- どうしたらよりよい社会との関わりを作ることができるでしょうか!?
- 実は、私たちが暮らすこの社会のしくみを知ることが大切かも。
- なぜなら、漫然と受け入れるだけでは、常識に操作されてしまうからです。
- 本書は、日本という社会がどのように成り立っているのか、学業・会社・政治の構造を俯瞰する1冊です。
- 本書を通じて、この日本の結果としての仕組みを知り、一定の距離感をもって観察する視点を得ることができます。
日本社会を構成する原理とは!?
日本社会を構成する原理を考えてみよう。
序章
日本という国(社会)を構成する重要な原理とは、次の4点に集約されます。
1)学歴が重要な指標となります・・しかし、どこで学んだかが重視され、何を学んだかは重視されません。
2)年齢や勤続年数が重視されます・・ただし、1つの会社での勤続年数であって、職業経験ではありません。
3)都市と地方という対立があります・・1・2の結果、生み出される構造です。
4)女性と外国人が不利です・・勤続年数を縦断されがちな女性はフリで、また、他国企業での就労経験が重視されないため、外国人も自ずと不利になります。
このような他国と比較すれば、異常な状態を、私たちはあたりまえとして受け入れながら、生活をしているのが、この国・日本です。
1・2の結果、3・4の状態が招かれているという構造を見て取ることができます。つまり、起点となるのは、1・2、つまり、
① 何を学んだかが重要ではない学歴重視社会
② ひとつの組織での勤続年数重視の社会
というのが、日本の根本構造(仕組み)の起点となっているということになります。
なぜ、学歴重視社会となっているのか、その原因は明治期の官庁制度にあります。官庁の「任官補職」原則と、軍隊型の階級制度が、明治期の日本企業に広まりました。戦後も日本企業はこの文脈を踏襲したので、「どこの大学を出たか・いかに永くその組織に所属しているか」が、人をはかるひとつの基準となり続けています。
明治時代に、現代日本の基礎が作られました。
新卒一括採用、定期人事異動、定年制度、大部屋型オフィス、人事考課などは、どれも明治の官庁や軍隊に起源を求めることができます。
人材のあるべき姿が見出される中で、学校の役割も自ずと規定されていきました。それは、「人材の品質」を保証するラベリング効果です。一定の大学を卒業していれさえすれば、一定のスキルや人格を持っているものとみなすということが、社会全体に共通言語のように広まっていきました。この機能は、他国の場合、例えばドイツやアメリカなどでは、学位や職種別組合が、果たすものですが、日本の場合は、それは大学が担いました。
職能資格制度の日本!?
戦後になり、進学率が上昇する中で、中卒就職者という工場労働者の供給母体が減少し始めました。企業は従来の構造(中卒・高卒・大卒のバランス)を維持しようとして、政府に実業教育の普及を要望したのですが、進学率の上昇を止めることができずに、新卒一括採用が、現場労働者レベルにまで拡張しました。
中卒者が不足して、高卒者が現業員に配置されて、大卒者も販売などの職につくようになりました。これらの状況が、離職率の増大や学生叛乱などの社会不安をもたらすようになります。
3つの階層を前提とした仕組みが限界にきていたので、企業はそれらを統合して全員を「社員」とすることで解消しようとしました。
代わりに導入されたのは、「能力」によって全社員を査定し、「視覚」を付与していく職能資格制度だった。
第7章 高度経済成長と「学歴」
この職能資格制度は、戦前の官庁・軍隊型のシステムの延長でありました。
1974年くらいまで大企業の正社員の拡大が続きました。これ以降は、大学・短大の定員が抑制されたため、受験競争が激化するようになります。
一方で、企業は、一度雇ってしまった人(=正社員)の重荷に苦しみ、人事考課の厳格化と、出向・非正規・女性などの外部化を進めることになります。
その後の、1980年代には、正社員と非正規雇用の二重構造として注目(一般化)されるようになります。
いかにこの仕組みを生きるか!?
このように、日本社会では「学歴」のほかに、能力の社会的基準が十分に育たなかったことが、人をはかる重要性をないがしろにしがちな社会の根底となっています。ブルシット・ジョブがあふれる原因も、大企業病と呼ばれる変革を忘れた状態も、全ては、人を「学歴(それも卒業大学のブランド)」で、ラベリング効果を活用して、画一的に捉えることが原因となっています。
日本は、他の国(アメリカやドイツなど)と比べて、地域を横断した労働運動や専門職運動が弱いのが特徴です。横断的な労働市場や階級意識が形成されづらかったために、企業がその役割を一手に担いました。
そして、企業はどんどんタコツボ化していきました。自社の基準で人をはかり、自社の基準で仕事をつくり、結果、自社の基準に適した人材を養っていくことで、繁栄したのです。でも、これは個人の視点から見るとどうでしょうか。その特定の会社にいれば、なんとか食いつないでいけることは確約される状態であっても、仕事での手応えや自分の能力や個性を開花させるというスリリングな体験を捨てることになります。
3つの機能をもって、もう少し、日本の国を見立てる視点を得てみましょう。
国ごとに類型化するのではなく、「企業のメンバーシップ」「職種のメンバーシップ」「制度化された自由労働市場」という3つの社会的機能で類型化してみたい。
終章 「社会のしくみ」と「正義」のありか
この3つの機能は、いわば三原色のようなものだ。
日本はこの3つの機能のうち、とくに「企業のメンバーシップ」が支配的な社会です。ただ、日本の中でも非正規雇用は「制度化された自由労働市場」、弁護士や税理士のような士業は「職種のメンバーシップ」の色が強いと言えるでしょう。
一方で、ドイツは「職種のメンバーシップ」、アメリカは「制度化された自由労働市場」が支配的であると言えます。
こうして、特徴を俯瞰することで、日本社会の仕組みと、個人が個性を発揮していきいきと生きるためのロードマップを描くことに対する課題が見えてきます。日本の雇用慣行では「初めに職務ありき」「初めに人ありき」という言葉がずっと語られてきました。しかしこれは労務担当者の一方的な見立てです。また、残念なことに、就職という入口が、終身雇用という一生守られるかも知れないが、自分の本来的なスキルを伸ばして、豊かに社会貢献することが難しい状況へと導く結果を作っています。
こうした仕組みが機能していたのは、いったん会社の正社員になってしまえば、「社内のがんばり」と勤続年数によって、承認を得続けることができて、それなりに充実した人生を提供されることがわかっていたからです。でも、社会はどんどん変わります。
グローバル化によって、日本流だけでは必ずしも通用しない世界観が見えています。金融やITなど世界標準の市場が席巻する中で、これまで定着したルールだけでは、難しいことが見えている中、一人ひとりが上述のような暗黙のしくみを知り、そして自分の人生の舵取りをいかにするのか、について、検討する必要があるのではないでしょうか。
舵取りの視点については、こちらの1冊「【資本主義をハックせよ!?】ビジネスの未来――エコノミーにヒューマニティを取り戻す|山口周」も大変刺激的です。
また、ひとつの会社の中で承認欲求を得ることに快楽をもとめる人間の真理については、こちらの1冊「【私たちを縛るもの!?】日本人の承認欲求―テレワークがさらした深層―|太田肇」もおすすめです!
まとめ
- 日本社会を構成する原理とは!?――どこを出たか?という学歴重視と、ひとつの企業につとめた年数です。
- 職能資格制度の日本!?――これが「就社」のしくみを支える根源です。
- いかにこの仕組みを生きるか!?――日本の企業の成り立ちを知り、その上で自分の人生の舵取りに生かすという視点が大切です。