社会的に流行する「ナラティブ」が、ミクロ経済学だけではなく、マクロ経済にどう影響を与えるか?を説明しました。究極的に、ナラティブというのは文化や時代精神、経済行動における急変の大きなベクトルであると考えます。ナラティブが再発する兆しを捉えるため、これまで歴史的に繰り返されてきた根底のナラティブを9つの視点でまとめました。
ナラティブから経済を予測できるか!?
感染が最も強いのは、人々がその物語の根底にいる、またはその影響を受ける人間との個人的なつながりを感じるときだ。
ナラティブ経済学:この用語の中身
ナラティブとは、「ある社会、時代などについての、説明や正当化を行う記述のための物語や表象」とされます。この定義を拡張して、筆者は人間の活動の集約としてのマクロ経済の予測に役立てることができないかというアプローチを取りました。
本書の中で、ナラティブについて注目される要素は2つあります。1.物語という形でのアイデアの交渉伝搬と、2.人々が新しい感染性物語を生み出したり、物語の感染性を高めたりするための努力。です。
従来の経済学では、過去の解釈をするときに、ビジネスパーソンや新聞記者の”雑談”を分析したり引用したりすることはしません。ましてやタクシー運転手のお話に至っては、取り上げることも思いつきもしないでしょう。でも実は、こうした雑談からマクロ経済が動かされていたら?と論を進めます。
ナラティブは、経済学だけではなく、近年多くの学問で取り上げられる”注目”キーワードであることも語られます。
なぜ、ナラティブは広がる可能性を秘めているのか?
人は、他人が何を考えているのかを考え、他人の個人的な考えについて考える。
第6章 経済ナラティブのヴァイラル性に関する様々な証拠
他人に話しかけようとする時、話の内容で他人がどう反応するか?を想像してしまうものです。景気のいい話だろうと、絶望的な経済の話だろうと、前後の物語を付加して語りがちなのは、その人がさらに他の他人へ話をすることを想定してしまうからでしょう。
このようにして、物語性を帯びながら、ナラティブという伝染は人から人へとつながっていくのです。これは人間心理に裏付けされたものなのです。
ナラティブは、姿かたちを変えて、何度も繰り返される
たとえば多くの人々は何度も繰り返されるナラティブが突然変異プロセスを経て、強力だった古い物語を刷新し、強さを回復させるのだということを認識していない。
根拠なき熱狂からナラティブ経済学へ
著者は、反復性をもった経済ナラティブを9つに分類しました。
1.パニックと不安
2.倹約 vs 顕示的消費
3.金本位 vs 金銀複本位制
4.労働節約機会が多くの職を奪う
5.オートメーション人工知能がほとんどの職を奪う
6.不動産バブルとその崩壊
7.株式市場バブル
8.ボイコット、不当利益、邪悪な企業
9.賃金物価スパイラルと邪悪な労働組合
こうした、通奏低音のように歴史に流れ続けるナラティブが、突然変異をおこし、人々の口の端に乗りながら流行を作り出していきます。
ナラティブからマクロ経済を予測することができるのでは?!を主題に論説を試みた書籍です。最近話題のナラティブについて知りたい方や、ミクロだけではなく、マクロ経済学との関連性に考えを巡らせたい方に特におすすめしたい書籍です。経済学に関する専門的な知識がなくてもよみすすめることができます。巻末の訳者山形浩生氏の「訳者あとがき」も非常に示唆深いので、読破されることをおすすめします。