この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
- 「ビジョン」とはそもそも何でしょうか!?
- 実は、多くの企業や個人が「目標」や「計画」は持っていても、本質的な「ビジョン」を持たずに日々を過ごしています。
- なぜなら、高度成長期には与えられた問題を効率的に解決することが評価されてきたため、自ら望ましい未来を描く力が育ってこなかったからです。
- 本書は、山口周氏と中川政七商店の中川淳氏による対話を通じて、「ビジョンとともに働く」ことの本質を探究した一冊です。
- 本書を通じて、ビジョンが単なる理想論ではなく、個人と組織を動かす実践的な力であることが見えてきます。
著者の山口周さんは、電通、BCG、コーン・フェリーを経て独立した経営コンサルタントです。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』などのベストセラーで知られ、美意識やリベラルアーツの重要性を説いてきました。
一方の中川淳さんは、老舗「中川政七商店」の十三代目として家業を継ぎ、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンのもと、伝統産業の活性化に取り組んできた経営者です。
おふたりに共通するのは、単なる効率や利益ではなく、「意味」を重視する経営観です。
山口さんは理論と哲学から、中川さんは現場での実践から、それぞれビジョンの重要性を語ります。本書は、この二人の対話という形式をとることで、抽象的になりがちなビジョン論を具体的で実践的なものにしています。
問題を生み出す力としてのビジョン
「望ましい状態」が定義できない場合、そもそも問題を明確に定義することもできないということになります。
本書が最初に突きつけるのは、「問題の希少化」という現実なんです。
現代社会は物質的な生存条件をすでに解決してしまっています。だから、誰も明確な問題を与えてくれない。かつては「貧困をなくす」「生産性を上げる」といった分かりやすい問題があったけれど、いまは違います。
ここで重要なのは、ビジョンが問題を生み出すという逆転の発想です。
テスラの例が象徴的でした。イーロン・マスクが登場する前、現在の自動車産業のあり方に問題を感じている人はごく少数だった。彼が新しい社会のあり方をビジョンとして提示したことで、石油依存の産業構造に問題の視線が向けられることになったんです。
ビジョンを打ち出すことで問題が生み出されるという冒頭の指摘を思い出してください。
つまり、問題が先にあってビジョンが生まれるのではなく、ビジョンが先にあって問題が見えてくる。これは「構想力の衰え」が問題の希少化を招いたという指摘とも繋がっています。
中川さんの「クリティカル・ビジネス」という概念も興味深いです。
無印良品を例に、ビジネスそのものが「あっちよりこっちのほうがいいと思わない?」という批判的な提案になっている。実態よりもよく見えるように飾った商品を次々に大量生産・消費させるビジネスは本当にサスティナブルなのか——そういう問いかけ自体がビジネスになるんです。
ビジョンは単なる目標設定ではなく、現状への違和感から生まれ、新しい問題を浮かび上がらせる力なんだと分かります。
意味を創造する経営資源としてのビジョン
人の生み出す成果の大きさは「モチベーションの量=意味合い」によって大きく変わるのです。
ビジョンが経営において重要なのは、人という経営資源の特殊性にあります。
ヒト・モノ・カネのうち、ヒトにだけあってモノとカネにない最大の特徴は「可変性」です。モノもカネも一旦確定すれば量は変わらないけれど、人の能力はリーダーの意味の与え方によって簡単に増減する。
この「意味」を生み出すのがビジョンなんです。
特にミレニアル世代は、給与でも製品でもなく「その企業が事業を行なっている目的」を就職先選びで重視すると答えた人が6割を超えています。意味の有無に対して極めてシビアな評価視線を持っているんです。
ビジョンは会社が目指す最上位の概念だと僕は思っています。その会社で働く人たちが目指すべき旗印みたいなものだろうと。
ここで示されるビジョンの定義が「WILL」「CAN」「MUST」の重なりです。
- WILLは「やりたいこと」——合議ではなく一人の熱い思い、これまでの文脈を汲み取り、お客さんに媚びず、テンションが上がるもの。
- CANは「できること」——動詞にして、背負いきれるギリギリの範囲に設定する。
- MUSTは「やるべきこと」——社会課題と連結させる。
この3つが重なるところにビジョンが生まれる。中川政七商店の「日本の工芸を元気にする!」はまさにこの三つが重なった例でした。
また、マーケット・インからビジョン・アウトへの転換も語られています。市場調査で顧客ニーズを探すのではなく、自分たちのビジョンから出発する。
これは「オリジン」の話とも繋がっていて、本当のオリジナリティとは他者を見て差別化するのではなく、自分の根っこから生まれるものだという指摘が印象的でした。
個人から始まるビジョンの階層性
地図がなくてもコンパスがあれば前進できる
ビジョンは組織全体のものだけではありません。本書が強調するのは、ビジョンの階層性です。
個人のビジョン、部署単位のビジョン、そして組織全体のビジョン。
この積み重ねがないと、大企業によくあるポエムみたいなビジョンになってしまって、ただのお飾り以外の存在意義を持たなくなる。
小さい器をつくれない人は大きな器をつくれないんですよ。
チームリーダークラスになったときには絶対にビジョンをつくったほうがいい。弦楽四重奏曲を書けない人にオーケストラの曲は書けないのと同じです。小さなグループでも、その瞬間における当面のゴールやビジョンを設定することを続けていると、大きなビジョンも描けるようになる。
ビジョンは「メンタルを守るセキュリティ」でもあります。
原因を外部に求めるのは、自分で選んでいないから
伸び悩んでいる経営者ほど「景気が上向かなくて」みたいなマクロの話が好きだという指摘は鋭いです。マクロ経済の動向なんて中小企業には手の届かないことだから関係ない。そんなことを考える暇があるなら、ミクロのことを何とかすればいい。
これは個人にも当てはまります。自分のビジョンを持っていれば、外部環境のせいにせず、自分で選択し続けられる。ビジョンはコンパスのように、地図がなくても進むべき方向を示してくれるんです。
そして最後に問われるのは「自分は何に熱くなる人間なのか」という問いです。この問いに答え続けることが、ビジョンとともに働くということなんだと思います。
潜在意識にアプローチしながら、自己理解を高めていくこともビジョン策定には、有効です。こちらの1冊「自分を知り、ビジョンを定め、そして実行すること!?『潜在意識を使いこなす人 ムダにする人』井上裕之」もぜひご覧ください。

まとめ
- 問題を生み出す力としてのビジョン――ビジョンは問題が先にあって生まれるのではなく、ビジョンが先にあって問題が見えてくる。現状への違和感から新しい可能性を示すのがビジョンの本質です。
- 意味を創造する経営資源としてのビジョン――人という経営資源の可変性を最大限に引き出すのが「意味」であり、その意味を生み出すのがビジョン。WILL・CAN・MUSTの重なりから生まれるビジョンが、組織と個人を動かします。
- 個人から始まるビジョンの階層性――ビジョンは組織だけのものではなく、個人やチームレベルから積み重ねていくもの。小さな器をつくる経験の積み重ねが、大きな器をつくる力を育てます。
この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。
