この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
【経営ビジョンの視点で読み解く本書の核心】パーパスは企業スローガンではなく、個人の内側から湧き出るものです。吉備友理恵・近藤哲朗が30事例の分析から導いた「共創の設計図」は、人を巻き込む場のつくり方を根本から問い直します。
1.パーパスは個人から生まれる:組織の言葉ではなく、一人ひとりの動機が共創の起点になる
2.円の構造が共創を育てる:ヒエラルキーを手放したフラットな関係性が、人を自然に巻き込む
3.大きな文脈への接続:目の前の課題を超えて時代や社会とつながることで、動きが広がる
- 「共創」という言葉を、あなたはどう使っていますか?プレゼン資料の見出しに書いたり、会議でさらっと口にしたりすることはあっても、いざ「じゃあ誰と、どうやって?」という問いに向き合うと、急に言葉に詰まる。そういう経験、あるんじゃないかと思います。
- 実は、共創がうまくいかない多くのケースでは、「何のために集まるのか」というパーパスが曖昧なまま進んでいることが多い。あるいは、パーパスを「企業のもの」として外側から貼り付けようとしていることが原因になっていたりします。
- なぜなら、本当の共創は、組織のスローガンではなく、関わる人一人ひとりの内側にある動機から始まるからです。そしてそこには、「誰と、どんな関係を、どう発展させていくか」という問いが、常にあり続けます。
- 本書は、パーパスを軸にした共創プロジェクトの設計図「パーパスモデル」を提唱する一冊です。30事例の調査・分析をもとに、異なるセクターや組織を超えた横のつながりをどう生み出すかを、具体的かつ実践的に解説しています。
- 本書を通じて、共創の場をつくることは、特別な才能や大きな権限がなくてもできるのだということが、じわりと伝わってきます。必要なのは、問いを持ち続けることと、関わる人との関係を丁寧に育てていく姿勢なのかもしれません。
吉備友理恵さんは、デザインリサーチャー・コ・クリエイターとして活動し、社会課題を起点とした共創プロジェクトの設計と実践を続けてきた方です。企業・行政・NPOなど多様なセクターをまたいだプロジェクトに携わる中で、「設計図がないまま走り出す共創」の難しさを肌で感じ、パーパスモデルの開発へとたどり着きました。
近藤哲朗さんは、ビジネスデザイナーとして活動しながら、パーパスドリブンな経営や組織づくりを支援してきた方です。2人のコラボレーションから生まれたパーパスモデルは、単なる分析ツールにとどまらず、人を動かす「場」を設計するための思考の枠組みとして、多くの実践者に使われています。
パーパスは個人の中から生まれる
共創プロジェクトの多くが「パーパス不在のまま走り出す」という状態に陥りやすい。それは、パーパスを企業や組織の「外向けメッセージ」として捉えてしまっているからではないかと思います。
本書の冒頭に、こんな一節があります。
パーパスは、企業や組織だけのものではないはず。むしろ、個人の中にこそ生まれるものではないでしょうか。
この視点は、パーパスという言葉が持つ意味を根本から問い直しています。「なぜこれをやるのか」という問いに、組織の言葉ではなく自分自身の言葉で答えられるかどうか。それが共創の起点になるんです。
コンサルタントとして多くの経営者と対話してきた中で感じるのは、パーパスが「腹に落ちている人」と「頭でわかっている人」では、プロジェクトへの関わり方がまったく違うということです。腹に落ちている人は、困難に直面したときでも「なぜこれをやるのか」に立ち返ることができる。一方で、頭だけでわかっている人は、少し壁にぶつかるとモチベーションが揺らいでしまう。
本書が強調しているのは、パーパスモデルをつくる目的が「組織やセクターを超えたパーパスを中心とした横のつながりによって共創プロジェクトが成り立つことを後押しすること」だということです。つまり、パーパスとは単なる理念の言語化ではなく、人と人をつなぐ接着剤のような役割を担っているわけです。
重要なのは、この「個人のパーパス」が出発点になるとき、共創は「動員」ではなく「共鳴」として機能し始めるということです。参加者が「やらされている」のではなく「やりたい」と感じるとき、場のエネルギーはまるで変わります。
パーパスモデルが想定する使用場面として、新しいプロジェクトの内容を検討したり、既存の事業の現状を整理して今後の戦略を立てたり、ステークホルダーと対話したりする場面が挙げられています。これらすべてに共通しているのは、「自分はなぜここにいるのか」という問いを持ち続けることの大切さです。
共創に関わる一人ひとりが、自分のパーパスを言語化し、それを他者と重ね合わせていく。その積み重ねが、組織の枠を超えたプロジェクトを動かしていく原動力になるんだということを、本書は丁寧に示してくれます。
「円」の構造が共創を育てる
パーパスモデルが「円」の形をしている理由は、単なるデザイン上の選択ではありません。そこには、共創そのものの構造が反映されています。
本書にはこんな記述があります。
共創プロジェクトでは、ステークホルダー同士がフラットな関係で、目的も最初から固定されておらず、徐々に形にしていくもので、人を巻き込みながら横に大きくなっていく「円」の構造をなしている。
ヒエラルキーの「三角形」ではなく、フラットな「円」。この違いは、見た目以上に本質的です。三角形では、意思決定が上から下へ流れ、関わる人はあらかじめ決められた役割に収まります。
一方、円では、目的そのものが対話の中で育っていき、関わる人が「どこからでも入れる」構造になっています。
ここで重要なのが、関わり方のグラデーションという考え方です。本書では、共創への参加を以下の5段階に分類しています。
- 活動を観察する
- 活動にリアクションする
- 活動をサポートする
- 活動を実行する
- 活動を推進する
全員に同じ熱量や関わりを求めないこと。これは、共創プロジェクトを持続させる上で非常に実践的な視点です。「関わってほしい」と思う相手に、いきなり「一緒に推進してほしい」と求めてしまうことが、実は多くの共創を頓挫させている原因のひとつなんです。
経営コンサルタントとして組織変革の現場に立ち会ってきた経験から言えば、変革への抵抗はたいてい「急に深く関わることを求められる」ことから生まれます。
まず観察してもらう、次にリアクションしてもらう。
↓
その積み重ねの中で、自然と「もっと関わりたい」という気持ちが生まれてくる。
これは組織開発の現場でも、共創プロジェクトでも、まったく同じ原理で動いています。
また、共創やイノベーションを引き出すには、
フューチャーセンター(さまざまなセクターの人が集まり肩書きを外して課題を探究する場)、
イノベーションセンター(企業の技術やリソースを使って共に解決策のプロトタイピングを行う場)、
リビングラボ(生活空間の中で解決策を試し新しい価値観を社会に実装する場)という
3つの「場」の機能が必要だとされています。
この3つの場の設計は、単に物理的な空間の話ではありません。「どんな問いを持ち込む場か」「どんな関係性をつくる場か」という場の性質を設計することが、共創の質を左右するんです。
円の構造は、関わる人が増えれば増えるほど、その縁(えん)がより豊かになっていく。
そういうイメージを持てると、共創への向き合い方が少し変わってくるんじゃないかと思います。
大きな文脈につなぐことで共創は広がる
プロジェクトが行き詰まるとき、多くの場合、視野が「目の前の課題」に固まってしまっています。自社の技術をどう活用するか、目の前の顧客の問題をどう解決するか。それ自体は大切なことですが、そこだけにとどまると、活動の広がりが得られないことがある。
本書が問いかけるのは、「大きな文脈につなげることができているかどうか?」という視点です。
大きな文脈とは、企業の長期的な経営戦略や政治・行政の政策、社会情勢や世論の価値観の変化などが挙げられる。
具体的には、「企業の長期的な戦略に紐づけられているか」「将来打たれうる政策に合致しているか」「次世代の価値観の変化に対応しているか」という問いが示されています。
この視点を象徴するのが、本書で紹介されているニューヨークの「ハイライン」の事例です。廃線跡を公園として保存しようと動き出した2人の青年が、写真家と協力して魅力を発信し、周辺住民を巻き込み、寄付する人を増やし、世論を形成していった。その盛り上がりを受けて、廃線跡を公園にすることを公約に掲げた政治家が選挙で勝ち、ついに実現した。
このプロセスで重要なのは、2人がただ「廃線跡を残したい」という個人の思いだけで動いていたのではなく、都市の記憶、地域の誇り、次世代への継承という大きな文脈と接続することで、多くの人の「私たちごと」にしていったという点です。
共創が起きやすい社会環境として、本書は「共通する課題認識がある」「ステークホルダーをつなぐ場や組織があり、つなぎ手がいる」「明確なビジョンや構想がある」「リスクを負担するしくみがある」「社会関係資本がある」という5つの条件を挙げています。
この中で特に注目したいのが「リスクを負担するしくみ」です。単年度の予算ではなく5〜10年の中長期的な予算が確保されていること、規制緩和の政策があること、税制優遇のしくみがあること。これらは、共創を「夢物語」から「実装可能な現実」へと引き下ろすための条件です。
また、イノベーション経営は3階建てだという考え方も印象的です。コア事業・新規事業・イノベーション創出は性質がまったく異なるため、それぞれ別の階に分けて経営する。見るべき指標も評価も違う。この分け方は、短期的な利益を求める視点と、長期的な共創を育てる視点を、同じ物差しで測ろうとしないための知恵とも言えます。
大きな文脈とつながることは、プロジェクトの意味を増幅させます。
「自分たちが何をしているのか」が、より広い物語の一部として見えてくるとき、関わる人のモチベーションは質的に変わっていく。そういう体験を、共創の場でつくっていくことが大切なんだと思います。
まとめ
- パーパスは個人の中から生まれる――共創の起点は、組織のスローガンではなく個人の動機です。「なぜこれをやるのか」を自分の言葉で語れる人が増えるほど、場のエネルギーは「動員」から「共鳴」へと変わっていきます。
- 「円」の構造が共創を育てる――フラットな関係性と関わり方のグラデーションが、持続的な共創を支えます。全員に同じ熱量を求めず、観察から推進まで自然な段階を設けることで、人は無理なく深く関わるようになります。
- 大きな文脈につなぐことで共創は広がる――目の前の課題を超えて、社会・政策・次世代の価値観といった大きな流れと接続することで、共創はより多くの「私たちごと」を巻き込んでいきます。
実践のためのQ&A
本書の内容を踏まえ、読者が直面しやすい「1歩先の疑問」についてまとめました。
この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。
