仏教は超ロジカル!?『ビジネスシーンを生き抜くための仏教思考』松波龍源,野村高文

『ビジネスシーンを生き抜くための仏教思考』松波龍源,野村高文の書影と手描きアイキャッチ
  • ビジネスの現場で判断に迷ったとき、あなたは何を拠り所にしているでしょうか。
  • 実は、仏教は「宗教」ではなく、極めてロジカルな思考ツールなんです。
  • なぜなら、文化的な風習や信仰を取り除いた仏教の本質は、現代の意思決定にそのまま応用できる普遍的な哲学だからです。
  • 本書は、僧侶でありながら「仏教の社会実装」という実験に取り組む松波龍源さんと、ポッドキャストプロデューサーの野村高文さんが、仏教思考をビジネスパーソンが使える形に翻訳した一冊です。
  • 本書を通じて、囚人のジレンマで輪廻転生を理解し、「空」という概念を実践的な意思決定ツールとして活用できるようになります。

松波龍源さんは、京都で「実験寺院」寳幢寺の僧院長を務める異色の僧侶です。

大阪外国語大学でミャンマーの仏教儀礼を研究していましたが、研究よりも実践に惹かれて出家されました。

現在は学生、研究者、起業家、医師、看護師などと共に「人類社会のアップデート=仏教の社会実装」という壮大な仮説の実証実験に取り組んでおられます。

一方の野村高文さんは、東京大学文学部を卒業後、PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、ニューズピックスを経て独立した音声プロデューサーです。

制作した「a scope」「経営中毒」でJAPAN PODCAST AWARDベストナレッジ賞を2年連続受賞するなど、複雑な思想を分かりやすく伝えることに定評があります。

この2人のコラボレーションだからこそ、仏教の深遠な思想が、ビジネスパーソンにとって実用的な思考法として提示されているのです。

「宗教」という誤解を解く――仏教はロジカルな哲学である

「仏教」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、お寺での法事や葬儀、あるいは何か神秘的な宗教的儀式ではないでしょうか。

本書を読むと、仏教の思想体系は、何か特定の文化圏に閉じた話ではないことが実感できるんです。

しかもそれは、悟りを開いた人の話ではなく、現代人の悩みを解決する最先端の知恵であることが分かります。

本書では、仏教を「脱・宗教」として説明していく姿勢が一貫しています。

松波さんは、仏教を「宗教」ではなく「思想」「コンセプト」として読むべきだと述べています。

つまり、物質的なものごとや社会制度などよりも先に、個人の主体であるべース人間の心の在り方を問うものへと読み換えなさいと説くんです。

そして、すべてはつながり合っているという世界観に基づき、目の前のことにとらわれず、より大きくしようという考え方をすすめるのです。

仏教は、物質的なものごとや社会制度などよりも先に、個人の主体であるべース人間の心の在り方を問うものへと読み換えなさいと説きます。そして、すべてはつながり合っているという世界観に基づき、目の前のことにとらわれず、より大きくしようという考え方をすすめるのです。

これを読むと、仏教が日本人がイメージするいわゆる「お寺の宗教」ではなく、「相当に特殊なもの」であることが分かります。

そして、本来の仏教はもっとシンプルで、人々に寄り添う、実践的なものであると理解できるはずです。

本書の核心は、仏教が何か大きなものに救いを求めるのではなく、個人個人が自分なりの視点で世界を認識することを促すものだからです。

つまり、仏教は基本的に、とても合理的で科学的な哲学です。

ただその哲学の説明のために生きる力のような非科学的な内容が、しかも結構大きなウエイトで入り込んでいます。

それが「輪廻転生」です。

釈迦牟尼はこうしたロジカルな進化のようなものをバッサリ切り捨てる人なのに、なぜ輪廻転生を“あえて”導入したのか・・・

輪廻転生を囚人のジレンマで理解する――科学的な仏教思考

「輪廻転生」と聞くと、多くの人は非科学的で、受け入れがたいと感じるでしょう。

でも本書では、この一見ロジカルに読めない概念を、ゲーム理論の「囚人のジレンマ」を使って見事に説明しています。

釈迦牟尼が輪廻転生を否定しながらのは、人生が無限繰り返しゲームであると仮定したほうが個人の人生も社会もうまくいく、という可能性に気づいていたからではないかと、私は考えています。

この説明は実に刺激的です。

その僧侶は、仏教が好きだというヨーロッパの男性から「仏教はとても合理的だから好きだと思っていたのに、逆信のような輪廻転生が含まれているのはなぜですか?」と尋ねられたそうです。

このとき、僧侶はこう答えたか。「輪廻の存在を証明できないことは認めましょう。ただ、輪廻が存在しないことを証明することもできないのではないですか? たとえ科学の立場からでも」

「たしかに」という男性に対して、僧侶は続けます。

「では、輪廻が存在すると仮定したら、来世が存在しないと仮定して好き勝手に生きること、どちらが有利だと思いますか?」

男性はしばらく考えたといいます。

このエピソードの本質は、輪廻転生が「存在する」か「しない」かという二項対立ではなく、「輪廻が存在する」という前提で生きることの合理性なんです。

ゲーム理論では、囚人のジレンマにおいて、ゲームが1回限りなら裏切りが合理的です。

でも、ゲームが無限に続くなら、協調することが最も合理的な戦略になります。

万物は因果関係でしか成り立ち得ないのです。

とても科学的ですよね。

仏教は、ものごとを「必ずそのような状況になる理由」をロジカルに説きます。因果、因縁という全体像を持つからです。

その観点で、輪廻転生を「無限ゲーム」として捉えることで、一時的な利益のために裏切るのではなく、長期的な視点で協調する生き方が合理的になります。

これはまさに、ビジネスでも人間関係でも応用できる思考法ではないでしょうか。

「空」という実践的ツール――ビジネスに活かせる普遍的思考法

仏教の「空」という概念は、最も誤解されやすい教えの一つです。

多くの人は「空」を「無」と混同し、虚無的で何もない状態だと考えてしまいます。

でも本書が示す「空」は、西洋哲学における形而上学的真理であり、極めて実践的なビジネスツールなんです。

「無」とは文字通り「何もない」こと。

それに対応する「有」は「何かある」という状況です。

「ないものがない」という状況は、物理的なもののことではなく、むしろ「無い」と言い切る何か(名前・概念・可能性など)が肯定されるゆえに否定されるものがなくなった状態で、「あれ」と「これ」との根源的な違いが存在しなくなったことを意味します。

この説明は少し難解に感じるかもしれませんが、本書では「空」を「可能性の海」として説明しています。

お伝えする「空」の概念は、形而上の真理だと思っていただくとよいでしょう。

あらゆる可能性が存在する海のようなものだと考えてください。

そして形而下に現れている姿かたちのある物理的なもの、また「固い・やわらかい」「右・左」といった性質は、可能性の海であると考えます。

因果関係の働きによって、認識可能な状態として現出すると考えます。

ですから「空」とは、ものごとに絶対性がないこと、固定的に考えてはいけないことを表した概念だといえます。

可能性があるから現出しているわけなし(色即是空)、現出している以上は因果・縁起という作用によって現出したものであって、それゆえある形で存在している因果・縁起を理解すればいいのだ(空即是色)。

この「空」の理解が、ビジネスの意思決定にどう役立つのか。

さとりのゴールは「空」だった。

そしてこの「空」こそが、仏教でさるべきものとされている「私」自身を理解し、時間を理解し、空間を自在にとらえられるメタ認知を獲得し、「私」から脱出して安楽の道にたどり着けるのです。

この世に絶対的なものはなく、すべて「空」なのだから、自分が直面している苦しみも、苦痛を感じている自分自体も「空」なのです。

本書が示すスター・ウォーズのヨーダの教えも示唆的です。

映画「スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス」で、9歳の守護者であるヨーダが、入門を志願するアナキン少年と向き合うシーンがあります。

ヨーダは少年の心の中に、大切な人を失う強い恐怖があるのを見て取り、次のようなセリフを発します。

すべてに関係がある! 恐れはダークサイドに通じる道じゃ。恐れは怒りを呼ぶ。怒りは憎しみを呼ぶ。憎しみは苦しみを呼ぶ。そなたの中には恐れがある。

結局、アナキン少年はその恐怖から目を背け続けた結果、闇に堕ちて、有名な悪役「ダース・ベイダー」となってしまいます。

この物語が示しているのは、人間が恐れを抱くのは、それを回避する術を知らないからだということ。

回避する方法が明確にわかっていれば、恐怖は軽減されます。

因果とは、神秘の力のようなものが入り込む余地がなく「必ずそのような状況になる理由」があり、それを前提にしている点が、私が仏教を「必ず祈る」宗教とは、少し違うところです。

とても科学的・現実的な因果の概念です。

万物は因果関係でしか成り立ち得ないのです。

ビジネスの現場で、私たちは常に不確実性と向き合っています。

プロジェクトが失敗するかもしれない、提案が却下されるかもしれない、そんな恐怖を抱えています。

でも「空」の視点から見れば、その状況は固定されたものではなく、因果・縁起によって変化し得る可能性に満ちているんです。

つまり「苦しみという何か」が固定的に存在しているのではなく、自分の認識と行動によって、その苦しみの性質を変えることができます。

結局、仏教が教えるのは、目の前の問題を「固定された障害」として捉えるのではなく、「変化し得る可能性」として認識することなんです。

この視点の転換こそが、ビジネスシーンで生き抜くための最も実践的なツールではないでしょうか。

仏教的思考については、こちらの1冊「【仏教の教えを一言でいうと!?】完全版 仏教「超」入門|白取春彦」もぜひご覧ください。

まとめ

  • 「宗教」という誤解を解く――仏教はロジカルな哲学である――仏教は文化的風習や信仰を超えた普遍的な哲学であり、個人が自分なりの視点で世界を認識することを促す極めて合理的な思考体系です。「宗教」ではなく「思想」「コンセプト」として読み換えることで、現代のビジネスパーソンにも実践可能な知恵として機能します。
  • 輪廻転生を囚人のジレンマで理解する――科学的な仏教思考――一見非科学的に見える輪廻転生も、ゲーム理論の視点から捉えれば極めて合理的な思考ツールになります。人生を「無限ゲーム」として捉えることで、短期的な利益より長期的な協調が最適解となり、ビジネスや人間関係にも応用できる戦略的思考が得られます。
  • 「空」という実践的ツール――ビジネスに活かせる普遍的思考法――「空」は虚無ではなく、可能性に満ちた状態を意味します。物事に絶対性がなく、因果・縁起によって変化し得ると理解することで、ビジネスの不確実性を恐怖ではなくチャンスとして捉える視点の転換が可能になります。
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