場を、デザインせよ!?『未来を創るストラテジックデザイン』ジャンルカ・カレッラ他

『未来を創るストラテジックデザイン』ジャンルカ・カレッラ他の書影と手描きアイキャッチ

この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール

【経営ビジョンの視点で読み解く本書の核心】デザインとは、美しさや使いやすさのためだけにあるのではありません。人と人、人と組織、組織と社会の「関係性を設計する知」として捉えると、ビジネスの可能性が大きく広がります。
 
1.デザインは関係性の設計:見た目の問題ではなく、人と世界の関係を再構築するための思考法として機能する
2.場のデザインが人を動かす:創造的自信を育む環境を整えることで、従業員のエンゲージメントと共創が自然に生まれる
3.システム全体を視野に入れる:ユーザーを「対象」ではなく「能動的なプレイヤー」として位置づけることで、組織の変革が加速する

  • あなたは「デザイン」という言葉を聞いたとき、何を思い浮かべますか?
  • 実は、デザインはロゴや製品の見た目を整えることとは、根本的に次元が違うものです。
  • なぜなら、デザインとは「人と世界の関係を構築する行為」そのものであり、経営や組織の変革にも直結する戦略的な思考法だからです。
  • 本書は、ミラノ工科大学デザイン学部の研究者たちが中心となって執筆した、デザインを経営戦略として読み解くための入門書です。想像力と可視化の力によって、組織が未来を構想し、ステークホルダーとの共通言語を生み出すプロセスを丁寧に描いています。
  • 本書を通じて、「デザインとは何か」という問いへの答えが根本から変わり、組織をどう動かすかというリーダーとしての視点が鋭く磨かれていくんです。
ジャンルカ・カレッラ,フランチェスコ・ズーロ,羽山康之,牧尾晴喜
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ジャンルカ・カレッラは、イタリアのミラノ工科大学デザイン学部に所属するデザイン研究者です。本書はカレッラを中心とした複数の研究者・実務家による共著であり、アカデミックな知見と実践的なアプローチを融合させた内容になっています。

監訳は羽山康之が担当し、日本語版序文では、デザインという行為の文化的・歴史的な源流を深く理解したいという動機が率直に語られています。

序文を寄せたロベルト・ヴェルガンティは、デザイン・ドリブン・イノベーションの第一人者として知られ、本書の理論的な背景を支える重要な存在です。ミラノ工科大学はデザインと経営の融合を世界的に牽引してきた教育機関であり、その知的蓄積がこの一冊に凝縮されています。

デザインは「関係性の設計」だ

デザインについて語るとき、多くの人は製品の外観や視覚的な美しさを思い浮かべます。でも、それはデザインのほんの一面にすぎません。本書が提示するのは、もっと根源的な問いです。人間はどのように世界を捉え、形にしてきたのか。その文化的・歴史的な源流を辿ることで、デザインという行為の本質が見えてきます。

本書の中でヴェルガンティは、デザインがシステミック・シンキングを豊かにする2つの力として「想像力」と「表象力(可視化)」を挙げています。

デザインは、現在の制約を超えて新たな可能性を思い描く力を育む。それはビジョンやイノベーションを促進し、組織が未知の方向性や未来を探ることを可能にする。この想像力は、変化と不確実性の中でチームを導くリーダーにとって不可欠なものだ。

「想像力」と聞くと、アーティストやクリエイターの専売特許のように感じるかもしれません。でも、ここで語られているのは、現状の制約の中に閉じこもらず、まだ見ぬ可能性を描く力のことです。経営者が長期ビジョンを語るとき、リーダーが組織の方向性を示すとき、この「想像力」は本質的に同じ機能を果たしています。

一方で「表象力(可視化)」は、抽象的なアイデアを具体的な形にして、他者と共有する力です。

デザインは、さまざまな手法や概念的プロトタイプを用いてアイデアを視覚化・具体化することに長けている。こうした具象的なアウトプットは、複雑な課題に関わるステークホルダーたちのあいだで共通の言語や対話の媒体として大きな価値を持つ。

これは経営の現場でも切実な問題です。優れた戦略を持っていても、それが組織全体に伝わらなければ意味がない。ビジョンを絵に描いた餅にしないために、「見える化」の力が必要になります。デザインの視点から言えば、この可視化こそが組織のコミュニケーションを根本から変える鍵なんです。

「デザインとは、人間と世界の関係を再構築する知だ」という本書の核心的なメッセージは、この2つの力を通じて初めて腑に落ちてきます。デザイナーが図面を引くのではなく、リーダーが「どんな関係性をつくりたいか」を考え抜くこと、それがストラテジックデザインの出発点です。

経営コンサルタントとして多くの中小企業の経営者と対話してきた立場から言うと、優れた経営者ほどこの「関係性を設計する」感覚を直感的に持っています。会議のやり方、社員との対話の場、顧客とのタッチポイント。それらすべてが、組織と人の関係性をデザインする行為にほかなりません。ただ、多くの場合それは言語化されておらず、属人的なセンスとして埋もれている。

本書はその暗黙知に、鮮明な輪郭を与えてくれます。

「場」をデザインすることで、人は動き出す

組織が変わるとき、その変化はどこから始まるのでしょうか。本書が注目するのは、トップダウンの号令でも、大規模な制度改革でもありません。「個人の行動」こそが、すべての変化の起点だという考え方です。

最終的には「個人の行動」がすべての鍵となる。

この一文は、シンプルですが深い示唆を持っています。組織変革の議論では、しばしば構造や制度ばかりが注目されます。でも、どんなに洗練された仕組みを作っても、そこで働く個々の人間が動かなければ、変化は生まれません。

では、人が動くためには何が必要か。本書が提示するのが「創造的自信(creative confidence)」という概念です。

従業員の創造的自信を育むことで、組織生活への関与やコミットメントが大きく高まるという効果も期待できる。この「創造性の内的ループ(creative inner loop)」を理解するためには、創造的行動とは従業員の「動機」「適性・マインドセット」「能力(ケイパビリティ)」の主観的な相互作用によって生まれるということを認識する必要がある。

「創造的自信」とは、特別な才能のことではありません。「自分にもアイデアを出せる」「自分の発想が組織に貢献できる」という感覚のことです。この感覚が育まれると、従業員は受け身から能動へと変わっていきます。指示を待つのではなく、自分から課題を発見し、提案し、行動する。この変化こそが、組織の創造性を根本から底上げします。

そして重要なのは、この「創造的自信」は生まれつきの資質ではなく、環境によってデザインできるということです。本書では、従業員体験の再設計に関して5つの示唆が示されています。

  • 新たな働き方の探索:共創プロセスで自ら行動様式を形成する
  • 柔軟な選択肢の提供:固定化されたソリューションではなく、多様な体験モデルを提示する
  • 漸進的アプローチの重要性:段階的な変革が組織全体に波及する土壌をつくる
  • ルーティンの再構築によって関与を促す:内省と批判的思考を刺激する実践として捉える
  • オフィスの役割の再定義:機能的な空間から、価値ある体験を「生きる」場へ

これを読んで強く感じるのは、「場のデザイン」という概念の射程の広さです。オフィスのレイアウトをどう変えるかという話ではなく、人がどんな体験の中に置かれるかを設計すること。それが結果として、組織の文化そのものを変えていくんです。

中小企業の経営者と話をしていると、「どうすれば社員が自分から動いてくれるのか」という悩みを非常によく耳にします。多くの場合、その解決策は「評価制度を変える」「研修を増やす」といった制度的なアプローチになりがちです。でも本書の視点からすると、問うべきはまず「どんな体験の場をデザインできているか」です。人は、意味のある体験の中でこそ動き出します。その体験をデザインすることが、リーダーの本質的な仕事のひとつなんです。

ジャンルカ・カレッラ,フランチェスコ・ズーロ,羽山康之,牧尾晴喜
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システム全体を視野に入れたとき、可能性が広がる

デザインの視野が個人の体験から組織全体へ、そして社会システムへと広がるとき、何が見えてくるのでしょうか。本書の後半では、ユーザー中心主義を超えた「システム全体のデザイン」という考え方が提示されます。

デザイン介入において、全体の(エコ)システムを優先事項として捉えることで、ユーザーを単なる「対象」としてではなく「システムと構造の一要素」、「協働的に貢献する能動的なプレイヤー」として位置づけることが可能となる。

これは、現代のビジネスにおいて非常に重要な転換点を示しています。従来のデザイン思考は「ユーザーのニーズを理解し、それを満たすソリューションをつくる」という構造でした。ユーザーはあくまでも「解決される側」の存在です。でも本書が示す次のステージでは、ユーザーは解決を受け取る受動的な存在ではなく、システムの中で能動的に価値を共創するプレイヤーとして捉えられます。

さらに本書は、既存の改善ではなく「オルタナティブの提案とプロトタイピング」へという方向性を提示します。

プラットフォーム、環境、インフラ、特性をデザインすることによって、新たなシステムのより大きな部分が可視化され、触知可能なものとして認識されるようになる。

「改善」と「オルタナティブ」の違いは、根本的な部分にあります。

改善は現在の前提を維持しながら最適化を図ります。
一方でオルタナティブの提案は、前提そのものを問い直し、まったく異なる可能性を提示します。

これはビジネスで言えば、既存事業の効率化と新規事業の創出の違いに近い。どちらも必要ですが、本当の変革は後者から生まれます。

オープン・イノベーションの文脈でも、本書はシステム的な視点を強調します。クロスライセンス契約、R&Dコラボレーション、ジョイント・ベンチャー、ネットワークとコミュニティ。これらはすべて、単独の組織を超えたシステム全体での価値創造を目指す試みです。

たとえば、近年広く普及している共創や協働設計は、参加者が関与に向けた準備を整えているかどうかという要件を見過ごしている可能性がある。

この指摘は鋭い。「共創」という言葉が流行するほど、その実態が形骸化するリスクがあります。

場を設けただけで「共創した」と思いたくなる。でも本書が問うのは、そこに集まる人々が本当に「関与の準備」ができているかどうかです。準備のない共創は、単なる形式的な参加に終わります。

システム全体を視野に入れるということは、構成要素を見るだけでなく、その間にある「関係性と準備状態」を見ることでもあります。経営者が新しい取り組みを始めるとき、「人を集めること」よりも「人が動ける状態をデザインすること」の方が、はるかに重要なんです。

まとめ

  • デザインは「関係性の設計」だ――デザインとは見た目を整える技術ではなく、想像力と可視化の力を通じて人と組織の関係性を再構築する知です。経営者がビジョンを語り、チームが共通言語を持つとき、そこにはすでにデザインの思想が息づいています。
  • 「場」をデザインすることで、人は動き出す――個人の創造的自信こそが組織変革の起点です。制度を変える前に、人が意味のある体験を「生きる」ことのできる場をデザインすること。それが、自発的に動く組織をつくるための本質的なアプローチです。
  • システム全体を視野に入れたとき、可能性が広がる――ユーザーを「対象」から「能動的なプレイヤー」へと再定義するとき、組織の変革はシステム全体へと波及します。改善ではなくオルタナティブを問い、共創の前に「関与の準備」を整えること。それがストラテジックデザインの到達点です。

実践のためのQ&A

本書の内容を踏まえ、読者が直面しやすい「1歩先の疑問」についてまとめました。

デザイン思考を導入しようとしたが、現場が動かない。どこから手をつければいいか?

本書の視点から言えば、問うべきは「現場が動ける準備ができているか」です。ツールや研修を導入する前に、従業員が「自分にもアイデアを出せる」と感じられる小さな成功体験の場をデザインすることが先決です。創造的自信は、体験の積み重ねによってのみ育まれます。

「共創」や「ワークショップ」を開いても、毎回同じ顔ぶれだけが発言する。どう変えればいいか?

本書が指摘するように、共創の成否は「参加者が関与に向けた準備を整えているかどうか」にかかっています。発言しない人を責める前に、その人が安心して発言できる場の条件を整えられているかを見直すことが重要です。選択肢を提示し、内省を促す設計が、真の参加を生みます。

ストラテジックデザインは大企業向けの概念ではないか?中小企業でも活用できるか?

むしろ中小企業こそ、この概念を活かしやすい土壌があります。意思決定の距離が近く、文化変革のスピードが速い中小企業では、「場のデザイン」が直接的に組織全体へ波及しやすいんです。経営者自身がリードデザイナーとして関係性を設計できる規模感は、大きな強みです。

ジャンルカ・カレッラ,フランチェスコ・ズーロ,羽山康之,牧尾晴喜
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この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。

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