【なぜ、世界の物価上昇は止められないのか!?】世界インフレの謎|渡辺努

世界インフレの謎
  • 世界的なインフレはなぜ起こっているのでしょうか!?
  • 実は、世界的な「同期」が原因かも。
  • なぜなら、コロナ禍で人々の行動がシンクロしてしまったからです。
  • 本書は、世界と日本経済をマクロに捉え、物価の問題を浮き彫りにする1冊です。
  • 本書を通じて、昨今の物価に世界と日本のまつわる問題の根源を知ることができます。
渡辺努
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中央銀行の役割とは!?

世界がインフレに見舞われています。実に久しぶりの出来事です。インフレ、つまり物価があがり、経済活動や私たちの生活にダメージを与える出来事は、これまでの歴史の中で、局所的に起こってきました。しかし、欧米の主な先進国をベースに見て軒並み8~9%程度の高い物価高が起こるということは、近年稀に見る事態なのです。

2008年のリーマンショックを起点にした、不況で、世界は低インフレ時代に突入していました。そもそもインフレ率というのは、それまでほうっておくと高くなり続けていくのが常識でした。中央銀行というのは、そのため「高くなりすぎた物価の冷却装置」的役割を果たし続けてきたと言っても過言ではないでしょう。

その時に操作するのが、金利です。

金利を高く設定すれば、加熱する経済に水をさして、過剰な物価高を抑制することができます。

しかし、リーマンショックから経済が立ち直っても、従来の常識に反して、インフレ率はなかなか上がらない状況が続きました。

世界はなぜか「低インフレ化」、物価が上がらないことが常態化していたのです。

第1章 なぜ世界はインフレになったのか――大きな誤解と2つの謎

世界的にこうした状況が連鎖しているのには理由があります。

1)グローバリゼーション
世界中に貿易の網の目が張り巡らされていて、企業は少しでも安く生産できる場所を求めて生産拠点をグローバルに移動させています。そういう動きに乗り遅れた企業が、高めに価格設定を行ったり、原価の上昇を価格に転嫁したりすると、他国や他社製品に置き換えられてしまいます。そのため、価格が上がりづらい構造が誕生しています。

2)少子高齢化
先進国を中心に、少子高齢化の社会に突入しています。働き手の減少は、将来の生産性(GDP)、そして将来の所得の減少を意味します。将来の所得が減るとなると、人々はその時に備えて今から、貯蓄をしなければならないと考えて、現在の消費を減らします。よって、インフレ率を抑制する動きとなります。

3)技術革新の頭打ち
生産性の伸びが停滞しています。情報技術やバイオテクノロジーなど革新が目覚ましい分野もありますが、生産性は思ったほど伸びていません。そのためのGDPの伸びも鈍く、低インフレとなります。

技術革新、とくに情報技術による生産性がさほど伸びない問題については、過去に山口周さんも指摘しています。こちらの1冊「【資本主義をハックせよ!?】ビジネスの未来――エコノミーにヒューマニティを取り戻す|山口周」をぜひご覧ください。単なる機能をデジタライズするだけでは、生産性が向上しない点について視点を得ることができます。

上記のように、3つの影響を加味するのであれば、世界はインフレになりづらい環境が揃っていると言えます。しかし、なぜ、足元では、世界各国でインフレが継続しているのでしょうか・・!?

世界的インフレの原因は、コロナ禍を経て戻ると思われていた「生産」が世界的に戻ってきていないことによります。戦争や自然災害と異なり、コロナは世界の生産設備(資本)に大きなダメージを与えませんでした。労働という観点でも、全人口的に見れば、これまで人類が経験してきた事態よりも失った人名は、相対的に少ない・・。

ですから、本来的には、コロナ禍が収束すれば、生産性が以前か、それよりも高い水準で戻ってきてもおかしくない、というのが、経済学者の見立てでした。しかし、現実には、そのようにいかなかったのです。

なぜ世界的にインフレなのか!?

受給のアンバランスを引き起こしている要因がいくつか考えられます。

その一つが、労働者の行動と意識です。リモートでの仕事に慣れてしまった労働者は向上やオフィスに戻ることを拒みます。このことによって働き手の減少が引き起こされて、最終的には生産量が戻らない状況に影響しています。労働者は、今や、完全出勤を強いられてしまうことがあれば、職を変えたり、あるいは、想起にリタイヤしようと考える動機を十分に持つことができます。

消費者サイドで見てみましょう。コロナ禍によって、人混みを避けたり、他者との物理的な接触を避けようとする生活様式は、コロナが収束した今でも少なからず残っています。こうしたことを背景にどこで何を消費するのかについて、以前とは異なるスタイルが定着しつつあります。

結果、とくに消費が集中するようになった品目では、生産が追いつかず価格上昇が起きていると言います。

これまでの世界観では、「同期」というのは起きないのが、経済のセオリーでした。経済は局所的に以上な消費性向が見られたりしたけど、それが、世界的に同じように巻き起こることは稀でした。たとえば、誰かがレストランに行かなくなったとしても、その分レストランには空席ができるので、その分、店員の接客が良くなるかもしれません。すると、新しい客が現れて、その空席を埋める可能性があるのです。

「捨てる神あれば拾う神」で、誰かが何かの行動をとれば、それとは真逆の行動を別の誰かがとることになります。

第1章 なぜ世界はインフレになったのか――大きな誤解と2つの謎

こうしたメカニズムで、経済は全体として安定が確保されます。

ですが、パンデミックで世界中の人々の「行動」が「同期」する事態となりました。さらにその後の「行動」にも同じような影響を与えています。つまり、行動の規制と解放によって、世界の人々が同期して同じような行動を起こしている、そうした全体の抑圧と解放によって、特定の分野での消費が旺盛になり、その生産が追いついていない状況が全世界的に起こっているのが現状です。

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特異な日本経済!?

この事態に対して、実は、中央銀行はなすすべがあまりありません。上述の通り、世界銀行の役割とは放っておけばインフレになる加熱する経済に水をさすことでした。そのための手段が金利だったのです。

いま問題となっているのは、生産です。生産が足りていない状況がインフレの原因になっている今、生産を向上させなくてはならないのですが、残念ながら、中央銀行にはそのすべがありません。

中央銀行は「供給」には何もできない

第1章 なぜ世界はインフレになったのか――大きな誤解と2つの謎

強すぎる需要が原因で起こるインフレに対して、中央銀行は利上げという武器で戦うことができるのですが、供給が少なすぎていることが原因のインフレに対して、中央銀行は打ち手がありません。

金利を下げればいいのではないかと思われるかもしれませんが、下げるにも限界があります。金利には下限があるからです。研究者の間では、マイナス2%あたりが下限であると理解されています。

世界的な、インフレの状況を俯瞰してきましたが、日本においては、またさらに複雑な経済環境が見て取れています。

日本では、「急性インフレ」と「慢性デフレ」が同時進行しているのです。

一部の分野で物価高騰が続いている中、全体としては、物価がほとんど上昇しないデフレの状態が足元でずっと続いているのです。これには、日本に共通して理解されているとある意識が影響しているのですが、これについては、また次回の投稿でレビューを続けてみたいと思います。

まとめ

  • 中央銀行の役割とは!?――過剰なインフレを金利上昇で解決することです。(ただし、ディマンド(需要)側への影響力しか持ちません)
  • なぜ世界的にインフレなのか!?――コロナ禍で行動が「同期」し、特定の分野の供給が追いついていないからです。
  • 特異な日本経済!?――日本だけが、慢性的なデフレを抜け出せていません。なぜか・・・。
渡辺努
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