パーパス実現のための「セルフナッジ」戦略 ~個人と組織のパーパスを融合させる実践的アプローチ~

パーパス実現のための「セルフナッジ」戦略 ~個人と組織のパーパスを融合させる実践的アプローチ~

みなさん、こんにちは。増田みはらし書店・店主の増田浩一です。 私は、広告会社でマーケティングプランナー(マネジャー)の役割をいただきながら、中小企業診断士としても活動しております。

私たちは誰もが人生において何らかの「パーパス(目的・使命)」を持っています。同様に、組織もその存在理由となるパーパスを掲げています。しかし、これらのパーパスを日々の行動に落とし込み、継続的に実現していくことは想像以上に難しいものです。

なぜでしょうか?それは私たち人間の脳が、短期的な満足や楽な選択に流されやすい性質を持っているからです。長期的な目標のために今日の誘惑に抵抗することは、単なる「意志の力」だけでは持続が困難です。

ここで注目したいのが「セルフナッジ」という考え方です。これは環境心理学や行動経済学の知見を自分自身や組織に応用する戦略で、パーパス実現を無理なくサポートしてくれます。今回は特に「個人と組織のパーパスの融合」という観点から、セルフナッジの活用法を探っていきます。

この記事は、過去の投稿「【利他=利己である?】行動科学が教える 目標達成のルール|オウェイン・サービス他」と「【ナッジは、ナーチャリングモデルになる!?】行動経済学の使い方|大竹文雄」、および、Nikeさんの記事「セルフナッジで目標達成.オンラインストア (通販サイト) – Nike」にインスパイアをいただき執筆をしております。

セルフナッジとは、何か?

スーパーマーケットで特定の食品が特定の場所に陳列されているのには意味があります。セール中のポテトチップスが入り口付近に置いてあるのは、それを客に買わせるためです。食物心理学によると、人は最初に目に入ったものに心を動かされる傾向があるのです。

これは、人が選択を行う際、無意識のうちに、いかにさりげなく、けれども戦略的に誘導されているかを示す一例に過ぎません。

専門家はこの現象を「ナッジング(軽く肘でつつく行為)」と呼びます。

「セルフナッジング」とは、この原理を逆手にとって、より望ましい選択に自分自身を能動的に導くことです。

ヘルシンキ大学で理論哲学を教えるサムリ・レイジュラ氏は「自己ナッジングとは、自分の行動が些細な物事に影響を受けていることを認識し、コントロールを取り戻すことだ」と説明しています。

重要なのは、これが厳格な自己制御や自己制限ではないということです。必要に応じて抵抗を追加または削減することにより、パーパスに沿った行動を取りやすくし、そうでない行動を取りにくくするための環境設計なのです。

組織と個人のパーパス融合におけるセルフナッジ

組織のパーパスと個人のパーパスを融合させるために、「セルフナッジ」はどのように活用できるでしょうか。

「セルフナッジ」を上手に活用することができれば、日頃の業務で忘れられがちな、大切な意志とビジョンを絶えず見直し、そして知らず知らずのうちに、実現に向けて“正しく”行動を創っていくことができるのではないかと考えます。

企業側と個人側の両方の視点から考えてみましょう。

1. パーパスの可視化と日常化

組織側の施策としては、以下のような取り組みが考えられます。

  • オフィス環境に企業のパーパスを視覚的に表現する工夫(デジタルサイネージ、アート作品など)
  • 会議室や共有スペースにパーパスを想起させるデザインやメッセージの配置
  • 日常的な業務ツール(メールの署名、チャットツールの背景など)にパーパスの要素を取り入れる

個人のセルフナッジについても合わせて検討してみましょう。いくら組織サイドが仕組みを作っても、個人の習慣が変わらなければ全体が変わっていかないからです。

  • 自分のデスクや持ち物に、個人と組織のパーパスの接点を視覚化する
  • デジタル機器の壁紙やスクリーンセーバーにパーパスを想起させる言葉や画像を設定
  • 毎朝の業務開始時に、パーパスを意識する5秒間の習慣を設ける

2. 選択アーキテクチャの設計

上記と同じように、意思決定についても、ナッジを活用していくことが可能ではないでしょうか?

組織側の施策については、例えば以下のような取り組みが、検討できます。

  • 会議や意思決定の場で「この決定は我々のパーパスにどう貢献するか」という問いを標準化
  • パーパスに沿った行動が自然と選ばれるよう、デフォルトの選択肢を設計する
  • パーパスに基づいた判断基準を意思決定プロセスに組み込む

個人のセルフナッジについて、検討できる施策は以下のような内容です。

  • 重要な判断を下す前に「これは私のパーパスに沿っているか」と自問する習慣
  • パーパスに関連する言葉をパスワードに使用し、日常的にパーパスを想起する機会を作る
  • 自分の週間予定表を「パーパス貢献度」で色分けし、視覚的に確認する

3. 人事評価とパーパスの連携

そしてこれが最も重要な視点かもしれませんが、人に行動を促し、判断基準を提供するための評価という論点です。

組織側の施策としては、以下のような施策の展開が考えられます。

  • 目標設定時に「この目標は組織のパーパスにどう貢献するか」を明示する欄を設ける
  • 定期的な1on1やレビュー面談で、パーパスに照らした行動の振り返りを組み込む
  • パーパスに沿った行動を即時に認める「スポットフィードバック」の仕組みを導入

個人のセルフナッジの方策は、以下のようなものを検討したいです。

  • 自分の業績目標がパーパスにどう貢献するかを明確に言語化しておく
  • 日々の業務を「パーパス貢献度」でスコア化し、可視化する
  • 上長との1on1の前に、パーパスに関連した自己評価を準備しておく習慣をつける

ジャーナリングによるパーパス意識の深化の可能性とは?

セルフナッジとして特に効果的なのが「ジャーナリング(記録する習慣)」です。

書くという行為を通じて、パーパスへの理解と実践を深めることができます。

パーパス・ジャーナルの実践法は、以下のような3つの論点を検討してみるとよいでしょう。

  1. 日常的な振り返り
    • 毎日5分間、自分の行動とパーパスの関連を振り返る時間を設ける
    • 質問例:「今日、私のパーパスに近づく行動は何だったか」「明日、パーパスに向けてできる小さな一歩は何か」
  2. ビジュアル・ジャーナリング
    • パーパスの視覚化を促す方法を取り入れる
    • 例:パーパスに向かう旅のマップ、パーパス実現度のグラフ化など
  3. 対話準備としてのジャーナリング
    • 上長や同僚との対話の前に、特定のパーパス関連テーマについてのジャーナリングを行う
    • 準備された思考を持ち寄ることで、対話の深さと効率が向上
    • 例:「次回の1on1では『顧客中心』というパーパス要素について考えてきてください」

組織側は、このようなジャーナリングをサポートするためのツールや時間、フォーマットを提供することで、メンバーのパーパス意識の深化を促進できます。

パーパスバディ制度:対話を通じたセルフナッジ

セルフナッジとして、特に効果的なのが「他者との対話機会の創出」です。

特に「パーパスバディ制度」は、パーパス実現のための強力なセルフナッジとなります。

なぜなら、人は一人よりも、複数人でいるときにこそ、目標へ向かって着実にそして、力強く歩みを進められるからです。

パーパスバディ制度の設計について、以下のような4つの論点をぜひ検討ください。

  1. 多様なペアリング
    • 上長とメンバーだけでなく、メンバー同士のペアリングも重視
    • 部署や専門性を越えたクロスファンクショナルなペアリング
    • 例:マーケティングと開発、人事と営業など、通常は交わらない視点の融合
  2. 定期ローテーション
    • 四半期ごとにパーパスバディを変更し、多様な視点に触れる機会を作る
    • バディの履歴を記録し、長期的に組織内の様々な視点との接触を確保
  3. ゆるやかなガイドライン
    • 「最低月1回、30分程度の対話」程度の緩やかなガイドラインのみ設定
    • 話題や形式は完全に各ペアに委ねることで自律性と創造性を尊重
  4. 対話のためのツール提供
    • パーパスに関連する質問カードや対話ツールの提供
    • 対話後の気づきを記録するシンプルなテンプレート

こうした対話によって、多様な視点を絶えず獲得できるメリットを享受することができるでしょう。同じパーパスでも立場などによって見え方が変わるものです。

互いが、同じものを見て、異なる発想を共有することで、さらに、対象のものごとへの理解を深めることができるようになります。

また、パーパスを考える仕組みを、日常業務に自然に取り込めるメリットもあります。日常会話を充実化させていきながら、自らの意志や組織の目標を繰り返し確認することができるからです。

こうした対話によって、話の内容も重要なのですが、結果的に「心理的安全性」を担保することも可能になるでしょう。特にメンバー同士のペアでは、上下関係なく、率直な対話が可能になるのです。さらに、パーパスに関する疑問や質問などを日常会話の中で、少しずつ触れることで、納得感を自ら創り出してみることも可能になるかもしれません。

結果的に組織が縦のヒエラルキーだけではなく、横のつながりを創出することによって、密に連携できるよりよい風土を形成させていくことができます。

パーパス実現に向けたセルフナッジの日常化

セルフナッジを効果的に機能させるためには、継続性と日常化が鍵となります。以下のポイントを意識することで、パーパス実現のためのセルフナッジが自然と日常に溶け込んでいきます。

1)小さく始める:一度にすべてを変えようとせず、一つのセルフナッジから始めましょう。

  • 毎朝の最初の業務メールを開く前に、パーパスを10秒間思い出す習慣
  • 週に一度、ランチタイムにパーパスバディと15分間の対話
  • 毎週金曜日の終業時に、パーパスに関連した週の振り返りを3行書く習慣

2)環境(場の設定)を味方につけてみる:周囲の人や物理的環境もセルフナッジの一部にしましょう。

  • チームメンバーとパーパスに関連した合言葉や確認フレーズを共有する
  • 自分のデスク周りにパーパスを象徴するアイテムを配置する
  • デジタルカレンダーにパーパス関連のリマインダーを設定する

3)対話の機会を増やしてみる:他者との対話がパーパス実現の強力なセルフナッジとなります。

  • 公式な1on1以外にも、気軽にパーパスについて話す機会を意識的に作る
  • 「今日のパーパスモーメント」を同僚と共有する習慣をつける
  • パーパスに関連する悩みや成功体験を共有するランチセッションを開催する

4)定期的に見直して進化させていく:セルフナッジの効果を高めるために、定期的な振り返りと調整を行いましょう。

  • 四半期ごとに「効果のあったセルフナッジ」を振り返る時間を設ける
  • 新しいセルフナッジのアイデアを定期的に試してみる
  • 他のメンバーの効果的なセルフナッジ事例を学び、自分なりにアレンジする

セルフナッジでパーパス実現体質へ!

パーパスの実現、特に個人と組織のパーパスの融合には、大きな決断や強い意志力だけでなく、日々の小さな選択の積み重ねが重要です。

セルフナッジは、あなたと組織の特性を理解した上で、望ましい選択を自然と行いやすくする環境をデザインする手法です。

特に注目したいのは、パーパスに関する「対話」がセルフナッジとして持つ強力な効果です。パーパスという抽象的な概念が、定期的な対話とジャーナリングを通じて、具体的な行動指針へと変換されていきます。

パーパスバディとの対話や、上長との意味のある1オン1は、パーパス実現の触媒となるのです。

今日から、あなたと組織のパーパス実現のためのセルフナッジを一つ取り入れてみませんか?

まずは、パーパスについて誰かと対話する機会を意図的に作ることから始めてみましょう。

小さな一歩が、大きな変化の始まりです。

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