- 「パーパス」ってこの1,2年になってかなり言われ始めてるけど、結局のところ、何なの?着目される背景はどこにあるの?整理しておきたい。と思っている方は多いのではないでしょうか。
- 実は、「パーパス」が注目される背景をきちんと理解することは、これからのブランドづくりに不可欠になる事かもしれません。
- なぜなら、その背景は、繋がりの強化・政治への期待・ヒューマニティなど、これからの時代をとらえるために必要な事象が複雑に絡み合っているからです。
- 本書は、そうした「パーパス」がなぜこれほどまで注目されているのか、背景を考察した上で、パーパスブランディングの進め方についても詳しく触れている実践的書でもあると言えます。
- 本書を読み終えると、「パーパス」の背景と実行までを俯瞰して捉えることができ、豊富な事例を知ることもできます。
「人間中心」から「地球中心」へ。
これまでは、「ユーザに喜ばれるだろうか?」「ユーザの真の課題に寄り添っているだろうか?」という、ユーザ視点を徹底することで広く支持を獲得できたが、もやはそれだけでは不十分だ。今後は、「我々のビジネスや取り組みは地球にとってよりよいものだろうか」という「地球中心」の視点を加え、さらにそれをユーザー中心思考より優先させる必要があるだろう。
1章 「意義化」する経済7つの変化
利益至上主義だけでは、企業やブランドは生活者の心を捉えられなくなっています。消費者は単にモノを買う人から、社会を良くするために、商品やサービスを選択する人に様変わりしてしまったようです。
パーパスが重視されているのは、さまざまな結節点にあるため一義的な理解がしづらいことが弱点です。
それは、地球環境の変化、消費者の価値観の変化、企業の競争環境の変化などさまざまな潮流の中で、複雑に絡み合っているのです。
しかし、ただあきらかに変わってきているのが、ナイキ、オールバーズ、レモネード、コトパシ、ユニリーバといった時代を先行する企業のブランド活動自体が変化しているということです。
「パーパス」を起点に、わたしたちは、「優しいビジネス」を考えていく必要があります。
「パーパス」の背景を捉える3つの事象とは?
リーマンショックを予言したとして有名になった元トレーダーのニコラス・タレブは、『ブラック・スワン』という著作で、世界を単純化して理解しようとしすぎるあまり、世界に大きな影響を与えうる不確実で大規模なイベントを見過ごす危険性を指摘した。そんな彼は、昨今の環境を「接続性が高すぎる」と評している。
3章 なぜ、世界は急速に「意義化」するのか?
自社のみの利益を追求する場合、あまりにも繋がりすぎた社会だと、かならず「しっぺかえし」がくると言います。
それは時に、環境破壊が進むことによる原料確保の困難さという大きな円循環かもしれないし、時に、就労環境を守りたい取引先との破断かもしれません。
また、政府への信頼度の低下も、相対的に企業に対して姿勢を求めることになっていると、本書は説きます。
政治やメディアを信頼できない今、消費者は自身のオピニオンのスタンスを消費と紐づけるようになった。
3章 なぜ、世界は急速に「意義化」するのか?
ロシアのウクライナ侵攻において、ユニクロが衣服は生活必需品としてロシアでの営業を継続したことに批判が集まったことは記憶に新しいです。
こうした事例は、一部ですが、SNS等で発言力を持った生活者の声は企業にストレートに届き、影響力を強めています。
国家というコンセプト自体が、揺らいでいるという話は、過去の投稿「【今頼るべきは、国家なのか?】くらしのアナキズム|松村圭一郎」でもありました。この松村圭一郎さんの『くらしのアナキズム』では、「もともと国家とは人々から搾取するための仕組みであった」や、「採用されなかった有権者の意見を切り捨てる現在の選挙制度は、本質的に民主主義といえるのか?」などが語られおり、まさにこれからの時代の国家の役割、リーダー像を考える大きなヒントをもらいました。
本書の話に戻しますが、
さらに、もう一つの視点として「ヒューマニティ」への配慮も「パーパス」の背景には存在します。
AIと倫理の問題が取り沙汰されたり、あるいは、SNSがフェイクニュースの拡散などに以上に大きな役割を果たしたりしたことを受け、無条件にテクノロジーを称揚すること、またそうしたテクノロジーにどっぷり浸かることは必ずしも社会を前進させないのでは、という論調が強まってきている。
3章 なぜ、世界は急速に「意義化」するのか?
消費者も、企業の関係者も、すべての人は単なる消費をする人ではなく、確固たる人格を持ち考える人間性をもったひとりひとりなのであるという風潮があります。
20世紀のような創る側・消費する側というような一方的な構造ではなく、ともに良くしていく関係としての循環型なしくみの捉え直しも進んでいるようです。
「作って、売って、終わり」から「ループ型」へ。
瞬間的に盛り上がる「花火」的アプローチよりも、絶え間なく顧客にコンテンツが届き続ける「波」的アプローチのほうが、よりその企業の「Authenticity(真正性)」を確実にユーザに届けることができる。
4章 パーパス起点のビジネスのあり方
全てのステークホルダーが「パーパス」によって、自らの役割や関わる意義を見つける活動の中で、「波」的なアプローチの方がブランドにとって大切です。
単純に多くを一時的、瞬間的に消費してもらうことではななく、繰り返し関係性を持ってもらうアプローチを意識していくことです。
また、意義化する社会の中では、より各ステークホルダーとの協働が必要になります。
本書では、ステークホルダーごとにアプローチの視点を掲げてくれています。
・ステークホルダー1:従業員
パーパスの下にボスはいない
・ステークホルダー2:サプライヤー
サプライヤーは無理を押し付ける相手ではない
・ステークホルダー3:顧客
等価交換の外側を意識する/取引関係からパートナー的関係へ
・ステークホルダー4:地域コミュニティ
リゾーム的共同体(リゾーム=地下茎のように、中心を持たず水平に拡張していく)
・ステークホルダー5:株主
連帯する個人投資家
その上で、倫理の目で全体を俯瞰することも大切です。
いま、世界の企業では、最高倫理責任者(Chief Ethics Officer)という役割を設置することも増えている層です。たとえば、Salesforceは、文化人類学者としてキャリアを積み、社会インパクト投資企業Omidyar Networkでシニアリーダーを務めていたポーラ・ゴールドマンをテクノロジーの倫理的・人道的活用の責任者(Chief Ethical and Humane Use Officer)に任命しています。
まとめ
- 「人間中心」から「地球中心」へ。――利益至上主義では、企業やブランドの舵取りが難しい時代になりました。社会に存在する意義を「パーパス」によって提示することが求められます。
- 「パーパス」の背景を捉える3つの事象とは?――過剰に繋がりすぎた社会では、独占はしっぺかえしをもたらします。信頼されにくい政府の代わりに企業への期待が相対的に高まっています。ヒューマニティを大切にする風潮が高まっています。
- 「作って、売って、終わり」から「ループ型」へ。――ステークホルダーぞれぞれと「パーパス」のもとよりよい関係を築き上げ、一過性ではない継続的な「波」のような効果をもたらしていきましょう。
「パーパス」を背景も含めて網羅的にまとめてくれています。流行語のように取り扱うのではなく、どのような社会になっているから、「パーパス」を求めるうねりがおきているのか?という問いを持つことが大切だと思いました。