行間を掴むとは!?『一万円選書:北国の小さな本屋が起こした奇跡の物語』岩田徹

一万円選書:北国の小さな本屋が起こした奇跡の物語
  • どのように、事業コンセプトを検討していくことが、キーになるでしょうか!?
  • 実は、顧客のペインやニーズにまっすぐに向き合ってみるということです。
  • なぜなら、商いとは、ものやサービスを売ることではなく、問題を解決するということだからです。
  • 本書は、「一万円選書」という取組を通じてスモールビジネスの未来を見通す1冊です。
  • 本書を通じて、顧客とともにあるビジネスのあり方について、解像度を上げていくことができます。

付加価値とはなにか!?

前回の投稿「顧客を見つめよ!?『「一万円選書」でつながる架け橋 北海道の小さな町の本屋・いわた書店』岩田徹」に続き、まして、今回も「一万円選書」のいわた書店さんのお取り組みについて、新しい1冊でご紹介していきたいと思います。

前回の投稿では、以下のような内容を見つめてきました。

縮小する業界で生き残るために必要な視点について、北海道砂川市の「いわた書店」の成功事例を通じてご紹介しました。

業界全体がシュリンクしていく中で最も大切なことは「顧客に向かう」ことです。なぜなら、そこに必ず商いのヒントがあるからです。

日本の書店市場は長年縮小傾向にあり、1990年代後半には全国約2万店あった書店が2023年時点では1万店を割り込み、特に地方の小規模書店の閉店が相次いでいます。出版市場全体も縮小し、紙の出版物は20年前と比べて約6割程度まで減少しました。

この縮小の背景には、インターネットとオンライン書店の台頭、スマートフォンなどによる活字離れの進行、新刊点数の多さとベストセラー偏重、人口減少と地方の衰退、出版流通の返品制度などの課題があります。

しかし、こうした逆風の中でも明るい兆しがあります。その一例が、北海道砂川市の「いわた書店」です。

いわた書店は1950年代創業、現在は2代目の岩田徹さんが「町の本屋の存在意義」を真剣に考え、「一万円選書」というユニークなサービスを生み出しました。

「一万円選書」とは、読者が1万円を支払い、自分の趣味や悩み、興味関心についてアンケートで伝えると、岩田さんがその人のために本を選んで送り届けるという仕組みです。このサービスは単なる本の販売ではなく、「人に寄り添う選書」という体験価値を提供することを目指しています。

当初は地元客向けの試みでしたが、メディアやSNSで取り上げられると全国から申し込みが殺到し、一時は数年待ちになるほどの人気となりました。

いわた書店の取り組みは、書店が単に物を売る場所ではなく「人と人をつなぐ架け橋」となり得ることを示し、地方の小規模書店が独自性を磨いて全国の読者とつながる道を切り拓いた事例として注目されています。

注目すべきは、「一万円選書」がスタートしたのは2007年、ブレイクしたのが2014年と、実に7年の歳月がかかっている点です。

これは「ティッピングポイント(転換点)」と呼ばれる現象で、長い間地道な努力を積み重ね、蓄積された価値がある環境や社会の潮目と呼応したときに初めて花開くのです。

いわた書店は、町の本屋でありながら、午後3時から5時までシャッターを降ろします。独自サービス「一万円選書」に専念するために。

新しい事業が、実は既存事業を超えて、全国の顧客とつながりを持つことができるという成果をもたらすことができたのです。

こうした個人のパーパスの再定義をすることができたのは、とても重要なポイントだと思います。2021年時点で、選書の売上が2倍になっているそうです。

岩田さんは、個人のパーパスを見出しています。それが、「おもしろい本を書いた作家からもらったパスを読者につなげる」ということです。

「この本、おもしろいから、ほら読んで」って、手から手へ、本を届けていく。

でも、最初から、おそらく岩田さんもこうしたパーパスを言語化できたかと言うとそうではなかったのではないかと思います。

なぜなら、町の本屋さんという限られた視点であると、その商圏の広がりを想像することが難しいからです。

学びとはなにか?

岩田さんが、そうした視点を見出すことができたのも、もしかすると生い立ちが関係しているかもしれません。

本屋さんで幼少期を過ごした岩田さんは、小学校4年生時点で、小学校4年生の先生向けの教育の手引書を読破していたほどです。

その後、ラ・サールに進学されるのですが、そこでの教育も特徴的なものでした。

教科書を使わずに、たとえば、国語の授業であっても、1年生の1学期中、先生はずっと「詩」の授業をするそうです。明治38年上田敏の『海潮音』、島崎藤村、室生犀星・・・、言文一致運動が起きて、日本人が日本語を獲得していく背景を学ぶ教材が「詩」であったというのです。

そして2学期には、「小説」の授業がはじまる。そして、テストでも原稿用紙1行で「石川啄木について書け」という内容であったそうです。

この体験は、国語とはなにか、言葉とはなにか、そして、そもそも、学びとは何なのかを考えるヒントにあふれたものだったと推察します。

僕はこのとき、世の中には答えが用意されている問題はほとんどなく、僕がしていたように、先に答えを見ておくなんていう手は通用しないことを学びました。自分の頭で考えて行動すること、うまくいないことを親や先生のせいにはできないことを。

そうした学びの背景が、きっと岩田さんの独自の視点を養うのに、きっとお役立ちされたのかな?と思いました。

そもそも、学びとはどういうことを指すのでしょうか?どうしても、学習と紐づいている私たちには、知識のインプットのことが学びと捉えがちなのですが、実は異なる次元で学びの本質はあることに気づきます。

私たちは日々、様々な形で「学び」を経験しています。学校での授業、書籍や記事を読むこと、他者との対話、そして人生の様々な経験を通じて、私たちは常に何かを学んでいます。しかし、「学び」とは本当に何なのでしょうか?

多くの人は「学び」を「知識を得ること」と同一視しがちです。確かに、新しい情報や事実を知ることは学びの一部です。しかし、真の学びの本質は、単なる知識のインプットとは異なるレイヤーにあります。

知識のインプットとは、情報や事実を記憶することです。例えば、歴史的な出来事の日付を覚えたり、科学的な公式を暗記したりすることがこれにあたります。これは確かに重要ですが、それだけでは表面的な理解にとどまります。

真の学びは、これらの知識を自分の中で整理し、関連付け、意味のある形に組み立てるプロセスです。これは、頭の中に「知識の地図」を作り上げることに似ています。新しい情報を得るたびに、この地図は更新され、拡張され、時には大きく書き換えられます。

この「知識の地図」は、心理学では「心的構造」や「認知構造」と呼ばれることがあります。これは、世界を理解し、解釈するための枠組みとなるものです。

例えば、子どもが初めて「犬」を見た時、その特徴(四足で歩く、毛があるなど)を基に「犬」についての基本的な理解を形成します。その後、様々な種類の犬を見ることで、「犬」についての理解はより豊かで複雑になっていきます。さらに「猫」を見ることで、犬と猫の違いを理解し、「ペット」や「哺乳類」といったより広い概念の中に位置づけることができるようになります。

このように、私たちは新しい知識を得るだけでなく、それを既存の理解と関連付け、整理し、時には再構築することで、より深い理解を得ていきます。

真の学びには、次のような要素が含まれています。

知識の関連付け:バラバラの情報を点と点でつなぎ、意味のある全体像を作り上げること
理解の更新:新しい情報によって、これまでの理解を修正したり、拡張したりすること
適用と実践:知識を実際の状況に適用し、試行錯誤を通じて体得すること
批判的思考:得た情報を鵜呑みにせず、自分なりに考え、評価すること
変容:新しい視点や理解によって自分自身が変わっていくプロセス

これらのプロセスを通じて、私たちの「知識の地図」は常に進化し続けます。そして、この地図が豊かになるほど、新しい情報をより効果的に理解し、活用することができるようになります。

知識を通じて見る世界を!?

真の学びは、知識を「持つ」ことではなく、知識を通じて世界をより豊かに「見る」ことができるようになることであると思われますが、そうしたことを進めていくためには、「具体的な活動」の実践がとても大事なのだと思います。

岩田さんのとてもユニークなところは、本というインプットの知識を役立てられる「選書」という活動がセットでよりよい循環を描いていることではないかと思います。

これは、いわゆる普通の本屋さんで働く人とは異なるスパイラルを描きます。

お客さんが求めている本、本屋として売りたい本に関係なく、取次から送られてきた本をただ並べるしかできない。配られた本を並べてお金にかえて、売れなかったら返本する。自分に主導権がないんです。それでは仕事にやりがいは見出せない。「おまえの代わりはいくらでもいる」と言われているような気がしました。

これは、岩田さんが選書を始められる前の振り返りのコメントです。

ここに「選書」が加わることで、顧客に対して積極的に向かう活動が、自分自身のパーパスをさらに強化していくことにつながっていくモデルへと向かう力となりました。

選書は、カルテによって顧客との対話のようなやり取りを描きます。

そこに浮かび上がるのは、人であれば誰もが持つような悩みや喜びや幸福のあり方であると言います。

本当に、人生いろいろですから。悩みがない人なんていないんです。傷つけられることも、傷つけてしまうこともあります。もし悩みがない、傷ついたことがない、という人がいたら、忘れているか、蓋をしているか、見栄を張っているか。もし希にそういう人がいたとしても、一万円選書には応募してこないでしょうね。

カルテに映し出される一人ひとりの人生に向かっていくことは、それ自体が、極めて対話的な行為であり、そして、選書というアクションが、応募者とそして著者との対話へと複雑にいざなう構造がここにはあります。

岩田さんがカルテに向き合う際に自然と行われているのは、「書かれていることと直接向き合うのではなく、その行間に目を凝らすこと」であると言います。

潜在的なWhantsにふれるアプローチが、応募者の心に触れ、そして著者とのよりよい対話体験へとつながっていくのでしょう。

まとめ

  • 付加価値とはなにか!?――それは積極的に顧客と関わることで、ともに作られるものとも言えます。
  • 学びとはなにか?――考えるためのスキーマ(認識の構造)を頭に作り上げていくことです。
  • 知識を通じて見る世界を!?――具体的な活動とは、そうした積極的なアプローチの積み重ねです。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!