増田みはらし書店・店主の増田浩一です。
今回は、めずらしく(?)広告コミュニケーションについて検討してみましょう。
最近、街を歩いていて気づくことがあるんです。広告やキャンペーンの在り方が、少しずつ変わってきている。
従来のように「外から光を当てて目立たせる」のではなく、体験そのものの中にメッセージを埋め込む設計が増えてきました。告知や広告が主役の座を譲ったわけではありません。作品・プロダクト・サービスの側が、出会い方そのものを抱き込みはじめたんですね。
これを「外付けから内蔵へ」の転換と呼んでみたいと思います。
「伝える」をやめるのではない。「触れる」の中に「伝わる」を埋め込む。
今回は、星野源さんの新アルバム施策、任天堂Switch2のローンチ設計、B2B SaaSのコンテンツマーケティングという3つの事例を見ていきます。ジャンルも文法も違う3者ですが、すべてが「体験=コミュニケーション」という一点でつながっているんです。
星野源『Gen』――街の風景に溶け込む看板が生む「あれ?いつからあった?」
まず星野源さんの6thアルバム『Gen』のプロモーション。
2025年5月のリリースに合わせて、東京・大阪の商店街に看板やポスターが掲出されたんですが、これが従来の広告とは一線を画していました。
戸越銀座の商店街に掲出された看板やポスターは、昭和レトロな意匠で通りの風景に「エイジング」したかのように馴染んでいます。
派手な色使いや大きなビジュアルで「見てください!」と主張するのではなく、「あれ?いつからあった?」と思わず立ち止まってしまうような、街の記憶に溶け込む表示なんですね。
掲出場所も具体的です。案内板No.6付近の路地や、別地点の柱など分散配置され、期間も明示されている。ここでは「街を歩く」という日常動作が、そのまま作品世界への入口になっているんです。
広告と生活行動が分離せず、通行体験がそのまま鑑賞体験へと連続する。メディアは通りそのものであり、そこに暮らす人の視線が編集者になります。
掲出の「目立たなさ」は、無視ではないんですよね。「馴染み=共存」という設計思想なんです。
これは、まさに星野源さんが志向するカルチャーとそれを受け取れるターゲット顧客のアンテナに、むしろかかりやすい内容になっていると思います。
自ら探して見つけるという行為そのものがさり気なさと、より良いものは、自然と広がるという証明の仕組みを内包しているのです。
任天堂Switch2――販売導線そのものが「関係性の言語」になる
任天堂Switch2のローンチは、販売のしくみ自体がコミュニケーション設計になっていた好例でした。
2025年4月の発売に向けて、任天堂は従来の「早い者勝ち」や「抽選のみ」とは異なる販売方式を採用したんです。
日本のマイニンテンドーストアでは、抽選→招待→一般化という段階を踏み、「関係性に基づくアクセス設計」を打ち出しています。
公式の「第5回 抽選販売」案内や規約を見ると、応募条件として以下が明記されているんです。
- 2025年2月28日時点でSwitchソフト50時間以上のプレイ
- Nintendo Switch Onlineに累積1年以上加入(応募時も加入中)
これらは単なる条件ではなく、「関係性を示す指標」なんですね。
つまり、単に「買える人」ではなく「遊んできた人」に門戸を広げている。
販売は「選別」ではなく「関係の可視化」になっている。販売の場が、そのままブランドメッセージの場になっているわけです。
さらに期日を切って招待制から一般へ段階移行する設計も明快でした。米国公式の「How to Buy」ページでは「2025年8月28日以降は招待不要」と明示され、「希少性→アクセス性」へとフェーズが移ることをユーザーに約束しています。
つまり「今は手に入りにくいけど、いずれ誰でも買えるようになる」という道筋を最初から示しているんです。これもまた、単なる在庫オペレーションではなく「いつ、誰に、どう開くか」という対話の提示なんですね。
「買わせる」ではなく「関係を結び直す」。
そのために、販売導線そのものを言語のように設計する。
B2B SaaS――学習がマーケティングであり、オンボーディングそのものになる
B2B SaaSのコンテンツマーケティングも、同じ地平に到達しています。
たとえば、プロジェクト管理ツールやマーケティングオートメーションツールなど、業務で使うソフトウェアを思い浮かべてみてください。導入前に公式サイトやブログで「使い方ガイド」や「導入事例」を読んだ経験はありませんか?
ホワイトペーパー、導入事例、ウェビナー、チュートリアル、プロダクトブログ……。これらはもはや「宣伝素材」ではないんですよね。
「使用前の学習が、使用そのものを前倒しする」んです。
たとえば、課題の定義→概念理解→操作の雛形→サンドボックスでの試用→本番適用、という一連の”学習ジャーニー”が、そのままオンボーディングの一部に組み込まれていく。
営業前に「価値の使い方」を体験できるので、導入後の価値実現(Time to Value)が早い。
さらに、コンテンツは検索経由の自然流入で「プロダクト外側からの発見」を作り、アプリ内ガイドやテンプレートは「プロダクト内側からの定着」を促す。内と外、長と短、概念と操作が一続きの回路で結ばれるんです。
内蔵型コミュニケーションの5つの設計原則
ここまで見てきた事例から、内蔵型コミュニケーションの設計原則を整理してみます。
① 体験の中に「意味」の手がかりを埋め込む
街の回遊、購入フロー、初期設定、問合せ導線。各接点の「行為そのもの」がメッセージを運ぶよう設計するんですね。
星野源の看板は街の景観に埋め込まれ、任天堂の抽選条件は関係性の指標を埋め込み、SaaSのチュートリアルは価値の使い方を埋め込む。
② 希少性の提示とアクセス性の解放を「時間軸で編む」
初期は関係の濃い層に手渡し、のちに広く開く。「順序の物語化」こそが体験の品質管理と熱量維持に効くんです。
Switch2の招待→一般化は、その順序をユーザーと共有した事例ですね。
③ 学習をマーケティングから「取り外さない」
解説記事やデモは広告の代替ではなく、「価値の前倒し体験」なんです。
使い方を覚える=価値を感じはじめる瞬間。学習と使用を連結させることで、営業・サポート・開発の学びも循環します。
④ 指標は「届けた数」ではなく「届き方」を見る
ビュー数やCVRだけでなく、「発見→理解→行動→継続」の遷移を追う。
どの接点で意味が立ち上がり、どの接点で詰まるか。内蔵設計はKPIの並べ替えを迫ります。
⑤ 非言語の一貫性を優先する
トーン、質感、リズム。
星野源の「馴染む」掲出は非言語の設計ですし、任天堂の段階設計は緊張と解放のリズムを制御する非言語です。「言葉より先に体験が語る」んですね。
建築・広告・診断士という三つの視点でいえば、これは「空間・導線・運用」の三層を束ねる作業に近いと感じています。空間(作品/プロダクト)に、導線(出会い方/買い方/学び方)を設け、運用(時期・条件・サポート)を重ねる。
よいコミュニケーションは「設置物」ではなく「運用設計」なんです。掲出場所やUIは器でしかありません。真価は、それが生活や業務プロセスにどう馴染むか、時間のなかでどう開閉するか、運用のリズムに宿るんですね。
「広告を足す」ではなく「体験を整える」。その結果として「伝わってしまう」。
“事業”は、「外付け」ですか?
最後に、読者の皆さんへ問いかけてみたいと思います。
ご自身が関わる事業や組織のコミュニケーションは、まだ「外付け」でしょうか。
それとも「内蔵」になっているでしょうか。
もし前者なら、まずは入口の動線だけでも体験側へシフトしてみる。
販売・予約・学習・サポートのどこか一箇所で、「行為=メッセージ」になる回路を設計してみるんです。
そこから全体が変わりはじめるのだと思います。
それでは、また来週お会いしましょう。
参考にした一次情報
- 戸越銀座「よりみち、とごし。」星野源6thアルバム『Gen』看板掲出と掲出場所・期間の記載 https://yorimichi.togoshiginza.jp
- 音楽ナタリー「星野源の昭和レトロな『Gen』広告看板、東京&大阪の商店街に溶け込む」(2025-05-21) https://natalie.mu/music/news/624686
- 任天堂 My Nintendo Store「第5回 抽選販売」応募条件(50時間/NSO1年以上)
- 任天堂 US「How to Buy」― 2025/8/28以降の招待不要化
- 任天堂 JP「招待販売について(9/10更新)」― 抽選落選者を対象に招待販売
