増田みはらし書店・店主の増田浩一です。
最近、大企業の方々と話をしていると、 ある共通した感覚が少しずつ言語化されてきているように思うんです。
それは── 「挑戦が、会社の中でやりづらくなっている」という本音なんですよね。
日々、新規事業が求められる。 変化の波は確実に近づいている。 顧客の価値観は高速で変わっていく。
わかってはいるんです。 けれど、実際に本社のラインの中で“新しい一歩”を踏み出すには、 あまりにも多くの制約が重なっています。
株主の目線、打率のプレッシャー、稟議の重さ。 人件費や固定費の見直し、既存事業の守りの強化。 そしてAIの導入による、さらなる効率化・最適化の圧力。
結果として、 「変える必要はあるのに、変えられない」 という矛盾が、静かに、しかし確実に組織を浸食しているんです。
大企業が挑戦できない(くなった)理由
これは、ある種の“構造疲労”だと捉えてもいいのではないでしょうか。
かつての企業は、 大量生産・大量消費のモデルの中で、
深化(Exploitation) 最適化 効率化
を追求することで成長してきました。
市場も、顧客も、技術も、比較的ゆっくり変化していました。 だからこそ「最適解」を磨き込むことに意味があったんですよね。
しかし今は、完全に逆なんです。
市場は早く、技術は早く、顧客も早く。
「正解」はすぐ古くなる。
「確実性」はすぐ揺らぐ。
「前提」はすぐ書き換わる。
こうした時代に求められるのは、 最適化された正解ではなく、探索から生まれる仮説です。
ところが、多くの企業は “探索よりも深化が強い構造”のままなんです。
探索をするための余白がない。 失敗を許容する文化がない。 前例のないことを進める手順がない。 そして何より、挑戦を評価する制度が追いついていない。
つまり、 組織の構造そのものが挑戦に向いていないんですよね。
これを、 「挑戦のインフラ不足」と呼んでみたいと思います。
だから挑戦は“外部化”されはじめた
この構造疲労に対して、多くの企業が選んでいるのが “挑戦を外に出す”という戦略です。
CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)、 スタートアップとの事業共創、 アクセラレーター、 行政と組むPoC(実証実験)、 地域との協働プロジェクト。
どれも目的はひとつ。
「本体では動かしづらい挑戦を、外側で小さく試す」
ということなんです。
外側には、失敗の自由があります。
外側には、スピードがあります。
外側には、前例に縛られない余白があります。
つまりいま、 企業全体で“挑戦の外部委託”が加速しているんですよね。
「挑戦は外側で起きている」(「外部化せざるをえない)
これは、いまの日本企業の大きな潮流だと思うんです。
そして、ここからが本題です
この“挑戦の外部化”の流れの中で、 広告会社の立ち位置が見直されはじめています。
これまで広告会社といえば、
運用代行・制作進行・メディアバイイング・キャンペーン設計
といった「最適化の周辺業務」を担う存在として理解されてきました。
しかしAIの進化により、 これらの業務は急速に自動化・標準化されつつあるんです。
ここに、広告会社の危機と希望が同時にあります。
もし広告会社が「運用代行の会社」のままでいれば、 AIが代替するスピードに、いずれ追い越されてしまう。
けれど逆に、 AIが運用を代替していくほど、 広告会社は“探索の専門家”へと進化するチャンスを得るんです。
なぜなら、広告会社が持っているのは、 “生活者発の視点”であり、“市場の最前線との接点”だからなんですよね。
そしてもうひとつ、 広告会社には古くから特有の構造があります。
それは、 あらゆるプレイヤーを横断的につなぐ力です。
企業、行政、地域、大学、NPO、スタートアップ── 広告会社は常に異なる主体をつなぐ立場にあります。
だからこそ、 挑戦の「場」をつくることができるんです。
広告会社が本気で「実験のハブ」になると決めれば、 その力はどこよりも速く、深く機能します。
広告会社の“ありかた”は、これからこう変わる
ここで、ひとつ抽象化してみますね。
これまでの広告会社は、 おおむね次のような流れで仕事が進んでいました。
前提を受け取る(営業)
↓
方向を整える(プランナー)
↓
既存の枠に当てはめる(メディア)
↓
表現を整える(クリエイティブ)
つまり、 「前提が確定した世界の中で、最適化する会社」 だったと言えます。
しかしこれからは、まったく逆の流れなんです。
問いをつくる 仮説を立てる 実験の「場」をつくる 原型を形にして試す
つまり、 「前提そのものをつくり、試す会社」 へと変わっていくんですよね。
この変化は、広告会社の価値を根底から変えます。
《広告会社のこれまで/これから》──対比で整理してみる
ここまでの話を、より直感的に理解いただくために 「これまで」と「これから」を表で整理してみますね。
広告会社のこれまで(旧OS) vs これから(新OS=実験のハブ)
| これまでの広告会社(旧OS) | これからの広告会社(新OS=実験のハブ) |
|---|---|
| 前提を受け取る(営業) | 問いをつくる |
| 方向を整える(プランナー) | 仮説を立てる |
| 既存の枠に当てはめる(メディア) | 「場」をつくる(実験のフィールド) |
| 表現を整える(クリエイティブ) | 原型を形にして試す(プロトタイピング) |
| 既存前提の最適化 | 前提そのものの創造 |
| 効率化・PDCA | 仮説→実験→学習の高速ループ |
| 運用代行としての外注先 | 「挑戦の外部装置」としてのパートナー |
| AIが代替しやすい領域 | AIが代替できない探索領域 |
この表は、これからの広告会社の「進化の方向」を視覚的に示してみました。
広告会社は“新しい挑戦の装置”になれるか
広告会社の未来は、 「運用をどう効率化するか」には、もうないんです。
むしろ、 “何を試すべきか”をつくりだす力なんですよね。
市場発で仮説をつくり、 顧客発で小さく試し、 学習した結果を大企業へと還流する。
挑戦の外部化が進む時代において、 その中心に立てるのは “越境”を得意とする広告会社なんです。
探索こそが価値になる時代。 挑戦の余白こそが競争力になる時代。 実験の質こそが未来を決める時代。
広告会社は、 この時代の転換点でふたたび価値を取り戻すことができます。
その鍵となるのが、 広告会社は“実験のハブ”になれる という事実なんです。
それでは、また来週お会いしましょう。
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