【リーダーとは、役職ではなく、役割!?】リーダーシップ・シフト|堀尾志保,中原淳

リーダーシップ・シフト
  • どうしたら、チームをより良い方向へ導くことができるでしょうか。
  • 実は、リーダーシップを役職と捉えないことです。
  • なぜなら、リーダーシップは特定の誰かに依存するものではないからです。
  • 本書は、シェアドリーダーシップという切り口から、リーダーの本質に迫る1冊です。
  • 本書を通じて、変革の時代を突き進むチーム力を考えるヒントを得られるでしょう。

変化の時代の組織運営とは?

職場や仕事において、5つの大きな変化が起きています。

1.複雑化:前例踏襲ではもう対応しきれない変化の時代を私たちは生きています。
2.少数化:加速度的に進行する人数不足の中を生きています。
3.多様化:みんな一緒ではなく、生き方も含めてさまざまな力を修練させていく工夫が必要です。
4.分散化:バラバラの時場所で協働するための工夫が求められています。
5.多忙化:給与は一定なのにもかかわらず、兼務や業務が増える傾向にあります。

こうした時代においては、特定の一人がリーダーシップを発揮していればOKではありません。もっというとマネージャーを任命されているからと言って、それはイコール・リーダーというわけでもないということです。マネージャーとリーダーの違いを明確に認識しながら、ものごとに対処しなくては、上述の5つの変化ポイントをないがしろにしてしまいます。

少し立ち止まってマネージャーとリーダーの違いを検討してみましょう。マネージャーとリーダーの主な違いを以下の表にまとめました。これらの特徴は一般的な傾向を示すものであり、実際の役割では両者の特性が混在することも多いです。

比較項目マネージャーリーダー
役割の焦点現在の業務や作業の管理将来のビジョンや方向性の設定
権限の源泉組織構造や職位からの公式な権限個人の資質や影響力、信頼関係からの非公式な権威
意思決定既存の規則やプロセスに基づく決定革新的アプローチや直感を活用、リスクを取る決定
チームとの関係指示や監督を通じて管理インスピレーションや動機付けを通じて導く
変化への対応安定性の維持と変化の管理変化の促進と新機会の積極的追求
重要なスキル計画立案、組織化、問題解決ビジョン構築、コミュニケーション、人々を鼓舞する能力
時間の使い方日々の業務や短期的目標達成長期的戦略や組織文化の形成
マネージャーとリーダーの違いとは?

ポイントは、すでにあるものごとを前提にその効率性を目指して管理するのがマネージャーです。一方で、リーダーは、まだないビジョンやありたい姿でメンバーを鼓舞しながら、可能性を探索するアプローチです。これらを混同して考えてはなりません。また、どちらかが優位でどちらかが劣後するということでもないことには注意が必要です。

効果的な組織運営には、マネージャーとリーダー両方の特性が重要です。状況に応じて、これらの特性をバランスよく発揮することが現代のビジネスリーダーには求められています。

現在の職場では、複数の大きな変化が同時に進行しており、リーダーシップが必要となる場面が以前よりも格段に増えています。

絶えず変化にさらされる現場においては、いちいち特定のマネージャーのマネジメントを待つこと自体がリスクになります。現場の判断で自ら行動できる冗長性と柔軟性をいかに確保し続けられるかが、企業経営の論点にもなっています。

マネージャー1人に頼るのは止めにしよう、ということです。

そこで、キーになるのが“シェアド・リーダーシップ”という考え方です。

シェアド・リーダーシップとは?

マネージャー1人にリーダーシップの発揮を求めるということではなく、チームメンバー全員が「自分の強み」を活かして、リーダーシップを発揮している状態です。

一言でいうと「全員活躍チーム」です。

“シェアド・リーダーシップ”が実現しているチームでは、成果創出やイノベーションの創出においてプラスの側面を持つことが、近年の研究でも明らかになっています。また、こうしたリーダーが散在する組織は、コロナ禍後、標準となったテレワークにも向いていることは自明です。

シェアド・リーダーシップが発揮されやすいチームを目指していくにはどうしたらいいでしょうか?実は逆説的でありますが、マネージャーの働きかけが欠かせません。

「チーム全員が強みを活かし、リーダーシップを発揮する」からマネージャーの働きが不要なのではなく、そのためには、マネージャーが土台を作り、共通認識としてメンバー相互に理解を深めていくアクションを取らなくてはならないのです。これは、「これまでとは決定的に異なる働きかけ」です。

まず重要となるのが、階層をなくすことです。社員の自主性を重んじるカルチャーの醸成も必要でしょう。

ここでNATO軍の士官らの“シェアド・リーダーシップ”への認識を用いて、新しいマネジメントの視点を学んでみましょう。ヒエラルキーをとくに重視していると思われる軍が、現場のリーダーシップを足元では重視しているということは驚きです。でも、実はVUCAやOODAという概念は、そういえば軍用語であることも何かを示唆しているのかもしれません。

NATO軍の士官らのシェアド・リーダーシップへの認識例

  • タテ方向のリーダーシップは、リーダーによる偏りに弱く、非常に個性的になりやすい。チームを高めることを阻害することさえある。
  • 1人のリーダーが全ての答えを持ち、直面する重要課題を理解することはできない。
  • シェアド・リーダーシップには、利点が多数ある。主体性や賛同が増えるだけでなく、集合的な議論を通じてチーうの弱点や個人の知識・経験不足を補うことができ、より包括的な成果を期待できる。
  • シェアド・リーダーシップが導入されたプロジェクト・チームでは、任務をより短時間で完了させることができ、より効果的である。
  • 新しい世代の進化した人しkいは、軍の新しいリーダーに、現代的な軍の文脈でシェアド・リーダーシップを実行させることになる。

NATOの事例では、とくに中長期的に戦略などを検討する軍本部などではシェアド・リーダーシップが特に適すると言います。一方で、短期間で極限の状況の中、勝ち進む必要のある戦闘の現場においては、特に従来型のトップダウンでのリーダーシップがより効果的です。いずれにしても、それぞれの特徴をよく理解し、マネージャーが自らの立ち位置を変化させ、チークを大きくディレクションしていくことが重要ということになります。

仕事の不確実性が高いチームにおいて、とくにシェアド・リーダーシップは有効です。

シェアド・リーダーシップを発揮するチームを作るためには、次の論点を忘れないようにしましょう。

1)チームで大事にしたいことは、最初に明言する。
2)全員が発言できる機会を作ること。
3)1オン1で想いを引き出すこと。

1のチームで大事にしたいことというのは、あるべき姿を規定しながら、それを目指せばOKという安全地帯をみんなと共有するということでもあります。チームの共通認識を明確に作るということは、どんな発言や行動が互いに歓迎されるのかという共通認識をメンバー間で育てるということになり、その結果、「心理的安全性」を高める効果があります。

心理的安全性については、こちらの投稿「【安全だから、闘える!?】心理的安全性のつくりかた|石井遼介」もぜひご覧いただきたいのですが、シェアド・リーダーシップの基礎を担う考え方です。

マネージャーの働きかけが特に初期のチーミングにおいては不可欠です。シェアド・リーダーシップが発揮されているからと言って、マネージャーのディレクションは不在ではいけないのです。むしろ、ディレクションがシェアド・リーダーシップを育てるものであるという認識でチームに向き合っていきましょう。

以下は、本書の著者である堀尾志保さん、中原淳さんが、研究の中で、シェアド・リーダーシップが発揮されている職場において、マネージャーが初期に意識していたポイントだそうです。

  • 風通しがよく、かつ楽しく仕事ができる場。
  • 必要な人に誰でもいつでも相談できる場。
  • それぞれが悪い人間じゃないんだということを理解して、ラフにコミュニケーションを取れる場。
  • どのメンバーも気を遣うことなく互いに意見を言い合える場。

安全安心ということは「ぬるま湯」ではないということを意識しておくことも大切でしょう。むしろ、心理的安全性が高いチームとは、メンバーの誰もが誰に対しても恐れや不安を感じることなく、「ものごとをよりよく進めるために」、アイデアや意見、質問、懸念を、率直に述べることができるチームであるということです。

心理的安全性が確立されていけば、ひとりひとりが柔軟にものごとと向き合い、発言の機会を自ら作ることができます。また、同時にメンバー個別の思考や悩みや、これから目指したい姿を言語化していくためにも1オン1はとても有効です。

ぜひこちらの1冊「【相手の中に、自分を見いだせ!?】上司と部下は、なぜすれちがうのか|本田英貴」もご参考に頂きながら、マネージャーとして1オン1を続けてみましょう。

1オン1では、直近の業務の振り返りだけではなく、個人がやってみたいことや、得意なこと、キャリアの展望などの想いを互いに引き出してみることも重要です。

  • これからチャレンジしてみたいことはどんなこと?
  • どういうキャリアを目指したい?
  • 3年後に、どんな仕事をしていきたい?
  • 何をしているときが楽しい?
  • どんなチームにしていきたい?

これらの質問を投げかけながら、そして、より良いチームを常に目指していくためには、どんなことが必要かも意識して、ひとりひとりの意志を見える化していくことも大切にしましょう。

絶え間ないアップデートが重要?

上記のような取り組みにおいて、シェアド・リーダーシップが発揮されるチームの基盤は構築することができます。さらに、より良くしていくためには、下記の4つの視点で、絶えずアップデートを図っていくことも検討しましょう。

1)「チーム学習」で「専門性の協会を揺さぶる」
2)「知と活動の見える化」で「担当の境界」を揺さぶる
3)「見える化→手順化→手順崩し」で「手順の境界」を揺さぶる
4)「チーム・リフレクション」で「行動の境界」を揺さぶる

1)「チーム学習」で「専門性の協会を揺さぶる」

チーム全員で新しいことを学ぶ機会を作ります。

チーム全員で新しいことを学ぶ機会を得ることで、チーム全体の「専門性の境界」を揺さぶる働きかけをすることができます。チーム学習を推進することで、メンバーの認識が揃いやすくなるとともに、新しい相互連携が生まれやすくなります。そして、新しい連携が新しい刺激を生み出し、それぞれがさらに成長するスパイラルへと相乗効果を得ることができるのです。

また、誰がどんなスキルセットや情報、あるいは人的ネットワークを持つことを互いに理解しておくことも大切です。この知識をチームが保有していることは、「トランザクティブ・メモリー・システム」と呼びます。誰が、何wお知っているかが共有されているチームほど、チームとしての成果が高まることが研究では明らかにされています。

2)「知と活動の見える化」で「担当の境界」を揺さぶる

各メンバーが持つ知識やノウハウを、それぞれのメンバーで学びあえる機会をつくります。このことで、チーム内でのコミュニケーションが活発化され、ノウハウやスキルが底上げされるだけではなく、チーム内外への動向や変化についての感度が向上することによる、分担や連携の促進がもたらされます。

最終的には、生産性や相乗効果が向上し続けるチームとして、ひとりひとりが活躍できるチームを目指すことができます。

3)「見える化→手順化→手順崩し」で「手順の境界」を揺さぶる

1と2のステップをクリアしていくと、徐々にメンバーやチーム全体でのノウハウが見える化できるようになっていきます。メンバーやチームの強みが標準化されていく状態です。メンバーの「知と活動の見える化」を行うことで、それを他のメンバーが利用し、さらにはそれを進化させることで、さらにチームの学びへと還流させていく動きを作ることができます。

4)「チーム・リフレクション」で「行動の境界」を揺さぶる

チーム・リフレクションとは、互いに考えていることや学んだことを共有し、相互理解を深めるアクションです。小さなワークショップに近いイメージです。

こうしたチーム・リフレクションを行うことで、チームの大きさをコントロールするよりも優位に、チームの成果を向上させることが可能になります。

チームは放っておくと時間が経過するにつれて硬直化して、パフォーマンスが下がっていきます。チームメンバーの行動、役割分担、内外コミュニケーションの範囲などが固定化してしまうことにより、新しいノウハウや知識、行動などがやり取りされづらくなっていくからです。

そうした硬直状態に抗うためにも、チームを俯瞰するマネジメントが、常に新しい行動を行うことはもちろん、チーム全体の働きかけを抜本的に見直す機会を通じて、メンバー相互の取り組みを鼓舞していくことが重要となります。

企業で、シェアド・リーダーシップな全員活躍チームを実現しているマネジャーの方々に調査を行うと、そうしたマネジャーの方がは最も適した打者が、その時々にリーダーシップ発揮の打席に立てるよう、自らもときに打者になりながらも、メンバー全員が打席に立つための働きかけを、様々に行っていることが見えてきました。

ここまでを通じて、見てきたことは、これからのチーム構築と運営を考える上で、不可欠なポイントばかりです。重要なことは、マネジャーの意識と行動です。変化の時代を強みとして自分たちのチームに取り入れるために、これまでの常識を絶えず疑いながらも、そこでいいや!という気持ちにあぐらをかくのではなく、理想を突き詰めて行動し続けられるか、ということに関わっていきます。

リーダーシップとは、誰か特定の一人の問題ではなく、いまを生ききろうとする全員に関わる問題であることにほかありません。

まとめ

  • 変化の時代の組織運営とは?――全員が活躍しリーダーシップを発揮できるチームを構築することです。
  • シェアド・リーダーシップとは?――全員活躍のあるべき姿です。
  • 絶え間ないアップデートが重要?――いまに満足せず、絶え間ないアップデートを図りましょう。
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