AIが「正しさ」の根拠になる時代に、問うべきこと ~あなたはどんな立場で、問いを投げているか~

AIが「正しさ」の根拠になる時代に、問うべきこと ~あなたはどんな立場で、問いを投げているか~の手書きアイキャッチ

増田みはらし書店・店主の増田浩一です。

生成AIが職場に入り込むようになってから、
「正しさ」をめぐる摩擦が、以前よりも目立つようになった気がしています。

AIが「正しさ」の根拠として使われ始めた

ある企業の現場で起きた出来事を、専門家から聞く機会がありました。

不採算店舗の立て直しという、経営としては避けて通れないテーマです。休日営業も含めた改善策が示されたとき、現場の責任者が強く反発しました。

その際に使われたのが、生成AIでした。

「AIに聞いたら、休日に働く義務はないと言っている」。
そんな言葉とともに、権利擁護の論理が全社に向けて発信されたのです。

AIを使って、権利擁護の論理に最もらしさが加わり、反抗的な姿勢が強化されてしまった事案でした。

ここで起きていたのは、単なるAIリテラシーの問題ではありません。
また、「AIは危険だ」という話でもない。

問題は、前提が共有されないまま、問いと答えだけが往復してしまったことでした。

前提が違えば、同じ問いでも答えは変わる

同じ言葉でも、前提が変われば意味はまったく変わります。

たとえば「つめたい」という言葉。

水について言っているのであれば、温度の話です。人について言っているのであれば、思いやりや態度の話になる。

この構造を、もう少し丁寧に見てみましょう。

何についての話なのか。これを「キー(前提)」と呼んでみます。
そして、投げかけられた言葉を「クエリ(問い)」。
それに対して導かれるものを「バリュー(答え)」と整理してみると、以下のようになります。

キー(前提)クエリ(問い)バリュー(答え)
つめたい温度が低い
つめたい思いやりがない

同じクエリでも、キーが違えば、導かれるバリューは別物になる。

職場の議論でも、まったく同じことが起きているんです。

たとえば「フリーアドレスは良い制度か」というクエリ。

キー(前提)クエリ(問い)バリュー(答え)
労働者の立場フリーアドレスは良い制度か働きやすさ、集中のしやすさ
経営者の立場フリーアドレスは良い制度か生産性、コスト、組織効率

どちらも間違っていません。

ただし、キーが違うまま議論すると、話は噛み合わなくなる。

生成AIは、このズレを一気に拡大します。

AIは自動的に前提を補完し、答えを組み立てる

そして、ここで立ち止まって考えたいのは、LLMが起動する原点です。

私たちがAIに問いを投げる瞬間、そこにはすでに「誰の立場で問うているのか」という前提が隠れています。

ところが、その前提を意識しないまま問いを投げると、AIは自動的に前提を補完してしまう。

AIは、与えられた問いに対して、それらしく整った答えを瞬時に返してくれます。
しかしその答えは、どの前提で問いが立てられたかによって、意味が大きく変わるんです。

早く答えが欲しいという心理だけで、重要な会社情報を自然に入力してしまう。
そこに、ガードが下がる構造があります。

便利さの裏側で、守秘や責任の感覚が、少しずつ緩んでいく。

そして、最もらしい答えだけが残る。

問う前に、立場を言語化する順番が逆転している

だからこそ、AI時代に必要なのは、「より良い問いを考えること」だけでは足りません。

問いの前に、前提を言語化すること。
ここが抜け落ちると、AIは対話を助ける存在ではなく、分断を加速させる装置になります。

キー・クエリ・バリューで整理すると、順番は明確です。

まず、キー。誰の立場で、何の目的で、その問いを立てているのか。

次に、クエリ。その前提に沿った問いになっているか。

最後に、バリュー。導かれた答えを、どう引き受けるのか。

この順番が逆転すると、答えだけが独り歩きを始めます。

最後に決断を引き受けるのは、人にしかできない

現場の話に戻ります。

最終的に、その企業では懲戒という判断が下されました。AIが決めたわけではありません。人が、同席し、説明し、決断した。

技術が進んでも、組織の問題の核心は、人間の力量に戻ってくる。これは昔から、何も変わっていません。

AIは、決断を肩代わりしてくれない。
最後に残るのは、誰がその判断を引き受けるのか、という問いです。

フィジカルに向き合い、言葉を選び、責任を持って決める。

その役割は、いまも人にしか担えません。

AIのアウトプットばかりに目が向きがちな時代だからこそ、運用する人の立場とスタンスが、より強く問われています。

AIに問いを投げる前に、互いの前提を、言葉にできているでしょうか。

それでは、また来週お会いしましょう。

次回の「#考えるノート」でもAIについて検討してきましょう。特に経営者(ボードマネジメント)にとってのAIナイズドされた社会と従業員との関係性をつくっていく時の重要性について検討してみたいと思います。

AIと仕事について論点を強化するには、こちらの投稿「真のバリュー(価値)とは何なのか!?『AI時代に仕事と呼べるもの』三浦慶介」をぜひご覧ください。

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