この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
【本書の要約】完璧を目指すほど、人生から「生きている実感」が失われていく。限りある人間である以上、問題は避けられない。その現実を受け入れ、中途半端なまま「とにかくやる」ことで、世界は共鳴し始める。オリバー・バークマンが示す「不完全主義」は、主導権への執着を手放し、今ここにある現実を丁寧に引き受ける生き方だ。
- 完璧主義という病は、いつ自分の中に住み着いたんでしょうか。気づけば私たちは、すべてをコントロールしようと必死になっています。タスクを完璧にこなし、未来を予測し、リスクを排除する。そうすれば人生はうまくいくはずだと信じて。
- 実は、その努力こそが人生から「生きている実感」を奪っているんです。
- なぜなら、主導権を握ろうとする絶え間ない努力は、世界との共鳴を失わせるからです。
- 本書は、英国ガーディアン紙の元記者オリバー・バークマンによる「不完全主義」の提案です。ベストセラー『限りある時間の使い方』に続く本書で、彼は4週間の思考実験を通じて、完璧を手放すことの自由を示します。
- 本書を通じて、中途半端なまま行動する勇気と、今ここにある現実を引き受ける覚悟が得られます。
オリバー・バークマンは、英国ガーディアン紙で人気コラム「This Column Will Change Your Life」を連載し、外国人記者クラブの若手ジャーナリスト賞を受賞したジャーナリストです。
生産性と限りある人生をテーマにしたニュースレター「The Imperfectionist」も好評を博しており、現代人が抱える時間とコントロールの問題に一貫して向き合ってきました。
前著『限りある時間の使い方』で、時間の有限性という根本的な問いを提示した彼は、本書でさらに踏み込んで「不完全さを引き受けること」の意味を探求しています。
人生をコントロールしようとする現代人の焦りを、鋭い洞察と温かい語り口で解きほぐす著者の姿勢が、本書全体に息づいています。
『限りある時間の使い方』については、こちらの投稿「【なぜこんなに忙しいのか!?】限りある時間の使い方|オリバー・バークマン,高橋璃子」もぜひご覧ください。

完璧主義が奪う「共鳴」
人生の主導権を握ろうとする努力は、皮肉にも人生から「生きている実感」を奪い取ってしまいます。
ドイツの社会学者ハルトムート・ローザが「共鳴」と呼ぶ人生のエッセンスが失われ、後には絞りかすしか残りません。世界は生気を失ったように感じられ、必死の努力はなぜか空回りする。たとえ計画どおりにタスクをこなせるようになったとしても、この現象は変わりません。
人生の主導権を握ろうとする絶え間ない努力は、人生から「生きている」という実感を奪いとってしまうのだ。ドイツの社会学者ハルトムート・ローザが「共鳴」と呼ぶ人生のエッセンスが失われ、後には絞りかすしか残らない。
問題は、人生をうまくコントロールできないことではありません。本当の問題は、限りある人間にそんなことが可能だという考え自体にあるんです。
「生産性の負債」という概念が、この問題をよく表しています。ひとつ新たなことを達成しても、次に達成するべき基準がさらに上がるだけ。負債は減るどころか、いっそう返済が難しくなります。
この負債マインドは不安を引き起こし、人を疲弊させます。社会的孤立の蔓延にも関与している可能性が高い。負債を返さなくてはというプレッシャーで視野が狭くなり、友人と遊ぶなどの一見「非生産的」な活動の優先順位が下がるからです。
「生産性の負債」は不安を引き起こし、人を疲弊させる。社会的孤立の蔓延にも関与している可能性が高い。負債を返さなくてはというプレッシャーで視野が狭くなり、友人と遊ぶなどの一見「非生産的」な活動の優先順位が下がるからだ。
人の限界について少し考えれば、問題がある状態は避けられないことがわかります。
人間が万能でない以上、問題は必ずあります。
抽象的なレベルで見るなら、「問題」とは物事を思いどおりにする能力の限界に直面した状況を表す言葉にすぎないんです。
すべてを思いどおりにできる能力があったら、そもそも厄介な問題に直面することはないはず。つまり問題だらけの状態こそが、人間らしさの証明なんです。
「量」を目標に、今ここを生きる
完璧主義な脳に振りまわされず、主導権を取り戻す方法があります。「量を目標にする」ことです。
「良いものを作りたい」という希望ではなく、「何かを作る」という確実なゴールに向かって進んでいける。数学者のアンリ・ポアンカレは、午前10時から正午までと午後5時から7時までを仕事に集中する時間と決め、それより長くは働きませんでした。
チャールズ・ディケンズ、トマス・ジェファーソン、アリス・マンロー、J・G・バラードも同様に、3〜4時間だけ集中して働くのを習慣としていました。
結果へのこだわりをやわらげるための、もっと現実的で人間らしい方法がある。「量を目標にする」ことだ。
限りある時間を有意義に使う方法について、本当の答えに耳を傾ける人は少ない。便利なシステムの話ではないからです。身も蓋もないけれど、「とにかくやる」というのがその答えなんです。
やりたいことがあるのに行動を起こせない理由は、時間や意志力が足りないからだけではありません。
「完璧にやりとげなくては」とか「すごく大変にちがいない」という思い込みが心理的な障壁となり、自然な行動を邪魔してしまいます。
読書についても同じです。情報が無限にあふれだす世界で、読むべき本のリストを山ではなく、川のように扱うこと。そもそも読書の目的は脳に情報を詰め込むことではなく、読書を通じて自分が変容したり、感性が培われることにあるはずです。
30分間何かを読んで、おもしろいと感じたり、心が動かされたりする。それは将来にむけて成長するためだけでなく(その効果も否定しないけれど)、その30分間を「生きる」行為として、そのまま価値があるはずだ。
もしも「不完全主義」の核心にひとつの決定的な真実があるなら、それは次の一言に尽きます。
今ここにある、これがあなたの人生だ。
これが最終的な本番なんです。
成し遂げたいこと、目標の貯金額、あるいは世界に与えたい影響。それらはもちろん大事だけれど、目標を達成するまで人生を宙づりにする必要はありません。夢を叶えてから生きはじめるのではなく、夢を追いながら人生を存分に生きればいい。
おいしそうなマシュマロをいくら大量に我慢したところで、最終的にそれを味わう機会がなければ意味がない。我慢の報酬を受けとるためには、思いきってマシュマロを食べてしまうことも必要なんです。
不完全さの中にある自由
あ、ところでマシュマロ実験については、こちらの投稿「【自制は時制!?】マシュマロ・テスト 成功する子、しない子|ウォルター・ミシェル,柴田裕之」もぜひご覧くださいね。

自信たっぷりな他人を見ても自信は身につきません。「自信がないのは自分だけじゃない」と気づいたときに、本当の自信が芽生えはじめるんです。
スティーブ・ジョブズの感動的な激励の言葉には、「自分だけの何かを見つけるまで走りつづけろ」という厳しいプレッシャーが潜んでいます。あまりに求める基準が高すぎて、かえって一歩を踏みだすのが怖くなってしまいそうです。
一方、作家アン・ラモットの言葉を読むと、肩の力が抜ける感じがします。重たいプレッシャーが消えて、体がふっと軽くなる。
誰だって失敗するし、ダメダメで、うざくて、不安だらけだ。うまくいっているように見える人でもそれは同じ。案外あの人たちだって、中身は自分と似たようなものなのだ。だから、自分の内面と他人の外見を比べるのはやめたほうがいい。
凝った料理はいりません。茹でたスパゲッティにトマトソースをかけただけでいい。そんな飾らない食卓にこそ、生き生きとした本当のふれあいが生まれるはずです。
自分の欠点や失敗を隠すのをやめれば、孤独の苦しみは軽くなります。はかなく予測不能な人生を受け入れれば、日々は生き生きと動きだします。
功利的にメリットの大きさを計算しなくても、自分のやるべきことがただ直感的にわかるときがあります。そうするのが自分の務めだと感じる。その直感は、人のちっぽけな理性よりも、ずっと深い知恵を含んでいるかもしれません。
おそらく人の有限性をもっとも端的に表しているのは、好むと好まざるとにかかわらず、自分自身が世界の一部をなしているという事実だろう。
あなたがこの世界に生まれてこない可能性はいくらでもありました。それでも運命は、このめちゃくちゃな世界にあなたを放り込んだ。あなたはここにいる。今、この瞬間に。
自分の存在はすごくちっぽけで、ほかの誰とも同じくらいに重い。
時間の川は容赦なく流れつづけます。
そして何かわけのわからない素敵な偶然によって、私たちはほんのひととき、その流れでカヤックを楽しむ機会を与えられているんですね・・・
まとめ
- 完璧主義が奪う「共鳴」――人生の主導権を握ろうとする努力は、かえって生きている実感を奪います。生産性の負債というプレッシャーは私たちを疲弊させ、問題だらけの状態こそが人間らしさの証明です。
- 「量」を目標に、今ここを生きる――完璧を求めず「とにかくやる」こと。読書も仕事も、その瞬間を生きる行為として価値があります。今ここが人生の本番であり、マシュマロに手をつける勇気と発想と思想が必要です。
- 不完全さの中にある自由――欠点を隠さないことで孤独は軽くなり、本当のつながりが生まれます。直感的にわかる自分の務めを大切に、頼りないカヤックでいったn漕ぎだす。それが不完全なまま生きる自由です。
この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。
