体と異なるブランド(妄想)を生活者の頭の中に作り出すことになってしまい、それはそれでスーパースターを目指すのと同じくらい茨の道です。

片山義丈さんの視点で印象的なのは、当然のように機能価値をまず重視しなくてはならないという主張です。モノの「差別化」に限界を向かているマーケティングにおいて、モノよりもコトの重要性が叫ばれる風潮があります。ただ、コトも、結局はフィジカルタッチのモノ(サービス含む)がなければ成立せず、実体が伴わなくなってしまいます。モノを度返ししてまで、コトが提供できうるという視点には冷静な見立てが必要ということです。

実際に、ベンチャー企業の中でもSaaS系の会社が、フィジカルなサポートや導入支援も含めて自社のSaaSを販売する営業活動を推進するケースが増えてきました。声高に叫ばれるDXも、デジタルツールの導入だけではうまくいかないことがみんなが気づき始めています。フィジカルな領域も含めてどうやってデジタルと分担していくのか、そうした「何を起点とするか」を実務家は見極めていくべきなのでしょう。

そもそも「機能的価値のほうが情緒的価値よりも、圧倒的に重要である」ことは言うまでもありません。比べるのもばかばかしいくらい、機能的価値が重要です。このことは絶対的な真理です。しかし「今の時代」に限定すると、残念ながら「機能的価値よりも情緒的価な価値が圧倒的に重要」なのです。ここが多くの人に忘れられがちなポイントといえます。

2-1 「機能的価値」よりも「情緒的価値」が高い異常な時代
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実務家は、何を目指すべきか!?

実務家として目指していくブランドのあり方は次の階層で捉えることができます。

1)約束・絆・大好きレベル(絶対選択してもらえる・スーパースターブランド)
2)なんとなく好きレベル(選択時に有利・優秀なブランド)
3)嫌いではないレベル(選択肢には入る・凡人のブランド)
4)知っているレベル(知らないよりはまし・赤ちゃんブランド)
5)知らないレベル(ブランドではない)

目指すべきは、企業・商品と生活者の間に「約束」を作ることではなく、まず、「知ってもらうこと」そして、次に、「嫌いではない」と思ってもらえるレベルにまで妄想を作り出していくことです。

最終的には「なんとなく好き」レベルにまで行けばOK。この解像度を持っているかいないかで、社内や社外とのコミュニケーションの整合性が取りやすくなったりも、取りづらくなったりもします。「ブランド」という一見便利なキーワードを濫用するのではなく、しっかり定義してものごとを一緒に作り上げていくチーミングを行いましょう。

ブランドの妄想を作り上げるための実体を大切にしましょう。それはすなわち機能的価値です。ただし、今の時代機能的価値だけでは売れないのも事実です。なぜなら、世の中のほとんどのモノが「いいもの」であるからです。大切なのは、企業・商品・サービスの土台を固め、それをどんな角度で切り取り、発信してみるか、ということです。

ブランドの土台とは一体どんな存在なのか、を規定することにあります。3つの視点で検討してみましょう。

①存在価値(ブランド・アイデンティティ)
②約束(ブランドプロミス)
③人格・個性(ブランドパーソナリティ)

それぞれによって、ブランドの妄想につながるような企業・商品・サービスの内実を定義し、共通認識の元でブランディングの設計に入っていくことが欠かせません。

難しく聞こえてしまうかも知れませんが、とても単純に言えば、「あなたがその企業・商品・サービスについて、熱く語ってしまうところ」はどこか?ということです。ついつい情熱を持ってしまう部分をピックアップして、素直に情報設計を行ってみましょう。また、大切なのは、妄想は生活者目線である、ということです。だから、熱く語ってしまう企業目線を冷静に冷やして、生活者から「どう捉えてもらえばいいかな?」、生活者からみて「魅力的に映るかな?」、生活者が「意味があるな!と思ってくれるかな?」という観点で、チェックしてみるのも大切です。

そのうえで、ブランディング(ブランド+ing=活動)を構築していきましょう。ブランディングは、限られた資源の配置によるものです。潤沢のリソースがあれば、何も言うことはありませんが、予算や期間は限られます。適切な配置によって、最大の効果を生むような活動計画を練ること、これがすなわち「戦略」と呼ばれるものとなります。

ブランドづくりとは、「その企業や商品が本来持っているもの」を「価値として正当に認識してもらう」取り組みです。「価値のないものイメージでごまかす」こと、「持っている価値を実態異常に期待させる」ことでは、決してありません。

終章 まとめ 日本におけるブランドづくりはいばらの道。 だからこそ取り組む価値があります。

インターブランド社実施の日本グローバル企業評価において、28位にダイキン工業を押し上げた実務家によるブランド論は、私たちに、基本に忠実になることの大切さ、そして、耳障りの良いキーワードに踊らされてしまいがちなマーケティングへの警鐘が込められていました。

他者視点によるブランディングについては、こちらの1冊「【キーは、「状況」という単位!?】バリュー・プロポジションのつくり方|前田俊幸,安達淳」も非常に重要な論点を提供してくれます。ぜひご覧下さい。

あわせてスターバックスジャパンの元社長の岩田松雄さんによるブランド論、「【ブランドは、深さである!?】ブランド 「自分の価値」を見つける48の心得|岩田松雄」もあわせておすすめです。岩田松雄さんも、ブランドの根源には「ミッション」があると説き、片山義丈さんの示されるブランドアイデンティティの重要性を別の角度からご説明してくださっているようにも読めますし、やはり「約束」主体であるようにも読めます。

まとめ

  • いわゆるブランド論の盲点とは!?――スーパースターブランドに該当する内容です。
  • 実務家は何を見るべきか!?――企業・商品・サービスの実体と、生活者の妄想です。
  • 実務家は、何を目指すべきか!?――ブランドを知らしめ、なんとなく好きの妄想へと導きましょう。
片山義丈
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