私たちが苦しんでいるのは、自分のせい!?『ダンマパダ~ブッダ 真理の言葉~』今枝由郎

『ダンマパダ~ブッダ 真理の言葉~』今枝由郎の書影と手描きアイキャッチ
  • どうしたら変化をあるがままに受け入れていくことができるのでしょうか?
  • 実は、2500年前に説かれたブッダの教えが、現代のVUCA時代を生きる私たちにとって最も実践的な指針となっています。
  • なぜなら、変化、不確実性、複雑性、曖昧性という現代社会の特徴は、仏教が古来から説いてきた「諸行無常」という世界観そのものだからです。
  • 本書は、単なる宗教書ではなく、混沌とした現代を生き抜くための智慧の書として読むことができます。
  • 本書を通じて、私たちが「勝手に苦しんでいる」メカニズムを理解し、真の心の平安を得る道筋が見えてきます。

今枝由郎さんは、チベット仏教学の第一人者として国際的に評価される研究者です。フランス国立科学研究センター(CNRS)名誉研究ディレクターを務め、長年にわたりチベット語やサンスクリット語の仏教文献の研究に携わってきました。

その深い学識と現代的な視点を併せ持つ今枝氏の翻訳によって、『ダンマパダ』という2500年前の古典が、現代の私たちにも新鮮な響きを持って伝えられています。

特に、仏教思想を単なる宗教的教義としてではなく、人間の普遍的な智慧として捉え直す姿勢は、多くの読者に深い洞察を与えています。

VUCAという現代の真実と仏教的世界観

VUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)という言葉で表現される現代社会の特徴を見つめていると、実は仏教が2500年前から説いてきた世界観と驚くほど一致していることに気づきます。

「すべての形成されたものは無常である。怠ることなく修行を完成させなさい」

これはブッダの最後の言葉として伝えられる教えですが、まさに現代のVUCA時代への処方箋でもあるんです。

変化への恐れを手放す

私たちは往々にして、変化を脅威として捉えがちです。安定を求め、予測可能な未来を望みます。しかし『ダンマパダ』を読んでいると、そもそもこの「安定への執着」こそが苦しみの根源であることがわかります。

テクノロジーの急激な発展、働き方の変化、社会構造の変容。これらは確かにストレスを生みますが、仏教的な視点で見れば、これこそが「諸行無常」という自然の摂理そのものなんです。

変化を敵視するのではなく、変化こそが生命の本質であり、成長の機会であると捉える。この視点の転換が、現代を生きる上で極めて重要だと思います。

正しい認識の力

「ものごとは心にもとづき、心を主とし、心によって作り出される」

この有名な一節は、現代のストレス社会を生きる私たちにとって特に重要な意味を持ちます。外的な変化そのものが苦しみを生むのではなく、その変化に対する私たちの認識の仕方、心の持ち方が苦楽を決定するということなんです。

不確実性との上手な付き合い方

現代社会の大きな特徴のひとつは、将来の予測が困難になっていることです。キャリアプランも、人生設計も、以前ほど明確な道筋を描けません。この不確実性にどう向き合うか。

ここでも『ダンマパダ』の教えが深い示唆を与えてくれます。

執着を手放す勇気

「愛する人から憂いが生じ、愛する人から恐れが生じる。愛する人のない人には憂いがなく、どうして恐れがあろうか」

これは決して愛情を否定する教えではありません。むしろ、特定の結果や状況への過度な執着が、私たちを苦しめるという真理を指摘しています。

不確実な時代だからこそ、「こうでなければならない」「これが達成されなければ幸せになれない」といった固定的な思い込みを手放す必要があります。柔軟性こそが、変化の激しい現代を生き抜く最大の武器なんです。

今この瞬間に集中する

仏教の「念」(サティ)という概念は、現代のマインドフルネスの源流でもありますが、『ダンマパダ』でも繰り返し強調されています。

「過去を追うな、未来を願うな。過去はすでに捨てられ、未来はまだ来ていない」

不確実な未来への不安や、変えようのない過去への後悔に心を奪われるのではなく、今この瞬間に意識を向ける。これこそがVUCA時代を生きる私たちに必要な心の姿勢だと思います。

現在に集中することで、変化の兆しを敏感に察知し、適切に対応する力も養われます。そして何より、今この瞬間の中にこそ、真の平安と充実があることを実感できるようになります。

諸行無常を味方にする

変化が常態化した現代において、「諸行無常」という仏教の根本的な教えは、実は希望の源泉でもあります。今苦しい状況にあっても、それは永続するものではない。また、今良い状況にあっても、それに固執せず次の変化に備える。

この柔軟な心の姿勢が、VUCAの時代を生き抜く智慧なんです。

『ダンマパダ』が説く「中道」の思想は、極端に振れがちな現代社会において、特に価値のある指針だと感じます。

情報過多時代の中道

現代は情報が溢れ、常に何かに反応し続けることを求められる時代です。SNSの通知、ニュースの更新、メールの返信。この情報の洪水の中で、私たちは疲弊しています。

「中庸が最上である」

この教えは、情報との付き合い方についても重要な示唆を与えてくれます。情報を完全に遮断するのでも、すべてに反応するのでもなく、必要な情報を適切に取捨選択する智慧が求められます。

テクノロジーとの中道的関係

AIやデジタル技術の発展に対して、過度に恐れる必要も、盲目的に信頼する必要もありません。テクノロジーは道具であり、それをどう使うかは私たちの心の持ち方次第です。

仏教的な視点から見れば、テクノロジーも「縁起」の法則の中にあります。それ自体に善悪はなく、私たちとの関係性の中でその価値が決まります。

心からの解放という中道

しかし、中道の最も深い意味は、外的なものとの関係だけではなく、心の執着そのものからの解放にあります。

「過去に未来に現在に何ものも執着することなく向こう岸へ波渡れ」

この教えが示すのは、時間軸への執着からの自由です。過去の成功や失敗、未来への期待や不安、そして現在の状況への固執。これらすべてが、実は心を縛る鎖なんです。

現代社会では、キャリアへの執着、他者からの評価への執着、理想の生活への執着など、様々な形で心が囚われがちです。しかし『ダンマパダ』が教えるのは、これらの執着こそが苦しみの根源だということです。

執着を手放すというのは、何も諦めることではありません。

むしろ、結果に囚われることなく、今この瞬間に全力で取り組める自由を得ることなんです。これこそが、変化の激しいVUCA時代を生き抜く最も重要な心の姿勢だと思います。

持続可能な生き方への転換

「少欲知足」

この教えは、現代の消費社会に対する根本的な問いかけでもあります。無限の欲望を追い求めるのではなく、真に必要なものを見極める智慧。

環境問題、格差問題、心の病気の増加。

これらの現代的課題の多くは、「もっと、もっと」という飽くなき欲求から生まれています。『ダンマパダ』が説く「足るを知る」生き方は、個人の幸福だけでなく、社会全体の持続可能性にも関わる重要な視点だと思います。

私たちは勝手に苦しんでいる:活字が教えてくれる冷静さ

『ダンマパダ』を読んでいると、一つの重要な真実に気づかされます。私たちは、ある意味で「勝手に」苦しんでいるということです。

何かに執着すること、実態のないことに執着してしまうこと。これって、実際に私たちがしてしまうことですよね。不安の多くは、まだ起きていない未来への恐れや、変えようのない過去への後悔から生まれています。

二項対立が明かす真実

『ダンマパダ』の独特な書き口に、その答えのヒントがあります。

「真実を、真実と知り、真実でないものを、真実でないと見なす人は、正しい思いに従って、真理に達する」

この対比的な構造こそが、混乱した心を整理する方法なんです。「愚者と賢者」「執着と離脱」「怠惰と努力」。二項対立によって、私たちは何が本質で何がそうでないかを見極められるようになります。

特に印象的なのは、「百年の愚かな生よりも、一日きるほうがいい」という表現です。量的な価値(長い時間)と質的な価値(意味のある瞬間)の対比。これは現代の「忙しさ」への根本的な問いかけでもありますね。

百年間、ただ漫然と生きるよりも、一日でも真に目覚めて生きる方が価値がある。この視点は、VUCA時代の私たちにとって特に重要です。

活字の力と冷静さ

そして、こうした古典を読む行為そのものに、深い意味があると感じます。活字を追うと、なぜか冷静になる自分がいるんです。

デジタル情報が瞬時に飛び交う現代において、ページをめくり、文字を丁寧に追う行為は、それ自体が瞑想的な時間となります。『ダンマパダ』のような本を絶えず読んでいることで、心の平衡を保てるのかもしれません。

活字はいい。内容もそうですが、読書という行為そのものが、私たちに冷静になる機会を与えてくれます。情報過多の時代だからこそ、古典の持つ静寂な力が際立つんです。

本当の問題は外にはない

結局のところ、私たちの苦しみの多くは、外的な変化そのものではなく、その変化に対する心の反応から生まれています。VUCAという現代の特徴も、それ自体が問題なのではなく、それにどう向き合うかという私たちの心の持ち方が問題なんです。

『ダンマパダ』が2500年という時を超えて読み継がれているのは、この根本的な真実を明快に示してくれるからでしょう。変化こそが世の常であるというこの真理を受け入れ、その中で心の平安を保ち、智慧を働かせて生きること。

この古典は単なる宗教書ではありません。現代社会の複雑さと不確実性の中で、私たちが本当に大切にすべきものは何かを教えてくれる、実践的な人生の指南書なんです。

仏教の論点をもう一度、俯瞰してみるには、こちらの1冊「【仏教の教えを一言でいうと!?】完全版 仏教「超」入門|白取春彦」がおすすめです。ぜひご覧ください。

まとめ

  • VUCAという現代の真実と仏教的世界観――2500年の叡智を持ってみると、現代の変化も素直に受け入れることができるでしょう。
  • 不確実性との上手な付き合い方――特定の結果や状況への過度な執着しないことです。
  • 私たちは勝手に苦しんでいる:活字が教えてくれる冷静さ――勝手に苦しんでいる自分を俯瞰するために、ざわつく心と距離を置くために、活字に触れるということもよい機会になります。
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