相手との関係こそが真の支援!?『謙虚なコンサルティング』エドガー・H・シャイン

『謙虚なコンサルティング』エドガー・H・シャインの書影と手描きアイキャッチ
  • 前回、「謙虚なコンサルティング」の本質について考えました。
  • 実は、シャインが提示しているのは、単なる理念だけではないんです。
  • なぜなら、本書には、どうすれば相手を本当に支援できるのか、具体的で実践的なアプローチが詰まっているからです。
  • 本書は、支援者としての在り方を、HOW TOのレベルまで落とし込んで教えてくれる稀有な一冊です。
  • 本書を通じて、今回は特に「レベル2の関係」「パーソナライゼーション」「共同探求」という3つの実践的な視点から、シャインの思想をさらに深く掘り下げていきたいと思います。
エドガー・H・シャイン,金井壽宏,野津智子
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前回の投稿はこちら「本当の支援とは何か!?『謙虚なコンサルティング』エドガー・H・シャイン」からぜひご覧ください。

レベル2の関係を築く――最初の瞬間から始まる支援

支援において最も重要なのは、信頼関係です。

でも、信頼関係は一朝一夕には築けません。いや、正確に言えば、信頼関係は「最初の瞬間」から始まっているんです。シャインは、人間関係を3つのレベルに分類しています。

レベル1の関係は、役割ベースの関係です。

「コンサルタント」と「クライアント」、「医者」と「患者」、「上司」と「部下」――こうした役割を通じてやり取りする、形式的でビジネスライクな関係のこと。

礼儀正しく、プロフェッショナルだけど、どこか距離がある。

相手の「役割」とは話すけれど、その「人」とは話していない関係です。多くのコンサルティングは、このレベル1で終わってしまいます。

「現在の課題は何ですか?」「どんな対策を試みましたか?」

こうした質問は、表面的な情報は得られますが、相手の本当の懸念には届きません。

なぜなら、人は役割を演じているとき、本音を語らないからです。

だからこそ、シャインはレベル2の関係の重要性を強調します。

効果的なレベル2の関係を築くためには、初めて話をするまさにその瞬間から「力になりたいという思いを示す」と「好奇心を抱く」と「クライアントとその状況に対する思いやり」を態度で示すことによって、関係を打ち解けたものにする必要がある。

レベル2の関係とは、役割を超えた、人間対人間の関係です。(レベル3は、さらにパーソナライズされた、より深い親密な関係)

表面的な礼儀やビジネスライクなやり取りを超えて、もっと深い人間的なつながりを築くこと。
相手が、自分の本当の懸念を、安心して話せる関係。

これがレベル2なんです。

多くのコンサルタントや支援者は、まず「状況を把握しよう」「問題を特定しよう」と考えます。
だから、最初のミーティングで矢継ぎ早に質問を浴びせてしまう。

確かに、これらは必要な情報かもしれません。でも、こういう質問の仕方では、レベル1から抜け出せないんです。なぜなら、クライアントは「また診断されている」と感じてしまうから。

シャインが強調するのは、最初の瞬間から、3つのC――commitment(力になりたいという気持ち)、caring(思いやり)、curiosity(好奇心)――を態度で示すことです。

これは、言葉で「力になりたいです」と言うことではありません。

あなたの存在そのもの、態度、姿勢、声のトーン、目線、すべてが、相手に「この人は本当に私のことを気にかけてくれている」と伝わるかどうかなんです。

クライアントの懸念を突きとめるためには、クライアントと支援者が信頼し合い、率直に話ができることが必要である。自分の懸念を打ち明けられるくらい、クライアントと近づかなければはならないのだ。

「近づく」というのは、物理的な距離ではありません。

心理的な距離です。

相手が、自分の本当の懸念を、安心して話せるかどうか。

表面的な問題ではなく、本当に悩んでいること、怖れていること、迷っていることを、正直に打ち明けられるかどうか。

それができるのは、レベル1からレベル2へと関係性が深まったときです。相手が「この人なら受け止めてくれる」「批判されない」「理解してもらえる」と感じたときだけ、本音が出てくるんです。

だからこそ、最初の瞬間が決定的に重要なんです。

あなたがどんな態度で相手と向き合うか。

レベル1の役割関係にとどまるのか、それともレベル2の人間的な関係へと踏み込むのか。それが、その後のすべての関係性を決めると言っても過言ではありません。

パーソナライゼーションという技法――個人的な関係の力

では、具体的にどうすれば、レベル2の関係を築けるのでしょうか?

シャインが提示する重要な概念が「パーソナライゼーション」です。

パーソナライゼーションは、個人的なことに踏み込んで質問をしたり、状況とそれについてのクライアントの気持ちと心配的に耳を傾けたりして、個人的な関係を築いたり信頼感を伝えたりすることを通じて生まれる。

「個人的なこと」と聞くと、プライバシーに踏み込むことだと誤解されるかもしれません。

でも、そうではないんです。

パーソナライゼーションとは、相手を「クライアント」という役割ではなく、一人の人間として見ることです。

組織の問題を語っているとき、その背後には必ず、個人の感情があります。

不安、焦り、悔しさ、戸惑い、希望、期待――。

従来型のコンサルティングでは、こうした感情は「ノイズ」として扱われがちです。

「事実」と「データ」だけを見て、感情は切り離そうとする。

でも、シャインは真逆のことを言っています。

その感情こそが、本当の問題への入り口なんだと。

確実に支援するためには、本当の問題、すなわちクライアントの最も深い懸念が何かを発見する一方で、「本当の問題」なとなく、一連の不安が至るところにあるだけだという事実を受け容れる必要がある。

これは深いインサイトです。

私たちは「本当の問題」という単一の答えを探そうとします。でも、実際には、人は複数の不安や懸念を同時に抱えているんです。

それらは矛盾していることもあります。
論理的に整理できないこともあります。
でも、それが人間なんです。

パーソナライゼーションとは、そういう曖昧さ、複雑さ、矛盾を、そのまま受け止めることです。

「つまり、あなたが言いたいのは○○ですね」と早急にまとめようとしない。「それは矛盾していますよ」と指摘しない。ただ、相手が感じていることを、そのまま聴く

職場の二人以上の有志と集まろう。そして、互いや上司やパートナーと、新しいタイプの会話を始めたり、今までとは違う種類の個人的な関係を築いたりすることを検討し、それが実践的に家庭でどのような意味を持つかを一緒に探ってみよう。

ここでシャインが言っているのは、職場での対話を、もっと人間的なものにしようということです。

ビジネスの会話だからといって、感情を排除する必要はありません。

むしろ、個人的な関係を築くことで、より深い対話ができるようになる。

そして、それが結果的に、より良い解決策を生み出すんです。

パーソナライゼーションは、テクニックではありません。

相手を一人の人間として尊重し、その人の内面に真摯に関心を持つという、支援者としての根本的な姿勢です。

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共同で探求する――答えを出さない勇気

ここまで見てきたように、謙虚なコンサルティングの核心は「共に探求する」ことです。

でも、これは私たち専門家にとって、実は最も難しいことかもしれません。

なぜなら、私たちは「答えを出すこと」に慣れているからです。

クライアントは答えを期待している。だから、早く答えを出さなければ――。

この焦りが、本当の支援を妨げるんです。

答えを出そうとしないこと。また、最初から回答を見つけたり提案したりできる賢い人の少し変えられるところがないか、注意深く自由な発想で考えてみよう。

シャインは、あえて「答えを出そうとしないこと」と言っています。

これは、無責任になれということではありません。

性急に答えを出すことが、かえって本質的な解決を妨げるからです。

ダイアログを行う目的は、問題の探求であって、結論に至ることではないのを忘れないこと。

「探求」と「結論」は違います。

結論を出すことを目的にすると、対話は「正解探し」になってしまいます。

でも、探求を目的にすると、対話は「理解を深める旅」になるんです。

求めたやり方やモデルのことは忘れよう。探究心を旺盛にし、好奇心を抱き、偏見をなくして、楽しんでみよう。

「楽しむ」という言葉が印象的です。

真剣なビジネスの場面で「楽しむ」なんて、不謹慎に思えるかもしれません。

でも、シャインが言いたいのは、探求そのものを楽しむということです。

わからないことがある。
それを一緒に考えていく。
新しい視点が見えてくる。
「なるほど、そういう見方もあるのか」と驚く。

このプロセス自体が、本当は楽しいはずなんです。

そして、この「共に探求する」姿勢が、アダプティブ・ムーブを生み出します。

診断・分析・提案というモデルに代わるのは、診断情報を明らかにしつつ初期介入にもなるアダプティブ・ムーブを、クライアントとともに考えながらその場で生み出すこと。

従来型は「 診断 → 分析 → 提案」という一方通行です。

でも、謙虚なコンサルティングでは、対話のプロセスそのものが介入になります。

話しながら、クライアント自身が気づいていく。

「そういえば、あのときは・・・」
「もしかすると、本当の問題は・・・」
「じゃあ、まず試してみるべきは・・・」

こうして、クライアント自身の中から、次の一手が見えてくるんです。

クライアントは、自分の本当の懸念に気づき、組織に対する感覚が研ぎ澄まされるにつれ、何をすべきか何が可能か突きとめ、さらに、コンサルタントとともに次のアダプティブ・ムーブを考え出すようになる。

ここで重要なのは「クライアントとともに」という言葉です。

支援者が一方的に提案するのではありません。

共に考え、共に探求し、共に次の一手を見出していく。

問題が単純明快だとわかったら、支援者はみずから専門家もしくは医者の役割を担うか、あるいはクライアントを他の専門家か医者に紹介することが適当である場合がある。しかし、ほとんどの場合、たいていわかったら、クライアントと支援者は、「これによって問題が解決されるわけではないかもしれないが、次のアダプティブ・ムーブになる新たな情報を得られる」と理解したうえで、実行可能なアダプティブ・ムーブを探すべきである。

ここでシャインが言っているのは、状況に応じた柔軟性です。

もし問題が明確で、専門的な解決策があるなら、それを提供すればいい。

でも、多くの場合、問題は複雑で曖昧です。

そういうときは、「完璧な解決策」を探すのではなく、「次の一歩」を見出すことが大切なんです。

そうした決定は、共同で行う必要がある。なぜなら、コンサルタントが、なんらかの提案ができるほど十分にクライアントの個人的な状況や組織文化について知ることは決してないし、クライアント自身、自分だけでは大きすぎるほど十分に、調査などの診断プロセスツールを使った介入のあらゆる結果について知ることも決してないからである。

これは謙虚さの本質です。

コンサルタントには、クライアントの状況を完全に理解することはできません。
クライアントには、すべての選択肢とその結果を見通すことはできません。

だからこそ、共同で探求し、共同で決定していく必要があるんです。

そのため、コンサルタントは言語の一つとして、さまざまなアダプティブ・ムーブの結果を理解し、そうした結果のポイントをクライアントにしっかり伝えて、クライアントがうまく動けるだけの準備ができているかどうか判断する必要がある。

支援者の役割は、答えを与えることではなく、クライアントが自ら判断できるように情報と視点を提供することです。

そして最終的には、クライアント自身が決め、動き出す。
それを支えるのが、本当の支援なんです。

改めて、本書の核心を振り返りましょう。

コンサルタント(自分)の手助けによって、クライアント(相手)が、
(1)問題の複雑さと厄介さを理解し、(2)その場しのぎや対症療法的な行動をやめて、(3)本当の現実に対処すること が、本当の支援なのである。

注目すべきは、主語が「クライアント」である点です。

支援者の役割は、答えを与えることではなく、相手が「気づく」ことに集中すること。

「なるほど」「そういうことか」という気づきがクライアントにもたらされることによって、クライアントが打つべき「次の一手」も自ずと明らかになる。

レベル2の関係を築き、パーソナライゼーションを通じて相手を理解し、共に探求する。

この実践的なアプローチを通じて、相手は自ら気づき、自ら動き出すんです。

それこそが、本当の支援の形なんだと思います。

まとめ

  • レベル2の関係を築く――最初の瞬間から始まる支援――信頼関係は最初の瞬間から始まります。力になりたいという気持ち、思いやり、好奇心を態度で示すことで、相手が本当の懸念を打ち明けられる関係を築くことができます。
  • パーソナライゼーションという技法――個人的な関係の力――相手を役割ではなく一人の人間として見ること。感情や不安を含めた複雑さをそのまま受け止めることで、より深い理解と対話が可能になります。個人的な関係を築くことが、結果的により良い解決策を生み出します。
  • 共同で探求する――答えを出さない勇気――性急に答えを出すのではなく、共に探求することが大切です。対話のプロセスそのものが介入となり、クライアント自身の中から次の一手が見えてきます。完璧な解決策ではなく、実行可能な次の一歩を共に見出していくことが本当の支援です。
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