この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
増田みはらし書店・店主の増田浩一です。
前回、「AIに問う前に、立場を言語化できているか」というテーマで書きました。
前提が共有されないまま、AIが自動的に前提を補完し、答えだけが独り歩きを始める。その危うさについて考えました。
今回は、その続きとして、もう少し組織の内側に目を向けてみたいと思います。
生成AIが職場に浸透するにつれて、管理職という立場の難易度は、確実に上がっていると感じています。
理由はシンプルです。部下が、AIを使って「最もらしい答え」を持ってくるようになったからです。
前回の投稿は、こちら「AIが「正しさ」の根拠になる時代に、問うべきこと ~あなたはどんな立場で、問いを投げているか~」からどうぞ!!

AIが「最もらしい答え」を、誰の手にも届くものにした
以前であれば、情報量や経験値の差が、そのまま上下関係の前提になっていました。
上司は、部下より多くを知り、早く判断し、答えを持っている存在だった。
少なくとも、そういう前提で組織が成り立っていたんです。
しかし、今は違います。
問いさえ投げれば、AIは瞬時に論点を整理し、それらしく整った言葉で答えを提示してくれる。
その結果、「正しさ」や「論理」そのものは、誰の手にも届くものになりました。
これは良いことでもあり、同時に、上下関係の前提を揺るがすことでもありました。
部下が持ってくる資料は、以前よりも論理的で、整っている。そこに書かれている言葉は、上司が持っている答えと、遜色がない場合も少なくありません。
むしろ、AIのほうが、より網羅的で、抜け漏れのない答えを返してくる場合もあるでしょう。
こうなると、上司の存在意義そのものが問われ始めます。
論理で殴り返すか、権限で抑え込むかでは、もう持たない
こうした環境の中で、管理職には何が起きているのか。
部下がAIの答えを携えてやってくると、上司はふたつの選択肢に追い込まれがちです。
ひとつは、より強い論理で殴り返そうとすること。
もうひとつは、権限や立場を使って、議論そのものを終わらせてしまうこと。
けれど、どちらも長くは持ちません。というか、どちらも本質的な解決にはならないんです。
論理で勝とうとすれば、相手はAIです。これは消耗戦になります。しかも、終わりのない消耗戦です。
部下は次の会議で、また別のAIの答えを持ってくるでしょう。そのたびに上司が論破しようとすれば、それはもう対話ではなく、戦いになってしまいます。
権限で抑え込めば、その場は収まるかもしれません。
でも、対話は止まり、組織の温度は確実に下がっていく。
「結局、上は話を聞く気がない」。
そんな空気が広がれば、部下は提案することをやめてしまいます。
ここで露わになるのは、管理職の役割が、もうすでに変わってしまっているという事実なんです。
求められるのは、瞬間的に場を整える言葉の力
AI時代の管理職に、最も強く求められているのは、「答えを持つこと」ではありません。
求められているのは、瞬間的に言葉を選び、場を整える力です。
会議の冒頭で、いまは何について話す場なのか。誰の立場で考える時間なのか。どこまでを議論し、どこからを決断に委ねるのか。
それらを、その場で、過不足なく言語化できるかどうか。これが問われているんです。
管理職の仕事は、もはや「後出しじゃんけん」ができない仕事になりました。
AIは、後から完璧な答えを出してくれます。時間をかけて考えれば、AIのほうがよほど整った答えを返してくれるでしょう。
でも、現場は違います。
現場は、ライブで進行し、瞬間ごとの言葉で方向づけられていく。
会議の冒頭で、上司が「今日はアイデアを出し合う場です」と言うのか、「今日は決めます」と言うのか。
その一言で、場の性質は決まってしまいます。
だからこそ、その瞬間にどんな言葉を選ぶかが、組織の空気を決めてしまうんです。
そして、この「瞬間の言葉」は、AIに代替できません。AIは事後的に最適解を出すことはできても、いま、この場で、この人たちに対して、何を言うべきかは判断できないからです。
個人の優秀さだけでは、管理職は務まらなくなった
この変化は、管理職の登用や育成の考え方にも影響します。
営業成績が高い。技術に詳しい。個人として優秀。
これらは、これからも重要です。間違いなく重要です。ただし、それだけで上に上げてしまうと、AI時代には破綻しやすくなる。
なぜなら、管理職の仕事は「個人の成果」ではなく、他者の判断や行動を束ねることだからです。
束ねるために必要なのは、情報量ではありません。立場を揃える言葉です。
上司が発する一言で、部下は「これは議論の場なのか」「もう決まった話なのか」を判断します。その一言が曖昧だと、部下は迷います。迷ったまま動くと、組織全体がブレていく。
ある会議で、上司が「みんなの意見を聞きたい」と言いながら、最後に「でも方針は決まっているから」と言ってしまったら、部下はどう受け取るでしょうか。
次からは、意見を言わなくなるかもしれません。あるいは、形だけの発言で済ませるようになるかもしれない。
この言語の精度が低いと、AIがどれだけ優秀でも、組織は噛み合わなくなるんです。
AIは課題を解決せず、露出させる存在である
ここで、前回のテーマともつながってきます。
AIは、組織の課題を解決する存在ではありません。むしろ、課題を露出させる存在です。
前提が共有されていない。立場が揃っていない。判断の責任者が曖昧。
こうした問題は、AIがなくても、もともと存在していました。ただ見えにくかっただけです。
以前は、上司が「それは後で考えよう」と言えば、それで議論は先送りにできた。部下も、それを受け入れていました。
でも今は違います。部下がAIに問えば、「後で考える」の曖昧さが露わになってしまう。AIは「いつまでに」「誰が」「何を基準に」を問い返してくるからです。
ただ、AIによって、それが見えやすくなっただけなんです。
だから、AIが組織を壊すのではない。
AIは、壊れかけていた部分を、はっきり映し出しているにすぎません。
管理職とは、問いを更新し続けるリーダーのこと
では、どういう人が「管理職」なのか。
私は結局のところ、管理職とは、リーダーであるということに尽きると思っています。
肩書きや権限の話ではありません。役割として、人を導く存在であるかどうか。そこに尽きるんです。
そのために必要なのは、完成された人物像ではなく、絶えず自分自身を更新し続ける姿勢です。
環境が変われば、ビジョンもまた問い直される。組織が変われば、自分の立ち位置も、言葉の選び方も変わっていく。
その変化から逃げずに、インプットとアウトプットを止めないこと。
考え、学び、語り、試し、修正する。その繰り返しです。
その循環を、激しく回し続けられるかどうか。
私は、その姿勢と行動こそが、人の信頼を動かすのだと思っています。
AIがどれだけ整った答えを出しても、人は、変わろうとし続けている人の背中にしか、ついていかない。完璧な答えを持っている人ではなく、問い続けている人についていくんです。
ある経営者の方が、こんなことを言っていました。
部下は、私の答えを聞きに来ているんじゃない。私がどう考えているのか、何を大切にしているのかを、確かめに来ているんだと思う
この言葉が、すべてを表していると思います。
管理職とは、答えを示す人ではなく、問いを更新し続ける人です。
そして、その姿勢そのものが、組織にとってのビジョンになる。
AI時代のマネジメントとは、ツールを使いこなす競争ではなく、立場と言葉を引き受ける覚悟の競争なのかもしれません。
その変化に、向き合えているでしょうか。
それでは、また来週お会いしましょう。
リーダーシップについては、こちらの1冊「【リーダーとは、役職ではなく、役割!?】リーダーシップ・シフト|堀尾志保,中原淳」もとてもおすすめです。

この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。
