- 職場では、従業員が本当に心からワクワクして働いているでしょうか?
- 実は、多くの日本企業が「従業員の幸福度向上」に取り組みながらも、表面的な制度導入に留まってしまい、根本的な変化を実現できずにいるんです。
- なぜなら、幸福な職場づくりには、単なるテクニックや制度を超えた、組織の価値観そのものの転換が必要だからです。従業員一人ひとりの内発的動機と企業理念が真に共鳴する関係を築くことが、持続可能な幸福な職場の土台になるんです。
- 本書は、この根本的な転換への道筋を、愛を起点とした価値観のアップデートとパーパスの共創という視点で示してくれています。
- 本書を通じて、私たちは幸福な職場づくりが単なる福利厚生の充実ではなく、経営哲学そのものの革新であることを理解できるんです。
前野隆司さんは慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授として、幸福学という新しい学問分野を切り開いてこられた研究者です。もともとはロボット工学の専門家でしたが、2000年代から人間の幸福について科学的にアプローチする研究に転向されました。
「幸福」というと抽象的で主観的なテーマに思えますが、前野さんは統計学や心理学の手法を駆使して、幸福を客観的に測定し、その要因を解明することに取り組んでおられます。
著書には『幸せのメカニズム』『幸福学×経営学』などがあり、個人の幸福から組織の幸福まで、幅広い視点で研究成果を発信されています。
本書は、そんな前野さんが蓄積してきた幸福学の知見を、具体的な経営実践に落とし込んだ意欲的な一冊となっています。
時代は変わった、経営の常識も変わる
時代は変わりました。
先の見えない激変期がやってきているんです。そんな時代において、従来型の組織やマネジメントが通用しなくなっているのは明らかでしょう。人間での差分は深まるばかりです。
そのような時代において、従来型の組織やマネジメントでは人材は定着しませんし、人間での差分は深まるばかりです。優秀な一部のトップが考え抜いた末の判断のもとで業を引き受けてくれる組織よりも、皆々の見つからない視点において、組織にワクワクしている組織の工夫や試行錯誤を信用しないことの方が有効なのです。そこで、後者において社員が生き生き、生き生きワクワクしていることが鍵になります。
この指摘は本当に核心を突いていると思うんです。
従来の日本企業は、優秀なトップが全てを決めて、それを部下が忠実に実行するというトップダウン型の組織運営が主流でした。高度経済成長期やバブル期など、右肩上がりの成長が見込める時代にはこのモデルが機能していたんでしょう。
でも今は違います。
VUCA時代と呼ばれる不確実性の高い環境では、トップひとりの判断だけでは限界があるんです。むしろ現場の多様な視点や創意工夫、そして何より従業員が「ワクワクしている」状態こそが組織の競争力になる。
これは単なる理想論ではありません。実際に、Googleやメルカリなど、従業員の幸福度を重視する企業が高いパフォーマンスを上げているのを見れば明らかです。経営の論点が根本的にシフトしているんです。
個人の力である課題を解決して成果を出してきた従来のリーダーシップの役目の一部を、今後はAIが担うことになるでしょう。しかし、人と人がつながり合ってワクワクしながら生み出そうな発想力は今のところありません。
AIの登場がこの変化を加速させています。
データ分析や定型的な判断はAIが得意とする分野です。となると、人間にしかできない価値とは何か?それは創造性やイノベーション、そして人とのつながりから生まれる新しいアイデアなんです。
だからこそ、従業員が生き生きとワクワクして働ける環境を作ることが、経営者にとって最重要課題になっているんです。
日本の生産性問題の本質と、逆説的解決法
前野さんの研究で特に驚いたのは、幸福度と生産性の関係について明確なデータが示されていることです。
幸福度が高い従業員は、そうでない従業員よりも創造性が3倍高く、生産性が31%高くなるという研究結果があります(心理学者のソニア・リュボミアスキー、ローラ・キング、エド・ディーナーらの研究)。離職度や離職率が低いといった研究結果もあります。
3倍の創造性、31%の生産性向上。この数字が示す意味は、日本企業にとって特に深刻なんです。
なぜなら、日本の生産性は国際的に見て非常に低い水準にあるからです。
職場におけるストレスの原因の1位は「上司・人間関係」でした。また、「時間あたりの労働生産性と労働時間」(11ページ)などのOECD経済協力開発機構のデータ(2017年)によると日本の時間あたりの労働生産性は47.5ドルで、OECD加盟国(36カ国)中20位です。主要7カ国の労働生産性は84.0ドルで、36カ国中7位です。かなり低い値を示しています。
この現実は厳しいものです。日本は長時間働いているにも関わらず、時間あたりの生産性がOECD諸国の中で20位。これは単に「もっと頑張れ」という精神論では解決できない構造的な問題なんです。
興味深いのは、アメリカの経営学者ロバート・フランクの研究です。
アメリカの経営学者ロバート・フランクは、他者との比較優位によって価値が生まれ、満足を得られる財を「地位財」、他者との比較ではなく、それ自体に価値があり、みんなで豊かになれる財を「非地位財」と分類しました。
そして重要な指摘がこれです。
新しく2005年、イギリス、ニューカッスル大学の心理学者、ダニエル・ネトルは著書『目からウロコの幸福学』で、これら2つの財について「幸福の持続性が異なる」と記しました。どういうことかと言うと、地位財による幸せは長続きしないのに対し、非地位財による幸せは長続きする、ということです。
この概念が日本の生産性問題の核心を突いているんです。
日本企業の多くは「地位財」的な動機づけ—他社との比較、昇進競争、売上ランキングなど—に依存してきました。
でもこれらの動機は持続せず、結果として従業員のモチベーションも長続きしないんです。
一方で、「非地位財」的な動機—仕事への意味の発見、チームワーク、成長実感など—は持続的な幸福感をもたらし、結果として生産性向上につながるんです。
カネ・モノ・地位といったインセンティブ(外発的動機)よりも、喜びやそれぞれの幸せを目指して働くこと(内発的動機)が見直され始めているのです。
これって、まさに逆説的な解決法だと思うんです。
生産性を直接的に追求するのではなく、従業員の内発的動機や幸福度に軸足をシフトする。
すると、結果として生産性が向上する。これは従来の日本企業の常識とは真逆のアプローチです。
仕事というものは労働であって「対価=賃金」を得るために自分の時間を売り、生活費を得るためのものである。といった従来の考え方から、私たちは自由になれたのではないでしょうか。
現代は働くこと自体に意味や喜びを見出せる時代になっているんです。だからこそ、経営者は従業員の幸福度向上を通じて、生産性という結果を得るという発想転換が必要なんでしょう。
でも、私たちはいったい何のためにGDPの数値を上げたいのでしょうか。何のために豊かになることを願い、豊かになるためではないでしょうか。
根本的な問いですよね。
生産性や業績向上も、最終的には人々の幸福のための手段であるべきなんです。その順序を間違えてしまうと、手段が目的化してしまい、本当に大切なものを見失ってしまうんです。
幸福な職場を作るための具体的なアプローチ
では、実際に幸福な職場を作るためにはどうすればいいのでしょうか。
前野さんが示す道筋は、単なるテクニックを超えて、もっと根本的なところにあるんです。
職場やチームでは、たとえば「理念の共有」が有効です。
会社の理念や、各人が「心からやりたいと思うこと」を再確認し、メンバー同士で共有しよう。チームメンバーの一人ひとりがやる気を持つことができる。
これって、企業と個人のパーパス共創そのものだと思うんです。
従来の日本企業では、会社の理念は経営陣が決めて、従業員はそれに従うという一方向的な関係でした。でも本当に必要なのは、企業の理念と個人の「心からやりたいこと」が共鳴し合う関係なんです。
ここで重要なのは、リーダーシップの在り方の転換です。
次世代リーダーの鍵は「愛」
前野さんは明確に「愛」という言葉を使っています。
チームメンバーの強みを引き出すリーダーになるためには、どうすればよいのでしょうか。答えはシンプルです。一人ひとりを「愛する」ことです。愛するといってもいろいろあるかもしれませんが、ここでお伝えしたい「愛」とは、コンパッション(深い思いやり)、慈悲)やリスペクト(尊敬)といった意味に近いものです。もちろんこれはウェルビーイングと深く関わっています。
この「愛」を起点とした価値観のアップデートこそが、現代の経営に求められているんです。
サイモン・シネックのゴールデン・サークル理論(Why→How→What)で考えてみると、多くの企業はWhat(何を)やHow(どのように)から始めています。でも本当に必要なのは、Why(なぜ)を明確にすることなんです。
そして前野さんが提示するのは、さらにその根底にある価値観の転換です:
「何をするか」よりも「いかに生きるか」が問われる時代へ
これが企業の価値観アップデートの核心だと思うんです。
What(何を): 商品・サービスの提供
How(どのように): 4つの幸福因子に基づく組織運営
Why(なぜ): すべての人の長期的な幸せのために
根底の価値観: 愛(コンパッション・リスペクト)
この順序で企業理念を再構築し、従業員一人ひとりの個人的なパーパスと共鳴させていく。そのために具体的に必要なのは、組織と個人のパーパスの言語化とすりあわせのプロセスなんです。
まず組織として「なぜ存在するのか」「何のために事業をしているのか」を愛を起点として明文化する。同時に、従業員一人ひとりに「自分は何のために働くのか」「どんな価値を世界に提供したいのか」を言語化してもらう。
そして重要なのは、この2つのパーパスを丁寧にすりあわせることです。完全に一致する必要はありません。むしろ、個人のパーパスが組織のパーパスとどう関連し、どう貢献できるかを対話を通じて見つけ出していく。
この過程で、従業員は自分の仕事に深い意味を見出し、組織は多様な価値観を活かした創造性を得ることができるんです。
始めるのは単純です。「幸せに生きる」という人間の本質に戻るだけ。幸せになるための第一歩は、「幸せになると決める」ことなのです。わがままなマインドチェンジです。
企業レベルでも同じことが言えるでしょう。
「幸せな職場にすると決める」ことから全てが始まるんです。そしてそのためには、経営陣が愛を起点とした価値観を持ち、従業員一人ひとりのパーパスと真摯に向き合う姿勢が不可欠なんです。
この視点の転換が、日本企業の生産性向上と従業員の幸福度向上を同時に実現する鍵になるんだと思います。
私も#考えるノートで、個人と組織のパーパスの共創視点をまとめております。こちらの投稿「パーパス実現のための「セルフナッジ」戦略 ~個人と組織のパーパスを融合させる実践的アプローチ~」もぜひご覧ください。

まとめ
- 時代は変わった、経営の常識も変わる――従業員が「ワクワクしている」状態こそが組織の競争力になる時代になりました。
- 日本の生産性問題の本質と、逆説的解決法――従業員の内発的動機や幸福度に軸足をシフトするという抜本的な捉え方を変える必要があります。
- 幸福な職場を作るための具体的なアプローチ――企業の理念と個人の「心からやりたいこと」が共鳴し合う関係という前提に立ち、双方のパーパス(意味・役割)を定義し合うということです。
