- コンサルタントや専門家として、あなたは相手の問題を「診断」し、的確な「助言」を与えることが仕事だと思っていませんか?
- 実は、その考え方こそが、本当の支援を妨げている最大の障壁なんです。
- なぜなら、相手が本当に必要としているのは、あなたの正解ではなく、自分自身で気づき、自ら動き出すための対話だからです。
- 本書『謙虚なコンサルティング ― クライアントにとって「本当の支援」とは何か』は、組織心理学の第一人者エドガー・H・シャインが、従来型コンサルティングの限界を鋭く指摘し、「謙虚さ」という新しいアプローチを提示した一冊です。
- 本書を通じて、専門家としての在り方を根本から問い直し、相手を本当に支援するとはどういうことかを考えていきたいと思います。
エドガー・H・シャインは、1928年生まれの組織心理学の巨匠です。
マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院で長年教鞭をとり、2006年に名誉教授となりました。
シカゴ大学を卒業後、スタンフォード大学で心理学の修士号、ハーバード大学で社会心理学の博士号を取得。
1956年からMITスローン経営大学院で教え始め、1964年に組織心理学の教授に就任。1972年から1982年まで組織研究グループの学科長を務めるなど、組織心理学の分野を牽引してきました。
シャインの業績で特筆すべきは、組織文化、組織開発、プロセス・コンサルテーション、キャリア・ダイナミクスといった分野における先駆的な研究です。
アップル、P&G、ヒューレット・パッカード、シンガポール経済開発庁など、世界的な企業や公的機関をクライアントとして、実践的なコンサルティングを重ねてきました。
『キャリア・アンカー』『プロセス・コンサルテーション』『組織文化とリーダーシップ』『人を助けるとはどういうことか』『問いかける技術』など、数多くの著書を通じて、支援者としての在り方を探求し続けています。
本書は、そんなシャインが長年の経験から導き出した、支援の本質についての集大成とも言える一冊です。
専門家の呪縛を解く――「教える」から「聴く」へ
コンサルティングや支援という仕事に携わっている人なら、誰もが一度は陥る罠があります。
それは、「自分が話す」ことを理想的だとする文化です。
支援やコンサルティングを行う場合、まず「診断」し、次いで「助言」の名のもとに自分が話すことが当たり前になっている。
これが「専門家によるコンサルティングのお決まりのパターン」だと、シャインは指摘します。
でも、よく考えてみてください。
クライアントが本当に求めているのは、あなたの正解でしょうか?
支援者としての私自身の経験から言えば、重要なのはむしろ、どんな問題に悩まされているかをクライアントが自ら話すこと、それを遮ることなく安心して話せることだった。
このシャインの言葉は、従来型コンサルティングへの痛烈なアンチテーゼです。
私たちは専門家として、つい「早く問題を特定して、解決策を提示しなければ」と焦ってしまいます。
クライアントの話を聞いている途中で、もう頭の中では診断が始まっている。
そして、相手が話し終わる前に、「それは○○が原因ですね。△△すれば解決します」と言いたくなってしまうんです。
でも、そのアプローチには根本的な問題があります。
それは、主語が「コンサルタント」になっているということです。
本書でシャインが提示する「謙虚なコンサルティング」の特徴は、まさにこの主語を転換することにあります。
コンサルタント(自分)の手助けによって、クライアント(相手)が、(1)問題の複雑さと厄介さを理解し、(2)その場しのぎや対症療法的な行動をやめて、(3)本当の現実に対処すること。
注目すべきは、主語が「クライアント」である点です。
コンサルタントの役割は、自分が正解を提示することではありません。
相手が自ら気づき、理解し、対処できるように手助けすることなんです。
これは単なる言葉遊びではありません。
従来型の「診断→助言」アプローチでは、クライアントは受け身になります。
専門家から答えをもらい、それを実行する。
でも、それでは本当の意味で問題は解決しないんです。
なぜなら、問題の本質を理解していないまま、表面的な対処をしているだけだから。
自分が手助けすることによって、相手が「気づく」ことに集中する――これが、シャイン流コンサルティング最大の特徴といえよう。
「気づき」というのがキーワードです。
「なるほど」「そういうことか」という気づきがクライアントにもたらされることで、クライアントが打つべき「次の一手」も自ずと明らかになる。
これが、本当の支援なんです。
では、どうすれば相手の気づきを促すことができるのか?
それには、まず私たち自身のマインドセットを変える必要があります。
「教えてあげよう」という姿勢から、「一緒に考えよう」という姿勢へ。
「診断しよう」という意識から、「理解しよう」という意識へ。
そして何より、「話そう」とすることから、「聴こう」とすることへ。
この転換が、すべての出発点になります。
対話という支援――好奇心が導くアダプティブ・ムーブ
では、具体的にどうすれば「聴く」支援ができるのでしょうか?
シャインは、三つのCという概念を提示しています。
三つのこととはすなわち、力になりたいという積極的な気持ち(commitment)、クライアントに対する思いやり(caring)、そして好奇心(curiosity)である。
この中で、特に重要なのが「好奇心(curiosity)」です。
従来型のコンサルティングでは、クライアントの話を聞きながら、「これは○○のパターンだな」「原因は△△だろう」と分類・診断していきます。
でも、謙虚なコンサルティングでは、そうではありません。
クライアントが詳しく話すにつれ、必ずアイデアや仮説や核心を突く考えが浮かんでくる。そしてクライアント、あるいは提示されている状況に関して気づいてきた課題について、もっとわかるようになりたいと思うようになる。
ここで大切なのは、「診断したい」ではなく「もっとわかるようになりたい」という気持ちです。
この純粋な好奇心こそが、本物の対話を生み出すんです。
やがて、それがクライアントの反省を促す質問ではなく、自分がもっと知りたいと思うことへ、自分の好奇心を満たす内容へ、クライアントを引き込んでいく。
シャインは、このような質問を「診断的な聞かされ」と呼んでいます。
「このとき何を感じましたか」という問いは、相手を責めるものでも、反省を促すものでもありません。
純粋に、あなた自身がその状況をもっと理解したいという好奇心から出てくる問いです。
そして、この好奇心に基づく問いこそが、相手を深い思考へと導くんです。
シャインは、質問を4つの形態に分類しています。
- 感情に関する質問――内容のさまざまな側面について、いろんなことを感じ、検査し、原因について考えをめぐらせるようになる。
- 習慣を問う質問――どんな判断基準のもと、どんな行動をしているのかを把握する。
- 行為に関する質問――「どんな行動をしたのか」を見出す
- 概念に関する質問――「どんなものごとの捉え方をしているのか」を見出す
これらの質問を通じて、クライアントは自分自身の思考を深めていきます。
そして、この対話のプロセスそのものが、支援になるんです。
シャインはこれを「アダプティブ・ムーブ」と呼んでいます。
コンサルタントは「パートナー」兼「支援者」になる必要がある。
従来型の「専門家」から、「パートナー&支援者」への転換。
これがアダプティブ・ムーブの前提です。
しかし多くのアダプティブ・ムーブは、もっと短時間で、すぐそこにあり、経験から言えばにわかには信じがたいものである場合が少なくない。
アダプティブ・ムーブは、壮大な戦略や複雑な解決策ではありません。
むしろ、対話の中で生まれる「ちょっとした行動」なんです。
もし同席する人を変え、センスメーキング(意味付け)する人を変え、会話の性質も問題解決やディスカッションやディベートから本物のダイアログへ変えたら、さまざまな新しいアダプティブ・ムーブが生まれるだろう。
ここで重要なのが、「ディスカッション」から「ダイアログ」への転換です。
ディスカッションは、異なる意見をぶつけ合い、正しい答えを見つけようとします。
でも、ダイアログは違います。
ダイアログでは、お互いの考えを深く理解し合い、共に新しい意味を創り出していくんです。
新たな会話がダイアログになると効果が最大。
このダイアログという場そのものが、クライアントが主体的に動き出すきっかけを生み出します。
ことわけ「アダプティブ・ムーブ」が必ずしも意図して起きるものでないことを忘れずにいる場合には「アダプティブ・ムーブ」は、ちょっとした行動なのである。
これが、アダプティブ・ムーブの本質です。
支援者が意図的に「これをやらせよう」と仕組むのではありません。
対話という関係性の中で、クライアント自身が「今すぐ役に立つ」と思える行動を自ら見出し、動き出す。
それを可能にするのが、好奇心に基づく傾聴であり、本物のダイアログなんです。
パートナーとしての在り方――謙虚さという新しいリーダーシップ
ここまで見てきたように、謙虚なコンサルティングは、従来型の専門家像を根本から問い直すものです。
でも、これは単にコンサルティングの手法の話ではありません。
シャインが本書で提示しているのは、新しいリーダーシップの在り方そのものなんです。
謙虚なコンサルティングは新たなリーダーシップ・スキルになる。
現代の組織は、かつてないほど複雑で不確実性に満ちています。
正解がない、あるいは複数の正解がある状況で、リーダーはどうあるべきか?
「私が答えを持っている」という姿勢では、もはや通用しません。
必要なのは、チームメンバーやクライアントと共に、答えを探求していく姿勢です。
最後に、「クライアント」という言葉の概念も今後は変わるだろう。最近私が話をしているさまざまな個人やグループがみずから、個々のクライアントではなくシステムの一部だと考えるようになっているのだ。
これは深い洞察です。
私たちが支援する相手は、孤立した個人ではありません。
組織という複雑なシステムの一部であり、さまざまな関係性の中で生きています。
重要な役割に就いている幹部個人をコーチしている場合でも、その幹部は、組織のほかの人たちに影響がある関係で頭を悩ませている。
だからこそ、支援者には謙虚さが必要なんです。「私がすべてを理解している」という傲慢さではなく、「私にはまだ見えていないことがたくさんある」という謙虚さ。
この謙虚さこそが、本当の信頼関係を生み出します。
潜在クライアントと初めて接するときに、信頼し合って率直に話のできる関係を築こうという意識を持って臨むことになる。
信頼関係は、一朝一夕には築けません。
でも、相手に対する本物の思いやり(caring)と、純粋な好奇心(curiosity)、そして力になりたいという積極的な気持ち(commitment)があれば、関係性は自然と深まっていきます。
そうした個人的な関係ができれば、クライアントとの対話を突き詰めるだけでなく、これまでどおり専門家や「医者」の役割を果たすことで支援できるかどうかを判断できるようにもなる。
ここで重要なのは、謙虚なコンサルティングが、従来型の専門知識を否定しているわけではないということです。
状況によっては、専門家として診断し、助言することも必要でしょう。
でも、その前提として、相手との信頼関係があり、相手が本当に必要としているものを理解していなければなりません。
さらには、面白いことに、関係が深まるプロセスそのものによって、今すぐ役に立つとクライアントが思うだろう行動を考えられるようになる。
これが、パートナーとしての支援者の在り方です。
上から目線で「こうすべき」と指示するのではなく、横に並んで一緒に考える。
相手の話に耳を傾け、好奇心を持って問いかけ、共に新しい意味を創り出していく。
このプロセスを通じて、相手は自ら気づき、自ら動き出すんです。
謙虚なコンサルティングは、決して弱腰や遠慮ではありません。
むしろ、相手の可能性を最大限に引き出すための、強力なアプローチです。
相手を信頼し、相手の力を信じるからこそ、謙虚でいられる。これが、新しい時代のリーダーシップであり、支援者としての在り方なんです。
私自身、この本を読んで、自分の仕事の仕方を深く問い直すことになりました。
専門家として「教えよう」とするのではなく、パートナーとして「共に考えよう」とする。
この転換は、簡単ではありません。
でも、だからこそ、この本が示す道筋は価値があるんです。
次回も、シャインの思想をさらに深く掘り下げていきたいと思います。
リーダーシップの考え方については、こちらの1冊「【リーダーとは、役職ではなく、役割!?】リーダーシップ・シフト|堀尾志保,中原淳」もぜひご覧ください。おすすめです。

まとめ
- 専門家の呪縛を解く――「教える」から「聴く」へ――従来型コンサルティングの「診断→助言」パターンは、支援者が主語になっている点に根本的な問題があります。本当に必要なのは、クライアント自身が問題を理解し、自ら対処できるよう手助けすることです。
- 対話という支援――好奇心が導くアダプティブ・ムーブ――力になりたいという気持ち、思いやり、そして好奇心という3つのCを持って相手に向き合うこと。純粋な好奇心に基づく問いかけが、本物のダイアログを生み出し、クライアントが主体的に動き出す「ちょっとした行動」を引き出します。
- パートナーとしての在り方――謙虚さという新しいリーダーシップ――謙虚なコンサルティングは、専門家から支援者への転換を意味します。信頼関係という土台の上で、相手と共に答えを探求していく姿勢こそが、新しい時代のリーダーシップ・スキルとなるのです。
