- どうしたら、成長以外のロジックで組織運営を行うことができるでしょうか。
- 実は、文化資本をキーにすることがポイントかも。
- なぜなら、人中心活動へと、もう一度、経済を引き戻す視点となるからです。
- 本書は、文化資本経営のあり方を説いた1冊です。
- 本書を通じて、新時代を拓く視点とアクションを作るヒントを得ることが可能です。
文化資本経営のすすめ!?
前回の投稿「【文明の次は、文化!?】文化資本の経営:これからの時代、企業と経営者が考えなければならないこと|福原義春,文化資本研究会」に続き、今回もこちらの1冊『文化資本の経営:これからの時代、企業と経営者が考えなければならないこと』のレビューを続けてみたいと思います。
前回の投稿では、経済資本だけによるものがたりが限界を迎えている今、改めて私たちがよりどころにしたい軸足のあり方について検討していきました。それは、資本を3つに分けて考えることから始まります。「経済資本」「文化資本」「自然資本」です。近代までの時代は、自然資本から、経済資本を離別させていく過程で、「成長」を獲得してきました。いまや、私たちの日常を見る限り、極めて物質的に豊かになっています。
しかし、その一方で、物質的豊かさと成長をほぼ唯一のロジックとしてこれまでの活動を行ってきた私たちに立ちはだかるのは、こうした豊かさの限界です。すでに人類はある程度の限界値まで達成してしまったというのが、ひとつの見立てです。
こうした中で、「精神的にも」豊かな人生を得て、幸せを感じ続けることを一人ひとりが漠然と目指さなくてはならないのでは?と思い始めているのが、現代なのだと思います。
そうした中で、ヒントになるのが先の資本のあり方です。これからは、3つめの資本である「文化資本」を用いて、「経済資本」と「自然資本」との融合をはかっていくことに、生き方の軸足を見出すことができるかも知れません。
経済とは経済的・文化的・社会的な総合活動
1章 文化経済の時代の到来 文化が経済の力になるとはどういうことか
統合を目指す活動を本書では、「文化資本経営」とし、提唱しています。文化資本経営では、言語化、象徴化など本来は目に見えづらい文化を見える化することもとても大切な取り組みの一つです。
「語り・記し・作り・育てる」ためには、「アート・知識・設計・デザイン・資本」を統合しながら、一見相反するものごとを包み込む活動を行っていくことが理想となります。
ある意味、商品以外のものごとを生み出すことが期待されているのかも知れません。企業活動とは、本来、利潤、儲けだけを唯一の目的とするものではなかったはずですが、企業組織の存続が第一とされるようになると、もっぱら利益を重視する経済に追い込まれてしまう、という視点で改めて捉えてみることも大切です。
本来の企業活動とは!?
本来の企業活動としては、逆に社員の創造力や自律性を保証できる場をまず前提としていくことです。
1章 文化経済の時代の到来 文化が経済の力になるとはどういうことか
人間が育つ、人間的な場所がそこにはあるという確信があるからこそ、人がさらに集まり、さらに新しいアイデアを生み出し、新しい生き方を模索する可能性に満ちた組織になります。そして、結果的にそれが売上や利益を生み出し、従業員にも適切に還元されていくような、循環が理想です。
企業活動とは、そうした人間の活動なのです。マネーや資本が暴走するような、そんな唯一的な発想を今一度、俯瞰して、人の生きる力を信じる活動へともう一度、組織のあり方や仕事の内容を再構成していくことが大切です。
文化資本経営では、暗黙知をいかに形成するかを大切にします。暗黙知を生み出して、名言化し、社会知としてしていくこと、その過程での学びの仕組みをいかにつくれるかがポイントになります。暗黙知が絶えず形成されていくような場所がないと、人間は、大きな成長を得ることが難しくなり、行き詰まりを感じます。
そして、そうした暗黙知を、経営者は積極的に作り、そして、言語化し、社会に対して表示していく義務を負っていると考えてもいいかも知れません。そうした活動こそが、未来への最大の資本を贈ることになるかも知れません。
かの後藤新平さんが、次のような格言を残されていることを思い出しました。
よく聞け、
後藤新平――医師、官僚、政治家、東京市第7代市長、ボーイスカウト日本連盟初代総長
金を残して死ぬ者は下だ。
仕事を残して死ぬ者は中だ。
人を残して死ぬ者は上だ。
よく覚えておけ
この人というのは、もしかしたら、人財という意味でもあり、あるいは、考え方によっては、暗黙知を育む組織であり、そして、そこから生み出される形式知(=文化資本)を残すこととして捉えてもいいかも知れないと思いました。
企業はビジョンを積極的に提示する必要があります。「いかに、当社は経済・自然を統合するために、文化を養っていくか」について語るのです。
これからの企業ビジョンには、はっきりとした形で生活と社会のビジョンが内在化されていかなくてはならないからです。
5章 新しい経営を切り開くビジョンとは何か コーポレート・ガバナンス
3つのビジョンを大切にしましょう。
1)生活ビジョン・・これは、生活者から見た企業のイメージです。消費の場を定義します。
2)企業ビジョン・・これは他の企業から見た企業のイメージです。生産の場を定義します。
3)社会ビジョン・・これは、生活ビジョンと企業ビジョンを結ぶものです。社会=分配の場として、統合する視点をもたらします。一見相反する自然や経済、生活や企業を統合するイメージをもたらします。
3つのビジョンの違いを区別しながら同時にしっかり結びつけていくことが、リーディング・ビジョンとしてコーポレート・ガバナンス(統治・管理)の重要なポイントになります。
資本中心の生産へ!?
経済生産の対象を商品から、資本にすることを検討してみましょう。商品ありきではなく、資本創造を手段として、人主体の活動体を形成していくことです。
そのためには、3つの取り組みが必要です。
1)個性を持った具体的な場所を中心にした「場所市場」を大切にすること。
国民市場という全国に画一的な拡がりを持つ全体的な市場ではなく、固有の印象やカルチャーを持つ、地方や地域に根ざした活動にフォーカスしてみることです。世界や地球との普遍的なありかたを考えていくヒントになります。
2)等価交換を中心とした世界から、異質で個性的なコミュニケーションへ。
等価交換とは、100円のもとを100円と交換することです。これまでの商品中心の経済の考え方でした。しかし、これからはこの2つの間に別のものを挟み込みながら、経済を循環させていく新しいロジックを導入しても良いかも知れません。人間が主体であることを忘れずに、必ずしも金銭的な対価が重要でないことを見出すべきです。そこには貢献ややりがい、などの感情の交換も多分に含まれてくるということになります。これはある種のコミュニケーションとして認識されるものになるかも知れません。
3)多様なアクションが保証される企業・社会へ。
商品中心の社会は労働を中心とした社会です。例えば、従業員として働く時に、労働力という商品を資本家に提供し、その対価を得ているモデルです。資本中心の世界観の中では、ひとつの部署でひとつの労働をするのではなく、さまざまな部署や組織に横断的に所属しながら、活動することが可能な状態が保証されていることがキーとなります。コーポレート・ガバナンスでは、こうした多様な一人ひとりの活動をどうしたら保証し、それを助成し、どう育成していくかなどがさらに重要となります。
商品中心から資本中心へと経済生産の展開をもたらすポイントは、「場所と生産の市場性」「コミュニケーションの多様性」「アクションの多義性」の3つをいかに生み出していくか、ということになります。
5章 新しい経営を切り開くビジョンとは何か コーポレート・ガバナンス
まとめ
- 文化資本経営のすすめ!?――3つの資本を総合し、新しいものがたりを紡ぎましょう。
- 本来の企業活動とは!?――人、主体に、創造性を引き出し、育てる組織であるべきです。
- 資本中心の生産へ!?――3つのアクションでコーポレート・ガバナンスを再解釈しましょう。