ビジネスはテコの原理で動く!~収益基盤の“ズレ”がもたらす持続的成長の秘密とは!?~

ビジネスはテコの原理で動く!~収益基盤の“ズレ”がもたらす持続的成長の秘密とは!?~

みなさん、こんにちは。増田みはらし書店・店主の増田浩一です。

私は、広告会社でマーケティングセクションの部長として組織マネジメントを担当しながら、中小企業診断士としても活動しております。

#考えるノート と題して、週に1回、私がさまざまなご支援のもとで考えたことや、経営者や専門家の方からヒントを頂いたことについて、まとめて発信をしております。

今回は、「ビジネスとテコの原理」というテーマで、建築学と経営学の接点から見えてきた洞察を共有したいと思います。

物理学×ビジネスの融合発想

建築を学んできた私にとって、「テコの原理」は最も基本的な力学のひとつです。

支点を中心に、力点(力を加える点)と作用点(力の効果が現れる点)が存在し、支点からの距離によって少ない力で大きな仕事ができる――この物理法則がビジネスの世界でも驚くほど当てはまることに気づかされました。

最近、一見、子ども向けビジネスでありながら、別に保護者関連の市場で収益を得ているスタートアップ企業の支援をする機会があり、その構造を分析する中で改めてこの「テコの原理」の普遍性を実感しました。

実は多くの成功しているビジネスには共通点があります。それは、「収益基盤が価値提供ポイントからズレている」という特徴です。

このズレこそが、ビジネスにおける「テコ」として機能し、少ないリソース投入で大きな収益を生み出す秘密となっているのです。

収益基盤がズレている成功ビジネスの3つのパターン

収益基盤のズレには、主に3つのパターンがあります。

1. 提供価値と収益源の分離(Google型)

Googleの検索エンジンは、私たちに膨大な情報へのアクセスを無料で提供しています。その価値創出ポイント(力点)は検索サービスですが、収益獲得ポイント(作用点)は広告収入です。

この「ズレ」があるからこそ、圧倒的なユーザー数を獲得し、それを基盤に広告ビジネスで巨大な収益を上げることができました。そして結果的に、参入者(社)を増大させ、プラットフォーマーとしてのポジションを築くのを容易にしました。

ここでの「支点」は検索技術という独自資産です。

この支点があればあるほど、力点(検索サービス)と作用点(広告収益)の距離が広がり、より大きなレバレッジ効果を生み出せます。

2. 顧客接点と収益化の時間的ズレ(サブスク型)

Netflixやスポティファイなどのサブスクリプションビジネスは、初期コストを低く抑え、長期的な顧客関係から安定収益を得るモデルです。

ここでの「ズレ」は、時間軸上にあります。

力点は初期の顧客獲得(低コストまたは無料トライアル)に置かれ、作用点はその後の継続的な月額料金にあります。支点となるのはコンテンツ提供力や顧客体験の設計です。

このモデルでは、顧客生涯価値(LTV)を最大化することでテコのレバレッジを高めています。

3. 利用者と支払者の分離(両面市場型)

メルカリやAirbnbなどのプラットフォームビジネスは、利用者と提供者という異なる顧客群をつなぐ場を提供し、その取引から手数料を得るモデルです。

力点はプラットフォームの利便性向上とユーザー数の拡大に置かれ、作用点は取引手数料という形で現れます。

支点はネットワーク効果を生み出す、マッチングアルゴリズムやユーザーインターフェースの設計にあります。

ユーザー間の信頼関係構築という無形の価値を創出しながら、具体的な収益は取引手数料という形で実現するという「ズレ」が効果的に機能しています。

私が最近支援している教育×金融スタートアップも、教育コンテンツの提供(力点)と金融商品からの収益(作用点)という明確な「ズレ」を持っています。

ユーザーに価値ある知識を提供しながら、その知識を活用した金融活動から収益を得るという構造は、まさにテコの原理の応用と言えるでしょう。

テコの原理で考えるビジネス診断法

自社ビジネスをテコの原理で捉え直すことで、新たな成長機会が見えてくる可能性があります。具体的な診断方法として、以下の3ステップを提案します。

1. 自社ビジネスの支点・力点・作用点を特定する

まず、自社ビジネスの「支点」(核となる独自資産や強み)を明確にしましょう。

技術力なのか、顧客基盤なのか、ブランド力なのか――この支点が強いほど、テコの効果は高まります。

ここで重要なのは、支点となる資産が絶えず拡張・強化されるモデルを設計することです。

例えばGoogleの場合、検索エンジンの利用が増えるほど、検索データという資産が蓄積され、AIがより賢くなり、検索精度が向上するという正のスパイラルが生まれています。このように、ビジネス活動自体が支点を強化する循環構造を持つことで、テコのレバレッジ効果は時間とともに増大します。

次に、現在のリソース投入ポイント(力点)と収益獲得ポイント(作用点)を特定します。

多くの場合、この両者は一致していることが多いのですが、それがビジネスモデルの発展可能性を制限している可能性があります。

2. 効果的なテコ比(レバレッジ)を実現するための設計ポイント

理想的なテコの設計では、少ない力で大きな効果を生み出すために、力点と作用点の距離をコントロールします。

ビジネスにおいても、次のポイントを検討することでレバレッジを高められる可能性があります。

  • 無料提供できる価値は何か?
  • 長期的な関係構築によって得られる潜在的収益は何か?
  • 異なる顧客セグメント間でどのような価値移転が可能か?
    (例:企業向けと個人向けサービスの連携、若年層から富裕層へのアップセル、初心者から上級者へのステップアップモデルなど)
  • データや信頼関係などの無形資産をどう収益化できるか?

3. 中小企業でも実践できるビジネスモデル再設計法

大企業のようなリソースがなくても、テコの原理を活用したビジネス再設計は可能です。

むしろ、経営資源が限られているからこそ、このレバレッジ思考が重要です。

例えば、特定の専門知識や技術(支点)を持つ小規模事業者が、その知識をオンラインセミナーで無料または低価格で提供(力点)し、関連する有料コンサルティングやツール販売(作用点)で収益化するモデルは、比較的低リスクで始められるテコ型ビジネスと言えます。

重要なのは、価値提供と収益獲得の「ズレ」を意図的に設計する視点です。

この「ズレ」が大きいほど、少ないリソース投入で大きな成果を生み出せる可能性が高まります。

ビジネス拡大・ピボット時のテコの再設計

ビジネスの成長過程やピボットのタイミングでは、このテコの設計を見直すことが重要です。

1. 事業拡大時に支点を見失わないためのポイント

事業拡大時には、ついビジネスの「支点」を見失いがちです。

新しい機会に目を奪われて、自社の核となる強みからかけ離れた領域に進出してしまうリスクがあります。

テコの原理では、支点がぶれると力の伝達効率が大きく低下します。

ビジネスでも同様に、自社の核となる「支点」を常に意識し、その周辺で力点と作用点の配置を最適化することが成功の鍵となります。

同時に、事業拡大に合わせて支点自体も進化・成長させる視点が欠かせません。Amazonのケースでは、当初の書籍販売という支点から、あらゆる商品のEコマースへ、さらにはクラウドインフラへと支点を拡張してきました。

しかし、これは支点を失ったのではなく、「顧客中心主義」と「デジタルプラットフォーム構築能力」という本質的な支点を保ちながら、その表現形を進化させてきたと言えるでしょう。

事業拡大時には、表層的な支点ではなく、その背後にある本質的な強みを見極め、それを軸に拡張していく戦略が有効です。

2. ピボット時に活かせる既存の「テコ」の再利用法

ピボット(事業転換)時には、全てを変えるのではなく、既存の「支点」を保持したまま「力点」と「作用点」の配置を変更する発想が有効です。

例えば、顧客基盤という支点は維持しながら、提供する価値(力点)や収益モデル(作用点)を変更するアプローチは、リスクを抑えながら新たな成長機会を探るための賢明な戦略と言えるでしょう。

3. 環境変化に強い「適応型テコ」の設計思想

不確実性の高い時代には、固定的なビジネスモデルよりも、環境変化に応じて力点と作用点を柔軟に調整できる「適応型テコ」の設計が重要です。

これは例えば、複数の収益源(作用点)を持つことで、ひとつの収益源が環境変化により機能しなくなっても、他で補完できる構造を意味します。

また、顧客との接点(力点)も複数持つことで、特定のチャネルが機能しなくなるリスクをヘッジできます。

こうした「テコの多重化」は、変化の激しい環境における強靭なビジネスモデルの構築に不可欠な視点と言えるでしょう。

テコの原理を意識した経営視点のすすめ

ビジネスをテコの原理で捉え直すことで、シンプルながらも強力な洞察が得られます。

収益基盤を価値提供ポイントから意図的に「ズラす」設計は、リソースの少ない中小企業やスタートアップにとって特に重要な視点です。

明日からできる実践として、自社ビジネスの「テコ図」を描いてみることをお勧めします。支点・力点・作用点を特定し、その配置を見直すことで、新たなビジネスチャンスやリスクヘッジの可能性が見えてくるかもしれません。

建築の世界で当たり前のように使われるテコの原理ですが、この物理法則の普遍性は、ビジネスの世界でも大いに活かせるのではないでしょうか。

「収益基盤のズレ」を恐れるのではなく、むしろ意図的に設計することで、持続的な成長の基盤を作ることができるのです。

今回もご覧いただきありがとうございました。それでは、また来週お会いしましょう。

ビジネスをゼロ1で作るための視点については、こちらの1冊「【既存のものさしで測るな!?】新規事業の実践論|麻生要一」やこちら「【あなたはどちらのタイプ!?】「共感」×「深掘り」が最強のビジネススキルである 3000億円の新規事業を生み出すビジネスプロデュース思考術|三宅孝之」もぜひご覧ください。

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