【人の可能性を捨てないために!?】非認知能力:概念・測定と教育の可能性|小塩真司

非認知能力:概念・測定と教育の可能性
  • 非認知能力の本質とは、何でしょうか!?
  • 実は、それはとらえどころがなく、かつ、複雑なものです。
  • なぜなら、定量化することがし辛いからです。
  • 本書は、わかりにくいことから始めなくてはならない、人間の可能性について触れる1冊です。
  • 本書を通じて、見えないことにヒントを見出すことで、多様性と可能性を考えるためのヒントを得られます。
小塩真司
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非認知能力とは!?

非認知能力は、“noncognitive abilities”の訳語です。「~でない」という意味合いを含んでおり、なかなか厄介な概念です。「~でない」でない方の認知能力とは、知能検査で示される知能のことです。さらに、学力を含むこともあります。ペーパーテストの点数や偏差値などもこれに含まれるでしょう。

認知能力の抽象度をあげていけば、次のように捉えることができます。

何かの課題に対して懸命に取り組み、限られた時間の中でできるだけ多く、より複雑に、より正確に物事を処理する事ができる心理的な機能です。

序章 非認知能力とは

一口に、知能といってもその内実はさまざまです。例えば、学力についても、全般的な学力ではなく、各教科に対する学力について分解することだって可能かもしれません。

文部科学省は、学力の要素として次の3つをあげています。

  • 基礎的・基本的な知識・技能
  • 知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等
  • 主体的に学習に取り組む態度

これらには、「非認知能力」の必要性も込められていますが、実態としては、学校教育や受験を通じて、子どもは、徹底的に数値化されてスキルを測られ、強化するよう促されていきます。「非認知能力」という言葉があるように、能力の世界はもっと広く複雑であるはずです。そして、定量化できない能力こそ、これからの不確定の時代において非常に重要なスキルになり得る可能性があります。

思考や感情や行動について個々人がもつパターンのようなものを指し示しているといえます。

序章 非認知能力とは

過去の投稿「【人生のゴールデンタイムを活かせ!?】幼児教育の経済学|ジェームズ・J・ヘックマン,古草秀子」でも登場したヘックマン教授も、非認知能力の重要性を説いています。米国の教育は「認知力テストに傾倒しており、『どれほど賢いか』を重要視している」と批判して、さらに、「人生における成功は賢さ以上の要素に、左右される」と説きます。

非認知能力の難しさとは!?

非認知能力を捉えるために次のようなスキルや能力に対する見立てをしておくことが大切です。ポイントは5つあります。下記に登場する「よい結果」とは、学力、最終学歴、就職、収入の高さなどなどのことを指します。

1.非認知能力の中には多面的で異なる複数の要素が含まれている。

非認知能力を分解していくと、多くの要素を含有していることに気づきます。そして、それぞれの要素は異なる結果に結びついています。ある特性がひとつでもあれば、すべての「よい結果」がもたらされるということはあまり期待することができません。

2.能力が生み出す可能性はポジにも、ネガにも触れやすい。

ある特徴は、他の特徴と深くつながっていることから、「よい結果」が次の「よい結果」に結びついて行くことも想定されますし、反対に、それらが単に確率論であって、全く繋がらない可能性だって考えられます。例えば、収入の高さが散在につながったり、運動をすることでかえって身体を悪くしてしまうことだって考えられます。

3.「よい結果」の中には、互いに両立することが難しいことも含まれる。

学歴と収入など両立しづらい要素も中にはあります。例えば、より高い収入を目指していったとは言え、大学院や博士課程などに進むと、反対に就職が難しく、社会に出てから基本的なスキルセットを身につけるハードルとなることがあります。

こちらについては、こちらの1冊「【人生において、何が大切なのか、自分で決められるか!?】高学歴難民|阿部恭子」もあわせてご覧いただくと良いかと思います。

4.「よい結果」が万人にとってよい結果であるとは言い難い。

自分自身を高く評価し自信を持つことは、自分自身にとって「よい結果」ではあるものの、他者から見れば、傍若無人や関係性を持ちにくい印象を持たれてしまうことだってありうることです。「よい結果」ということを誰の視点から見つめたものであるのかを検討する必要があります。

5.個々人に独自の「よい結果」へ至る道程は再現性が困難である場合がある。

例えば、ある芸術家がたどった熟達の道は、他の人が二度とたどることができないものです。なぜなら、その人がその次代にその場所で、その人独自の芸術活動をしたから大成したのであって、いまそれを再現したとしても、結果が再現されるかと言うと、それは約束されていないことになるのです。個々人にとっての人生の成功は、あくまでもそれぞれの人が独自にもつ可能性をがあるという点を忘れないようにするべきなのかも知れません。

まずはここに非常に難しい問題があるということを認識したうえで、それぞれの非認知能力について理解を深めていくのがよいのではないでしょうか。

序章 非認知能力とは

とらえどころがなく、どうしたら高められるのか、果たして高めた先に、個々人の幸せはあるのかどうか、というところまで明言しづらいほど難しいのが、非認知能力です。ただ、非認知能力の存在を感じることで、私たち一人一人の行動が変わりそうなことも事実です。人間を定量的な要素に当てはめて、計測していくこと以外に手立てを持って、可能性について語ることが、多様性を認め、それを生きる力に変えていく行動に繋がるのだと思います。

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本書では、非認知能力を15の要素に分解してくれています。それぞれについて解像度を上げることで、非認知能力を一人ひとりが考えるヒントを得たいと思います。

1.誠実性――誠実性とは、自分の衝動を社会の規範に沿って適切にコントロールし、課題や目的にかなうように行動を取る傾向です。規律正しさや、勤勉さ、慎重さ、責任感の強さ、計画性などをカバーする概念です。グリットや自己制御・自己コントロールと密接に関わってきます。

2.グリット――高い目標を成し遂げる人の特徴です。グリットは、困難にも関わらず長期目標に対して、「情熱」と「粘り強さ」と定義されます。2つの因子を持ち、「興味の一貫性因子(興味があちこちにいかずに、一定期間以上持続する)」と「努力の粘り強さ因子(目標の追求の中で困難や挫折に直面しても、諦めずに粘り強くやる力)」です。

3.自己制御・自己コントロール――自分をコントロールする力です。私たちは、起きている時間の4分の1は、欲求に逆らって生きていると言います。自己制御・自己コントロールについては、マシュマロ・テストが有名です。これは、子どもに対して「一定時間おやつを我慢できたら、追加してあげる」と言って、待てる子・待てない子を津席調査したものです。待てる子は、その後の人生で、学齢や収入などがより良い傾向にありました。

4.好奇心――新しい知識や経験を探求するための原動力です。心理学研究において好奇心は、教育や発達の分析で関心を持たれています。知能、勤勉さにつづく3番めの力として認識されています。

5.批判的思考――情緒を適切に読み解き、活用する思考力です。不確実が多い社会でよりよく生きていくために必要な考える力です。多くの人が、自他にとって重要な事柄については、「正しい判断をし、問題を適切に解決したい」と考えているはずです。批判的思考とは、そうした思いを汲んで、客観的で偏りのない思考として発揮される力です。

6.楽観性――ポジティブ心理学の中核にある力です。将来をポジティブにみて柔軟に対処する力となります。楽観性は、適応や精神的健康のみならず、身体的健康にも関連していることが示されています。

7.時間的展望――時間的展望とは、過去・現在・未来を関連付けて捉えるスキルです。過去・現在・未来に関して、どのような見解をおっているか、それらをどのように主観的に関連付けているかを検討する視点や力となります。

8.情動知能――ものごとを達成したり、あるいは、約束を破られた時に感じる感情など、人は日常生活の中でさまざまな感情に触れます。これらの内比較的に大きなものを情動と呼びます。この情動に飲み込まれることなく、俯瞰して上手に活用する力を、情動知能といいます。

9.感情調整――感情にうまく対応する力です。感情調整とは、人が、いつ、どのような状況で、どのような感情を経験したり、表出したりするかを客観的に捉えることから発生します。

10.共感性――他者の気持ちを共有し、理解する心理特性のことを指します。個人の共感の感度とも表現することが可能かもしれません。他者の状況や気持ちに目を向け、気持ちを共有したり、理解したりする特性は、人とともに社会において生きていくために不可欠な力です。

11.自尊感情――自分自身を価値ある存在だと思う心です。「自分に対して肯定的」「自分に対する主観的な評価のうち、自分自身を好ましい存在だと感じたり、有能であると思ったりする程度」などとして表現される力です。

12.セルフ・コンパッション――自分自信を受け入れて優しい気持ちを向ける気持ちのことです。なにか目標を持って努力していても、うまくいかないことがあります。こうした時に、気分は落ち込んだままで無力感に打ちひしがれるだけではなく、そこから立ち直る力となります。失敗や傷ついた経験の後に、自分の感情のバランスをよく受け入れ、その経験が他の人たちとも共通していることを認識して、自分に優しい気持ちを向けることです。

13.マインドフルネス――「いまここ」に注意を向けて受け入れる力のことです。私たちがコントロールできるのは、「いまここ」でしかありません。過去をいくら悔やんでも、いまここでの捉え方しか変えられませんし、いくら未来を心配しても、いまここの考え方や行動を変えることしか、それに向き合う方法はありません。

14.レジリエンス――逆境をしなやかに生き延びる力です。過酷な環境やストレスフルな状況、あるいはトラウマ体験といった逆境に直面した際に、そのショックから回復して、状況に適応していく力です。「心のしなやかさ」など抽象的な言葉で表現されることもあります。

15.エゴ・レジリエンス――日常生活のストレスに柔軟に対応する力です。現代のようなストレス社会では、子どもから高齢者まで、広くストレスを日常的に感じる生活をしています。通常のレジリエンスは、一生の中で常に起きているわけではない逆境において、それをどう乗り越えていくかの力であり、一方、「エゴ・レジリエンス」は日常生活において、ストレッサーに対して柔軟に自我を調整し、状況うまく対処する調整能力のことです。

これらの要素はそれぞれに複雑に相関していたり、逆相関をしている可能性もあります。なので一概にどれを伸ばせば、「よい結果」が必ずえられるかというと、実は冷静な視点が必要なのです。

確かに言えることは、これらの特徴は、私たちが予測不能な社会を勇気を持って生き抜いていくために、不可欠なOSであり、一人ひとりが自分の能力について検討をすることが望ましいということです。

まだまだ、それぞれの心理特性そのものについても、変化の可能性や教育の可能性についても、研究を進める余地が多くあります。

終章 非認知能力と教育について

非認知能力は、数値化できないからこそ、大切なのであり、また、とらえどころがないのも事実です。しかし、テクノロジーの発展によって、人間の認知や行動などを統合的に分析できるようになってきています。上記のような能力を高めるための工夫や取り組みが生み出されていくことを期待します。

まとめ

  • 非認知能力とは!?――定量的に把握することが困難な、でも確実にあるとされる能力です。
  • 非認知能力の難しさとは!?――「よい結果」の捉え方次第であることに注意が必要です。
  • 非認知能力の中味とは!?――15の要素で捉えてみましょう。
小塩真司
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