この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
【本書の要約】組織の成長を阻む「ズレ」を整え、熱量と結束を高める企業合宿の実践書。制度や仕組みだけでは解決できない組織課題に対し、個人の想いを紐解き、素直な力を引き出す4つのスイッチを提示。合宿を一過性のイベントで終わらせず、日常に移植し文化として根付かせる方法まで、茂木健太が具体的に解説する1冊。
- 組織の成長が止まる時、そこには必ず何らかの「ズレ」が潜んでいるのではないでしょうか。
- 実は、制度を整え、研修を重ね、1on1を実施しても、組織の根本的な問題が解決しないことは少なくありません。
- なぜなら、組織が抱える本質的な課題は、役割と能力のズレ、価値観のズレ、未来像のズレといった、仕組みだけでは整えられない部分にあるからです。
- 本書は、こうした組織の「ズレ」を整え、「熱量×結束」を高めるための企業合宿の実践ガイドです。
- 本書を通じて、押し付けではなく個人の想いを紐解き、組織の素直な力を引き出すアプローチを学ぶことができます。
著者の茂木健太さんは、「合宿人」代表として、合宿を起点とした組織開発コンサルティングを提供している方です。
野村総合研究所でITコンサルタントとして活動した後、組織開発コンサルティングの社内ベンチャーに参画。2015年にIdeal Leaders株式会社を共同創業し、2018年にCo-Creations株式会社を創業しました。
経営者やリーダー向けにコーチングと組織開発コンサルティングを提供する中で、経営理念の策定時などに合宿を実施してきた茂木さん。並行してITベンチャー企業のCHRO(人事責任者)も兼務する中で、合宿の持つ力を実感していったといいます。
2022年、「最高の合宿」を起点に、未来への勢いと組織文化を創る「合宿人」を立ち上げます。現在は「チームで最高の合宿をする文化を当たり前にする」というビジョンの実現に向け、経営合宿や全社合宿など、合宿を起点とした組織開発を実践しています。
コンサルタントとして、そしてCHROとして、組織の現場に深く関わってきた茂木さんだからこそ見えてきた、組織変革の本質が本書には詰まっています。
組織の「ズレ」を放置することが問題を生む
組織が成長する過程で、さまざまな問題が浮上してきます。幹部メンバーが求められる役割を果たせなくなり、事業成長のボトルネックになる。期待されて入社したメンバーが既存メンバーとうまくやれず活躍できない。部門やチーム間の連携不足によってトラブルが多発する。
こうした問題に共通するのは、何かと何かの「ズレ」があるということなんです。
共通点として何かと何かの「ズレ」があるということが見えてきました。
・幹部メンバーが求められる役割を果たせなくなり、事業の成長のボトルネックになる
→幹部に求められる役割に対して、能力が足りていないというズレ
・期待されて入社したメンバーが、既存メンバーとうまくやれずに活躍できない
→新/旧メンバー間で、仕事に取り組む姿勢が合わないというズレ
・部門・チーム間の連携不足によってトラブルが多発する
→部門・チーム間で役割分担の認識が異なるというズレ
茂木さんは、組織の成長の壁で問題化しやすいズレとして、役割と能力のズレ、価値観のズレ、未来像のズレ、役割分担のズレ、理念と行動のズレという5つを挙げています。
ここで重要なのは、ズレがあること自体が問題なのではないということです。
問題なのは「ズレがあること」自体ではなく、問題に発展するかもしれない「ズレを放置すること」なのです。
多くの組織は、こうしたズレに対して一般的な施策で対応しようとします。採用基準の明確化、企業理念の浸透活動、1on1ミーティング、マネージャー研修、評価・報酬制度の整備。確かにこれらは重要な取り組みですが、それだけでは限界があるんです。
仕組みや制度が一通り整備されても、問題の根本となるズレを整えていくのには、限界があると感じています。
なぜなら、こうした施策は表層的な対処であって、個人の想いや組織の関係性といった深い部分には届きにくいからです。
茂木さんが提示するのは、「熱量×結束」を上げるというアプローチです。
「熱量」とは、組織の目指すことや仕事に対する個々人の想いの強さのこと。理念への共感共鳴、目標達成へのコミット、仕事へのやりがいなどが含まれます。「結束」とは、組織・チーム・個人におけるつながりの強さのこと。共通の目標に向かう仲間意識、信頼関係、助け合いや協力などを指します。
この2つを掛け合わせることで、制度や仕組みだけでは整えられなかったズレが、自然と整っていく。そして、その最も効果的な場が「企業合宿」だというのが、茂木さんの主張なんです。
4つのスイッチで個人の想いを引き出す
では、企業合宿をどのように設計すれば、組織の熱量と結束を高めることができるのでしょうか。
茂木さんは、合宿を成功させる3つの秘訣として、「非日常へ飛び出す」「みんなで舞台をつくる」「予想外を力に変える」を挙げています。いつもと違う環境を意識的につくり、参加者全員が主人公となってつくり上げ、予定通りにいかないことを乗り越えチャンスに変える。
この3つの秘訣を実現するために、茂木さんが提示するのが「成功の循環モデル」を辿る4つのスイッチです。
関係の質→思考の質→行動の質→結果の質という循環を生み出すために、4つのスイッチを順番に入れていくんです。
スイッチ1は「相互理解を深める」です。
お互いのことをもっと理解し、それぞれの特性を発揮し合い、信頼関係を築いていく必要があります。
ここで重要なのは、単なる自己紹介やアイスブレイクではなく、それぞれが「自分らしさ」についてストーリーとして語り合い、聴き合っていくということ。そして、話を聴いて感じたことについて、「ポジティブフィードバック」として言葉を返していくことです。
さらに、会社や組織の歴史についても理解を深めることで、個人と組織の関係性も深まっていきます。意外なことに、人によって入社した時期が異なるため、会社の歴史を知らないという人も多くいるんです。
スイッチ2は「理想の未来から考える」です。
企業理念をつくる、中期経営計画の骨子を策定する、新規事業のアイデアを出し企画をつくる。こうした未来志向の対話を通じて、組織として目指す方向性を共有していきます。
大事なのは本気で実現したいという想いが伝播していくことです。
ここでのポイントは、トップダウンで未来像を押し付けるのではなく、個人の想いを紐解きながら、みんなで理想の未来を描いていくということ。押し付けられた目標には熱量が宿りませんが、自分たちで描いた未来には本気の想いが込められるんです。
スイッチ3は「チャレンジを決める」です。
理想の未来のイメージが冷めないうちに、これから必要なチャレンジを出し、検討して決めていくことです。
未来を描くだけで終わらせず、具体的なアクションに落とし込む。この橋渡しが、合宿の成果を日常に持ち帰るために不可欠なんです。
スイッチ4は「最高の体験を共創する」です。
参加者それぞれが、「最高と思える体験」をつくっていくためには、やることを詰め込みすぎないことが大事です。
いくら練られた企画であっても、ひっきりなしに次から次へとやることが続くと、参加者はどうしてもこなすのに精一杯になってしまいます。余白を持たせ、参加者同士の自発的な対話や交流が生まれる余地をつくることが、最高の体験を共創するために重要なんです。
この4つのスイッチは、押し付けではなく引き出すアプローチに貫かれています。制度やマニュアルで縛るのではなく、個人の想いを丁寧に紐解いていく。そのプロセスを通じて、組織の素直な力が引き出されていくんです。
合宿体験を日常に移植し文化として根付かせる
合宿が成功したかどうかは、当日の盛り上がりでは測れません。
合宿の成果は、その後にどれだけの変化をつくることができたかによって決まります。
茂木さんが強調するのは、事後フォローの重要性です。合宿後に確実に変化をつくることが重要なんです。
そのために効果的なのが、合宿で体験したセッションを日常の活動に取り入れることです。
合宿で体験したセッションは、合宿の場だけで終わらせずに日常の活動に取り入れるのも効果的です。
例えば、合宿で実施した相互理解のワークを定例ミーティングの冒頭に取り入れる。理想の未来を描くセッションを四半期ごとの戦略会議で繰り返す。こうして合宿体験を日常に移植していくことで、一過性のイベントではなく、継続的な組織文化として根付いていくんです。
興味深いのは、茂木さんが提案する「ひとり合宿」という概念です。
「ひとり合宿」とは、自分のためだけに使う時間のことで、テーマも過ごし方も自由自在に決めることができます。
日常の隙間時間に散歩を入れて心身をリフレッシュしたり、1週間に2〜3時間はゆったりと振り返りの時間を取ったり、1ヶ月に丸1日はどこかお気に入りの場所を見つけて未来のことをイメージしたり。
このように、日常の中で自分の時間をうまくつくっていくことで、日常をより理想の未来に近づけていくことができます。
組織の合宿と個人の合宿。この2つを往復させることで、組織変革と個人成長が同時に進んでいく。これは、押し付けではなく、個人の想いを起点にした変革アプローチの延長線上にあるんです。
茂木さんが描く理想的な姿は、合宿が組織にとって意味のある「文化」として根付くことです。
合宿を行うたびに組織の熱量と結束が上がり、さまざまなズレも整い、事業も成長していく。成長の壁をはじめとした厳しい局面にぶつかっても、力を合わせて乗り越え、次のステージへと到達していく。そして次の合宿では、その道のりを振り返りつつ、理想の未来に向けて次なるチャレンジを起こしていく――。
そして、茂木さんは合宿の持つもう一つの重要な側面を指摘しています。それが「祝祭の儀式」という視点です。
合宿という場には、日常の仕事とは違って、お祝いとお祭りの「祝祭性」が宿る儀式としての側面があり、その力の並々ならぬ強さを感じています。
合宿は、日常から離れ、非日常の中で組織の節目を祝い、新しい未来への決意を共有する場。この祝祭性こそが、個人の想いを解放し、組織の素直な力を引き出す源泉になっているんです。
制度や仕組みで管理するのではなく、祝祭の場で想いを共有し合う。その繰り返しが、押し付けではない組織変革を実現していく。これが、茂木さんが提示する企業合宿の本質だと思います。
まとめ
- 組織の「ズレ」を放置することが問題を生む――制度や仕組みを整えるだけでは、役割と能力、価値観、未来像といった本質的なズレは解決できません。茂木さんが提示する「熱量×結束」を高めるアプローチは、組織の根本的な課題に向き合う新しい視点です。
- 4つのスイッチで個人の想いを引き出す――相互理解を深め、理想の未来から考え、チャレンジを決め、最高の体験を共創する。この4つのスイッチは、押し付けではなく引き出すアプローチに貫かれています。個人の想いを丁寧に紐解くプロセスを通じて、組織の素直な力が引き出されていきます。
- 合宿体験を日常に移植し文化として根付かせる――合宿の成果は事後の変化で決まります。合宿で体験したセッションを日常に取り入れ、「ひとり合宿」で個人の時間も大切にする。祝祭の儀式としての合宿を文化として根付かせることで、継続的な組織変革が実現していきます。
この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。
