- 人の成長や人生の成功を考える時、どんな視点があるでしょうか!?
- 実は、マシュマロ・テストを知ることがよいきっかけになるかも。
- なぜなら、このテストで自制する能力を見出された人は、その後の人生でもよりよい成果を生み出しているのです。
- 本書は、マシュマロ・テストに関するレビューです。
- 本書を通じて、私たちが子ども時代に養っているべき心構えを知るとともに、どんな子育てが大切なのか、視点を得ることができます。
マシュマロ・テストとは!?
マシュマロ・テスト(マシュマロ実験)は、将来の成功を予測する子供たちの自己制御能力を測定するために1960年代にスタンフォード大学で行われた有名な心理学実験です。この実験は、ウォルター・ミシェルによって始められました。
実験の手順は非常にシンプルです。4歳から6歳の子供たちに1つのマシュマロを与え、研究者が部屋を離れる15分間、そのマシュマロを食べずに待てば、もう1つ追加でマシュマロをもらえると説明されます。子供はすぐに1つ食べるか、2つ目を得るために待つかの選択を迫られます。
この実験から、自己制御が高い子供たちは、待って2つ目のマシュマロを手に入れることが多く、これらの子供たちは成人してからも学業成績、社会的能力、健康など、さまざまな面でより良い成果を達成する傾向があることが長期的な追跡研究で明らかにされました。
しかし、この実験の結果は後に環境や社会経済的背景など他の要因が子供たちの選択に大きく影響している可能性があるとの批判もあります。また、自己制御の能力が固定されているわけではなく、成長と共に変化し、また教育や環境によっても改善され得ることが示されています。
脳には、ホットシステムとクールシステムがあります。ほっとシステムは情動で、目の前の誘惑や報酬に敏感に反応します。クールシステムは、自制で、自分のこうした衝動を制御する仕組みです。クールシステムは、マシュマロ・テストでつきとめられた類の、「未来志向の意思決定」と「自制の努力」に欠かせないものです。
クールシステムはほっとシステムと違い、刺激の情報面に敏感であり、合理的で思慮深く戦略的な行動を可能にする。
第3章 ホットに考える/クールに考える
生まれてから1年間に、前頭前皮質において、自制と自発的変化に不可欠なかたちで発達を始めます。そして3~7歳の間に、発達のおかげで子どもたちは、目標をより効果的に追求するために、注意を移したり集中したり、情動を適応性のあるかたちで調整したり、望ましくない反応を抑制したりする能力をしだいに高めていきます。
自制は時制!?
マシュマロ・テストから得られる視点は、次のようなものです。
1.誘惑に耐え、つらい情動を調整する能力がほかの人よりも優れている人たちがいる。
2.こうした違いが就学前という早い時期から明らかになり、全員でないにせよ、ほとんどの人で長年変わることがなく、その違いによって、心理的、生物学的にどのような結果がもたらされるのかを生涯にわたって十分に予想できる。
3.意志のちからは生まれ持った特性で、十分に追っているか持っていないかのどちらかであるという従来の考え方は間違っている。
私たちは、自分の社会的な履歴や生物学的な履歴に翻弄される必要はない。
第3部 研究室から実生活へ
さらに、自制のスキルは、必要なときに自動的に活性化できるように、身につけることも高めることも可能です。自制心が高い人にとっては、情動的にホットな報酬や誘惑はさほどホットではなく、また、そうした誘惑を人より簡単に「冷却」することが可能だからです。
後天的にこうした能力を磨くことも可能です。あるいはたとえスキルを持っていたとしても、それを前向きに使うための目標や価値観や社会的支援を欠いていることだってあります。
自制の中核は、「今」を冷却し、「あとで」を加熱することです。これは、人生をより良くするための多くの示唆に富んでいます。例えば、今注目される「投資」の発想についても、こうした考え方が必要でしょう。今、受け取る100万円と、1年後に受け取る105万円、どちらが良いかを考えるためにも、自制は役立つということです。
つまり、目の前の誘惑を時間的にも空間的にも遠くへ押しやり、遠く離れた結果を頭の中で近くに持ってくることだ。
第19章 中核戦略を応用する
なんだか、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』の一説を思い出します。
遠いものは小さく、近いものは大きく、遠いものは橙や黄いろではっきりし、近いものは青白く少しかすんで、あるいは三角形、あるいは四辺形、あるいは電や鎖の形、さまざまにならんで、野原いっぱいに光っているのでした。
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』
自制とは時制とも捉えられるかも知れません。自分を俯瞰する視点を持ちながら、今と将来を行き来しながら、いま・ここに集中することができる精神を養いたいものです。
クールとホットのバランスのためのクール!?
本書が示唆深いのは、必ずしも常に「クール」な状態が優勢であると説かないところです。人生の短く長い時間の中で、情動のままに動くことで新しい経験や体験を得られることだってあるからです。そんな時に、「クール」な判断をしていては、情動を抑えてしまい、新しい機会を得ることは難しいです。
大切なのは、「クール」と「ホット」のバランスを見極められるだけの「クール」さということになるかも知れません。こういった視点でマシュマロ・テストを振り返ってみると、メタ認知がいかにできるか、ということにもつながってきます。
実験参加者の子どもの中には、「マシュマロ」を我慢するために、歌を歌ってみたり、目を塞いでみたり、いろいろな工夫をした子も多くあったといいます。自制心の高い反応を見せた子どもが取り組みの中で見せた行動は、次のようにまとめられます。
1)自分が選んだ目的とそれに付随する条件(「もし今1つ食べたら、あとで2つもらえない」)を記憶し、たえず頭に浮かべて置くこと。
2)目的に向かってどれだけ進んでいるのかを確認し、目的志向の思考と、誘惑を和らげるテクニックとのあいだで、注意と認知作用のスイッチを柔軟に入れ替えて、必要な修正を行うこと。
3)目的を達するのを妨げるような、衝動的な反応(誘惑のもとがどれほど魅力的かを考える、手を伸ばしてそれに触れようとする)を抑え込むこと。
目の前の「マシュマロ」を我慢するために、どうしたら自分が我慢することができるのかを感覚的に理解して、自分にその行動をさせる。ある種の俯瞰した視点を持ちながら、自分の行動をコントロールする発想を見出したということになるでしょう。
「クール」と「ホット」のバランスが求められる時、状況を理解し、その中にある自分の状態を踏まえて、自分の考え方や行動にフィードバックしていく思想や視点を養いたいものです。
自制の利き過ぎた人生は、自制の足りない人生と同じで、満たされないものとなる。「冬が来て、蓄えのないキリギリスが食べ物を分けてもらおうと思い、アリの巣を訪れ、声をかけましたが返事がありません。中に入ってみると、アリたちが至る所に倒れているではありませんか。夏のあいだの無理がたたって、みな過労死していたのです」というブラックパロディが思い出される。
役者あとがき
視点の話については、こちらの1冊「【頭がいいは、視点で決まる!?】メタ思考~「頭のいい人」の思考法を身につける|澤円」がおすすめです。また、大人であってもいかに学ぶかを検討する際には、自分のマインドセットを理解する必要があります。そんなときこちらの1冊「【あなたを高め続ける唯一のスキルとは!?】教わる力 すべての優秀な人に共通する唯一のスキル|牧田幸裕」もおすすめです。
まとめ
- マシュマロ・テストとは!?――自制の力を数十年にわたる追跡調査によって見出しました。
- 自制は時制!?――「今」を冷却し、「あとで」を加熱する戦略です。
- クールとホットのバランスのためのクール!?――自分を俯瞰する自制心が大切です。