この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
【経営ビジョンの視点で読み解く本書の核心】人生100年時代、私たちはどのように生きるべきなのか。横山禎徳が提示するのは、組織の階段を上る「出世」ではなく、身体知を蓄積し続ける「拡大」という生き方です。13歳から15年刻みで人生をリセットし、地位や権力ではなく目に見えない資産を育てていく。定年のないプロフェッショナルとして、複雑系の中で感度を巡らせ続ける実践を、人生という長いスパンでデザインする知恵がここにあります。
1.リセット可能な人生設計:13歳からスタートし、28、43、58、73、88を節目とする15年刻みの人生デザイン
2.プロフェッショナルとしての拡大:地位・権力ではなく、身体知として蓄積される能力と信頼という見えない資産
3.課題設定型リーダーシップ:与えられた問いに答えるのではなく、問い自体を定義し、世界に思想的影響力を発揮する生き方
- あなたの人生は、本当にあなた自身がデザインしたものでしょうか?
- 実は、多くの人が「いい大学、いい会社」というレールの上を走り、気づけば定年が見えてくる。そのとき初めて、地位と権力が幻想だったことに気づくんです。しかし、その時点では遅い。
- なぜなら、人生100年時代において、定年後の人生はまだ30年以上も続くからです。65歳で組織を離れたとき、あなたに残るものは何か。肩書きか、それとも身体知として蓄積された能力と信頼か。
- 本書で横山禎徳が提示するのは、組織の階段を上る「出世」ではなく、生涯を通じて拡大し続ける「プロフェッショナル」という生き方です。13歳からスタートし、15年刻みで人生をリセットする。28歳、43歳、58歳、73歳、88歳——それぞれの節目で、次のステージへの能力を鍛え直していく。
- 本書を通じて、あなたは人生をシステムとして捉え直し、リセット可能な設計図を手にすることになるでしょう。定年のない生き方。地位ではなく資産を育てる人生。そして、課題を設定することで世界に思想的影響力を与える存在になる——それが、AI時代における新しい人間の価値なのです。
前編では、横山禎徳が半世紀の実践から体系化した「社会システム・デザイン」の核心を探りました。
線形思考から循環思考へ。多くの組織が取り組んでいるのは「課題」ではなく「現象」でしかない。悪循環の背後にある「中核課題」を発見し、良循環を創出する。そして「成長」から「拡大」へという発想転換——数値的な伸びが止まった後も、質的な深化を追求し続けることができるという洞察。
AI時代において人間の強みとなるのは、知識・技能・知恵の三位一体として習得される「身体知」でした。デザインには正しい答えが存在しない。経験的な文化として、バラバラな要素を統合し、コンテクストに応じた最適解を見出していく。
そして、アンビバレント、オクシモロン、パラドックス。
矛盾を抱える勇気を持ち、思考の枠を自ら設けず、複雑系の中で感度を巡らせ続ける実践。
では、こうした実践を、私たち個人の人生という長いスパンで考えたとき、どのような生き方のデザインが可能になるのか。今回は、この視点から横山氏の思想をさらに掘り下げていきます。
前回の投稿はこちら「世界を“わかる”ということとは!?『戦略、組織、そしてシステム』横山禎徳」からご覧ください。
定年のない人生──プロフェッショナルという選択
複雑系の中で感度を巡らせ続ける実践を、私たちはどのように人生全体に適用できるのか。横山氏が提示するのは、従来の「出世」という価値観から根本的に離れた、新しい生き方のデザインです。
横山氏が建築家を選んだ理由は、極めてシンプルでした。
建築家をはじめプロフェッショナルには定年がないのです。それが私が建築家を選んだ最大の理由でした。
定年がない。
この一点が、彼の人生設計の出発点だったわけです。組織に所属し、階段を上り、やがて定年を迎える。その瞬間、地位も権力も失われる。しかしプロフェッショナルには、そうした区切りが存在しません。生涯を通じて、自分の能力を磨き続け、価値を提供し続けることができます。
地位と権力とは違う、目に見えない資産を蓄積していくプロセスをデザインしているのです。その意味では、プロフェッショナル型発想の人生のほうがリセットをしやすい。プロフェッショナルは、専務から副社長になって社長になるという人生ではないのです。
ここに、横山氏の人生哲学の核心があります。
地位と権力は移ろいやすい。
組織の中での位置づけは、組織の都合によって変わります。しかし、身体知として蓄積された能力、経験を通じて培われた洞察、人々からの信頼——こうした目に見えない資産は、容易に失われることはありません。
横山氏はプロフェッショナルについて、こう定義しています。
プロフェッショナルというのは、合理的なものと非合理的なものを、現実を直視しながら組み立てて推進していく能力がある人たちなのです。つまり、前章まで述べてきた戦略的思考、分析を使って、非合理的なものと対峙して、現実社会を変えていくのです。
合理と非合理の統合。これは前編で見たパラドックスを抱える実践そのものです。論理的に正しいことが、必ずしも現実の中で機能するとは限らない。人間の感情、組織の慣性、政治的な力学。こうした非合理的な要素を無視すれば、どれほど優れた戦略も実現しません。
プロフェッショナルとは、この複雑な現実と向き合い続ける存在です。分析という合理的な道具を使いながら、同時に人間的な洞察、経験から得られた知恵、状況に応じた柔軟性を発揮する。知識・技能・知恵の三位一体としての身体知を、生涯を通じて磨き続けるわけです。
ライフステージ・マネジメントの観点からは、組織の階段を上る伝統的な「出世」の価値観から抜け出して、プロフェッショナル型の成功の価値観をもってほしいと思います。地位と権力が移ろいやすいことに定年間近になって気がつく現在の状況から脱するのも、このシステムが提供するメリットです。
定年間近になって初めて、地位と権力が幻想だったことに気づく。これは多くの人が直面する現実です。しかし、その時点で気づいても遅い。だからこそ、若いうちから——いや、人生の早い段階から——プロフェッショナル型の価値観を持つ必要があるわけです。
15年刻みのリセット──人生をデザインする技法
では、プロフェッショナルとしての人生を、具体的にどうデザインすればよいのか。横山氏が提唱する人生設計は、極めて具体的です。
中学生の13歳からスタートして、15年刻みで、28、43、58、73、88を節目とする。よくみなさん、30とかキリがいい年を節目と捉えるけど、30歳になったら「もう20代ではないんだ」というような不安感を覚えることもあるので、その一歩手前の28歳を節目にしたほうがいい。キリのいい数字のちょっと手前で人生リセットするのが大事なんです。
なぜ15年刻みなのか。
なぜキリのいい数字ではなく、その手前なのか。
これは単なる数字遊びではありません。人間は心理的な区切りに過剰に反応してしまう。「30歳になった」「40歳になった」という事実が、不安や焦りを生む。その一歩手前でリセットすることで、より冷静に、より主体的に次のステージを設計できるわけです。
各ステージのリセットは次のステージに向かう能力を鍛える準備にもなるんです。
リセットとは、単に区切りをつけることではありません。次のステージで必要になる能力を見極め、それを鍛える準備期間。28歳で何をすべきか。43歳で何が求められるか。58歳でどう変化すべきか。こうした問いを自分に投げかけ、意識的に能力を更新していく。
これは前編で見た「成長から拡大へ」という発想転換と完全に一致しています。
「線形思考」から「循環思考」へ、「成長」から「拡大」へ、発想を転換するんです。「成長」は「拡大」の一次微分でしかありません。要するに、成長から拡大に転換できる。人間と同様に、子どもから大人への伸びやかな成長はある段階で止まる。たしかに、背は高くならないけれど、「風格が出てきた」とか「説得力がある」とか、人間の厚みが増して「大人の成長」=「拡大」をしていくわけです。
数値的な成長——収入、肩書き、組織内の地位——はいずれ頭打ちになります。しかし、人間の厚み、影響力、洞察の深さ、人としての風格。こうした質的な側面は、生涯を通じて拡大し続けることができます。
28歳でのリセットは、単なる転職や部署異動ではありません。それまでの15年間(13歳から28歳)で蓄積した経験を振り返り、次の15年間(28歳から43歳)でどのような能力を伸ばすべきかを見極める。そのための意識的な区切りです。
43歳では、さらに深い洞察が求められます。キャリアの中盤に差し掛かり、専門性が確立されてくる時期。しかし、ここで満足してしまえば、その後の「拡大」は止まってしまう。だからこそリセットする。新しい領域に挑戦するか、既存の専門性をより深めるか、あるいは異なる視点を取り入れるか。
58歳のリセットは、多くの人にとって最も重要かもしれません。定年が見えてくる年齢。しかし横山氏のフレームワークでは、ここからさらに30年の人生が待っています。73歳、88歳という節目まで、どのように「拡大」し続けるか。この視点を持つことで、58歳以降の人生が根本的に変わってきます。
15年刻みのリセット。
これは、人生を線形的な成長曲線として捉えるのではなく、循環する学習と適応のプロセスとして捉える技法です。各ステージで蓄積した身体知を次のステージに活かしながら、同時に新しい能力を開発していく。終わりのない「拡大」の旅といえます。
課題を設定する生き方──思想的影響力を持つ
個人の人生設計を超えて、横山氏が提起するのは、より大きな社会的使命です。
横山氏は、日本の従来型キャリアモデルの問題点を鋭く指摘しています。
日本はいまだに、いい大学を出ていい就職をすることで人生が決まるって傾向が強い。
この構造は、リセットを許容しません。一度レールから外れると戻りにくい。新卒一括採用、年功序列、終身雇用。こうしたシステムは、多様な人生の可能性を狭めています。
横山氏が提案するのは、システムそのものを変えていく必要性です。
多様な人生をデザインできる時代に
個人がどれほど主体的に人生をデザインしようとしても、社会システムがそれを許容しなければ実現できません。だからこそ、社会システム・デザインの視点が重要になってくるんです。個人の生き方の変革と、社会構造の変革は、表裏一体の関係にあります。
リセットし、やり直せる社会システムを
そして、この視点は国家レベルの戦略にも適用されます。
今の日本には、アジェンダ・シェーピング・リーダーシップ(Agenda-shaping Leadership 課題設定型のリーダーシップ)の発揮が重要です。
課題設定型のリーダーシップ。これは、与えられた問いに答えるのではなく、問い自体を定義する力です。世界がどのような課題に直面しているかを提示し、その解決のための新しい循環をデザインする。
ただし、「社会システム・デザイン」を対外戦略に使う発想をしていく必要があります。他国に先んじて課題設定を行なう存在感のある役割を明確に自分で定義し、それに沿って行動することが、今後の対外戦略の課題になってくるでしょう。これまでの日本は、思想的な影響力が弱いんです。
個人の人生においても、組織においても、国家の戦略においても、同じ原理が貫かれています。与えられた枠組みの中で最適化するのではなく、枠組み自体を問い直し、新しいシステムをデザインする。
横山氏が繰り返し強調する「100回以上考える」「人の10倍考える習慣」。これは人生という長いスパンにおいても適用される原則です。
その真意は「100回以上考える」「人の10倍考える習慣」、とにかくモノゴトの本質を考え抜くことの大切さを説いている。
自分の人生は、本当に自分がデザインしたものなのか。社会の期待、親の期待、周囲の価値観に流されていないか。組織の階段を上ることが、本当に自分の望む「拡大」なのか。
こうした問いを、13歳から、28歳で、43歳で、58歳で、何度も何度も自分に投げかける。
そして必要であれば、勇気を持ってリセットする。新しいステージに向けて、能力を鍛え直す。
さらに重要なのは、この実践が個人の枠を超えて、社会に対する思想的影響力を持つということです。プロフェッショナルとして生きるということは、単に自分のキャリアを管理するだけではありません。自分が設定した課題を通じて、周囲に、組織に、社会に、影響を与えていく。
AI時代において、知識の処理をAIに任せた先に、人間は何をすべきなのか。
横山氏の答えは明確です。システムとして世界を理解し、デザインという身体知で統合し、複雑系の中で感度を巡らせ続ける。そしてその実践を、人生という最も大きなキャンバスに適用する。
リセット可能な人生。定年のないプロフェッショナリズム。地位ではなく資産を育てる生き方。そして、課題を設定することで世界に影響を与える存在になる。これが、横山禎徳が提示する、人生100年時代の新しい地図なのです。
まとめ
- 定年のない人生──プロフェッショナルという選択――地位と権力は移ろいやすいが、身体知として蓄積された能力と信頼は失われません。プロフェッショナルとは、合理と非合理を統合し、生涯を通じて価値を提供し続ける存在です。
- 15年刻みのリセット──人生をデザインする技法――13歳から28、43、58、73、88を節目とする。キリのいい数字の手前でリセットし、次のステージへの能力を鍛える。数値的な「成長」は止まっても、人間の厚みという質的な「拡大」は生涯続けられます。
- 課題を設定する生き方──思想的影響力を持つ――与えられた問いに答えるのではなく、問い自体を定義する。個人の人生も、社会システムも、枠組みを問い直してデザインする。「100回考える」習慣を人生に適用し、世界に思想的影響力を与えていく生き方です。
実践のためのQ&A
本書の内容を踏まえ、読者が直面しやすい「1歩先の疑問」についてまとめました。
この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。
