この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
【本書の要約】変化が前提の時代、上から与えられる目的はもはや機能しない。ティール組織は「目的を感じ取る力」を個人と組織に取り戻す。自主経営、全体性、存在目的という3つの突破口を通じて、機械的な管理から生命的な進化へ。フレデリック・ラルーが示す次世代組織論は、働く意味を根本から問い直す1冊。
- 組織が掲げるミッション・ステートメントを、あなたは本当に信じているだろうか。
- 実は、多くの人が信じられなくなっているんです。変化が激しい時代において、上から与えられる固定的な目的は、発表された瞬間から古びていく。
- なぜなら、世界は本来、常に変化し続ける生命体だから。私たちは長い間、組織を「機械」として設計し、変化を異常事態として扱ってきた。でも本当は、変化こそが自然な状態なんです。
- 本書は、組織を機械ではなく生命体として捉え直し、「目的は与えるものではなく、感じ取るもの」という根本的な転換を示している。著者フレデリック・ラルーは、世界中の先進的な組織を調査し、従来の常識を覆す3つの突破口を発見した。
- 本書を通じて、変化の時代に必要なのは「完璧な戦略」ではなく「目的を感じ取り続ける力」だと気づくはずです。
フレデリック・ラルーは、ベルギー出身の組織研究者です。
マッキンゼー・アンド・カンパニーでコンサルタントとして活躍した後、組織のあり方に疑問を抱き、独自の研究を開始しました。世界中の革新的な組織を訪ね歩き、2年半にわたる調査を経て本書『ティール組織』を執筆。従来の組織論の枠組みを超えた新しいパラダイムを提示し、世界的なベストセラーとなりました。
ラルーの動機は切実なものでした。多くの組織が問題解決のために導入する施策が、かえって状況を悪化させている現実を目の当たりにしたからです。事業変更、合併、集中化、分散化——これらの対症療法的アプローチでは、根本的な変化は起こせない。そう確信した彼は、まったく異なる原理で機能している組織の存在に注目したんです。
本書は単なる組織論ではありません。人間の意識の進化と組織形態の関係を歴史的に紐解き、次の段階への道筋を示す壮大な試みです。
「与えられる目的」が機能しなくなった理由
多くの企業が立派なミッション・ステートメントを掲げています。
でも、それが空疎に響くのはなぜでしょうか。本書は明快に答えています。
組織が定める「ミッション・ステートメント」が空疎に響くのは、自社の存在目的よりも「勝利」を重視しているからだ。
つまり、本当に大切なのは存在目的ではなく、競合に勝つこと、成長すること、利益を上げること。その手段として「美しい理念」が飾られているに過ぎないんです。
ラルーは組織の進化を段階的に整理しています。
達成型パラダイムは組織を「機械」にたとえ、多元型パラダイムは「家族」という比喩を使う。
達成型(オレンジ)組織では、機械には心がなく、自らの方針もない。だから経営者が目標を設定し、それを達成するために組織を動かす。この見方では、目的は常に「上から与えられるもの」なんです。
一段階進んだ多元型(グリーン)組織は、組織を「家族」に喩えます。
多様性を尊重し、合意形成を重視する。確かに人間的ではあるけれど、ここにも限界がある。全員の合意を得ようとすれば意思決定は遅くなり、変化への対応が鈍る。そして結局、「家族のために何を目指すか」は誰かが決めなければならない。
本書が提示する進化型(ティール)組織は、まったく異なる比喩を使います。
進化型組織のリーダーたちは、理想の職場のあり方として、家族とは別の比喩を使う。実は彼らの多くが、自分の組織を「生命体」や「生物」ととらえている。生命は、進化に向けてあらゆる知恵を働かせる。
組織は「生命体」である——この視点に立つと、固定的な目的を与えること自体が不自然だとわかるんです。生命には、進化に向けてあらゆる知恵を働かせる力が備わっている。環境の変化を感じ取り、自ら適応していく。
世界は本質的に秩序だっています。
人間の活動を体系化する簡単な方法は、世界は本質的に秩序だっていると信じることだ。世界は組織を求めている。我々人類がそれを組織化する必要はない。
でも私たちは長い間、違う世界観を教え込まれてきました。
私たちが見せられてきた世界は、人間性にとっては異質なものだった。私たちはこの世界を巨大な機械として見るように教えられていた。しかし、その中に人間的なものを一切見ることができなかった。
世界を巨大な機械として見る——この前提に立てば、変化は異常事態であり、管理すべき対象になります。
でも実際には、世界は常に変化し続ける有機的なシステムなんです。変化は異常事態ではなく、本来の姿。だから、「完璧な戦略」を立てようとすること自体が間違っているんです。
未来を予言し、固定的な目標を設定し、それに向かって組織を動かす——この発想は、世界が機械だという前提に立っています。
でも世界が生命体なら、必要なのは「今、何が求められているか」を感じ取り続ける力なんです。
個人が自ら目的を感じ取る力
ティール組織への転換は、個人の意識変容から始まります。
職場に行くときには、狭い「専門家」としての自己をまとい、もう一つの自分の顔はドアの外に置いておけ──組織とは、そこで働く人々に、こう告げているのだ。
これが従来の組織の暗黙のルールでした。でもティール組織では、全体性を取り戻すことが求められるんです。
全体性とは何か。それは、エゴを抑え、「私の使命は何か」と問える状態です。進化型組織に転換すると、人々は自分自身の問題としても組織全体の問題としても、本当に達成しがいのあることは何かを問えるようになる。この問いは、上司から与えられる目標設定とはまったく異なります。
なぜなら、与えられた目標は「会社が求めること」であって、「世界が求めていること」ではないから。そして多くの場合、自分の内側から湧き上がる使命感とも無関係なんです。
ビュートゾルフというオランダの在宅介護組織の実践が、この違いを明確に示しています。
従来の介護組織では、訪問スケジュールが細かく管理され、看護師は決められた業務をこなす「専門家」として機能していました。1日何件訪問するか、1件あたり何分かける、どの順番で回るか——すべてが効率化の対象です。
でもビュートゾルフは根本的に違う問いを立てたんです。
ビュートゾルフは、「患者がどうしたいのか?」を真剣に考えている。目的は、患者ができるだけ自分の面倒を自分で見られるようにすることだ。
看護師たちは、マニュアルではなく、目の前の患者の状態を感じ取りながら判断する。「この人は本当は何を必要としているのか」「どうすれば自立に近づけるのか」——そう問い続けるんです。
この姿勢が驚くべき成果を生みました。2009年のアーンスト・アンド・ヤングの調査で、ビュートゾルフが一顧客あたりに必要とした介護時間は、ほかの介護組織よりも40パーセント近く少ないことが明らかになった。そして患者たちが介護を受ける時間はわずか半分でありながら、病気から早く治り、しっかりと自立するんです。
なぜこんなことが可能なのか。
それは、看護師一人ひとりが「この患者にとって本当に必要なことは何か」を感じ取る力を発揮しているからなんです。効率化のための訪問ではなく、自立のための訪問。この目的の違いが、すべてを変える。
ティール組織では、役職という概念も変わります。進化型組織の視点からすると、役職はエゴにとっての蜜のようなもの。あまりにおいしくて夢中になるけれど、結局は健康を害してしまう。役職に社会的名声が伴っていると離れられなくなるんです。
でも注意が必要なのは、役職がないということは全員が平等で全員が同じ仕事をする、ということを意味しないという点。
ビュートゾルフのチームには、上司と部下といったピラミッド状の序列はありません。ただし、チーム内の看護師全員が「平等」であることを意味しない。当然、専門知識、興味や関心、あるいは意欲によって違いがある。
では何が生まれるのか。部下を支配する上司という上下関係が存在しない代わりに、評判や影響力、スキルに基づく流動的な階層が自然発生的に生まれるんです。従来の「支配者のための階層制」に対して「自己実現のための階層制」とでも呼べるもの。
固定的な役職名では、組織内で流動的に変化していく職務内容を説明しきれません。その時々でさまざまに異なる役割を担う。だから「正しいラベル」を貼ることにほとんど意味がないんです。
この流動性が、目的を感じ取る力を高めます。
「私は〇〇部長だから、この仕事をする」という思考回路ではなく、「今、この状況で必要とされているのは何か」を問い続ける。役職というラベルに縛られないからこそ、状況の変化を敏感に感じ取れる。
エゴではなく、存在目的に耳を傾ける姿勢が、個人レベルで確立される必要があるんです。
組織が存在目的に耳を傾ける仕組み
個人が目的を感じ取る力を持っていても、組織の仕組みがそれを阻害していては意味がありません。
ティール組織は、存在目的に耳を傾ける慣行を持っています。最も単純な答えは「特別なことはしない」です。自主経営に不思議な力を発揮させるんです。
自主経営とは何か。それは、階層やコンセンサスに頼らず、効果的に機能する仕組みです。信頼し合える同僚と小さなチームを組んで、自分たちが必要と感じる経営資源と権限をすべて持てると、驚くべきことが起こる。
ビュートゾルフの例が、それを証明しています。生産性の高い自主経営が自然発生的に生まれることはまずないけれど、非常に効果的なやり方で自主経営が実践で機能することを示したんです。
鍵となるのが「助言プロセス」です。
自主経営の創業者やリーダーは、何度も何度も同じ質問を受けます。「上からの統制なしで、人々に何でもかんでも、特にお金がらみのことを決めさせるのは危険ではないか」と。
この疑問に対して、ティール組織には明確な答えがあります。
人々は創造的で、思慮深く、信頼に足る大人で、重要な意思決定を下す能力を持っている。
この前提に立つからこそ、自主経営と助言プロセスは完全に筋が通る。
一方、統制メカニズムと階層制は無用で、社員のやる気をなくす邪魔な仕組みとなるんです。
助言プロセスには明確なルールがあります。個人は決してほかの人に何かを強制してはいけない。でも、影響を受ける人や専門知識を持つ人から助言を求めなければならない。
最終的な決定は本人が下すけれど、独断ではないんです。
このプロセスを通じて、組織全体が「今、何が求められているか」を感じ取る感度が高まっていく。なぜなら、一人の判断ではなく、複数の視点を取り入れながら決定するから。でも最終的には決定者の責任において実行する。この緊張感が、真剣に「感じ取る」姿勢を生むんです。
存在目的を指針にしていると、何が世の中から求められているのかを感じる能力が誰にでも備わっていることがわかります。人々がさまざまなアイデアを、遊びのように現場で試しているうちに、組織全体が進化していく。
完璧な戦略を立てる必要はない。
むしろ、小さな実験を繰り返し、うまくいくものを残し、うまくいかないものを手放す。この有機的なプロセスが、変化への適応を可能にするんです。
これは達成型組織の戦略立案とはまったく異なるアプローチです。達成型組織では、経営陣が未来を予測し、目標を設定し、それを組織に落とし込む。3年計画、5年計画を立て、それに向かって進む。
でもティール組織では、組織自体が環境の変化を感じ取り、自ら適応していく。計画は柔軟で、状況に応じて変わる。大切なのは「計画通りに進むこと」ではなく「今、何が必要か」を感じ取り続けることなんです。
利益は仕事をうまくやり遂げたときの副産物である——本書はそう述べています。
利益は目的ではなく、結果。存在目的に忠実に仕事をすれば、自然と利益はついてくる。逆に、利益を目的にすると、存在目的が見えなくなる。
そして、最も根本的な転換がここにあります。
もう一段進んだステップ、つまり進化型組織の視点とは、組織をもはや資産として見ないということ。
組織は誰かが所有し管理するものではなく、独自の生命と方向性を持つ存在。私たち人間は、その進化に奉仕する存在なんです。
この転換は、「与える/与えられる」という構造そのものからの脱却を意味しています。
経営者が組織に目的を与えるのでもなく、組織が社員に目標を与えるのでもない。組織自体が持つ存在目的に、全員が耳を傾ける。そして今この瞬間、何が求められているかを感じ取り、行動する。
世界は本質的に秩序だっていると信じれば、私たちのあるべき姿がわかってきます。人間の活動を体系化する簡単な方法は、世界は本質的に秩序だっていると信じること。世界は組織を求めている。我々人類がそれを組織化する必要はないんです。
変化が前提の時代に必要なのは、固定的な目的を与えることではありません。
個人と組織が、今この瞬間に世界が求めていることを感じ取り続ける力を取り戻すこと。それこそが、ティール組織への道なんです。
まとめ
- 「与えられる目的」が機能しなくなった理由――達成型組織は組織を機械と捉え、目的を上から与える。でも世界は本来、常に変化する生命体。固定的な目的は、発表された瞬間から古びていくんです。
- 個人が自ら目的を感じ取る力――エゴを抑え「私の使命は何か」と問う姿勢。ビュートゾルフの看護師たちは「患者がどうしたいのか」を感じ取ることで、驚異的な成果を生みました。全体性を取り戻すことが、目的を感じ取る力の土台になります。
- 組織が存在目的に耳を傾ける仕組み――助言プロセスと小さな実験の積み重ね。完璧な戦略ではなく、今この瞬間に求められていることを感じ取り続ける。世界は本質的に秩序だっているという信頼が、ティール組織を支えているんです。
この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。
