- なぜ、十分な人員と予算があるのに、チームは疲弊し続けるのでしょうか?
- 実は、私たちが管理している「見える資源」だけでは、チームのパフォーマンスは説明できないんです。
- なぜなら、人が力を発揮するために本当に必要なのは、数字では測れない「心理的リソース」だからです。
- 本書は、金融業界での経験を経て、10万人以上にカウンセリング・コーチングを提供し、270社以上のチームづくりに携わってきた櫻本真理さんが、チームの疲弊の根本原因と、その解決の道筋を示した一冊です。
- 本書を通じて、リーダーが「弱さ」を見せることこそがチームの心理的リソースを増やし、持続可能な強さを生み出すという、逆説的でありながら本質的な洞察が得られるでしょう。
櫻本真理さんは、株式会社コーチェットの代表取締役です。
京都大学教育学部を卒業後、モルガン・スタンレー証券、ゴールドマン・サックス証券で株式アナリストとして活躍されました。その後、2014年にオンラインカウンセリングサービスを提供する株式会社cotreeを、2020年にリーダー向けメンタルヘルスとチームマネジメント力トレーニングを提供する株式会社コーチェットを設立されました。
2022年には日経ウーマン・オブ・ザ・イヤーを受賞し、文部科学省アントレプレナーシップ推進大使も務めています。
エグゼクティブコーチ、システムコーチ(ORSCC)として、ご自身の経営経験から生まれる視点と、カウンセリング・コーチング両面でのアプローチを強みとされています。
金融の最前線から人の心に寄り添う世界へ――その独自のキャリアが、本書の実践的かつ深い洞察を支えています。
「見えない資源」――心理的リソースという着眼点
私たちは長い間、組織を動かすのは「見える資源」だと信じてきました。
予算、人員、工数、情報、時間――これらを最適化すれば、チームは必ず成果を出すはずだと。
でも現実は違います。
どれだけ資源を投入しても、チームが疲弊し、パフォーマンスが上がらないケースは珍しくありません。
過去の私を含め、ほとんどのリーダーは、予算、人員、工数などの「見える資源」の使い方には十分に意識を向けています。ところが、それらと同等か、あるいはそれ以上にチームの成果を左右する「見えない資源」の使い方については、驚くほど無自覚なのです。
この「見えない資源」こそが、本書の核心である「心理的リソース」なんです。
心理的リソースとは、私たち一人ひとりが持っている内面のエネルギーのこと。
思考、判断、創造的な活動を行うために、ほとんど毎秒のように消費している「心のエネルギー」と呼んでいいでしょう。
私たちは常に「思考」「判断」「衝動制御」など、そうしたいのかもしれないけれど、それに委ねずに活動を行うために、ほとんど毎秒のように「心のエネルギー」を費やしているのです。このような「心のエネルギー」のことを、本書では心理的リソースと呼んでいます。
この概念の何が画期的かというと、マネジメントの視点を根本から変えることなんですね。
従来のマネジメントでは、メンバー一人ひとりが持っている心理的リソースは、チームとして把握すべき「資源」という位置づけではありませんでした。
でも櫻本さんは、これを明確に「管理すべき資源」として提示します。
そして、この資源が枯渇するとき、「笑顔や雑談が減る」という具体的なサインが現れるんです。
心理的リソースが消耗すると、人はコミュニケーションを避けるようになります。
他者とコミュニケーションをとるためには、相手の感情を読み取ったり、相手に伝わる言い方を工夫したりするために、大量の心理的リソースが必要だからです。
つまり、チームの会話が減り、表情が硬くなっているとき――それは単なる「雰囲気の問題」ではなく、深刻な資源枯渇のサインなんですね。
さらに本書で特に印象的なのが、「願いは叶うと信じられると、心理的リソースが生まれる」という洞察です。
「願いは叶う」と信じられると、心理的リソースが生まれる
これは、スポーツ心理学でいう「ゾーン」の状態に近い考え方だと思うんです。
自分の可能性を信じ、目標達成のイメージが鮮明になると、人は不思議なほど力を発揮できる。
逆に言えば、「どうせ無理だ」「何をやっても変わらない」という諦めが支配する組織では、心理的リソースは生まれようがないんです。
心理的リソースが満たされれば「善」になり、枯渇すれば「悪」になる
人間は生来的に「善」でも「悪」でもなく、ただ「有限」であるという考え方。
この視点は、チームマネジメントにおいて革命的だと思います。
問題社員も、無気力な部下も、根本的には「悪い人」ではなく、心理的リソースが枯渇している人なんだと。
だとすれば、解決の方向性は明確です。
その人を責めるのではなく、心理的リソースを回復させる環境を整えること。
そして何より、「願いを信じられる」文化をつくることなんです。
心理的リソースを枯渇させる組織の罠
では、なぜ多くの組織で心理的リソースは枯渇してしまうのでしょうか?
櫻本さんは、その根本原因を「構造」の問題として捉えます。
チームに「構造」がないと、心理的リソースの消耗が止まらないんです。
チームに「構造」がないと、心理的リソースの消耗が止まらない
ここでいう「構造」とは、チームの「目的・役割・ルール・仕組み」を明確にすることです。
目的があるからこそ、そこから逆算して「今やるべきこと」を明確にすることができる。
逆に、目的がないままタスクだけが積み重なっていく組織では、メンバーは常に「これをやる意味はあるのか?」という不安と戦わなければなりません。
これは膨大な心理的リソースを消費します。
目標があるからこそ、そこから逆算して「今やるべきこと」を明確にすることができるわけです。
さらに深刻なのが、「不安」「不満」「怒り」で心理的リソースは消耗するという事実です。
「不安」「不満」「怒り」で心理的リソースは消耗する
これらの感情が慢性的に存在する職場では、メンバーは常に内面でエネルギーを消耗し続けます。
- 不安は「先が見えない」ことから生まれます。
- 不満は「主体的に動けない」構造から生まれます。
- 怒りは「表に出さない雰囲気」によって抑圧され、内側で燃え続けます。
そして、こうした感情が蓄積する背景には、しばしばリーダーの「強さへの執着」があるんです。
多くのリーダーは、「強くあらねばならない」と信じています。
弱音を吐いてはいけない、迷いを見せてはいけない、常に確信を持って指示を出さなければならない――。
でも、この姿勢こそが、チームの心理的リソースを枯渇させる最大の要因かもしれません。
リーダーの「弱さ」をチームの「資源」に変える リーダーが無理に「強がろう」とするからチームを消耗させる
リーダーが「強さ」を演じることで、チームには「変化」が生まれません。
なぜなら、リーダーが本音を隠し、完璧であろうとすると、メンバーも本音を言えなくなるからです。
結果として、表面的な調和は保たれるかもしれないけれど、本質的な問題は何一つ解決されない。
そして、誰も声を上げられないまま、心理的リソースだけが静かに消耗していくんです。
この状況を打破するために必要なのが、「消耗しない構造」を作ることです。
でも、構造を作るのは簡単ではありません。
なぜなら、構造を作るには、まず現状の問題を直視し、対話し、時には葛藤を経験する必要があるからです。
これには勇気が要ります。
そして、その勇気を最初に示すべきなのが、リーダーなんです。
リーダーの「弱さ」がチームの資源になる
ここで本書が示す最も重要な転換点が訪れます。
それは、リーダーが「本音」を言葉にする勇気を持つこと。
リーダーが「本音」を言葉にすると、チームに「変化」が生まれる
これは、単に「感情を吐露する」ということではありません。
自分の迷い、不安、限界を認め、それをチームと共有することです。
「弱さ」を共有することに意味がある
この姿勢が、チームに心理的安全性をもたらします。
リーダーが完璧でなくていいなら、メンバーも完璧である必要はない。
リーダーが迷いを見せるなら、メンバーも疑問を口にしていい。
こうして初めて、本質的な対話が始まるんです。
そして、対話を通じて、チームは「消耗しない構造」を共に作り始めることができます。
さらに重要なのが、リーダーに求められる「レバレッジ・ポイント」を見極める智慧です。
私がおすすめするのは、チームにとっての「レバレッジ・ポイント」を特定するという方法です。レバレッジとは、「この原理」のこと。つまり、より力を加えなくても大きな成果を生み出す「仕事」や「方法」のことを、「レバレッジ・ポイント」というわけです。
すべての問題に同じ力を注ぐ必要はありません。
むしろ、「ここを変えれば、他の多くが変わる」という急所を見抜くこと。
これは、経験と洞察によって培われる能力です。
心理的リソースが消耗しているときには、チームの「生産性」「業績」「効率性」などに対する効果が大きい「レバレッジ・ポイント」を明確にして、そこから取り組むことが大切です。
でも、この「見極め」は完璧である必要はないんです。
リーダーは神ではないし、すべてを知っているわけでもない。
大切なのは、「やるべき仕事」と「やらない仕事」を明確にする勇気です。
「やるべき仕事」と「やらない仕事」を明確にする
これも、ある意味で「弱さ」を認めることなんですね。
「私たちには限界がある。だから、優先順位をつけよう」と言える誠実さ。
完璧を目指して全員が疲弊するより、焦点を絞って持続可能な働き方を選ぶ智慧。
そして、櫻本さんが示すもう一つの重要な視点が、「営業効率」ではなく「生産性」「業績」「効率性」という多面的な評価です。
彼が目をつけたのが、「営業効率」でした。これまで、吉野課長のチームでは「新規顧客の開拓」に力を入れていましたが、改めて確認すると、新規顧客より既存顧客への営業のほうが、段階的に営業効率がいいことが判明したのです。
これは、思い込みを捨てて、データと対話することの大切さを教えてくれます。
「新規顧客開拓こそが営業の本質だ」という固定観念を手放し、実際のデータを見たとき、別の道が開けるんです。
こうした柔軟性も、リーダーが完璧主義を手放すことで初めて生まれます。
結局、本書が伝えているのは、リーダーシップの本質は「強さ」ではなく「誠実さ」だということだと思うんです。
自分の限界を認め、メンバーの声を聴き、共に構造を作り直していく。
そのプロセスこそが、チームの心理的リソースを回復させ、持続可能な力を生み出すんです。
完璧なリーダーなどいません。
でも、完璧でなくていいからこそ、リーダーは人間らしく、誠実に、チームと向き合うことができる。
そして、その誠実さこそが、最も強力な「資源」になるんだと思います。
リーダーシップについては、こちらの1冊「【リーダーとは、役職ではなく、役割!?】リーダーシップ・シフト|堀尾志保,中原淳」もぜひご覧ください。

まとめ
- 「見えない資源」――心理的リソースという着眼点――従来のマネジメントが見落としてきた「心のエネルギー」という概念を明確に提示し、これを管理すべき資源として位置づけました。願いを信じることで心理的リソースが増えるという洞察は、組織づくりの根本的な転換を促します。
- 心理的リソースを枯渇させる組織の罠――目的なき構造、抑圧された感情、リーダーの「強さ」への執着が、チームの心理的リソースを静かに消耗させていきます。この問題の本質は、個人ではなく組織の構造にあることを理解することが、解決への第一歩です。
- リーダーの「弱さ」がチームの資源になる――リーダーが本音を語り、自分の限界を認めることで、チームに心理的安全性が生まれます。レバレッジ・ポイントを見極め、優先順位をつける智慧を持ちながらも、完璧である必要はない。その誠実さこそが、持続可能なチームの力を生み出すのです。
