増田みはらし書店・店主の増田浩一です。
前回のノートでは、「成長する社長」と「停滞する社長」を分けるものとして、「周りを巻き込む力」について考えてみました。 そしてその源泉には、自分を信じる力と、人と共にあることを信じる力。 そんな静かな覚悟があるのではないか、と。
前回のノートはこちらのリンクからどうぞ!
今日はその続きです。
では実際に、どうすれば社長は「巻き込まれるチーム」をつくることができるのか。 日常の現場で、どんな関わり方をしていけばいいのか。 そこに、まだうまく言語化されていない「技法のようなもの」がある気がしていました。
そのヒントになったのが、スタートアップやNPO、企業の経営者と伴走する中で見えてきた、「3つのナラティブ」をそろえるという視点です。
今日はそのことを、丁寧に、ゆっくりと書いてみたいと思います。 経営者の方だけでなく、チームと向き合う方にも、何か響くものがあればうれしいです。
チームは「スキル」ではなく、「ナラティブ」で動く
人は、仕事の「役割」で動いているように見えて、実はナラティブで動いているんだと思っています。
「どう生きたいか」 「何を大切にしたいか」 「どんな状態を理想に感じるか」
こうした、一人ひとりの「物語の芯」が仕事の選び方や姿勢、協力の度合いに影響を与えている。だからこそ、巻き込み型のチームをつくるとき、まず見るべきは人のナラティブがどこに向いているか、なんですね。
そして、チームがひとつの方向へまとまって動き始めるのは、次の3つのナラティブが重なったときでした。
1. 自分のナラティブを理解し、開示する
まず最初に必要なのは、社長自身の「ナラティブの輪郭」を整理し、開示することです。
ここで言うナラティブとは、立派な使命や綺麗な言葉を語ることではありません。 むしろ逆です。
何に迷っているのか。 何に惹かれてしまうのか。 何がどうしても許せないのか。 どんな未来を、ぼんやりでも信じたいのか。
こうした「生の感情」のほうが、はるかにチームに届きます。
多くの経営者の方と話してきましたが、自分の物語を開示した瞬間、空気がやわらかく変わる場がたくさんありました。
完璧なビジョンよりも、不完全なまま語られる「想い」のほうが、人は動くからです。
モチベーションの源泉は「感情」であり、感情は「物語」から生まれます。
だから、巻き込みの最初の一歩は、社長自身が自分のナラティブを見つめ直し、それを言葉に乗せること。
どれだけ抽象的でも、どれだけ未完成でも構いません。 むしろ未完成なほうが、人は関われるんです。
2. 相手のナラティブを理解し、開く
次に必要なのは、メンバー一人ひとりのナラティブを聴きにいくことです。
多くの経営者は、つい「相手がどう動くか」を先に見てしまいます。 でも本当に大事なのは、相手が「どう生きたいのか」に耳を澄ますこと。
仕事の得意不得意ではなく、その人がどんな願いを持ち、どんな傷を抱え、どんな未来を見たいと感じているのか。
スタートアップ支援でも、NPOでも、企業の現場でも、チームが一気に動き出す瞬間は、相手のナラティブが扱われたときでした。
1on1とは、評価面談ではありません。 「あなたの物語はどこに向かっていますか?」 という問いを差し出す時間です。
すると不思議なことに、その人がなぜ悩んでいたのか、なぜ本音を言いにくかったのか、なぜ急に輝き始めたのか。 すべてが筋道として見えてくることがあります。
役割を渡す前に、ナラティブに触れる。 それだけで、チームは「命令」ではなく「共感」で動き始めます。
3. 組織のパーパスと重ねる
そして3つ目が、自分のナラティブと、相手のナラティブを、組織のパーパス(存在意義)と重ねることです。
ここで大切なのは、「組織のパーパスに、人を合わせる」のではないということ。
そうではなく、社長のナラティブ、メンバーのナラティブ、組織のナラティブ。 この3つがどこで接するのかを、一緒に探す作業なんです。
これは、建築でいう構造設計に似ています。 素材の個性を見て、構造の強度を考えながら、どこに荷重をかければよいかを考える。
無理に合わせるのではなく、「重なる点」を見つけること。
この一点さえ見つかれば、人は義務ではなく「意味」で動き始めます。
チームは「3つのナラティブ」が交わるところから動き出す
振り返ってみると、どの現場でも、巻き込みが起きる瞬間には必ずこの3つがありました。
自分のナラティブを見つめた社長が、相手のナラティブに触れ、そして組織のナラティブと重ね合わせたとき。 人はただの「社員」ではなく、「未来の共創者」になるんです。
このプロセスは、特別なスキルではありません。 ただの会話の積み重ねでもありません。
これは、ナラティブを尊重し、開き、重ねていく「態度」のデザインです。
チームづくりとは、問いを手渡していくこと
巻き込みとは、強いメッセージを押し込むことではありません。 巻き込みとは、問いを渡し合う関係をつくることです。
「あなたは、どう生きたいですか?」 「その願いは、どこから来ていますか?」 「その物語は、組織の未来とどこで重なりますか?」
問いは、人を開く鍵になります。 そして開いたナラティブは、やがて方向性へとまとまり、チームは動き始めます。
経営とは、ナラティブの調和をつくる仕事なのかもしれません。 そのために必要なのは、完璧なリーダー像ではなく、問いを差し出し、ナラティブを聴き、そして重ねていく静かな姿勢です。
フォロワーの存在が、リーダーをリーダーにする
ここで、ある印象的な映像のことを思い出しました。
デレク・シヴァーズという起業家が、TEDで紹介した3分間の動画です。 野外フェスティバルの芝生で、1人の男が裸で踊り始めます。 周りはみんな座って音楽を聴いているのに、彼だけが立ち上がって、自由に体を動かしている。
最初は、誰もが「変な人がいるな」という目で見ています。 でも、そこに1人の男が立ち上がり、その隣で踊り始めるんです。
その瞬間、何かが変わります。
「1人のバカ」が、「リーダー」になった瞬間です。
そして、最初のフォロワーが友人を呼び、2人目、3人目が加わる。 気づけば、周りにいた人たちが次々と立ち上がり、あっという間に大きな踊りの輪ができていました。
デレク・シヴァーズはこう言います。 「最初のフォロワーの存在が、1人のバカをリーダーに変えるのです」
そして、こうも言います。 「リーダーシップは過大評価されています。本当に運動を起こそうと思うなら、ついていく勇気を持ち、他の人達にもその方法を示すことです」
この言葉が、今日のテーマと重なって見えてきませんでしょうか。
自分のナラティブを開示した社長が、相手のナラティブに触れ、そして組織のナラティブと重ね合わせていく。
そのプロセスは、まさに「最初のフォロワー」を大切にすることから始まるんです。
完璧なビジョンを掲げて、みんなを引っ張っていくことではない。 不完全なまま立ち上がった自分に、最初に手を差し伸べてくれた人を対等に扱い、一緒に踊り始めること。
経営とは、ナラティブの調和をつくる仕事だとも捉えられるのかもしれません。
そのために必要なのは、完璧なリーダー像ではなく、繰り返しますが、問いを差し出し、ナラティブを聴き、そして重ねていく静かな姿勢です。
次回は、この3つのナラティブを実際の現場でどう扱っていくか。 そのための具体的なフレームワークについて、考えてみたいと思います。
あなたは、いまどんな物語を生きているでしょうか。
そしてその物語は、誰とどこで重なっていくのでしょうか。
それでは、また来週お会いしましょう。
