増田みはらし書店・店主の増田浩一です。
仏教の話、と聞くと、少し距離を感じる方もいるかもしれません。 宗派が多く、用語は難しく、思想史として語られることも多い。 ただ今日は、教義の正確さではなく、ひとりの人間の姿勢として仏教を眺めてみたいと思います。
取り上げるのは、鎌倉時代の僧、道元です。 彼が示した「只管打坐(しかんたざ)」という態度は、 一見すると、現代のビジネスとは無縁に思えるかもしれません。
けれど、この800年前の思想が、 いま私たちが直面している「正解のない時代」を生きるヒントになるのではないか。 そんな仮説を、今日は皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
誠実であろうとした、ひとりの人間
まず、道元という人物について、最低限の輪郭だけ押さえておきます。
道元は13世紀初頭の日本に生きた僧で、幼くして両親を亡くしています。 人生の早い段階で、「人はなぜ生まれ、なぜ死ぬのか」という問いに直面した人でした。
彼は非常に頭の良い人物でもありました。 当時の仏教知識を体系的に学び、日本の宗派の中でも中心に近い場所に身を置いていました。 それでも、次第に強い違和感を抱くようになります。
――もし、すべての人が本来仏であるなら、
――なぜ、これほどまでに「悟った者」と「悟っていない者」を分けるのか。
この問いは、単なる理論上の疑問ではありません。
修行が成果として語られ、悟りが到達点や称号のように扱われる現実への、きわめて実感的な違和感だったのだと思います。
道元は、日本で答えを見つけられず、中国(宋)へ渡ります。
そこで如浄禅師のもとで厳しい修行を重ね、 「身心脱落(しんじんだつらく)」という悟りの体験を得ました。
帰国後、道元が日本で展開したのが、「只管打坐(しかんたざ)」という態度です。 意味は、驚くほど単純です。 ただ、坐る。
悟るために坐るのではない。 成果を得るためでもない。 上達を証明するためでもない。
この態度は、ある意味でとても不器用です。
説明しにくく、誤解されやすく、評価にもつながらない。
それでも道元は、日本に戻ってから、この姿勢を一貫して語り続けました。
それは、新しい宗派を広めたい野心からというより、 そうでなければ誠実でいられなかったように感じます。
悟りを語れば語るほど、 その瞬間に修行が嘘になる。
彼は、その矛盾に耐えられなかった人だったのかもしれません。
仮確定のまま、開かれ続けること
ここでようやく、「成果を語らない思想」というテーマが立ち上がってきます。
普通に考えれば、結果を示さない考え方は広まりにくい。にもかかわらず、この態度は800年近く、静かに残ってきました。
なぜでしょうか。
ここから、現代の仕事や経営、ブランドの話へとつながっていきます。
私たちが生きている時代もまた、正解が見えにくい時代です。
外部環境は絶えず変わり、 一度定めたビジョンや戦略が、そのまま通用し続けることはほとんどありません。
仕事も、経営も、ブランドも、 すべては仮確定だと言えるでしょう。
仮の答えを掲げ、他者と関わり、 社会との応答の中で更新し続けるしかない。
この状態を引き受けることは、決して楽ではありません。 だからこそ、「覚悟」という言葉が必要になります。
覚悟とは、何かを成し遂げると決めることではない。 プロセスの中で生じる、自分自身の変化や、 相手との関係性の変化を、 見えないままに受け取り続ける態度のことです。
すべてが見えないからこそ、こちらは世界に対して開かれている。
その曖昧さを、自ら引き受けに行く。
姿勢を保つための、往復運動の重要性
この覚悟は、自然には身につきません。 社会に対して開いた状態を保つには、 それ相応の工夫と努力が必要です。 人は放っておけば、過去の成功体験に閉じ、 慣れた言葉に寄りかかり、世界を単純化してしまうからです。
その流れに抗うために、インプットとアウトプットがあります。
インプットとは、世界が思い通りではないことを、 何度も引き受け直すこと。
アウトプットとは、未完成なままでも、 他者との関係に身を差し出すこと。
この往復の中でしか、 仮確定のまま立ち続ける姿勢は磨かれません。
道元が示したのは、 完成形の思想ではなく、 姿勢そのものだったのだと思います。 だからこそ、この態度は、時代を越えて繰り返し読み直されてきた。
いま、自分は何を確定させすぎているでしょうか。 仮のまま、開いたまま、引き受けているものは何でしょうか。
その姿勢を保つために、 どんなインプットとアウトプットが必要でしょうか。
道元については、こちらの投稿「ただ今あるということを知るには!?『禅のすすめ 道元のことば』角田泰隆」もぜひご覧ください。

また、インプット、アウトプットという習慣については、こちらの1冊「知的インプットを増やし、自らを知り、アウトプットせよ!?『読書を仕事につなげる技術』山口周」もぜひご覧ください。

それでは、また来週お会いしましょう。
