全体最適の視点を忘れず、“滞り”をなくそう!?『はかどる技術』鈴木邦成

はかどる技術
  • どうしたら日常の煩雑さから抜けて、自分の時間を主体的に創り出すことができるでしょうか。
  • 実は、滞りをなくす!という論点が重要かも。
  • なぜなら、それが社会のロジスティクスの真価であり、それは私たちの日常生活にも応用できるからです。
  • 本書は、物流の専門家が見つめる日常と仕事、時間の使い方に関する教訓を説く1冊です。
  • 本書を通じて、自分の主体性ある時間と人生を取り戻すヒントを得ることができます。
鈴木邦成
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滞りに着目せよ!?

鈴木邦成(すずき・くにのり)さんは、物流エコノミストとして知られ、日本大学の教授を務めるロジスティクスの専門家です。日本ロジスティクスシステム学会の理事や電気通信大学の非常勤講師としても活躍されており、物流改善・標準化・SCM(サプライチェーンマネジメント)に関する著作を数多く手がけてきました。

けれども鈴木さんの関心は、単なる物流の効率化にとどまりません。学生や社会人から寄せられる、就職・転職・勉強法・人づきあいといった「働く」ことにまつわる悩みにも真摯に耳を傾け、自らの専門知を応用しながら、実用的なアドバイスを日常的に行っているのです。

たとえば、倉庫の動線や在庫の配置を工夫して“滞り”をなくすように、仕事の段取りや人間関係にも、流れをよくする「設計の技術」が応用できる──そんな視点が、鈴木さんの思考の根底にはあります。

本書『はかどる技術』は、そうした実践知と理論の交差点に生まれた1冊。物流工学という一見ニッチな領域から、働き方や人生の詰まりをどうすれば解消できるのかという普遍的な問いへと、静かに橋を架けてくれるような本です。

「はかどる」とは、いったいどういう状態でしょうか。

単に手を早く動かすこと? 効率的にアウトプットを出すこと?
それとも、自分の中で何かが「スッ」と流れ出すような感覚──そんな状態を指すのかもしれません。

私たちの時間が「滞っている」と感じるとき、その多くは物理的な障害ではなく、構造や流れの不在に原因があるのではないでしょうか。
まるで、倉庫の中にモノが詰まりすぎて流れなくなるように、タスクや思考、人間関係が絡まり、前に進めなくなってしまうのです。

だからこそ、「はかどる」とは、時間を整える技術であると同時に、自分の中にある流れを整える技術でもあるのです。

現代を生きる私たちの仕事や暮らしには、目には見えない“滞り”がたくさん潜んでいます。
気づかないうちに、やらなくてはならないことが溜まり、あれこれ考えすぎては、手が止まり、焦りだけが先行する──そんな日々の感覚に、覚えがある方も多いのではないでしょうか。

鈴木さんは、そのような「滞り」にこそ問題の本質があると語ります。
物流の世界では、モノの流れに障害が起きると、即座に効率が落ち、コストがかさみます。
それと同じように、私たちの頭の中や時間の使い方にも「流れ」が必要であり、それを阻むピークや偏り、ムダ・ムリ・ムラを取り除くことが、実は“はかどり”の第一歩になるのです。

本書には、そうした「流れを整える知恵」が詰まっています。
時間術や生産性の話にありがちな「朝活」や「効率的なToDo」だけではない、もっと根本的な構造の見直し──つまり、人生そのもののロジスティクス設計が語られているのです。

ピークとオフピークの落差が「滞り」になる

忙しくて実は、時間がない!と思っているほど、ピーク対応に失敗している可能性があると言います。ものごとのバランスを見極めて、そして、流れが円滑にできるようにするのがポイントなのです。

たとえば──
「朝は仕事の効率が上がる」「朝活こそ成功者の習慣」
そんな言葉を、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

けれど、本当にそうでしょうか?
本書では、「朝活」のような方法論に対しても、安易に飛びつくのではなく、“本当に自分にとって流れが生まれる時間帯なのか”を問い直す視点が示されています。

実際、朝こそが“ピーク”となりがちな時間です。

情報が集中し、メールが溜まり、家族とのやりとりや通勤の支度が交錯する──そんな時間帯に、自分にとっての創造的な時間を当てるのが、果たして合理的かどうか。

大切なのは、“どの時間帯に最大の成果が出せるか”という外的基準ではなく、“どの時間帯に、心地よく集中できるか”“自分らしい流れがつくれるか”という内的設計です。

つまり、「朝活」が有効かどうかは、その人の生活リズムやエネルギーの波に応じたロジスティクスの問題とも言えるのです。

全体にも着目せよ!?

「はかどらない」のは、あなたが怠けているからではありません。
むしろ、構造として“詰まりやすい”前提の中で動いていることのほうが多いのです。

鈴木さんは、そのことを「コンビニのお弁当配送」の事例で鮮やかに説明します。
お昼休みが12時〜13時だとすると、多くの人が同じ時間にコンビニへ殺到し、「人気のお弁当」が瞬時に売り切れる。ではその前にコンビニ側はどうしているのか──。

実は、お弁当の配送には“前提”として、「午前11時前に、各店へお弁当を届け終えていなければならない」という制約があります。

そのためには、各店舗のためだけにトラックを用意し、特定のピークに間に合わせるような非効率な動きが必要になる。

これは物流の視点で見れば、大きな「滞り」の原因であり、“ピーク対応”によってリソースが過剰に割かれる典型です。

この構造は、私たちの働き方にも通じます。
会議が集中する時間帯、メールが殺到する時間、家事や育児が詰め込まれる朝の時間──あらゆる場面に「ピーク」が存在し、それが知らず知らずのうちに流れを滞らせています。

本書は、そうしたピークの偏りやムリ・ムダ・ムラを捉え直し、「構造のゆがみ」から滞りを解消していく視点を提示してくれるのです。
重要なのは、「忙しい」のではなく、「忙しくなる構造に巻き込まれている」ということ。
その構造をどう設計し直すかが、「はかどる」ための第一歩になるのです。

本書『はかどる技術』が投げかけてくる問いは、単なる“効率化”ではなく、構造そのものの最適化です。

著者・鈴木邦成さんは、物流の専門家としての知見をもとに、「はかどらない原因は、“部分最適”が積み重なった結果としての“全体の滞り”にある」と語ります。

たとえば、「朝活をする」「週末にまとめて勉強する」といった行動が、一見効果的に思えても、それが日々の生活全体のバランスを崩していれば、むしろ逆効果になる場合があります。
これは、物流の現場で「ある倉庫だけが最速で動いていても、配送全体が滞っていたら意味がない」という現象と同じです。

時間管理もまた、部分的に頑張ればなんとかなるという幻想から抜け出し、全体としてどう流れをつくるかという発想に転換しなければ、持続可能ではありません。

本書では、次のような論点が丁寧に解き明かされます。

  • 時間に「流れ」をつくるとはどういうことか
  • ピーク時間をどう避け、分散させるか
  • 日常生活の中に潜む「滞りの構造」をどう発見するか
  • タスクの“前段取り”をどう設計するか
  • 「部分最適」を解消し、バランスのとれた「時間OS」をどう構築するか

1日、あるいは1週間という短いスパンで考えるのではなく、広い視野で何をすべきかを考える必要があります。

こうした視点は、自己啓発や生産性の文脈で語られるテクニック論とは一線を画しており、「時間と構造の哲学書」とも言いたくなるほどの深みがあります。

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タスクを見極めること!?

本書が与えてくれる最も大きな気づきは、「部分最適」と「個別最適」の違いを見極め、それぞれを使い分ける思考の柔軟性です。

部分最適とは、「特定の時間帯に集中して作業する」「朝に仕事を詰め込む」といった“効率の良さ”を求める視点です。
一方で個別最適とは、「自分のライフスタイルやリズムに合わせて、最も自然に集中できる時間帯を活用する」こと。

たとえば、「早起きは三文の徳」という常識を疑ってみること。
本書では、「人間は昼行性ではあっても、早朝に最も力を発揮するわけではない」と明快に語られています。
実際、起きてから4〜6時間後が思考のゴールデンタイムであるという時間医学の知見も紹介され、早朝に過剰な期待を抱かないバランス感覚が求められているのです。

つまり、時間をどう使うかは「他人に倣う」のではなく、「自分を知る」ことから始めるべきなのです。
そして、「自分にとっての最適」が周囲の流れや社会の構造とどのように噛み合うか、その“接点”を調整していくことが、本当の意味での「はかどる」時間を生むのです。

このように本書は、仕事術としての時間管理を超えて、自分と社会との関係性の中で時間の流れを設計するという視点を提供してくれます。

急げばいいというわけではなく、急がない用事は絶対に急ぐな。

“スピードこそ善”という現代の仕事観に対して、この言葉は静かに、しかし鋭く楔を打ち込みます。
何でも早く、効率よく、すばやく──そうやって慌ただしく処理してしまうことで、本来じっくり向き合うべき仕事や、考えるべき課題を、かえって見落としてしまうことも多いのではないでしょうか。

さらに、もうひとつの本質的な指摘は、「指示待ち時間こそ最大のムダである」という観点です。
個人の努力以前に、組織や構造そのものが“待たせてしまう”状態にあるならば、どんなに自分だけ頑張っても、全体の流れはよくなりません。

この「流れの滞り」は、目に見える遅延よりも厄介です。
なぜなら、誰も“責任”をとらないまま、時間が静かに消費されていくからです。

だからこそ、真の「はかどり」は、自分の内面の整流化と、外部構造との接続点をどう見直すかにかかっている──本書はその気づきを、理屈だけでなく、日常の感覚レベルにまで丁寧に引き寄せてくれます。

本当に「はかどる」ために必要なのは、単なる時間管理ではなく、「見えない滞り」を解消するための構造的な視点です。

その鍵を握るのが、「何に、どの順番で取り組むか」を判断する基準の再設計です。

「重要度×緊急度」と「難易度×緊急度」を比較しながら、タスクを4象限で分類する考え方は、まさにその実践的な出発点です。

たとえば、重要だけれど緊急ではないタスク(第3象限)は、後回しにされがちですが、本当はもっとも優先して取り組むべき“未来をつくる仕事”です。


また、難易度が高く締め切りがあるようなタスクは、前倒しでの着手が求められます。
逆に、緊急だが重要度や難易度が低いタスクは、できる限りルーチン化・自動化・委任の対象にしていく必要があります。

つまり、「時間の使い方」を最適化するとは、“何を先にやるか”を自分で再定義する力を育てることなのです。

本書は、そうした“時間の構造化”のための思想と技術を、物流工学の知見を土台にしながら、誰にでも応用可能なかたちで丁寧に教えてくれます。
急がば回れ。急がないものは、決して急がない。
そして、待たされるのではなく、自ら流れを生み出す。

そんな「自分の流れを取り戻す」ための1冊として、本書はとても静かに、しかし確かに、私たちの時間と人生の質を整えてくれます。

まとめ

  • 滞りに着目せよ!?――流れでものごとをみることで、本質をつかまえるためのヒントを得ることができます。
  • 全体にも着目せよ!?――部分視点ではなく、全体視点でも、ものごとの流れに気を配るようにしましょう。
  • タスクを見極めること!?――すべてを一時に行おうとすれば、滞りが生まれます。優先順位をつけてみることも欠かせないタスクです。
鈴木邦成
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