- 「いい人生」とは何でしょうか?人生を楽しむことが答えなのでしょうか?わたしたちは何を目指して生きればいいのでしょうか?
- 実は、 「いい人生」の答えは死ぬまでわかりません。独創的なアイデアも、実は過去の知識の組み合わせから生まれています。運は偶然ではなく、準備によって引き寄せられるものです。
- なぜなら、 人間は動物と違い、大脳が発達しすぎて、お腹が満たされるだけでは満足できないからです。偶然こそが世界のリアルであり、計画通りにいくことのほうが稀だからです。知識をインプットしても、自分の頭で考えなければ血肉にならないからです。
- 本書は、 古今東西の名言を通じて、人生をどう生きるか、どう考えるかという根本的な問いに向き合うための羅針盤です。出口治明さんが選び抜いた賢人たちの言葉に、独自の解釈を加えた実践的な知恵の宝庫です。
- 本書を通じて、 「世界経営計画」という生き方、運を鍛えるための準備(勉強と自己管理)、知識を血肉にするインプット・アウトプットの循環、そして順風満帆なときこそ謙虚であることの大切さを学べます。
出口治明さんは、ライフネット生命の創業者であり、APU(立命館アジア太平洋大学)の学長を務めた経営者・教育者です。「人・本・旅」を通じて学び続けることを提唱し、70歳を超えた今も精力的に活動を続けています。
本書は、出口さんが長年の読書と経験から選び抜いた古今東西の名言を集め、それぞれに独自の解説を加えた一冊です。単なる名言集ではなく、人生をどう生きるか、どう考えるか、という根本的な問いに向き合うための羅針盤として編まれています。
「図太く」「賢く」「面白く」というサブタイトルが示すように、この本は人生を豊かに生きるための実践的な知恵を、過去の偉人たちの言葉を通じて伝えてくれます。出口さんらしい明快な語り口で、難解な思想も身近な問題として理解できるように導いてくれるのです。
出口さんのその他の著書については、こちらの1冊「【社会について自ら考える!?】「教える」ということ 日本を救う、[尖った人]を増やすには|出口治明」も大変おすすめです。ぜひお手にとって見てください。

「いい人生」という幻想を超えて
人生において、たとえば若い立ち上がったなと思い出し、状況を打開するいくつかのヒントにできればと願っています。名言に対して、それくらいのスタンスで読むのがちょうどいいと私は考えています。
この言葉がまず印象的でした。
名言というと、どうしても「こう生きるべき」という処方箋のように受け取りがちなんですが、そうじゃないんですよね。あくまでヒント。自分の人生を考えるための触媒のようなもの。
そして、この本の核心にあるのが「いい人生とは何か」という根源的な問いです。
「あぁ、いい人生だったな」と思うコツは、人の幸福は死ぬときまでわからない、これが人生の真実だと思うんです。
これは本当に深い洞察だと思います。わたしたちはつい「いい人生」という明確な基準があるかのように考えてしまいます。成功すること、お金を稼ぐこと、幸せな家庭を築くこと。でも、それが本当に「いい人生」なのかは、最後の最後まで誰にもわからないんです。
だからこそ、「人生を楽しむ」という姿勢は、すべての人にとって「いい人生」に共通しているのではないでしょうかという問いかけにも、簡単には頷けない何かがあります。
人生を楽しめない状況にいる人だっている。苦しみの中にいる人だっている。そういう人たちに「楽しもう」と言うのは、ある意味で暴力的かもしれません。
では、わたしたちは何を目指して生きればいいのか。
ここで出口さんが引用しているのが、「世界経営計画」という言葉です。
これは私の造語ですが、要するに人間は「自分の周囲の世界を、よりよく生きやすいように変えたい」という思い(計画)を持っているということなんだと。
これはとても腑に落ちる考え方でした。
人間と動物の違いは何か。
人間は疑いなく「動物」の一種です。ところが、ほかの動物と比べてやたらと大脳が発達してしまった。動物にとってもっとも大切なことはご飯を食べること。たいていの動物は腹いっぱい食べれば満足します。
でも人間は違う。
お腹がいっぱいでも満足できない。それは、巨大な大脳のせいで、それだけでは満足できない。お腹がそれなりに満たされたら今度は、精神的にも満たしたい。つまり、自分の生きがいだったり、生きる意味だったりを求め始めるんです。
だから、わたしたちは働く。ただ生きるためだけでなく、自分の周囲の世界を少しでもよくしたいという思いで。それが「世界経営計画」という発想であり、人間らしい生き方なのかもしれません。
「いい人生」の答えは最後までわからない。でも、自分なりの「世界経営計画」を持って、日々を積み重ねていく。それが人間として生きるということなんだと思います。
運命の女神に微笑まれる準備――勉強と自己管理
では、そうした人生を歩んでいくために、具体的に何が必要なのか。
ここで出口さんが強調するのが「運を鍛える」という考え方です。
運というと、どうしても偶然に左右されるもの、コントロールできないものと考えがちです。でも実際には、運を引き寄せるために準備できることがたくさんあるんですよね。
「適切なときに適切な場所にいる」人、この世界は偶然の産物です。そして、私たち1人ひとりのあり方も偶然につくられていると言っていいでしょう。歴史を知れば知るほど、偶然こそが「この世のリアル」だと確信します。
この認識がまず大事だと思います。世界は偶然でできている。計画通りにいくことのほうが稀なんです。でも、だからこそ準備が重要になる。
「運がいい」というのは、フィンレイソンが指摘しているように、「適切なときに適切な場所にいる」ことなのです。
そして、適切な場所にいるためには、自分の嗅覚を信じること、感覚を研ぎ澄ませておくこと、絶えず行動していることが必要なんですよね。じっとしていては、チャンスに出会うことすらできません。
でも、ここで注意しなければいけないのが、順風満帆なときほど危ないということです。
本書で紹介されているニザーム・アルムルク(1017~1092)はトルコ系イスラム王朝であるセルジューク朝(1038~1194)の宰相を担った大宰相の言葉が印象的でした。
彼が言いたかったものに「統治の書」があります。その本の中で彼は、王に何が必要なのかを率直に話し、幸せながら「理想的な君主」について述べたものです。帝王学の教科書であるとともに、ペルシア語散文学の傑作として、イスラム圏では長く読み継がれています。その中に、「平穏無事はよいものだが、それが順風満帆のときであればなおよい」という金言があるのです。
うまくいっていることも、そうでないことも、実は紙一重。
あるいは、考え方次第、捉え方次第では、それぞれが入れ替わるようなことでもあるのかもしれません。
人間は大自然に対してだけでなく、同じ人間に対しても傲慢になりやすい動物です。順風満帆のときほどそうなりやすい。ニザームは敢く人間のその性向を許して、上手くいっているときほど、身の丈を意識して謙抑的になれないと諭しています。
これは現代のわたしたちにも深く刺さる警告です。
21世紀に入ってAI(人工知能)が話題になっています。人間の能力を超えているところもあります。日々の生活もますます便利になっています。このような環境下で、ついつい私たちは、大自然はもとより人間社会に対しても傲慢になりつつあります。私は、科学を信じすぎないほうがいい。身の丈を意識して生きていかなければならない、なんてことを言うとき、ニザームの金言を思い出すのです。
技術が発達すればするほど、わたしたちは謙虚さを失いやすい。でも、それこそが最も危険なことなのかもしれません。
では、運命の女神に微笑まれるために、具体的に何をすればいいのか。
運命の女神は、準備している者だけに微笑む。そのために必要なのは、「勉強」と「自己管理」です。
勉強では、自分の専門分野や、自分の興味のあることなどを、一生学び続ける。学ぶことが習慣になっていれば、突然のチャンスにより新しいことを対処する必要が生じても、すっと身につけられるはずです。自己管理は「理想」と言い換えてもいいでしょう。何者も、健康な体や心があってこそです。
これはシンプルですが、本質的な答えだと思います。
学び続けること。そして、心身の健康を保つこと。
この2つができていれば、いつでもチャンスをつかめる状態でいられる。
つねに「I’m ready」の状態にしておけば、自分にいい流れが来たなと感じたとき、全力で走ることができます。そして、運命が微笑んでくれたら、見事に、チャンスをつかむことができるはずです。
準備していない人には、チャンスが来ても気づけません。気づいても、つかむことができません。だから、日々の勉強と自己管理が、結果的に「運を鍛える」ことになるんですよね。
知識を血肉にする――インプットとアウトプットの循環
では、「学び続ける」とは具体的にどういうことなのか。ここで出口さんが教えてくれるのが、「巨人の肩に乗る」という発想です。
せっかくだから、その知恵を借りる。「巨人」の肩に乗せてもらう。つまり、過去の知恵を学んでいく。
これは本当に大切な視点だと思います。わたしたちは、すべてをゼロから考える必要はないんです。過去の賢人たちが積み重ねてきた知恵がある。それを学び、自分の思考の土台にする。それが教養を身につけるということなんですよね。
そして、ここで重要なのが、アイデアの源泉についての認識です。
アイデアや妄想においても、知識(情報)の蓄積こそがすべてなのだとあらためて再認識しました。アイデアや発想を豊かにしようと思ったら、知識を増やすことが一番の早道なのです。
知識が知識と融合し、それぞれが相乗効果をなして、アウトプットを形作っていく・・・。
そもそも、まったくのゼロから生み出されたアイデアは、人類の長い歴史を眺めてもほとんどないのではないでしょうか。しかもアイデアが生み出されたり、あるいは、自分たちの時代に合わせた形に焼き直したりして「斬新なアイデア」が生み出されていくのです。アイデアの蓄積の中からアイデアが生み出されていくのです。
つまり、独創的なアイデアというのは、実は過去の知識の組み合わせや応用から生まれるんです。だからこそ、「知る」という行為が大切です。
でも、ただ知識を入れるだけでは不十分なんですよね。
ここで出口さんが引用しているドラッカーの教えが鋭い。
言葉をそのまま鵜呑みにして、まったく自分の頭で考えていない。これでは、一生宝くじを買い続けても、当たらないまま死んでいく確率のほうが高いと思います。
つまり、本を読んでも、人の話を聞いても、それをそのまま受け入れるのではなく、自分の頭で考えることが必要なんです。
ドラッカーに限らずインプットした知識は、あくまでも自分の人生の参考にすぎない。それは自分の血となり、肉となる。自分の頭で考える。そこではじめて、獲得した知識が自分の血となり、肉となる。
そのために有効なのが、インプットした即刻アウトプット(言語化)をすることなんです。
読んだら書く。聞いたら話す。学んだら実践する。このサイクルを回すことで、知識が本当の意味で自分のものになっていく。
名言集というのは、ある意味で最高のインプット素材だと思います。過去の賢人たちの凝縮された知恵が詰まっている。でも、それを読んで「いい言葉だな」と思うだけでは意味がない。
自分の人生に引きつけて考える。自分の言葉で解釈し直す。そして、日々の行動に落とし込む。そういう作業を通じて、初めて名言が生きた知恵になるんだと思います。
この本の素晴らしいところは、出口さん自身がまさにそれを実践していることです。古今東西の名言を紹介しながら、それを現代の文脈で解釈し直し、自分の経験と結びつけて語っている。
それを読むことで、わたしたちも「名言とどう向き合うか」を学べるんですよね。
人生に正解はありません。「いい人生」の定義も、最後までわからない。でも、過去の知恵を学び、自分の頭で考え、日々準備を続けていれば、運命の女神が微笑んでくれる瞬間が必ず訪れます。
そのとき、「I’m ready」と言えるように。この本は、そのための羅針盤として、わたしたちの人生に寄り添ってくれる一冊です。
まとめ
- 「いい人生」という幻想を超えて――自分なりの「世界経営計画」を持って、日々を積み重ねていく。それが人間として生きるということなんですね。
- 運命の女神に微笑まれる準備――勉強と自己管理――日々の勉強と自己管理が、結果的に「運を鍛える」ことになるのです。
- 知識を血肉にする――インプットとアウトプットの循環――名言をそのまま鵜呑みにするのではなく、刺激を定期的に受け取って、自分の頭で考えて、アウトプットのための素材として活用していく!くらいのスタンスが重要なのかもしれません。
