読解力とは、メタ認知である!?『読めば分かるは当たり前?――読解力の認知心理学』犬塚美輪

読めば分かるは当たり前?――読解力の認知心理学
  • 「読解力」とは、何でしょうか!?
  • 実は、読解力を考えれば、自分を考えることにつながるかもしれません。
  • なぜなら、読んでわかることというのは、自分のメタ認知につながるからです。
  • 本書は、読解力とは何かについて考え、それを活かしていくことを知ります。
  • 本書を通じて、ものごととの向き合い方のヒントを見つけることができます。

何が読解力か!?

読解力という言葉を聞いて、どのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。この1冊は、読解力という視点で、ものごとを見つめていくときの解像度を検討する1冊です。

私はこの本を「読解力を高めるための地図」にしたいと考えています。

まず大切なのが、読解力があることについて、検討するための地図です。

目的地の存在を感じることができれば、読解力を知り、感じるガイドラインになります。

3つの目的地を本書の中では、定義します。

1.表象構築の読解力
2.心を動かす読解
3.批判的読解

この3つの論点に沿って本書では、読解力の内容を検討しています。

見えないところが見えるか!?

まず1つめの表象構築の読解力については、書かれている内容が言葉として理解され、頭の中でイメージできるかどうかということです。

この段階については、2つのレベルで、読解を見ることができます。

レベル1)書かれてある内容が整理されている。テキストベースの理解ができること。
レベル2)状況モデルとして、置かれている状況が、既存の概念を通じて広く深く理解できている。

レベル1については、明確ですね。

レベル2については、著者・犬塚美輪さんが、非常に興味深い親子の会話をご紹介してくださっているのでぜひご一読ください。

母「サラダに使いたいから、アレ買ってきてほしい、アレ……ええと、名前が出てこないわ。果物で……」
子「サラダに果物入れるの? いやだなあ。そういうの、好きじゃないよ」
母「いや、あなたも好きなサラダだよ。ええとなんだっけ、緑で……」
子「緑の果物? カボス?」
母「違う違う、もっと大きいし酸っぱくない、こってりしてて……」
子「もしかしてアボカド? 果物なんて言うから分からなかったよ」
母「そうそう、アボカド! アボカドは果物でしょう? 木になるもの」

この会話では、「子」はアボカドを果物として認識することができていません。また、「木になる」植物の実が、くだものであるという認識もないので、冒頭から、なかなか噛み合っていません。

子のネットワークでは、アボカドは「果物」とはつながっていなかったので、別の情報から活性化が伝わっていなかったと考えられます。

自分の中に情報のネットワークが、テキストデータを得たときに活性化されて、概念が体内化できるようになるのです。

その参照ができる状況を作って置けるかが、読解力のキーになるということです。

繋がりがないと思い出すことはできませんから、「テキストベース」しかできていない場合は、思い出すことが難しくなると言えます。一方、「状況モデル」はもともと持っている知識とつなげて表象を作っているのえ、読んだ内容を活性化しやすくなるのです。

もう1つ、文章を読んでみましょう。

騒がしいテレビを消すと、急に深夜の静けさが際立ってくるようだった。玄関を出ると息が白かった。「寒いなあ」とつぶやくと、それに応えるように、近くのお寺の鐘の音が響いてきた。煩悩の数だけ鳴るらしい。

問1)登場人物は、どこで鐘を聞いていたかでしょうか?

これは、テキストベースの問題です。「玄関の外」ないし、「家の外」ですね。これは、テキストとして文言が理解できていることが前提となります。

問2)何月何日の出来事が書かれているでしょうか!?

答えは、12月31日から1月1日にかけてのことです。

これは、「除夜の鐘」という知識前提がない限り、回答することができません。「状況モデル」を自分の中に、持っていることが前提となります。

心と、批判!?

事前にものごとに関する概念地図を持っていることが、重要だということが「状況モデル」でご理解いただけたと思います。

「状況モデル」はもともと持っている知識とつなげて表象を作っていることが可能になるので、読んだ内容を活性化して、そこから受けられる概念や、連想する範囲も膨大なものにすることができます。

これをスキーマといいます。

認知心理学におけるスキーマとは、人間が情報を理解し組織化するための心的な枠組みや知識構造を指します。

スキーマ理論は、心理学者ジャン・ピアジェによって最初に提唱され、後にフレドリック・バートレットによって発展させられました。私たちの脳は新しい情報を理解する際、既存のスキーマを活用して解釈します。

例えば、「レストラン」というスキーマがあれば、席に案内される、メニューを見る、注文する、食事をする、支払うという一連の行動や期待が含まれています。このスキーマがあることで、初めて訪れるレストランでも適切に行動できます。

スキーマは以下のような特徴を持ちます。

  1. 新しい情報の理解と記憶を助ける
  2. 情報処理の効率化に貢献する
  3. 時に固定観念や偏見の源となることもある
  4. 経験によって常に更新される

スキーマの働きは、コミュニケーションをスムーズにするための共通知識としてだけではありません。私たちがものを見たり理解したりするときに、理解のための枠組としても働きます。私たちが何か目にしたり経験したりするときには、スキーマにマッチする特徴がより注目されやすく、スキーマにあまり関わらない特徴は見落とされやすくなります。これは私たちが新たな経験や知識をもともと持っているスキーマに沿って整理していこうとしているからです。

経験をたくさんしていけば、スキーマも充実化・更新されるので、より深い読解をすることが可能になります。

この言語化されていない部分の紐づけこそが、キーです。

さらに、

1.表象構築の読解力
2.心を動かす読解
3.批判的読解

のうち、2と3を見ていきましょう。

心を動かす読解とは、例えば、小説やものがたりを読んでいるときに、自分がその世界に入り込んだように感じて、登場人物の痛みや喜びを自分のことのように感じた経験のことです。

また、「心を動かすどっかい」は知識にとどまらず、態度や信念のような個人の生き方に関わるような影響力を持つことも知られています。

心に触れられるということは、「状況モデル」に近い、まだ言語化されていないような領域にいかに触れることができるかということを見つめられるかということになります。

また、「批判的読解」とは、何もネガティブなイメージではなく、既存の態度や常識に対して違う論点を入れていくということです。

実は、私たちが日頃接している文章は、常に正しい情報とは限りません。

だからこそ、基準に則って吟味・熟考することとして、定義される内容に触れて、検討することができるかどうかです。

これについても実は、読解力のキーなのです。

読解を考え、習慣として身につけていくために、大切なのは、日々の活動かもしれません。こちらの1冊「【自分を知れば、言語化できる?】読む・聞く、まとめる、言葉にする|松尾美里」もぜひご覧ください。

まとめ

  • 何が読解力か!?――1.表象構築の読解力、2.心を動かす読解、3.批判的読解の3点で検討しましょう。
  • 見えないところが見えるか!?――それこそが、読解力の根幹となります。
  • 心と、批判!?――それが目に見えない領域によってもたらされるのです。
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