この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
【本書の要約】時間とお金、どちらを優先すべきか――ハーバード・ビジネススクール研究者が科学的根拠とともに示す、タイムリッチへの道筋。80%の人が陥る「タイムプア」から抜け出し、真の幸福を手に入れるための具体的な習慣と決断の指針。時間に対する認識を変えることで、人生の質が劇的に変わる一冊。
- あなたは毎日、何に追われて生きていますか?
- 実は、世界中の80%もの人々が「タイムプア」という新しい形の貧困に陥っているんです。
- なぜなら、私たちは時間よりもお金を優先する選択を繰り返し、結果として自分の人生から最も貴重な資源である時間を奪い続けているからなんです。
- 本書は、ハーバード・ビジネススクールの研究者アシュリー・ウィランズが、行動科学と心理学の最新知見をもとに、時間とお金のトレードオフを科学的に解明した一冊です。
- 本書を通じて、時間という有限の資源に対する認識を根本から変え、本当の意味で「自分を生きる」ための具体的な方法を学ぶことができます。
アシュリー・ウィランズは、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学で社会心理学の博士号を取得し、現在はハーバード・ビジネススクールのアシスタント・プロフェッサーとして活躍しています。
彼女の研究テーマは、人々が時間とお金のトレードオフをどのようにこなすか、そしてそれに関わる決定が仕事の満足度や幸福感、心身の全般的な充足度にどのような影響を与えるかです。
これまでに「行動科学の新星」に2度選ばれ、数多くの学術誌に論文が掲載されてきました。
科学コミュニケーションと、科学研究に関わるよう一般の人々を促すことにも情熱を注いでおり、『ハーバード・ビジネス・レビュー』誌、『ニューヨーク・タイムズ』紙、『ウォールストリート・ジャーナル』紙などの主要メディアで取り上げられ、CNNやBBCでも研究が特集されています。
タイムプアという現代の「貧困」の正体
私たちは「時間がない」と口にしながら、実際には何に時間を奪われているのでしょうか。
リモートワークの普及によって、アメリカだけでも毎週合計8900万時間もの通勤時間が削減される可能性がありました。
8時間労働に換算すれば1100万日以上です。
ところが、データを見ると驚くべき事実が明らかになったんです。
リモートワークによってこのように厖大な時間を従業者が節約できるはずだったにもかかわらず、データを見ると、それは実現しなかったらしい。それどころか、1日の勤務時間が48・5分増えた。これは、以前に人々が通勤に費やしていた時間とほぼ等しい。
これって本当に不思議ですよね。
節約できたはずの時間は、いったいどこへ消えてしまったんでしょうか。
答えは明確です。
私たちは、空いた時間をまた別の「やるべきこと」で埋めてしまったんです。
通勤時間がなくなった分、もっと早くから仕事を始め、もっと遅くまで働き続けるようになりました。
時間を節約したはずなのに、タイムプアの状態はむしろ悪化したんです。
ウィランズの研究によれば、世界中で約80%の人々がタイムプアの状態にあります。
これは国や文化を超えた普遍的な現象なんです。
アメリカでも、ドイツでも、日本でも、タイムプアは空前のレベルに達しています。
そして、このタイムプアという状態は、私たちの人生に深刻な影響を与えているんです。
タイムプアな人のほうが、幸福感が弱く、生産性が低く、ストレスが多い。運動することが少なく、脂肪の多い食品を摂取し、心血管疾患になりやすい。
まさにこういうことなんだと思ったんです。
タイムプアは単なる「忙しさ」の問題ではありません。
それは私たちの健康、幸福、そして人生の質そのものを蝕む深刻な問題なんです。
栄養のある食事を準備する代わりに、コンビニでチップスを買ってきて、コンピューターの画面を見詰めながら、味もわからずにむしゃむしゃ食べる。
やるべきことを片づけるために時間を最大限に活用しようとすると、仕事の日は座ったままろくに意識もせずに食塩と脂肪とファストフードを腹に詰め込みながら過ごすことになります。
タイムプアな社会も高いつけを払わされるんです。
ストレスによる医療コストの増大、生産性の低下、社会参加の不足――これらはすべて、私たちが時間よりもお金を優先してきた結果なんです。
では、なぜ私たちはこれほどまでにタイムプアに陥っているのでしょうか。
重要なインサイトがここにあります。
もてる時間と必要とする時間とのミスマッチからタイムプアになるわけでは、必ずしもない。それらの時間をどう考えるかや、どう評価するか次第でタイムプアになりうる。
これは根本的な問題提起なんです。
タイムプアは客観的な時間の不足ではなく、時間に対する私たちの認識の問題だということです。
24時間という時間は誰にとっても平等です。
しかし、その時間をどう捉え、どう価値づけるかによって、私たちはタイムリッチにもタイムプアにもなりうるんです。
哲学者ブレーズ・パスカルの言葉が、この本質を突いています。
人類の抱える問題はすべて、部屋に独りきりで静かに座っていられないことから生じる
研究者はこれを「手持無沙汰嫌悪(てもちぶさた・けんお)」と呼びます。
私たちはこの嫌悪のせいで、常に何かをしていないと落ち着かず、空いた時間をまた別の活動で埋めてしまうんです。
そして、その選択の多くが、時間よりもお金を優先する決定なんです。
お金と時間の優先順位を逆転させる決断
私たちの多くは、こう信じています。
「もっとお金があれば、もっと時間ができる」
「もっと稼げば、もっと幸せになれる」
しかし、この信念は根本的に間違っているんです。
もう一度言おう。お金では喜びは買えない。私たちは、お金がタイムリッチと幸せにつながると信じている。けれど、それは間違っている。どちらかというと、富裕な人のほうがストレスを感じている。本当に幸せになるためには、多額のお金よりもむしろ時間の投入が必要なのだ。
これって本当に大切な指摘ですよね。
さらに驚くべきデータがあります。
富が増すにつれて、タイムプアだという感覚も強まる。問題は、お金を稼ぐことに執着する文化が、よりタイムリッチになるには金銭的により豊かになる必要があると誤って信じ込んでいる点にある。
まさに悪循環なんです。
お金を稼ぐほど時間がなくなり、時間がないからもっとお金が必要だと感じ、さらにお金を稼ぐために時間を犠牲にする――この罠から抜け出すために、ウィランズは画期的な指標を提案しています。
それが「ハピネス・ドル」という概念です。
自分の時間をタイムリッチなかたちで使うような、ある決定を下すと、1万ドルの昇給から得られるのと同じだけの幸せを感じる。その選択をしたときには、それだけの額の収入を得たときと同じだけ幸せに感じるわけだ。
この指標は、私たちの選択を根本から変える力を持っています。
具体的な例を見てみましょう。
年収5万ドルの人が、通勤時間を減らしたり、ハウスクリーニング業者を雇ったりするために、毎月最低でも150ドル使って嫌いな雑用や家事を外注すれば、その価値は毎年の世帯収入を4万ドル近く増やすのに相当する幸せにつながると考えてみるということ・・・!
外注する――1万8000ハピネス・ドル
これは驚異的な数字です。
月に150ドル、年間で1800ドルの支出が、4万ドルの収入増に匹敵する幸福感をもたらすんです。
一方で、私たちが「節約」だと思ってやっている行動が、実は幸福を損なっていることもあります。
お買い得品を探す――マイナス3300ハピネス・ドル
安いものを探し回る時間が、実は私たちの幸福感を大きく下げているんです。
他のハピネス・ドルの例も見てみましょう。
時間を大切にする――2200ハピネス・ドル
味わう――3600ハピネス・ドル
休暇――4400ハピネス・ドル
人づき合い――5800ハピネス・ドル以上
能動的な余暇――1800ハピネス・ドル
これらの数字が示しているのは、時間の使い方によって得られる幸福感が、実際の収入増よりもはるかに大きな価値を持ちうるということです。
ウィランズは、キャリアの選択においても同じ原則が適用されると指摘します。
給料の高い仕事がタイムプアを呼び込む
多くの人は、高給の仕事を選べば幸せになれると考えています。
しかし、データは逆のことを示しているんです。
給料や手当などよりもフレックスタイムや通勤時間の短さ
仕事を選ぶ基準として、給料の額よりも時間の柔軟性や通勤時間の短さを重視する人のほうが、長期的には幸福度が高いんです。
そして、最も重要なインサイトがこれです。
お金中心の決定が幸福感の増大につながるとはかぎらない
私たちは人生の重要な岐路で、お金を基準に判断することに慣れすぎています。
どの仕事を選ぶか、どこに住むか、どんな生活様式を選ぶか――これらの決定を下すとき、つい「どちらがより儲かるか」を考えてしまいます。
しかし、お金中心の決定は、必ずしも私たちを幸せにしないんです。
むしろ、時間を基準に判断することで、私たちは真の幸福に近づくことができます。
「この選択は、私の時間をどのように変えるだろうか?」
「この決定によって、私はより多くの自由な時間を得られるだろうか?」
「この仕事は、私に大切な人々と過ごす時間を与えてくれるだろうか?」
こうした問いを立てることが、お金と時間の優先順位を逆転させる第一歩なんです。
時間に対する認識そのものを変える生き方
タイムリッチになるためには、単に時間管理のテクニックを学ぶだけでは不十分です。
必要なのは、時間に対する私たちの根本的な認識を変えることなんです。
ウィランズは、タイムリッチなマインドセットを定着させるための3つのステップを提案しています。
タイムリッチなマインドセットを定着させるためには、次の3つのステップを踏む。
①時間は少なくともお金と同じぐらい重要であることを自分に納得させる
②大切な決定を下す場面になったら、自分の価値観を思い出す
③何日、何週、何カ月、何年にもわたって以前より多くの時間を手に入れられるような、周到で戦略的な決定を下す
これって本当にシンプルだけど強力な枠組みですよね。
第1のステップは、時間の価値を認識することです。
私たちは頭では「時間は大切」だとわかっています。
しかし、実際の行動を見ると、お金のほうを優先していることが多いんです。
時間は少なくともお金と同じぐらい重要――この認識を、単なる知識としてではなく、心から納得する必要があります。
そのために効果的な方法があります。
悪癖を打ち負かす方法の1つは、端的に理由を問うことだ。なぜ私はこれをやっているのか? と。
「なぜ?」と問うこと。
なぜ私はこの仕事を選んだのか?
なぜ私はこんなに長時間働いているのか?
なぜ私は休暇を取らないのか?
この問いかけが、無意識の選択パターンを意識化し、変化への第1歩となります。
第2のステップは、決断の瞬間に自分の価値観を思い出すことです。
私たちは日々、無数の小さな選択をしています。
そのひとつひとつが、実は時間とお金のトレードオフなんです。
タクシーを使うか、電車で行くか。
外食するか、自炊するか。
ハウスクリーニングを頼むか、自分で掃除するか。
こうした選択の瞬間に、「私は何を大切にしているのか?」と自問することが重要なんです。
第3のステップは、長期的な視点で戦略的な決定を下すことです。
タイムリッチは、一時的な状態ではなく、継続的なライフスタイルです。
何日、何週、何カ月、何年にもわたって時間を手に入れられるような選択――それこそが、真のタイムリッチへの道なんです。
興味深いのは、ウィランズが「ゆとり時間」の重要性も強調していることです。
人は時間を見つけてそれに投資するように努力し始めると、つまらない時間を有意義な時間で置き換えることに熱を上げ過ぎて、タイムリッチな活動でスケジュールを埋め尽くしてしまいがちなことを、私は発見した。
これは深い洞察です。
タイムリッチを目指すあまり、スケジュールを「有意義な活動」でぎっしり埋めてしまう――これもまた、別の形のタイムプアなんです。
真のタイムリッチとは、何もしない時間、ぼんやりする時間、計画されていない時間を持つことでもあります。
そして、もう1つ重要な指摘があります。
効率を優先させると、私たちは弱い紐帯をもつ人と結びつく機会を逃しやすくなる。弱い紐帯をもつ人というのは、社会的なつながりが弱い人々だけれど、創造的なアイデアや新しい機会をもたらしてくれる可能性が高い。
効率性の追求は、一見すると時間の節約に見えます。
しかし、それは同時に、偶然の出会いや予期せぬ機会を奪うんです。
弱い紐帯――つまり、親しくはないけれど時折会う知人や、たまたま話しかけた見知らぬ人――こうした人々との交流こそが、人生に新しい可能性をもたらします。
すべてを効率化し、すべてを計画通りに進めようとすることは、実は人生の豊かさを損なうんです。
本書の結論部で、ウィランズは個人の変化を超えた、社会全体の変革の必要性にも言及しています。
私たちは、さまざまな社会全体が、成功イコール経済成長というマインドセットを脱し、個人のための時間をどれだけ大切にしているかといった、他の尺度へとシフトするのを助ける策を講じる必要がある。
これは根本的な問題提起です。
私たちがタイムプアに陥っているのは、個人の選択の問題だけではありません。
それは、社会全体が経済成長を至上の価値としてきた結果でもあるんです。
社会が経済成長に執着しているせいで重大なコストが現に生じている事実を認めなくてはならない。医療コストの増大、いつまでも退職できないので、職場で若者の昇進の道が閉ざされること、社会参加の不足といった問題が起こっているのだ。
まさにこういうことなんだと思ったんです。
経済成長への執着が、私たちから時間を奪い、健康を損ない、世代間の機会を閉ざし、社会のつながりを弱めているんです。
そして、ウィランズは政策レベルでの変化の可能性も示唆しています。
政策を変更すれば、社会規範の変化を促すことができるだろう。もしアメリカが有給休暇の制度を義務づければ、経済が恩恵を受け、何が重要かを巡る議論も根本から変わるはずだ。私はこれを、余暇の正当化と呼んでいる。
「余暇の正当化」――これは強力な概念です。
仕事よりも余暇を大切にする国々のほうが幸せで、景気の低迷のような経済的なショックが引き起こす精神的動揺にもうまく対処できることがわかっています。
幸せだと生産性が上がることもわかっているんです。
つまり、余暇を大切にすることは、経済的にも合理的な選択なんです。
最後に、ウィランズが提供する「タイムリッチ・チェックリスト」を見てみましょう。
□ 時間のトラッキングをする
□ やるのが楽しいことについて考える
□ 物事の合間に短い自由時間を見つけて、そうした活動をもっとやる
□ 楽しくないこと、ストレスになることについて考える
□ そうした経験をもたらす活動に費やす時間を減らす
□ 見つけた自由時間を自分のために埋める
□ 余暇を楽しむ
このチェックリストは、タイムリッチへの実践的なロードマップです。
まず現状を把握し、何が楽しくて何がストレスかを認識し、時間の配分を変え、そして――最も重要なことに――余暇を楽しむ。
「余暇を楽しむ」という最後の項目が、実は最も難しいかもしれません。
私たちは、何もしない時間に罪悪感を覚えるように条件づけられています。
常に生産的でなければならない、常に何かを達成しなければならない――そう信じ込んでいるんです。
しかし、真のタイムリッチとは、余暇を罪悪感なく楽しめる状態のことなんです。
時間に対する認識を変えるということは、結局のところ、何が本当に大切かについての認識を変えるということです。
お金よりも時間。
生産性よりも幸福。
効率よりもつながり。
計画よりも余白。
これらの価値観の転換が、私たちを「見えない檻」から解放し、本当の意味で「自分を生きる」ことを可能にするんです。
自分という生き方を追求していくためには、こちらの1冊「小さく働き、“時間”を持つ!?『モノやお金がなくても豊かに暮らせる』ヘンリー・D・ソロー」も大変刺激的です。ぜひご覧ください!!

まとめ
- タイムプアという現代の「貧困」の正体――世界の80%が陥るタイムプアは、時間不足ではなく認識の問題です。リモートワークで通勤時間が削減されても勤務時間が増える事実が示すように、空いた時間を「やるべきこと」で埋めてしまうんです。
- お金と時間の優先順位を逆転させる決断――「お金があれば時間ができる」は間違いで、むしろ富が増すほどタイムプア感覚も強まります。月150ドルの家事外注が年間4万ドルの収入増に匹敵する幸福感をもたらす「ハピネス・ドル」という指標が、時間を基準にした選択の価値を示します。
- 時間に対する認識そのものを変える生き方――タイムリッチなマインドセットには、時間の価値を心から納得し、決断時に価値観を思い出し、長期的視点で選択することが必要です。真のタイムリッチとは、計画されていない時間を持ち、余暇を罪悪感なく楽しめる状態なんです。
この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。
