この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
【本書の要約】相続を「財産分割」から「家族の未来設計」へと転換する実践ガイド。広島の士業連携チームが、法務・税務・不動産の専門知識を統合し、家族が心をともにしながら変化に備える方法を提示。「まだ早い」が「もう遅い」になる前に、対話を重ね、関係を守りながら資産を承継するための具体的プロセスを解説する1冊。
- 相続の準備を「まだ早い」と先延ばしにしていませんか?
- 実は、その「まだ早い」が「もう遅い」に変わる瞬間は、誰にも予測できないんです。
- なぜなら、相続は突然やってくる「出来事」ではなく、家族が長い時間をかけて準備すべき「プロセス」だからです。
- 本書は、広島に根差した法務・税務・不動産の専門家5名が、士業連携の実践知を結集した相続準備の指南書です。
- 本書を通じて、相続を「最後の家族会議」ではなく「未来への最初の対話」として捉え直し、絶えず変化する人生の中で家族が心をともにしながら資産を承継していく方法を学べます。
本書は、株式会社ライフグループを中心とした広島の士業連携チームによる共著です。
代表の藤本律夫さんは、行政書士・家族信託専門士・宅地建物取引士として、法務と不動産の両面から相続をサポートしてきました。
永戸康弘さんは行政書士法人ライフの代表社員として法務部門を統括し、井上一生さんと杉浦大輔さんは税理士法人さくら税務で税務と資産税を担当します。
大原清丈さんは不動産部門の専門家として、相続における不動産活用の実務を支えています。
5人の専門家が執筆を分担しながらも、「相続は一つの専門家では解決できない」という共通認識のもと、統合的な視点で本書をまとめ上げました。
相談内容によって窓口がバラバラになりがちな相続の現場で、法務・税務・不動産が連携する重要性を、実践を通じて体現してきたチームです。
彼らが本書で伝えたかったのは、節税テクニックではなく、「家族がこれからも安心して暮らしていける状態をつくること」でした。
相続は「最後の家族会議」ではなく「未来への最初の対話」
相続と聞くと、多くの人は「亡くなった人の財産をどう分けるか」という場面を思い浮かべるでしょう。
でも本書は、その前提そのものを問い直すんです。
相続とは、「亡くなった人の財産をどう分けるか」の話だけではありません。それは、家族のこれまでを振り返り、これからの人生をどう描いていくかを考える、いわば「未来の家族会議」でもあるのです。
財産を分けることだけが目的なら、法律に従って粛々と進めればいいかもしれません。
でも実際には、相続財産は単なるお金や不動産ではなく、家族の時間や想いの積み重ねそのものなんです。
だからこそ、相続は「最後の家族会議」として終わらせるのではなく、「未来への最初の対話」として始める必要があります。
「まだ早い」という思い込みが準備を遅らせる
本書が冒頭で強調するのは、「まだ早い」という言葉の危うさです。
元気なうちは誰もが「まだ大丈夫」と考えます。
でも、判断能力が低下してから慌てても、できることは限られてしまうんです。
家族信託や遺言書の作成、不動産の活用方針の決定——これらはすべて、本人の意思がはっきりしているうちにしかできません。
「まだ早い」と思っているうちに準備を始めることが、家族にとっての最大の優しさになります。
これからの人生設計を家族全体で考える
本書が提案する「これからの人生設計」とは、親だけでなく子ども世代も含めた家族全体のこれからを見据えることです。
親の介護や医療、葬儀やお墓のこと、相続後の生活設計、さらには次の相続のことまで。
こうした長期的な視点で家族が価値観を共有しておくことで、突然の出来事にも動揺せずに対応できます。
相続準備は、財産の配分を決めるだけの作業ではありません。
家族の未来を一緒に設計し、それぞれの人生をどう支え合っていくかを話し合う、継続的なプロセスなんです。
気持ちと事情を擦り合わせる時間を持つ
相続で最も大切なのは「話し合い」です。
でも、いきなり結論を出そうとすると、かえって対立が生まれてしまいます。
話し合いの初回から結論を出そうとする必要はありません。まずは「今の気持ちを共有する場」として設定しましょう。現時点での考えや不安、希望を出し合うことで、お互いの立場や事情が見えてきます。
本書が提案するのは、まず「今の気持ちを共有する場」として家族会議を設定することです。
現時点での考えや不安、希望を出し合うことで、お互いの立場や事情が見えてきます。
気持ちの共有から具体的な事情へ
最初は感情的な話から始まってもいいんです。
「長男だから実家を継ぐべき」「介護を担当したから多く相続したい」——そんな率直な想いをまず口にすることが大切です。
その上で、具体的な事情を出し合います。
収入、貯蓄額、ローン残高、教育費や医療費の負担、将来の転居予定など。
数字や条件を共有することで、感覚論から一歩進んだ議論が可能になります。
たとえば、「実家を売却したくない」という気持ちがあっても、維持管理費や固定資産税の負担を誰が担うのか、具体的に話し合えば現実的な選択肢が見えてきます。
「見える化」で感情の衝突を減らす
不信感や不満は、不透明さから生まれます。
資産の内容や評価、承継の方針を「見える化」し、関係者全員が同じ情報を持つようにすることが重要です。
家族会議や関係者ミーティングを開き、経営者や資産所有者本人が考えを説明すること。
専門家による評価書やシミュレーション資料を活用することで、感情論を事実で補強できます。
本書では、中小企業オーナーの事例も紹介されています。
非上場株式の評価や役員借入金の処理は、感情だけでは解決できない複雑な問題です。
だからこそ、税理士や行政書士といった第三者の視点を活用し、公平な情報をもとに話し合うことが欠かせません。
長期的な見直しを前提にする
家族会議は一度で終わりではありません。
人生の状況は絶えず変化します。
子どもが結婚する、孫が生まれる、親の健康状態が変わる、不動産市況が変動する——そのたびに、承継計画を見直す必要があります。
本書が強調するのは、「一度決めた計画も定期的に見直す」という姿勢です。
変化を前提として、家族が継続的に対話を重ねていくこと。
そのために必要なのは、時間と忍耐です。
急いで結論を出そうとせず、何度も話し合いを重ねながら、少しずつ歩み寄っていく。
そのプロセスそのものが、家族の絆を深め、心をともにする時間になるんです。
節税より大切なのは家族の関係を守ること
相続税の節税は、確かに重要な課題です。
でも、節税を最優先にしたがために、家族の信頼関係が壊れてしまったケースを、著者たちは数多く見てきました。
節税を最優先にしたがために、家族の信頼関係が壊れてしまったということです。相続税の節税は、長く続く人生の中のほんの一瞬のことです。(中略)そして本当に大切なのは、「家族がこれからも安心して暮らしていける状態をつくること」です。
相続税の節税は、長く続く人生の中のほんの一瞬のことに過ぎません。
それよりも本当に大切なのは、「家族がこれからも安心して暮らしていける状態をつくること」です。
相続準備は家族への優しさ
本書が一貫して伝えるのは、「相続準備は家族への優しさ」だということです。
法律や税金の話だけでなく、家族それぞれの思いと事情を丁寧に擦り合わせること。
そのプロセスが、争いを避け、未来の安心を築きます。
たとえば、不動産をどう扱うか。
評価額だけをうのみにせず、相続税と市場価値の両方を把握し、流動性や維持コストも考慮する。
「本当に残すべき資産なのか」を冷静に見極める視点が欠かせません。
空き家を放置すれば固定資産税の軽減措置が解除され、管理不全で特定空き家に指定されるリスクもあります。
こうした長期的なコストまで含めて考えることが、賢い資産承継の第一歩です。
資産を現金だけで考えるリスク
「現金=安全」という思い込みも、相続計画を狭めてしまう危険があります。
インフレによる実質的な価値の目減り、資産の成長機会を逃すこと、資産承継の効率の悪さ——現金だけで保有し続けることには、見過ごせないリスクが存在します。
本書では、不動産や非上場株式といった多様な資産形態を視野に入れ、家族全体のバランスを考えた承継計画を提案しています。
争族に終止符を打つための具体的な仕組み
相続は「財産を分ける」だけでなく、「家族の関係を守る」ための行為でもあります。
争族を避けるには、何よりも「準備の早さ」と「具体的な仕組みづくり」が欠かせません。
単に遺言を作るだけでは不十分で、遺産をどう分けるか、誰がどの財産を管理するのか、生活資金や管理費をどう確保するのかまでを設計しておく必要があります。
家族信託は、その有効な手段の一つです。
親が委託者となり、子どもを受託者として財産の管理や処分を任せる契約を結んでおけば、親の判断能力が低下した場合でも、あらかじめ定めた内容に従って柔軟に財産を管理できます。
中小企業オーナーの場合は、非上場株式の承継が特に複雑です。
株式の評価、納税資金の確保、経営権の維持——これらはすべて、税務と経営の両面で専門家の助けを借りながら計画的に進める必要があります。
本書が繰り返し強調するのは、「相続前アクション十か条」のような具体的な行動指針です。
財産と負債を正確に把握し、家族の価値観と将来像を共有し、遺言書や家族信託などの制度を知り、不動産の活用方針を決め、税金対策を早期に着手する——こうしたひとつひとつの準備が、家族の未来を守る土台になります。
まとめ
- 相続は「最後の家族会議」ではなく「未来への最初の対話」——本書は、相続を人生設計の見直しの機会と捉え、「まだ早い」が「もう遅い」になる前に対話を始める重要性を説きます。家族が心をともにするには、時間が必要です。
- 気持ちと事情を擦り合わせる時間を持つ——感情と具体的な数字の両方を共有し、「見える化」で不透明さを排除すること。家族会議は一度で終わらず、人生の変化に応じて継続的に見直すプロセスです。第三者の専門家を交えることで、公平な視点が得られます。
- 節税より大切なのは家族の関係を守ること——相続準備は家族への優しさであり、法律や税金だけでなく、思いと事情を丁寧に擦り合わせることが争いを避ける鍵です。遺言や家族信託などの具体的な仕組みを早期に整え、長期的な視点で資産承継を設計することが、家族の未来を守ります。
この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。
