先日の投稿「パーパスって心の声?~物語(ストーリー)から学ぶ、ディテールの重要性~」に続き今回もパーパスとストーリーという視点で考えてみたいと思います。
今回は、皆さんにはおなじみのドラえもんという稀に見る“教育的な”コンテンツを基軸に、パーパスや企業経営を考えてみます。ドラえもんは、半世紀以上にわたっていまや世界中の人たちから愛され続けている漫画・アニメです。
そこに描かれているものは、単なる楽しい日常の暮らしや冒険譚を超えた、人生や成長についての普遍的なメッセージが込められていると、私は思います。
実は、ドラえもんの世界には、個人と組織の成長、そしてパーパス経営の本質が隠されているのです。
そもそも、パーパスってなんだっけ?
パーパスとは、「存在意義」や「目的」を意味する言葉です。個人にとってのパーパスは、自分の人生の意味や、社会における役割を示すものです。一方、企業にとってのパーパスは、単に利益を追求するだけでなく、社会に対してどのような価値を提供するのかを表すものです。
パーパス経営とは、企業のパーパスを明確にし、それを全ての事業活動の中心に据えることです。売上や利益といった数値目標だけでなく、パーパスの実現を目指すことで、長期的な視点で企業価値を高めていくことができます。
パーパスについてのおさらいはこちらの投稿「【理解してる!?】パーパス「意義化」する経済とその先|佐々木康裕,岩嵜博論」もぜひご覧ください。
ドラえもんの設定と表現とは?
ドラえもんは、22世紀からタイムマシンに乗ってやってきた猫型ロボットです。主人公であるのび太くん子孫から、のび太くんの人生を助けるために送り込まれてきました。最大の特徴は四次元ポケットというお腹に装備された無限大にものを入れておけるポケットで、さまざまな未来の道具を取り出して、のび太くんの窮地を救おうとします。
アニメ版の主題歌には、こうしたドラえもんの魅力が十分に表現されています。
こんなこといいな
できたらいいな
あんな夢 こんな夢
いっぱいあるけど
みんなみんなみんな
かなえてくれる
ふしぎなポッケで
かなえてくれる
空を自由に 飛びたいな
「ハイ!タケコプター」
アンアンアン
とっても大好きドラえもん
ドラえもん(1979年)オープニングより
作詞:楠部工
作曲:はばすすむ
あらためて読んでみると、素晴らしい構成です。ドラえもんとの日々が、のび太の人生を豊かにしていることを感じさせます。
「こんなこといいな、できたらいいな、あんな夢こんな夢いっぱいあるけど」は、のび太くんや仲間たちのインサイトです。夢が言語化されているというのもとても素晴らしいことです。なぜなら、人というのは、なかなか自分のインサイトを言語化することができない生き物だからです。
そして、「ふしぎなポッケでかなえてくれる」「空を自由に飛びたいな」というところは、まさにバリューを感じますね。具体的な要望に対する実現ソリューションまでを示しています。素晴らしいです。
最終的には、「とっても大好きドラえもん」とファン化を図っている点についても見逃せません。
と、ここまで冷静に読んでみて、素晴らしい!と思った歌詞。繰り返し利便性を魅力的に語る、と聞いて、ピンくるのが「広告」です。たしかにドラえもんにおける主題歌は、企業にとっての広告的に機能していると捉えてもいいのかも知れません。
そして、みなさんもご存知の通り、物語の単なるイントロに過ぎません。
もっというと、主題歌が毎回繰り返し強調するのはあくまでドラえもんの「道具の便利さ」であり、物語の本質は別のところにあります。
ドラえもんの物語に隠されたパーパスとは?
ドラえもんの物語から読み取れるパーパス(ここでは、藤子・F・不二雄さんが物語全体を通じて、読者や視聴者に伝えたいと思っていたこととしています)は、私は「共に成長していく大切さ」だと考えています。
のび太は勉強もスポーツも苦手な、ごくフツーの小学生。そんなのび太のもとにドラえもんがやって来て、さまざまな日常や時に冒険へと出かけていきます。
しかし残念ながら特に日常においては、便利な道具の恩恵を最初は受けられるものの、次第に雲行きが怪しくなり、自ら墓穴を掘って、おしまいという構造が繰り返されてしまいます。
ここから読み取れるのは、「自分という人格」が道具に映るということです。便利な道具があれば、そこに頼りたくなるのが人情です。しかし、道具は便利な余り、それを使う人の思想や考え方を反映させて、時に暴走させて、失敗が伴うこともあるのです。
これは、のび太くん個人の成長物語であると同時に、人としていかにバリューと向き合うかについて、さらにはパーパス経営のあり方について示唆を与えてくれるものだと考えられます。
「成長」とパーパス実現の関係性とは?
ドラえもんの物語が示すのは、真の成長とは、便利な道具や技術だけでは得られないということです。
秘密道具が作れるような未来であれば、きっとのび太くんの人生を「強制的に、矯正する」ような道具のひとつやふたつ用意できるに違いありません。でも、のび太くんの子孫も、ドラえもんもそれはしなかった・・・
それはなぜでしょうか。
それは、人の成長というのは、失敗や困難に立ち向かう中で少しずつ得られていくためです。
そして、これは企業における従業員の成長についても同じことが言えます。先進的なツールや設備を導入することも大切ですが、それだけでは不十分なのです。大切なのは、社員一人ひとりが自らの成長に向き合い、仲間や外部との取引関係者とともに挑戦していく実体験の積み重ねにほかなりません。
個人の成長なくして、組織の成長がないように、パーパスの実現も難しいものとなります。一人ひとりの従業員が、自らが所属している組織のパーパスと呼応する活動を勇気を持って積み重ねていくが、パーパスを実現し、社内外から信頼たる組織として自立していく力を成していきます。
パーパス経営は、実践と成長にある?
ドラえもんの物語から学べるのは、パーパス経営の本質は、一人ひとりの成長物語を大切にすることだということです。社員の主体性を引き出し、失敗から学ぶ文化を醸成すること。それが、パーパスを追求し続ける組織をつくるキーになります。
のび太くんの成長と、ドラえもんの絶え間ない家族のような親身なサポートは、個人と組織、あるいは、企業と企業、そして、顧客と企業の関係性を示唆するものであると言えるでしょう。
便利な道具を渡してさよなら、ではなくて、それを介在させ、互恵的な関係性を築くことが、長くて短い人生の中でともによりよい時間を積み重ねていく実践へと導きます。
ドラえもんの物語は、私たちに「人の成長」の本質を教えてくれています。それは、便利な道具や技術だけでは得られない、「時間と努力を伴う旅のプロセス」なのです。
企業もまた、一人ひとりの成長物語を大切にし、その過程で生まれる価値を尊重することで、真の意味でのパーパス実現に近づけるのではないでしょうか。