この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
【経営ビジョンの視点で読み解く本書の核心】「好きなことで生きていく」という言葉に惑わされていませんか?布留川勝が提唱するgALfは、「できること(Able)を深めることで、仕事を好き(Like)になっていく」という逆転の発想でキャリアの本質を解き明かします。
1.AbleからLikeへの順番:好きを先に探すのではなく、できることを磨くことが天職への入口になる
2.ALPAサイクルの起動:Able→Like→Passion→Ableのサイクルが回り始めると、仕事が内側から輝き始める
3.良い偶然を引き寄せる力:g(やり抜く力)とf(羅針盤)を持つ人だけが、キャリアの偶然をチャンスに変えられる
- 「好きなことを仕事にしよう」——そんな言葉を、 一度は耳にしたことがあるんじゃないでしょうか。
- 実は、その順番が逆かもしれない。
- なぜなら、「好き」は先に見つけるものではなく、 「できること」を深めていく過程で、 じわじわと育まれていくものだからです。
- 本書は、元リクルートの人材育成のプロである布留川勝さんが 長年のキャリア支援の実践から生み出した 「gALf(ガルフ)」というフレームワークを軸に、 天職・感謝・お金という3つの幸せを手に入れるための道筋を示した一冊です。
- 本書を通じて、「仕事をどう好きになるか」ではなく 「どう仕事を好きになっていくか」という、 能動的なキャリアのつくり方が手に入ります。
布留川勝さんは、リクルートグループで長年にわたり人材育成・キャリア開発に携わってきた実践家です。延べ数万人のビジネスパーソンと向き合ってきた経験をもとに、「どうすれば人は天職を手にできるのか」という問いに向き合い続けてきました。
現在は独立し、企業研修や個人コーチングを通じてgALfの思想を広める活動をしています。本書は、そうした膨大な現場経験から蒸留された、キャリア論の集大成とも言える一冊です。
AbleからLikeへ——「好き」を先に探す罠
「好きなことを仕事にする」という言葉が、 ここ十数年でずいぶん市民権を得たと思います。
SNSを開けば「情熱を持てる仕事をしよう」という言葉が溢れ、 転職市場でも「やりたいことは何ですか?」という問いが 当然のように投げかけられる。
でも正直に言えば、「やりたいこと」が明確にある人なんて、 そう多くはない。
むしろほとんどの人は、何が好きかよくわからないまま 仕事をしているし、 「好きなことが見つからない自分はダメなんだろうか」と 密かに焦っていたりする。
gALfは、この問いへの明確な答えを持っています。
A は「Able(できること)」、L は「Like(好きなこと)」を指している。
この順番が、すべての核心です。
つまり、「好き(Like)」を先に探すのではなく、 「できること(Able)」を深めていくことで、 やがて「好き」が生まれてくる——という考え方です。
これは、現代の「自己実現ファースト」な風潮への、 静かで深い異議申し立てだと思います。
考えてみれば、仕事が好きになる瞬間って、 何かをうまくできた時じゃないでしょうか。
はじめは全然できなかったことが、 少しずつできるようになって、 誰かに「ありがとう」と言われて、 もっとうまくなりたいと思う—— その繰り返しの中で、気づいたら好きになっている。
「先に好きを見つけなきゃ」という強迫観念から解放されると、 今目の前にある仕事が、まったく違って見えてきます。
本書が提唱する「Like-Seeker」という概念も興味深い。 好きなものをひたすら追いかける人は、 壁にあたったとき「私に合うもの、好きなものは他にあるはず」と 困難を避けてしまうんです。
その結果、Ableが大きくならず、 自分の可能性を狭めながら時間だけが過ぎていく。
一方でgALfが目指す「ALPAr(アルパー)」は違います。 学ぶ姿勢を持ち、時間とともにできることが増え、 それがオリジナリティの高い仕事につながり、 周囲から評価される。 その結果、仕事が好きになり、 パッションが芽生え、 さらに高いレベルを目指すサイクルが生まれる。
これが、「AbleからLike」という順番の持つ 本当の意味だと思います。
さらに本書はこう指摘します。
Honmono(本物)の仕事の域に達するには、人並みの熟達では物足りない。「この仕事は○○さんでなければ」と、思い起こされるようなレベルにまでAbleを磨き上げるとなれば、半端な気持ちでは成し得ない。
「本物」と呼ばれるレベルに達するためには、 ただ「できる」だけでは足りない。 なりふり構わず没頭し、経験を重ね、 周りの目を気にせずに挑み続ける。
そこまでAbleを磨き上げようとするとき、人は初めて仕事の深い喜びに触れるんだと思います。
ALPAサイクルが回り始めるとき——歯車の再定義
「組織の歯車になるな」という言葉を聞いたことがある人は多いと思います。
でも本書は、その比喩を真正面から問い直します。
歯車は、機械を動かすのに欠かせない要素である。歯車が面白いのは、単体で存在しても役には立たないところにある。歯の数や大きさの異なる歯車を複数組み合わせることで、回転のバリエーションが生まれる。
歯車であることは、悪いことじゃない。 ただし、「受け身の歯車」は錆びついていく—— それが本書のメッセージです。
では、歯車が錆びつかないためには何が必要か?
本書が指摘するのは、ALPAサイクルを回し続けることです。
Able(できること)→ Like(やりがい)→ Passion(情熱)→ Able(より高次のできること)
このサイクルを、4つのフェーズで見てみましょう。
- 第1フェーズ:できること(Able)の質と量を増やすことが、やがてやりがい(Like)の種になると信じて取り組む
- 第2フェーズ:やりがいのあるできることで前向きに働き、成果が出てきたことで周囲の見る目が変わり始める
- 第3フェーズ:周囲の評価が昇格・昇給として還元され、より難度が高く責任の伴う仕事を任されるようになる
- 第4フェーズ:やりがいが周囲からの評価によるものではなく、自身の内側から生まれ出る「情熱(Passion)」へと変わっていく
このサイクルの美しさは、 外からの評価に依存しなくなる第4フェーズにあります。
最初は「うまくできると嬉しい」という他者視点だったものが、 やがて「もっと深めたい」という内発的な動機に変わっていく。 これが、天職を手にした人の内側で起きていることだと思います。
そしてこのサイクルを加速させるのが、 「ジョブ・クラフティング」という視点です。
今ある”与えられた仕事”を「”自分の仕事”にするにはどうするか」を考え、自発的に工夫を凝らしながら取り組むことをジョブ・クラフティングと呼ぶ。
ジョブ・クラフティングには3つの視点があります。
① 仕事の取り組み方——プロセスや方法を見直し、精度と効率を高める
② 人とのかかわり方——関係性やコミュニケーションを工夫し、仕事の満足度を高める
③ 仕事の意味・意義——社会との関わりや自身の関心とのつながりを考え、目的を再確認する
この3つを意識するだけで、 同じ仕事がまるで違うものに見えてくる。
「与えられた仕事」を「自分の仕事」に変えていく—— これこそが、受け身の歯車から能動的な歯車への転換です。
コンサルタントとして多くの経営者や管理職と話していると、 「仕事が楽しい」と言う人たちに共通点があることに気づきます。 それは、仕事を「やらされている」と感じていないこと。 どんな環境であれ、自分なりの工夫を重ねながら、 仕事に意味を見出し続けている。
ALPAサイクルを意識して回している人は、 まさにそういう生き方をしているんだと思います。
キャリアの8割は偶然——gALfな生き方が「良い偶然」を引き寄せる
スタンフォード大学のクランボルツ教授が1999年に発表した 「計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」を ご存知でしょうか。
ビジネスに成功した人を調査したところ、「キャリアにおけるターニングポイントのおよそ8割が、本人の予想しない偶然の出来事によるものだった」という。
キャリアの8割は、偶然から生まれる。
これを聞いて、「じゃあ計画なんて意味がない」と思う人がいるかもしれません。でもそれは違います。
問いは「偶然か計画か」ではなく、 「どうすれば良い偶然を引き寄せられるか」なんです。
本書はここで、gALfの「g」と「f」が重要な役割を果たすと言います。
g = GRIT(やり抜く力) ダックワースは著書の中で、GRITを「粘り強さ」と「情熱」と表現しています。 さらに本書では、GRITを構成する4つの要素として Guts(闘志)・Resilience(復元力)・Initiative(主体性)・Tenacity(執念) が示されています。
困難に立ち向かう度胸、失敗してもあきらめずに立ち直る力、 率先して主体権を握る姿勢、そして最後までやり遂げる執念—— この4つが揃ったとき、人は偶然の出来事を ただ「運が良かった」で終わらせず、 チャンスとして掴み取ることができる。
f = foresight(人生の羅針盤) 自分自身の人生の方向性を決める、内なるコンパスです。
羅針盤なき船は、どんな風が吹いても目的地にたどり着けない。 逆に言えば、羅針盤さえあれば、 予期せぬ風(偶然)もうまく活用できる。
GRIT(やり抜く力)もforesight(自分自身の人生の方向性を決めるときの羅針盤)もない人の人生に、良い偶然が起こるだろうか?偶然のチャンスを掴むためには、大きく変わる世界情勢・外部環境を見据えながら、自分の道を切り開き、困難に立ち向かう強さが必要だ。
これは、AI時代を生きる私たちにとって、 特に重要なメッセージだと思います。
テクノロジーが急速に進化し、 昨日まで「できること(Able)」だったものが 明日には陳腐化するかもしれない時代。
そんな時代だからこそ、 どんな偶然に出会っても対応できるAbleの深さと、 ぶれない羅針盤(foresight)が問われるんです。
本書はまた、「運」についてこんな整理をしています。
自分でコントロールできない運として「宿命(Destiny)」と「偶然(Randomness)」があります。一方で、自分でコントロールできる運として「機会(Opportunity)」と「確率(Probability)」がある——。
良い偶然を引き寄せたいなら、 コントロールできない運を嘆くのではなく、 コントロールできる運を育てることに集中する。
そのための具体的な道筋として、 本書はgALfな生き方に近づく4つのステップを提示しています。
ステップ1 尊敬する人をgALfを通して分析する
ステップ2 自身の「ものさし」を手に入れる
ステップ3 どのAbleを大きくするのかを考える
ステップ4 どう生きたいかをイメージする
この順番も、示唆に富んでいます。
最初に「どう生きたいか」を考えるのではなく、 まず尊敬する人を分析することで 自分の内なる価値観を引き出す。 そして「ものさし」を手に入れた上で、 磨くべきAbleを選ぶ。
これは、「やりたいことを見つけてから動く」という 従来のキャリア論とは真逆のアプローチです。
動きながら、磨きながら、羅針盤を育てていく—— それがgALfな生き方の本質だと思います。
まとめ
- AbleからLikeへの順番がすべてを変える——「好き」を先に探すのではなく、「できること」を深めることで仕事を好きになっていく。Like-Seekerになると困難を避け続けてしまうが、ALPArとしてAbleを磨き続けると、やがて情熱(Passion)が内側から湧き出てくる。
- ALPAサイクルと歯車の再定義——受け身の歯車は錆びつくが、ジョブ・クラフティングを通じて仕事を「与えられたもの」から「自分のもの」に変えていくとき、ALPAサイクルが回り始める。外からの評価への依存が、内なる情熱へと転換されていく過程が天職への道だ。
- 良い偶然を引き寄せるgALf——キャリアの8割は偶然から生まれるが、g(GRIT)とf(foresight)を持つ人だけが偶然をチャンスに変えられる。コントロールできる運を育てること——それが、AI時代を生き抜くためのキャリア戦略の核心だ。
実践のためのQ&A
本書の内容を踏まえ、読者が直面しやすい「1歩先の疑問」についてまとめました。
この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。
