幸せは、期待値とともに!?『SAME AS EVER』モーガン・ハウセル,伊藤みさと

『SAME AS EVER』モーガン・ハウセル,伊藤みさとの書影と手描きアイキャッチ

この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール

  • なぜ私たちは、未来を予測しようと必死になるのでしょうか。
  • 実は、予測に時間を費やすほど、私たちは本質から遠ざかっているのかもしれません。
  • なぜなら、本当に重要なのは「何が変わるか」ではなく、「何が変わらないか」だからです。
  • 本書は、『サイコロジー・オブ・マネー』で世界的ベストセラーを生んだモーガン・ハウセルが、人間の行動と歴史から導き出した「決して変わらないもの」について論じた一冊です。
  • 本書を通じて、期待のマネジメント、長期思考の本質、そして予測ではなく備えることの意味を、私たち自身の日常に落とし込んでいきたいと思います。
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モーガン・ハウセルは、ベンチャーキャピタルファームのコラボレーティブ・ファンドのパートナーを務める投資家であり、金融ライターです。

彼の前作『サイコロジー・オブ・マネー』は、世界で500万部以上を売り上げ、50カ国語以上に翻訳されるという驚異的な成功を収めました。この成功の理由は、単に投資テクニックを語るのではなく、人間の行動と心理に焦点を当てたことにあります。

ハウセル自身、ウォール・ストリート・ジャーナルやモトリーフールでコラムニストとして活躍し、金融ジャーナリズムの分野で高い評価を得てきました。彼の文章は、複雑な金融の世界を誰にでもわかる物語として伝える力があります。

本書『SAME AS EVER』は、そんな彼が「変化の時代」に「変わらないもの」へと視点を転換させた意欲作です。予測不可能な世界で生きる私たちに、歴史と人間の行動パターンから学ぶべき普遍的な真理を示してくれます。

「期待」という名の幸福の方程式

私たちは日々、何かと比較しながら生きています。

隣の同僚の昇進、友人のSNSに映る華やかな休暇、学生時代の同級生が起業して成功したというニュース。

そうした情報に触れるたび、心のどこかで自分の現状と比べてしまうんです。

あなたの幸せは、何よりもあなたの期待の大きさにかかっている。

ハウセルが本書で引用する、投資家チャーリー・マンガーの言葉です。

当時98歳だったマンガーは、幸せな人生を送る秘訣を問われてこう答えました。

幸せな人生を送る第一の法則は、期待しすぎないこと だ。現実的でない期待をしてしまうと、生涯ずっと惨めな思いをすることになる。そこそこ期待しつつ、人生の結果を、よいことも悪いことも、起こったときにある程度の冷静さをもって受け止めたいものだ。

この言葉の深さは、単なる消極的な諦めではないところにあります。

期待をコントロールすることは、現実を変えることと同じくらい、いや、それ以上に幸福に直結するということなんです。

年収が1000万円あっても、周囲が2000万円稼いでいれば不満を感じる。逆に、年収500万円でも、それが自分の期待値とマッチしていれば満足できる。

期待のしかた次第で、現在の状況に対する解釈は驚くほど変わってくる

この「期待値」という視点は、投資の世界だけでなく、キャリア、人間関係、あらゆる場面で機能します。

私たちが不幸を感じる多くの場合、現実そのものが悪いのではなく、現実と期待のギャップが大きすぎるだけなんです。

では、どうすれば期待をうまくマネジメントできるのでしょうか。

それは、毎日のちょっとした修行なんだと思います。

朝起きたとき、「今日はこうなるべきだ」という強い期待を持つのではなく、「今日はどうなるだろう」という好奇心で一日を始める。
誰かと自分を比べそうになったとき、「あの人はあの人、自分は自分」と意識的に切り離す。
SNSで他人の成功を目にしたとき、「素晴らしいな」と思いつつ、自分の現在地を卑下しない。

こうした小さな捉え直しを積み重ねることで、人生において幸せを感じられる時間を増やしていける。

期待をコントロールすることは、人生をコントロールすることなんです。

ハウセルが本書で繰り返し強調するのは、人間の行動パターンは何千年も変わっていないという事実です。

比較し、嫉妬し、満たされない思いを抱くこと。それは人間の本性であり、完全に消し去ることはできません。

だからこそ、その本性を理解したうえで、期待という「レンズ」を調整する技術を磨く必要があるんです。

これは一度身につければ終わりというものではなく、毎日の実践の中で磨かれていくものです。

マンガーのように98歳まで生き、なお「期待しすぎないこと」を第一の法則として語る。そこには、長い人生を通じて学んだ深い知恵があります。

幸福は、何を手に入れたかではなく、何を期待したかで決まる。

この真理を日々の生活の中で意識し続けることが、変わらない幸福への道なんだと思います。

長期思考を支える「複利」と「我慢」

短期的な成果を求める文化の中で、私たちは忍耐を失いつつあります。

すぐに結果が出ないと不安になり、半年で成果が見えなければ別の方法を探し始める。

でも、本当に価値あるものは、時間をかけて育つものなんです。

価値は「忍耐」と「希少性」から生まれる

ハウセルは、恋愛からキャリア、投資まで、あらゆる分野で共通するこの原理を指摘します。

すぐに手に入るものには価値がなく、時間と努力を要するものにこそ真の価値がある。

これは当たり前のようでいて、実践するのは驚くほど難しいことです。

投資の世界でこれを体現した例として、ハウセルはこう述べています。

投資には「最適な」期間があるということだ。それはおそらく、十年かそれ以上のようだ。そのくらいの期間になると、市場はあなたの辛抱にほぼ確実に報いてくれる。投資期間が短くなればなるほど、あなたは運に頼ることになり、破滅を招く。

10年という期間。

これは、多くの人にとって途方もなく長く感じられます。

でも、複利の力が本領を発揮するのは、まさにこの「途方もなく長い」と感じる期間を通じてなんです。

小さな変化が長い時間をかけていくつも積み重なることで、とてつもなく大きな変化が生まれる。

毎日1%の改善を積み重ねれば、1年後には37倍になる。

これは計算上の話ではなく、スキル習得、健康管理、人間関係、あらゆる領域で機能する原理です。

しかし、複利を味方につけるには、短期的な理不尽を我慢する必要があります。

ハウセルが「長期的に考える戦略」の第一のポイントとして挙げるのがこれです。

「長期的に考える」とは、「短期間で起こる理不尽なことへの我慢」を重ねていくこと

市場が暴落する。努力が報われない時期が続く。周りから理解されない。

こうした短期的な「理不尽」は、長期的に物事を成し遂げようとする人なら、誰もが経験することです。

人生に「理不尽」「厄介事」はつきもの

これを受け入れられるかどうかが、長期思考を実践できるかの分かれ目なんです。

では、どうすれば長期的な視点を保ち続けられるのでしょうか。

ハウセルが提示するのは、楽観と悲観のバランスです。

悲観主義者のように貯蓄しながら、楽観主義者のように投資することだ。

この一文には、長期思考の本質が凝縮されています。

最悪の事態を想定して備えながら、未来の可能性には賭ける。

リスクを過小評価せず、でも可能性を信じることを諦めない。

ビル・ゲイツでさえ、マイクロソフトが絶頂期にあった時も、常に「あと1年分の運転資金があるか」を心配していたといいます。

悲観主義者のように計画し、楽観主義者のように夢を抱く。

このバランス感覚こそが、長期的な成長を支える土台なんです。

私たち現代人は、スピードを求めすぎているのかもしれません。

たいていのものには身の丈に合った規模とスピードがあり、それを超えて無理をすると逆効果になる。

ハウセルは、急成長した企業の多くが失敗する理由を、森林の成長に例えて説明します。

成長が速いと、密度が低く軟らかい木になる。そのような木は菌類や病気の温床となる。「成長の早い木は腐るのも早いため、老木になる前に枯れてしまう」

スターバックスが急速に店舗を拡大し、品質が低下して顧客が離れた例。

多くのスタートアップが急成長の後に崩壊する例。

これらはすべて、「急いては事を仕損じる」という原則の現れです。

長期思考とは、焦らないことです。

毎日少しずつ前進し、短期の理不尽に動じず、複利が効き始めるまで粘り強く続ける。

それができる人だけが、本当の意味で価値あるものを手にできるんだと思います。

そして忘れてはいけないのは、これは孤独な戦いではないということです。

自分一人が長期的視野に立つだけでは足りない。パートナー、同僚、配偶者、友人も足並みを揃える必要がある

周囲の理解と支援があってこそ、長期へ向かう時、「短期的には、理不尽だ!と思えてしまうこと」を乗り越えられる。

だからこそ、自分の価値観を共有できる人たちとともに歩むことが大切なんです。

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変わらないものを見極める知恵

未来を予測しようとするとき、私たちはつい「次に何が起きるか」に注目してしまいます。

でも、ハウセルが本書で提示するのは、まったく逆のアプローチです。

運やアクシデント、巡り合わせに左右される個々の事象ではなく、いつの世も決して変わらないものに目を向けるということ。

どんな技術が流行るか、どの株が上がるか、次の選挙で誰が勝つか。

こうした個別の予測は、ほぼ不可能です。

なぜなら、世界の大半は偶然に支配されているからです。

世界の大半は、それほど危うく脆いのだ。歴史を学ぶうえで皮肉なのは、ほとんどの場合、それぞれの物語がどんな結末を迎えるかはよく知っていても、その発端がどこなのかは、まるで見当もつかないことだ。

第一次世界大戦は、サラエボでの一発の銃声から始まりました。

インターネットは、研究者たちの小さなネットワーク実験から生まれました。

大きな出来事の多くは、予測不可能な小さなきっかけから始まるんです。

だから、「何が起きるか」を予測するより、「人間はどう行動するか」を理解する方が有効なんです。

一つは、本書の前提でもあるが、特定の出来事ではなく、人々の行動に基づいて予測すべきということだ。

人間は何千年も前から、恐怖を感じれば逃げ、欲望に駆られれば行動し、群衆心理に流されます。

テクノロジーは変わっても、人間の本質は変わらない。

これこそが「決して変わらないもの」なんです。

そして、予測できない世界で生きるために必要なのは、予測の精度を上げることではなく、備えることです。

「予測ではなく、備えることに投資しろ」

これは作家でトレーダーのナシーム・タレブの言葉です。

具体的に何が起きるかはわからない。でも、「何か想定外のことが起きる」ということは確実です。

もう一つ心にとどめておくべきなのは、より広範な想像力を持つということだ。

想像力とは、楽観的な未来を描くことだけではありません。

最悪のシナリオ、自分が想定していなかった展開、これまでの常識が通用しない状況。

そうした「起きないと思っていたこと」が起きたときのために、心と資源の余裕を持っておくことです。

想定できるリスクに備えるばかりで、想定できないリスクへの備えはまるでできていない事実に気づくこと。

2008年の金融危機、2020年のパンデミック。

どちらも「起きる可能性はあるが、実際には起きないだろう」と多くの人が考えていた出来事です。

備えるとは、現金を持つこと、柔軟性を保つこと、依存先を分散すること。

そして何より、「自分の予測は外れる」という前提で行動することです。

ここで重要なのが、シンプルさです。

シンプルさは真実の証である。そのことを我々はよく知っているはずだが、複雑さは依然として病的な魅力を持ちつづける。

複雑な戦略、高度な予測モデル、精巧な計画。

これらは知的に見えますが、実際には脆弱なんです。

重要なわずかな事項さえ押さえておけば、準備は完璧だ。

進化の歴史を見ても、生き残った種は複雑さを削ぎ落としてきました。

何百本もの歯を持った動物の多くは、用途に特化したわずかな切歯(門歯)、犬歯、大臼歯だけを持つように進化した。

不要なものを削ぎ落とし、核となる重要なことだけを残す。

これが長期的な生存戦略なんです。

では、何が「核となる重要なこと」なのでしょうか。

それは、人間の行動原理です。

人は損を嫌い、利益を求め、集団に属したがり、物語に惹かれる。

いつだって、勝つのは「最高の物語」だ。最高のアイデアでも、正しいアイデアでも、最も理にかなったアイデアでもない。たいていは人々の注目を引き、賛同させるような「物語」を語る人が利益を得られる。

ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』が大ヒットしたのは、新しい発見があったからではありません。

そこに目新しいものはまったくない。私は考古学者ではありません。霊長類学者でもありません。新たに研究したことはゼロです。ごく一般的な知識を、新しい形で提示しただけの本です。

それでも売れたのは、既存の知識を魅力的な物語として語ったからです。

世の中は「優れた要約」を求めている

情報があふれる現代において、人々が求めているのは新しい事実ではなく、既知の事実を整理し、意味を与えてくれる物語なんです。

だからこそ、私たちが学ぶべきは、最新のトレンドではなく、過去から繰り返されてきたパターンです。

不確かな未来をはっきり見通したくて、人はよく目を凝らしてさらに遠くを見つめようとする。つまり、よりたくさんのデータと知性を使って、もっと正確に予測しようとする。しかし実は、それとは反対のことをするほうが、はるかに効果的である。つまり、過去に学び、視野を広くする。

遠くを見るのではなく、深く見る。
最新を追うのではなく、普遍を学ぶ。

これこそが、変化の激しい時代を生き抜く知恵なんだと思います。

変わらないものを見極めることは、安定を求めることではありません。

むしろ、変化に対応する力を手に入れることです。

人間の本質が変わらないと知っていれば、どんな時代でも、どんな状況でも、対処の指針が見えてくる。

テクノロジーが進化しても、社会が変わっても、人間が人間である限り、その行動パターンは驚くほど一貫しています。

この「決して変わらないもの」に目を向けることで、私たちは初めて、本当の意味で未来に備えられるんです。

モーガン・ハウセルの著書については、ぜひこちらの1冊「富とは、心理次第!?『サイコロジー・オブ・マネー』モーガン・ハウセル,児島修」「富とリッチはどう違う!?『サイコロジー・オブ・マネー』モーガン・ハウセル,児島修」もご覧ください。おすすめです。

まとめ

  • 「期待」という名の幸福の方程式――幸福は何を手に入れたかではなく、何を期待したかで決まります。チャーリー・マンガーの「期待しすぎないこと」という言葉は、期待をコントロールすることが人生をコントロールすることだと教えてくれます。毎日の小さな捉え直しを積み重ねることで、幸せを感じられる時間を増やしていけるんです。
  • 長期思考を支える「複利」と「我慢」――本当に価値あるものは時間をかけて育ちます。長期的に考えるとは、短期間で起こる理不尽なことへの我慢を重ねていくことです。悲観主義者のように備えながら、楽観主義者のように未来を信じる。このバランス感覚こそが、持続的な成長を支える土台なんです。
  • 変わらないものを見極める知恵――予測不可能な世界で大切なのは、「何が起きるか」を予測することではなく、「人間はどう行動するか」を理解することです。テクノロジーは変わっても、人間の本質は変わりません。この普遍的な行動原理に目を向けることで、どんな時代でも対処の指針が見えてきます。
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この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。

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