- 民間企業ではじめて小包配送事業「宅急便」を展開したヤマト運輸を率いた小倉昌男さんは、どんな視点で社会と経営を見ていたのでしょうか。
- そこには個条書きではなく、ものごと全体を仕組みとして捉える視点がありました。
- 事実、「鳥の目」で見極めた「宅急便」事業は、小包は採算が合わないという業界の常識を覆しました。
- 本書は、そんな小倉昌男さんの経営姿勢を5人のヤマト運輸歴代社長が振り返ります。
- 本書を通じて、いかに社会やものごとを見立てるか、その視点を学ぶことができるでしょう。
「宅急便」開発の背景とは!?
そのころ、大和運輸は、低利益に苦しんでいました。ちょうど、1969年に創業者(小倉昌男のお父さん)が病に倒れて、小倉昌男さんが事業承継したころです。理由は、大和運輸の人件費が高かったこと。東京・銀座に本社を据える大和運輸は、地方に本社を置く企業と、賃金提携に差がありました。
さらに、もう一つが、低減方式と呼ばれる運賃単価です。距離が長いほど、1枚の伝票に対する総重量が重いほど、運賃単価は安くなる仕組みでした。その頃、大和運輸は、関西から東京へ電化製品を多く運んでいました。1枚の伝票で50個ほど。一方、競合はそれよりも少ない個数を受託していたといいます。これでは、同じ距離を同じトラックで同じ総重量を運んでも、利益率が低くなってしまうという状況だったのです。
B2Bの長距離配送では完全に後発だった大和運輸は、このまま、低利益体質に苦しむか、新しい視点で新たな事業プランを描く必要に迫られていました。
低減方式が適用される中で、どうすれば収益を上げることができるのか。究極の形は、数多くの小口荷物を混載することです。
第2章 イノベーションは社長が起こす
小倉昌男さんの見立てとは!?
C2Cで荷物を届ける発想はそれまでもあり、実際に郵政がサービスを展開していました。しかし、配送に時間がかかったり、国の事業なのでサービス品質が高くなかったといいます。しかし、C2Cでは単価が取れないのが業界の常識だったため、だれも参入しなかった。
小倉昌男さんが、社内で提案した際にも、多くの反対意見が聞かれたといいます。しかし、小倉昌男さんは、「鳥の目」を持って、社会やものごとを俯瞰し、「宅急便」事業の採算性を説明し、独自のビジネスモデルを構築しました。
実際に日本国内では、当時1億8000万個の小包が取り扱われていました。小包1つ単価で近視眼的に捉えれば、採算性がかなわないのですが、しかし、日本全国を密度で捉えれば、非常に高密度に多くの小包が配送され、全体では収益性が担保される可能性があったのです。
ここで、小倉昌男さんがすごいのが、全体性でとらえれば収益性がでるのだから、まずは投資をして全国に配送網を構築することが必要という視点で、投資決断をしたところです。
質の高いサービスで展開すれば、国の事業からの乗り換えで一定の数が確保できる。そうすれば、いずれ採算分岐点を必ず超えると判断したところによります。
当時の郵便小包のサービスレベルが極めて低かったのも大きなポイントでした。だからこそ採算が見いだせた。
第2章 イノベーションは社長が起こす
このストーリーは、「鳥の目」ともうひとつ、「サービスが先、利益は後」という小倉イズムにもよるところが大きく現れています。
小倉イズム3つの言葉とは!?
「鳥の目でものごとを見よ」「サービスが先、利益は後」「全員経営」、これらをヤマト運輸社内に浸透されていたといいます。
事業を作るだけではなく、それを推進していくときにも、これらの言葉は力強く機能しました。
たとえば、「宅急便」を展開した頃、従業員の意識改革も同時に必要でした。これまで、トラックドライバーは大口の企業を相手にしていればよかったので、特にコミュニケーションも必要がなかった・・でも、これからは一般の顧客ひとりひとりを相手にするから、コミュニケーションが必要になる。そのため、接客の仕方などを教えこんでいったといいます。これを印象つけるため「トラックドライバー」から「セールスドライバー」へと呼称も変更しました。
結果、セールスドライバーも自らチラシを作って、駅前で配布したり、手配りして、事業を支えたといいます。
サービスと利益はトレードオフ
第2章 イノベーションは社長が起こす
両方を追ってしまえば、「二兎追う者は一兎も得ず」の状態になってしまう。小倉昌男さんの判断のすごいところはバランスで両方をとるのではなく、まずどちらか一方をとり、その後、片方がついてくるモデルを全体性・時間軸も含めて想像することができたことだと思います。
過去の投稿「【いかに長期的に豊かな経営を目指せるか!?】経営者・従業員・株主がみなで豊かになる 三位一体の経営|中神康議」で、取り上げさせていただいた本の中で、小倉昌男さんの見立てが取り上げられていましたが、まさにものごとを見るときは箇条書きではなく、システムとして捉えることが重要ということを、改めて考えます。
まとめ
- 「宅急便」開発の背景とは!?――低利益構造に苦しむ大和運輸、起死回生には業界の常識をくつがえす発想が求められていました。
- 小倉昌男さんの見立てとは!?――小包配送は利益が出ないという常識を、社会全体を俯瞰して逆算で構築していきました。
- 小倉イズム3つの言葉とは!?――「鳥の目でものごとを見よ」「サービスが先、利益は後」「全員経営」です。