意志の奥では、絶えず「意味」が生成されている。——「見えないものを読む経営」第5話

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この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール


前回、こんな話を書きました。

あの会議室で社長に起きていたのは、意志の発見ではなかった。意志の確認だったのだと思います。未来を前にして、過去を辿ることで、自分がどこへ向かうのかが見えてきた。経営とは正解を選ぶ仕事ではなく、意志を確認しながら未来を選び取っていく仕事なのかもしれない。

そしてその問いの先に、もうひとつの問いが残っていました。

意志は、どこから来るのか。


その問いを考えながら、ふと自分自身のことを思い出しました。

子どもの頃の記憶は、最初はただの断片です。何かが起きた。誰かに言われた。どこかへ行った。それだけです。意味など、よく分からない。

でも時間が経つにつれて、それらがつながり始める。あのとき感じた悔しさは、こういうことだったのか。あの人に言われた言葉は、こういう意味だったのか。ひとつひとつの記憶に、少しずつ解釈が加わっていく。

そのプロセスを通して、自分の中に「文脈」のようなものが育っていきます。

私はいま、なぜここにいるのか。どんな経験が、いまの自分をつくっているのか。そしてこれから、どんな存在になろうとしているのか。

その問いに答えられるのは、記憶と解釈の積み重ねがあるからだと思います。歴史があるから、意味がある。意味があるから、意志が立てられる。

これは企業支援の現場でも、まったく同じでした。

初めてある会社を訪問したとき、私はほとんど何も提案できません。それは準備が足りないからではなく、その会社の文脈をまだ知らないからです。どんな歴史を歩んできたのか。何を大切にしてきたのか。どんな痛みを乗り越えてきたのか。

それを知らずに出てくる提案は、どこか宙に浮いています。

だからまず、一緒にいる時間をつくります。話を聞く。現場を見る。その会社の文脈の中に、少しずつ入っていく。そのプロセスを経てはじめて、本当の意味での支援ができると感じています。

あの社長も、そうでした。

創業のきっかけは、ある現場の痛みでした。重労働の現場で働く人たちの苦労を、何とかできないかと考えた。そこから生まれたひとつの発明が、小さな事業になり、やがて数百億円規模の会社になっていった。

私はその話を聞きながら、不思議な感覚を覚えていました。

戦略の話をしていたときには、見えなかったものが、そこにありました。

この会社がなぜこの事業をしているのか。何を大切にしてきたのか。どんな痛みを出発点にして、ここまで歩いてきたのか。数字の資料にはどこにも書かれていなかったことが、創業の話の中に、はっきりと息づいていました。

そのとき私は、あることを感じました。

社長の意志を支えていたのは、ロジックではありませんでした。過去の経験でもなく、市場の分析でもなく、もっと根っこにあるものでした。

なぜ自分はここにいるのか。この事業は、何のためにあるのか。

その問いへの、静かな答えです。

言い換えれば、意味です。

意志は、意味によって支えられている。

社長が未来を語れたのは、自分の中に意志があったからです。そしてその意志が揺るがなかったのは、事業の意味が、創業の原点からずっと続いていたからではないか。そう思いました。

意味とは、大げさなものではありません。

なぜこの仕事をしているのか。誰の痛みから、この事業は生まれたのか。何を守りたくて、ここまで続けてきたのか。

そうした問いへの、その人なりの答えです。

それは多くの場合、言葉になっていません。資料にも書かれていない。しかし確かに存在していて、意思決定の奥底で、静かに人を支えています。


私はこの体験から、自分の仕事の見え方が変わりました。

答えを出すことが仕事だと思っていました。正しい戦略を描き、正しい選択肢を提示する。それがコンサルタントの役割だと信じていました。

しかし、本質は違いました。

本当に必要だったのは、答えではありませんでした。

社長の中にある意味が、言葉になる場をつくること。その意味が意志になり、意志が未来への方向になる。そのプロセスに、静かに寄り添うことでした。

数字には表れない。資料にも書かれていない。しかし確かに存在している、その組織の意味や意志を、丁寧に読み取ること。そしてそれが言葉になる瞬間をつくること。

それが、自分の仕事なのだと思うようになりました。


あなたの組織にも、見えないものがあるはずです。

創業の原点かもしれません。長年大切にしてきた価値観かもしれません。あるいは、まだ誰も言葉にしていない、小さな違和感かもしれません。

今の時代、データを分析することも、戦略を描くことも、AIにできるようになりました。情報を処理する速度も、精度も、人間をはるかに超えています。

しかし、意味を読むことは、AIにはできません。

なぜなら、意味を求めるのは「終わりがあるから」だと思うからです。

人間には身体があります。時間に限りがあります。いつか終わりが来ることを、どこかで知っている。だからこそ、出来事と出来事を、勝手につなごうとする。創業の痛みと今の事業を。過去の選択と未来の方向を。自分の中で静かに接続しながら、「自分はなぜここにいるのか」という問いへの答えを、探し続けます。

その「勝手につないでしまう力」こそが、意志を生み、意味を育てます。

AIには処理できても、経験できないことがある。身体で感じた痛みも、積み重ねてきた時間も、その人だけの物語も。そしてそれらを意味としてつなぎ、未来への方向を見出すことも。

だからこそ、これからの時代に、見えないものを読む力は、ますます重要になると思っています。

それはどこにあるのか。どう読み取ればいいのか。

この問いを、次章以降で一緒に考えていきたいと思います。


この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。

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