- お金について考えるとき、私たちはいつも「どう増やすか」ばかりを気にしていませんか?
- 実は、お金との付き合い方で最も大切なのは「どう減らすか」なんです。
- なぜなら、お金を使うという行為の中に、自分が本当に欲しいものが何かを知る手がかりが隠されているからなんですね。
- 本書は、作家・工学博士の森博嗣さんが、お金に対する常識を根底から問い直す一冊です。
- 本書を通じて、「稼いだ金に応じた生活をしなければならない」「お金がないからできない」といった思い込みから解放され、自分の満足を最終目的にした生き方へと視点を転換できるはずです。
森博嗣さんは、工学博士でありながら、『すべてがFになる』でデビューして以来、ミステリー、SF、エッセイと幅広いジャンルで活躍されている作家です。『スカイ・クロラ』シリーズをはじめ、独特の世界観と哲学的な問いかけを織り込んだ作品は、多くの読者を魅了してきました。
特筆すべきは、森さんが大学教員として研究と教育に携わりながら、作家活動を並行して続け、その後早期退職を実現されたという経歴です。年収1億円を優に超える時期もありながら、毎日大学へ出勤し、完全定年までの勤務時間は2倍ほどあったという働き方は、本書で語られる「お金に対する独自の哲学」の実践そのものと言えます。
本書は、そんな森さんが「稼いだ金に応じた生活をしない」「世界中の模型屋を探し回っていた頃が懐かしい」と語る、実体験に基づいたお金との付き合い方を綴ったものです。理系的な論理性と、小説家ならではの洞察が融合した、従来のお金の本とは一線を画す内容になっています。
巻末には社会学者の古市憲寿さんによる解説も収録されており、「興味を持ったことに対して、片っ端から試してみたい」という実践的な姿勢が、本書のメッセージをさらに補強しています。
お金が教えてくれる「欲しい」の正体
お金について語るとき、私たちはつい「いくら稼ぐか」「どう増やすか」という話に終始してしまいます。
でも、森さんが本書で提示しているのは、まったく逆の視点なんですね。
お金は「欲しい気持ち」を測る物差しだというんです。
お金は「欲しい気持ち」を測る物差し
この言葉の意味を考えてみると、お金そのものに価値があるわけではなく、お金を使おうと思った瞬間に、自分が何を欲しているのかが明らかになるということなんですね。
つまり、お金を減らすという行為は、単なる消費ではなく、自分自身を知るための手段だということです。
ここで重要なのが、価段と価値は違うという認識なんです。
価段が価値ではない
世の中には、高額な商品やサービスがあふれています。
でも、値段が高いからといって、それが自分にとって価値があるとは限りません。
逆に、安価なものでも、自分にとってかけがえのない価値を持つものもあるわけです。
森さんは「世界中の模型屋を探し回っていた頃が懐かしい」と語っていますが、これはまさに、お金をかけずに夢中になれるものを追いかけていた時間の豊かさを表現しているんですね。
見えない、見つからない、という状況が楽しかったというのは、お金で簡単に手に入るものよりも、探求のプロセスそのものに価値があったということなんです。
そして森さんは、こう断言します。
自分の欲求をよく知ることが基本
これは当たり前のように聞こえるかもしれませんが、実は多くの人ができていないことなんですね。
「お金がないからできない」という言葉を口にする人は多いですが、実際に詳しい話を聞いてみると、少し違っている場合がほとんどだと森さんは指摘します。
世の中でよく耳にする言葉は、「お金がないからできない」というものだ。一見、お金がないことがいかにも問題であるかのような印象だが、実際に詳しい話を聞いてみると、少し違っている場合がほとんどだ。多くの人は、「時間」や「お金」が不足しているから自分のやりたいことができない、と言いたがるが、実は、本当にやりたいことがわからない人である場合が非常に多い。何がしたいのか、したいことがあれば、というより、したいことがないから、はっきりと答えられない、という場面になる。一方で、本当にやりたい、ということをやりたいと考える人は、「時間」も「お金」もなんとか工面してしまう。
この指摘は核心を突いていると思います。
私たちは、お金や時間のせいにしていますが、本質的には「何がしたいのか」が明確になっていないことが多いんですね。
だからこそ、自分の欲求をよく知ることが、お金との健全な関係を築く第一歩になるわけです。
森さんは、欲しいものを見つけるための2つの戦略を提示しています。
1つは、本音を推奨するように、さらにシミュレーションをすること。
自分の欲求を把握し、何が欲しいのか、何がしたいのかを想像する。
まるで研究者になったような気分で、冷静に自分の欲求を「認識」して「予測」するんです。
もう1つは、冷蔵庫方式。
欲しいものを見つけたら、すぐに買わず、次回の「予測」に活かす(第1章の「自分の欲求をよく知ることが基本」)という考え方です。
そして古市さんは解説で、こう補足しています。
興味を持ったことに対して、片っ端から試してみたい
つまり、シミュレーションと実践の両方が必要だということなんですね。
頭で考えるだけでなく、実際に試してみることで、本当に自分が欲しいものが何かが明確になっていく。
お金を使うという行為は、そのための実験なんです。
自分が何にお金を使いたいと思うのか。
何にお金を使ったときに満足を感じるのか。
そうした経験の積み重ねが、自分自身の価値観を形成していくわけです。
「お金の減らし方」というタイトルは、決して浪費を勧めているわけではありません。むしろ、お金を使うという行為を通じて、自分の欲求を明確にし、本当に価値のあるものにお金を使えるようになることを提案しているんですね。
そのためには、価段という数字に惑わされず、自分にとっての価値を見極める目を養う必要があります。
「お金がない」という思い込みを疑う
「お金がもっとあれば、あれもできるのに、これもできるのに・・・」
私たちは、こんな言葉を日常的に口にしています。
でも、森さんはこの思考パターンそのものに疑問を投げかけるんですね。
稼いだ金に応じた生活を、誰もがしている。そうするしかない、余分に稼いだときはさらに遊べる。では、稼がないならば遊んではいけないのか。そうでもないし、余分に稼いだときは、贅沢をして働くしかない。どちらも同じく成り行きであり、必然というか自然である。どちらが偉いということもない。自分の人生計画を持つとき多少は望みに近い方へ近づける、という程度の違いである。
この一節は、私たちの常識を根底から揺さぶります。
稼いだら使う、稼がなければ使わない。
一見当たり前のように思えるこのサイクルが、実は「自分の人生計画」を持たずに、ただ成り行きに任せているだけかもしれないんです。
森さん自身の経験が、この主張に説得力を持たせています。
年収が1億円を優に超えた時期でも、毎日大学へ出勤し、完全定年までの勤務時間は2倍ほどあった。そして、小説を書いた数年後、別荘地に土地を購入し、自分で作った模型車をそこで走らせて遊ぶことができた。
夢が実現したのである。そして、自分で作った模型車をそこで走らせて遊ぶことができる
ここで注目したいのは、森さんが大金を稼いでも生活水準を上げなかったという事実なんですね。
収入が増えたからといって、それに応じて支出を増やすのではなく、自分のやりたいことのために使う。
つまり、稼いだ金に応じた生活をしないという選択をしていたわけです。
この視点は、現代の消費社会において極めて重要だと思います。
私たちは、収入が増えると自然と生活水準を上げてしまいがちです。
より大きな家に住み、より高級な車に乗り、より高価な服を買う。
でも、それは本当に自分が欲しいものなのでしょうか?
森さんはさらに踏み込んで、こう問いかけます。
仕事というのは、少なくとも投資ギャンブルよりは期待値が高い、とには思える。仕事をすれば、金は増える方だ。
この言葉には、お金を確実に増やす方法がシンプルに示されています。
働くことで、お金は増える。もし増えなかったら、それは違法といえる。
投資やギャンブルに頼るのではなく、働くことが最も確実にお金を増やす方法だというわけです。
そして重要なのは、働いて得たお金をどう使うかなんですね。
ここで森さんが提示するのが、損をさせ、得をあとにする鉄則という考え方です。
損をさせ、得をあとにする鉄則 いつも考えなければならないのは、最初にかけるエネルギィを惜しまないことだ。掴泳を獲得する覚悟で臨む。損得を個々の案件に求めることである。トータルで見なければならない、という意味だ。個々の交換の損得ではなく、全体的な収支を評価する。ある時点での損が、将来のリターンを掴む糸口に多い、ほとんどの場合、あとから得が来る場所の方が、利が大きいといえる。逆に、最初に得をすると、あとで損が来る。この法則は、ほぼ間違いないといえるものだろう。
この「全体的な収支を評価する」という視点は、まさに人生全体でお金を考えるということなんです。
目先の損得にとらわれず、長期的な視野で物事を判断する。
最初にエネルギーを惜しまず投資することで、将来大きなリターンが得られる。
これは、お金だけでなく、時間や労力の使い方にも通じる原則だと思います。
森さんの生き方そのものが、この原則の実践例なんですね。大学教員として働き続け、小説を書き続け、模型を作り続けた。その積み重ねが、やがて別荘地で模型車を走らせるという夢の実現につながった。
そして森さんは、もう1つ重要な指摘をしています。
お金に価値がある、という勘違い
私たちは、お金そのものに価値があると思いがちです。
でも、お金は単なる交換の手段に過ぎません。
本当の価値は、お金を使って何を得るか、何を実現するかにあるんですね。
だからこそ、「お金がない」という言い訳は成り立たないのです。
お金がなくても、自分のやりたいことを見つけ、それに向かって行動を始めることはできる。
働いてお金を稼ぎ、全体的な収支を考えながら、少しずつ自分の欲求を実現していく。
森さんが教えてくれるのは、そういう地道で確実な生き方なんです。
「お金がない」という思い込みは、多くの場合、本当にやりたいことがわからないことの言い訳に過ぎません。
自分の欲求を明確にし、それを実現するために働き、お金を使う。
このシンプルなサイクルを回していくことが、お金との健全な関係を築く道なんですね。
自分の満足を最終目的にする生き方
お金との付き合い方を考え直すとき、最終的に行き着くのは「何のために生きるのか」という根本的な問いです。
森さんは、この問いに対して明確な答えを提示しています。
人生の目標は「自己満足」である
この言葉は、一見すると利己的に聞こえるかもしれません。
でも、森さんが言う「自己満足」は、他者を無視した身勝手さとは違うんです。
むしろ、他者の評価に振り回されず、自分の内側から湧き上がる満足を大切にするということなんですね。
自分で評価する「自分」を取り戻そう お金は、自分の欲しいものに使う。必要なものよりも欲しいものを優先しなさい、というのが本書の主なメッセージである。なぜなら、必要なものを得るために使う、ということであり、結局は、それが自分の価値を見つける方法だ、とぼくは考えている。
この一節が示しているのは、お金を通じて自分自身を知るというプロセスです。
必要なものではなく、欲しいものにお金を使う。
それによって、自分が何に価値を感じるのかが明確になっていきます。
そして、それが「自分の価値を見つける方法」になるんです。
でも、私たちの多くは、この「自分の価値」を他者との比較の中で見出そうとしてしまいます。
自分を、他者との関係で評価しようと焦るあまり、自分の気持ちが見えなくなってしまう。人から愛める気持ち、認められる気持ち、尊敬される気持ちがないと自分は生きていけない。人に見てもらわないと意味がない。そういった価値観が、自分という存在を消してしまうのである。
これは現代社会において、極めて重要な指摘だと思います。
SNSが普及し、常に他者の目を意識せざるを得ない環境の中で、私たちは「自分という存在」を見失いがちです。
「いいね」の数や、フォロワーの数や、他者からの承認が、自分の価値を決めるかのように感じてしまう。
でも、森さんはこう問いかけます。
人に良く見られて、なにか得があるか?
この問いは、私たちの価値観を根底から揺さぶります。
確かに、人に良く見られることで、一時的な満足感は得られるかもしれません。
でも、それは本当に自分が求めている満足なのでしょうか?
他者からの承認に依存した満足は、常に不安定です。
誰かが自分を評価してくれなければ、満足できない。
そんな状態では、真の意味で自由に生きることはできません。
自己満足はいけないことだ、と教えられる。みんなと同じことを強要される。集団行動を取り乱れから離れるな、と子供のうちから言われ続ける。良い子であれ、親が一致絞せるような子であれ、無難ではないだろうか。大切な方法の一つではある。しかし、それがすべてではないはずだ。 自己満足は、人生の目標としても良いほど立派なことだと僕は考えている。ただし、社会は許してくれないかもしれない。だから、社会と多少違うことをしていくためには、まったく他者を切り離してしまうことは難しい。自分を大事にするためには、他者に迷惑をかけないことが肝要であり、また、回り回って自分の利益となるだろう。
ここで森さんが提示しているのは、自己満足と社会との適切な距離感です。
自己満足を目標にするからといって、社会から完全に離れるわけではありません。
他者に迷惑をかけず、自分の道を進む。
それが、結局は自分の利益にもなるという、バランスの取れた生き方を示しています。
そして、この「自己満足」を実現するために、森さんが勧めるのが「試してみる」という姿勢です。
欲しいもの、したいことがあれば、それは必ず実現する。何故というと、それを手に入れる方法、それを実現する方法を考え、そのための活動をするからだ。少しでもそちらへ近づこうとする不断の努力を持つことも普通である。が、努力を続け、諦めなければ、少なくとも近づき続けるだろう。
この言葉には、実践の重要性が込められています。
欲しいものがあれば、それを手に入れる方法を考え、活動する。
努力を続ければ、必ず近づいていける。
そして古市さんの解説が、この実践的な姿勢をさらに補強しています。
興味を持ったことに対して、片っ端から試してみたい
頭で考えるだけでなく、実際に試してみる。
失敗してもいいから、とにかくやってみる。
その過程で、本当に自分が欲しいもの、したいことが見えてくるんです。
森さん自身の人生が、まさにこの実践の積み重ねでした。
大学教員として働きながら、小説を書き、模型を作り、やりたいことを一つひとつ実現していった。
そして最終的に、別荘地で模型車を走らせるという夢を叶えました。
目的があれば仕事も楽しくなる
仕事は単なる生活の手段ではなく、自分の目的を実現するための手段になります。
自分が何を実現したいのかが明確になれば、働くことも楽しくなる。
お金を稼ぐことも、単なる義務ではなく、自分の満足を得るためのプロセスになります。
欲しいものと、必要なものを、少し整理してみてはいかがだろうか。
森さんのこの問いかけは、私たちに自分自身と向き合うことを促しています。
本当に欲しいものは何か。
必要だと思い込んでいるだけで、実は欲しくないものは何か。
その整理ができれば、お金の使い方も、時間の使い方も、人生の優先順位も、自然と明確になっていくはずです。
「自己満足」を最終目的にするということは、決して自分勝手に生きるということではありません。
他者の評価に左右されず、自分の内側から湧き上がる満足を大切にしながら、社会と適切な距離を保ち、自分のやりたいことを一つひとつ実現していく。
そういう、地に足のついた生き方を森さんは提案しているんです。
お金は、その生き方を実現するための道具に過ぎません。
大切なのは、お金をどう「減らすか」――つまり、自分の満足のためにどう使うかということです。
森博嗣さんのエッセイについては、こちら「【本は、人を結ぶ!?】読書の価値|森博嗣」もぜひご覧ください。

まとめ
- お金が教えてくれる「欲しい」の正体――お金は「欲しい気持ち」を測る物差しであり、価段と価値は別物です。自分の欲求をよく知ることが、お金との健全な関係を築く第一歩になります。
- 「お金がない」という思い込みを疑う――稼いだ金に応じた生活をする必要はなく、働くことが最も確実にお金を増やす方法です。目先の損得ではなく全体的な収支で考え、お金そのものではなく、それを使って何を実現するかに価値があります。
- 自分の満足を最終目的にする生き方――人生の目標は「自己満足」であり、他者の評価ではなく自分の内側から湧き上がる満足を大切にすることが重要です。欲しいものを見つけたら試してみる姿勢を持ち、社会と適切な距離を保ちながら、自分のやりたいことを一つひとつ実現していくことが、真の豊かさにつながります。
