- 日本の調達は、難しい状況が続いています。
- たしかに、日本的バリューチェーンが生み出す、「日本クオリティ」は素晴らしいものです。
- しかし、国の成長や非連続の成長の中で、相対的にポジションを取りづらい状況になっています。
- 本書は、かつての強みが裏目に出ている日本企業のルポです。
- 本書を通じて、企業変革のための視点を得ることができるでしょう。
買い負ける国、日本!?
主にこれまで食料関連のニュースで使われてきた「買い負け」ですが、最近では、半導体、木材、人材に至るまで、さまざまな分野に波及し、日本のサプライチェーン、バリューチェーンのあり方が、揺らいでいます。
コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻を背景とする外因をしっかり分析する必要はありますが、実は外因ばかりではないかもしれません。
近年の買い負けは、日本の内因がついに表出したといえないだろうか。
はじめに
日本経済全体の凋落。もしいくらでもお金が払えるなら、買い負けることはないでしょう。そして、企業の内因として、これまでの成長力を支えてきた組織的構造の問題が、ありそうです。
問題の根幹とは!?
2つの上下構造によって、著者坂口孝則さんは、説明します。
上部構造・・日本産業の凋落 →結果として、買う力の低下
下部構造
・多層構造→買い手の慢心 →結果として、上部構造へ影響
・品質追求→調達品の固定化 →結果として、上部構造へ影響
・全員参加主義・全員納得主義→横並び意識 →結果として、上部構造へ影響
まず、下部構造について見ていきましょう。
日本は歴史上、裾野に広く下部構造を持ちます。日本企業の特徴は裾野の広いサプライチェーンです。多くの零細企業が、大企業を支える構造になっています。ピラミッド構造では、売り手から「納品してもらって当然」と買い手側の慢心を呼びます。仕入先に負担を求め、そして仕入先の絶大な協力を前提とする「すり合わせ」を期待し、「あうんの呼吸」で事業をすすめます。これまで上位企業がとってきた「納品してもらって当然」という態度は、緊急時には弊害となります。
仕入先の手間暇はコストにほかならないが、あまり意識がなさそうだ、とも。
仕入先の負担が前提の業務
海外からの調達を前提として、経済が凋落し、日本円のパワーが減退する中、こうした態度が裏目に出ているのです。
また、日本企業と日本の消費者は品質追求が自己目的化しているとも指摘できます。過剰な品質要求によって、さらに買付は困難を極めます。なぜなら、仕入先にそれだけのチェック機構の保有を進めさせるからです。
日本企業の成功と発展は、個人に根ざしたものではなく、「農業的な安定と協業」が是とされた「全員参加主義・全員納得主義」から生まれました。
同時に、参加者と下請け企業を固定化した「多層構造」が形作られて、さらに現場の地道な改善を積み上げる(QCサークル活動などが事例)「品質追求」へと注力させていったのです。
上記の特徴は、右肩上がりの経済成長時代には、強みでした。
「日本企業は成功する特性を備えていた」
↓
「日本企業の体質は変わらなかった」
↓
「日本企業の成功をもたらした特性は現代において逆作用するにいたった」
という流れで、問題を捉える必要があります。
裏目に出ている日本の強みとは!?
日本の全員参加主義・全員納得主義を支えてきた要素は、「三種の神器」と言われる、「終身雇用制」「年功序列」「企業内組合」の存在です。欧米の産業と異なり、「生涯ともに働くメンバーで構成される組織」が、地道な研鑽を通じて、よりよいモノを社会に届ける強固なバリューチェーンを作り上げました。
労使団結による全員参加によって、現場では、例えば、10秒の組立時間を9秒に。不良品率0.02%を0.01%に。100円かかるコストを99円に。などの品質追求が展開されていきました。
この日本企業の姿勢が受け入れられたのは時代の偶然だった。
全員参加主義に適した品質追求
品質の良い自動車、家電、機械装置類を生産するのが、まだまだたやすくなかった時代、日本は時代に適合する体質と志向を有していたのです。
しかし、一方で、この組織は弱みも多分に孕んでいました。変化を志向せず、外的な変化に弱い組織であることは否めません。
2000年を基準としてみたときに、日本の設備投資の伸び率は他国に比べて見劣りしています。
年 | 仏国 | 独国 | 日本 | 英国 | 米国 |
2000年 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 |
2009年 | 107.7 | 97.9 | 94.1 | 90.5 | 105.5 |
2020年 | 145.8 | 122.1 | 109.5 | 115.1 | 165.3 |
2021年 | 151.4 | 124.7 | 108.7 | 116.0 | 177.5 |
- 地方から上京した青年が必死に働き(日本)
- 必死さが仕事の成果に直結する幸運があり(製造業)
- 大金を得たものの(高度成長期)
- そこで得た大金を次のスキルに投資できなかったために(産業)
- 後進に抜かれるにいたっている(失われた30年)
日本全体を語るのはたやすくないですが、こうした潮流は、個人のレイヤーにおいても同じことが言えるのかもしれません。リスキリングやアンラーンを代表として、いま、社会では捨てる学習にがトレンドです。この国のインサイトが見えるようでなりません。
リスキリング、アンラーンについては、こちらの投稿「【HOW TO リスキル!?】リスキリングは経営課題~日本企業の「学びとキャリア」考|小林祐児」もおすすめです。ぜひご覧ください。
まとめ
- 買い負ける国、日本!?――調達が厳しくなっています。
- 問題の根幹とは!?――多層構造によるすり合わせ主義をそのまま海外取引でも適用しようとするからです。
- 裏目に出ている日本の強みとは!?――全員参加主義・全員納得主義が足を引っ張っています。