【よりよい社会は作れる!?】目に見えない資本主義―貨幣を超えた新たな経済の誕生|田坂広志

目に見えない資本主義―貨幣を超えた新たな経済の誕生
  • 資本主義の経済原理にパラダイムシフトが起こっていますが、うまく認識できないでいるかも。
  • なぜなら、これらの変化は目で見ることができないからです。
  • 実は、これまでの経済原理は、貨幣経済という目に見える分野のみを取り扱っていました。
  • 本書は、そんな目に見えない新しい経済の胎動に関する1冊です。
  • 本書を通じて、今起こっている経済原理の変化を知ることができます。

経済原理の系譜とは!?

「資本主義の進化」が、従来の経済学の「土俵」を超えて起こっているからである。

なぜ、従来の経済学は「資本主義の進化」を論じないのか

この土俵とは貨幣経済です。全てのものごとを貨幣価値に換算して、これを殖やすことを結果的に目的化してしまいがちになっている経済です。それ以前には、交換経済、贈与経済がありました。

私たち人類は、経済を語るとき、常に目に見える概念に置き換えて取り扱ってきたようにも見えます。

文化人類学的には、贈与のカルチャーでは、感情の交換により繋がりが継続することが指摘されていました。ですから、実は目に見えない信用、信頼みたいなものが貨幣経済や交換経済に比べて、大きかったとも言えるかも知れません。そう考えると、私たちは、昔のやり方の部分を採用して、それこそ螺旋状に進歩し続けているとも捉えられるかも知れません。

贈与については、こちらの投稿「【いかに公平な世界をつくる?】うしろめたさの人類学|松村圭一郎」がおすすめです。ぜひご覧下さい。

今回の田坂広志さんの1冊は、「貨幣経済」を超えて、広い視点から資本主義のあり方を問う内容です。

新たなパラダイムシフトの方向性とは!?

目に見えない変化を次の5つのパラダイムシフトで捉えてみましょう。

1)「操作主義経済」から「複雑系経済」へ

システムが複雑になっていくと、内部の要素間の相互連関性が高まり、システム内部に「循環構造」(ループ)が形成されるからである。

なぜ、経済が「複雑系」になっていくのか

世界の変化のスピードはそれまでと比べてかなり早くなりました。大きく影響を与えているのは、インターネットによる情報革命でしょう。あらゆるものごとが繋がる世界において、さらにその世界は複雑性を増しています。いまや人類は、「ブラジルの蝶の羽ばたきが、テキサスのハリケーンになる」ことを実感する次元にまで来ているようでもあります。そもそも、自然は複雑系です。どこでどんな要素が作用して、何が起こるか分からない。分かっているのは、超人的な神的な存在でしょう。

様々な循環構造が形成される中で、ポジティブスパイラル、ネガティブスパイラルが加速度で的に回ることで、予想打にしない変化を生みます。例えば、産業の発展についてもこれは言い当てています。超高性能小型モーターの開発が、例えば、スマホのハプティック装置になったり、そらとぶタクシーを実現したりします。

こうした複雑系の経済は意図的に設計・実行することができません。そして突如誕生したかと思えば、突如崩壊する可能性もあります。また、個々の要素の挙動から創発が起こる可能性も指摘できます。

こうした繋がりのある世界の中でひとりひとりの機会点を増やすことを指摘したのが、「計画的偶発性」のクランボルツでしょう。彼は、いかに幸運を味方につけるかということについて研究をし、次のような行動を行っていくことに、機会を見出しました。

  1. 好奇心(Curiosity):新しいことに興味を持ち続ける 
  2. 持続性(Persistence):失敗してもあきらめずに努力する 
  3. 楽観性(Optimism):何事もポジティブに考える 
  4. 柔軟性(Flexibility):こだわりすぎずに柔軟な姿勢をとる 
  5. 冒険心(Risk Taking):結果がわからなくても挑戦する 

まさに、個々の(ひとりひとりの)要素の挙動を複雑系に即したものにアップデートするとも読み取れる興味深い内容になっています。

複雑系全体の挙動は、コントロールできません。個々の要素の行動ルールが、全体のルールとなるのです。これまでの世界のように全体を支配することが困難になっていると捉えることが可能です。少しの行動ルールを変えることで、まったく違った創発や、抜本的な改革が可能になります。また、その反対もしかり。

だから、これからの時代においては、ひとりひとりの行動規範や、1社1社の行動ルールがとくにフォーカスされ、どのようなエフェクトを生み出し続けているか?が争点になってきます。こうした視点から、「パーパス(目的・存在意義)」を重視する経営に焦点が当たっていることを考えてみると、その必然性が理解できます。複雑系経済において、「管理」や「放任」の二者択一ではなく、「自律」というコンセプトが重視されるでしょう。

新たなルールのアウフヘーベンなのですね。

ちなみにアウフヘーベンについては、こちらの投稿「【アウフヘーベンしようぜ?】直線は最短か?~当たり前を疑い創造的に答えを見つける実践弁証法入門~|阪原淳」もたいへんおすすめです。

2)「知識経済」から「共感経済」へ

知識経済、知識資本主義時代における最大の問題は、「関係」「信頼」「評判」「文化」という目に見えない資本を捉えることができていない点にあります。こうした資本を評価し、正しく扱う手法がまだ確立されていません。その先には、人の心を正しく理解し、扱うことができるかという難題も待ち構えています。

3)「貨幣経済」から「自発経済」へ

これまで影の存在であったボランタリー経済(社会貢献)が、貨幣経済と融合することで、新しい概念として取り扱われるようになるでしょう。これについては、こちらの投稿「【社会のために企業は存在できるか?】経済的価値と社会的価値を同時実現する 共通価値の戦略|マイケル・E・ポーター」も理解の補助線となりそうです。ぜひご覧ください。

4)「享受型経済」から「参加型経済」へ

これからの社会は、「1)「操作主義経済」から「複雑系経済」へ」でも触れられたように、ひとりひとりの挙動や意志が、全体に影響を及ぼすようになります。それは、複雑に絡み合い、繋がり合っている世界だからこそ実現できます。企業や社会の活動が組織体が用意して、誰かが享受する一方的な動きではなく、ひとりひとりが参加をしながら生産し、同時に受け取りもする、そうした活発な活動体へと進化をしていきます。

「主客一体の経済」が始まる

第6話 「享受型経済」から「参加型経済」へ

消費者も、商品やサービスの開発に参加するだけではなく、販売や宣伝にまで関わり深く参加をしていくようになります。こうした取り組みは、ある種、「自給自足」とも捉えられるかも知れません。懐かしくて新しい概念でもあります。

5)「無限成長経済」から「地球環境経済」へ

これまであたかも資源は無限にあるかのように語られていましたが、これからは、限りあるものとして認識して、経済活動を検討する必要があります。サステナビリティ、サーキュラーエコノミーと同じベクトルをもった概念です。

直接民主主義の可能性とは!?

「参加型経済」とは、端的に言えば、企業と消費者の区別がなくなる経済だからである。

「主客一体」の精神が求められる時代

誰がお客様で、誰が生産者なのか・・・固定的な役割だけではない可能性があります。自分の役割自体が目まぐるしく変化し続けること自体が普通だったのかも知れません。人はいろんな側面を持ちます。これを「分人」と呼び言い当てたのは、平野啓一郎さんでした。「【本当のあなたの「個性」はどこにある!?】私とは何か「個人」から「分人」へ|平野啓一郎」をぜひご覧ください。

私たちが積極的に参加をして、自分の個性を活かし、強みを発揮し続けられるには何が大切でしょうか。

たとえ現代の社会が「不完全」であり、多くの「問題」を抱えていても、その社会が未来に向かって、「より良い社会」へと変化を遂げていくことが信じられるからであろう。

「イノベーションの手法」が、イノベーションを遂げる

ひとりひとりの活動を通じて、もしかしたら、よりよい社会を作れるかも知れない、という希望が私たちを動かすのですね。

まとめ

  • 経済原理の系譜とは!?――贈与→交換→貨幣経済、その先のは目に見えない要素(「関係」「信頼」「評判」「文化」)により変化を遂げます。
  • 新たなパラダイムシフトの方向性とは!?――5つのパラダイムシフトの内実に触れましょう。
  • 直接民主主義の可能性とは!?――ひとりひとりが柔軟に参加することができる社会になります。
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