そもそも人事とは!?『「人事のプロ」はこう動く 事業を伸ばす人事が考えていること』吉田洋介

『「人事のプロ」はこう動く 事業を伸ばす人事が考えていること』吉田洋介の書影と手描きアイキャッチ
  • 人事の仕事とは何でしょうか。
  • 実は、多くの人事担当者が日々の業務に追われる中で、この根本的な問いに立ち返る機会を失っているんです。
  • なぜなら、採用、育成、評価、労務管理といった個別のタスクをこなすことが目的化してしまい、「なんのために人事をやるのか」という本質が見えにくくなっているからです。
  • 本書は、リクルートマネジメントソリューションズで500社以上を支援し、現在は人事図書館を運営する吉田洋介さんが、人事のプロフェッショナルとしての視点・視野・視座を体系的にまとめた一冊です。
  • 本書を通じて、人事という仕事の本質と、事業成長に貢献するために必要な思考の枠組みを学ぶことができます。

吉田洋介さんは1982年北海道札幌市生まれ。立命館大学大学院政策科学研究科で若手の離職について研究し、新卒でリクルートマネジメントソリューションズに入社されました。

採用、人材開発、組織開発、人事制度、アセスメントなど多領域にわたり500社以上を支援し、2021年に独立。現在は株式会社Trustyyle代表取締役として企業支援を行うとともに、坪谷邦生さんが代表を務める壺中人事塾でファシリテーターとして人事の学び支援に携わっています。2024年には「仲間と学びで、未来を拓く」を掲げ、人事図書館を設立されました。

実は私も、中小企業診断士を取得した後に吉田さんと知り合い、コミュニティでのミーティングや1オン1を通じて多くの対話を重ねてきました。

その中で常に感じていたのは、吉田さんの「バランス感覚」です。

特定の理論やメソッドに偏るのではなく、状況に応じて最適な視点を提供してくれる。本書もまさにその吉田さんらしさが凝縮された、人事のプロとしての基礎を網羅的に学べる一冊となっています。

「人を生かして事をなす」――人事の本質的定義

人事とは何か。この問いに対して、吉田さんは明確な答えを提示しています。

私は人事とは「人を生かして事をなす」こと

シンプルですが、この定義には人事の本質が凝縮されているんです。

「人を生かす」とは1人ひとりの持ち味・個性を存分に発揮できる時間が積み重ねられていること。そして「事をなす」とは会社に関わる人たち(顧客、経営者、株主、取引先、社員、自分など)の事象の推進やビジョンの実現を叶えることです。

この定義から見えてくるのは、人事が決して人事部門だけの仕事ではないということなんです。

宣誓をしたうえで人のために尽くす専門職がプロだとすると、人事のプロは「人を生かして事をなす専門職」だと言えます。つまり、経営者、管理職、人事部という専門性の高い人たちだけでなく、現場のリーダーも含め、さまざまな関係者の願い、そしてなによりも自分自身の願いも含めて「幸福(ウェルビーイング)」と捉え、「関係する1人ひとりが生きる」を問答し続けることが求められているんです。

ここで重要なのは、人事のプロフェッショナルの定義です。

人事のプロは「人を生かして事をなす」プロフェッショナル
【目的】事業推進と人・組織の健全性を実現し続ける
【手段】人と組織の専門知識、技能、ソリューションを用いる
【姿勢】挑戦し続ける

目的、手段、姿勢の3つの軸で人事のプロを定義しているところが興味深いんです。

特に「姿勢」として「挑戦し続ける」が含まれているのは、人事という仕事が決して定型業務ではなく、常に新しい課題に向き合い続ける創造的な営みであることを示しています。

私自身、中小企業診断士として多くの経営者と対話する中で感じるのは、人事が「守り」の機能に偏りがちだということです。労務管理や制度運用といった「失敗しないための人事」に終始してしまう。しかし本来の人事は、事業成長のために人と組織の可能性を最大化する「攻め」の機能でもあるはずなんです。

吉田さんの定義は、その両面を「事業推進」と「健全性の実現」として明確に位置づけています。人を生かすことと事業を伸ばすことは、対立するものではなく、むしろ相互に補完し合う関係にある。この視点こそが、人事のプロフェッショナルに求められる本質的な思考だと思うんです。

「知る」ことの重要性――経営理解と関係構築の土台

人事のプロとして最も大切なことは何か。吉田さんは「知る」ことだと言います。

人事のプロの仕事の質の7、8割は、「知る」の質で決まります。残念ながら「知る」を大切だと感じるかもしれませんが自ら気がつかず周囲からの信頼も失ってしまうことが数多くあります。すべての起点になるフェーズですので大変だと感じるかもしれませんが丁寧に進めていきましょう。

7割、8割という数字に驚く人もいるかもしれません。しかしこれは、人事という仕事の本質を考えれば当然のことなんです。

なぜなら、人事施策は常に経営や事業の文脈の中で機能するからです。その文脈を「知らない」まま施策を打っても、的外れなものになってしまう。

吉田さんは「知る」を習慣化することの重要性を強調しています。

経営者の言うことをそのままやることが常にいいわけではなく、自らさまざまなことを知り、当事者として経営者を含む関係者に対話していくのが人事のプロに求められる姿勢です

ここには、人事が単なる「経営の言いなり」ではなく、対等なパートナーとして機能すべきだという明確なメッセージがあります。

そのためには、経営者と同じレベルで事業を理解し、組織の実態を把握し、外部環境の変化を捉えている必要があるんです。「知る」ことは、人事が経営や現場と対等に対話するための土台なんです。

本書では「知る」を習慣化するための具体的な視点も提示されています。事業組織、人材の3つの軸で、常に最新の情報をアップデートし続けること。そして、それらを単なる情報として持つのではなく、「なぜそうなっているのか」「これからどうなるのか」という文脈の中で理解すること。

私が中小企業診断士として企業支援をする中で感じるのは、多くの人事担当者が「知る」ことに十分な時間を割けていないということです。日々の業務に追われ、経営会議の資料を読む時間もない。現場に足を運ぶ余裕もない。その結果、人事施策が「人事部の都合」で決まってしまい、事業や現場のニーズとズレが生じてしまうんです。

吉田さんが「知る」の質が7割、8割を決めると言うのは、まさにこの課題を指摘しているんだと思います。どんなに優れた人事制度やプログラムを持っていても、それが事業の文脈とズレていれば意味がない。逆に、シンプルな施策であっても、事業の実態を深く「知った」うえで設計されていれば、大きなインパクトを生み出すことができます。

事業と人事の結びつけ方――アサインとプロの視座

「知る」ことの次に来るのが、それを具体的な施策に落とし込むことです。吉田さんはその核心として「仕事のアサイン」を挙げています。

仕事のアサイン:事業と人事業務を結びつけた目的意識

ここで重要なのは、「なんのために取り組む業務なのか」という「業務の目的」です。

特に、「この業務をやらなかった場合、どのような事業インパクトがあるのか」「この業務によってどのような事業インパクトが生まれるのか」という視点で、育成担当者が積極的に事業と人事業務を結びつけて語り続けることが、人事のプロとして必要な視点を身につけるための大きな鍵になります。

このアサインの考え方は、人事という仕事を根本から変える可能性を持っているんです。

従来の人事業務は、しばしば「やること」が先に決まっています。年次の採用計画、定期的な研修、評価制度の運用。それらは「やるべきこと」として粛々と進められる。しかし吉田さんが問いかけているのは、「なぜそれをやるのか」という目的の部分なんです。

事業インパクトという視点から人事業務を捉え直すと、見えてくるものが変わってきます。

例えば採用。単に「欠員補充」や「計画人数の充足」として捉えるのではなく、「この採用によってどの事業領域が強化されるのか」「どんな新しい価値創造が可能になるのか」という視点で考える。研修も同様です。「階層別研修だから実施する」のではなく、「この研修によってどんな行動変容が生まれ、それが事業にどう貢献するのか」を明確にする。

このように考えると、人事業務の優先順位も変わってくるはずです。

本書では、人事のプロが定着する会社の特徴も示されています。

① 人事の専門性を事業部が尊重している
② 一貫性を重視し、リスクを恐れず前に進む姿勢がある
③ 経営陣が人事をパートナーと捉えている

この3つの特徴に共通しているのは、人事が事業のパートナーとして機能しているということです。

人事の専門性が尊重されるためには、人事側が事業を深く理解し、事業インパクトの視点から語れる必要があります。一貫性を持って前に進むためには、短期的な効率だけでなく、中長期的な組織づくりの視点が必要です。そして経営陣に人事をパートナーと捉えてもらうためには、人事が経営と同じ目線で事業を見ている必要があるんです。

私自身、経営者との対話の中で「人事担当者との温度差」について相談されることがあります。経営者は事業成長のために人事施策を期待しているのに、人事部門からは「制度上難しい」「前例がない」という返答が返ってくる。この齟齬の根本にあるのは、事業インパクトという共通言語の欠如なんだと思います。

吉田さんが提示する「仕事のアサイン」の考え方は、この齟齬を埋めるための強力な視点です。

すべての人事業務を事業インパクトという軸で捉え直し、優先順位をつけ、経営や現場と対話していく。それが、人事のプロとしての視座なんです。

本書は、人事という仕事の本質を体系的に学べる貴重な一冊です。

世の中には優れた人事論が数多く存在しますが、それらの多くは特定のテーマに特化した「点」の議論です。採用論、育成論、評価制度論、組織開発論――それぞれが深い洞察を提供していますが、全体像を掴むのは容易ではありません。

吉田さんが本書を上梓したのは、そうした点在する人事論を俯瞰し、人事のプロフェッショナルとして必要な視点・視野・視座を一貫した枠組みで提示するためだったのではないでしょうか。人事図書館という活動を通じて、膨大な人事の知見に触れてきた吉田さんだからこそ、この俯瞰的な整理ができたんだと思います。

特定の理論やメソッドに偏ることなく、人事のプロフェッショナルとして必要な視点・視野・視座をバランスよく提示している点が、吉田さんらしい強みです。

人事の仕事に携わる方はもちろん、経営者や管理職として人と組織のマネジメントに関わる方にも、ぜひ読んでいただきたい一冊です。人事とは何か、という根本的な問いに立ち返ることで、日々の業務の意味が変わってくるはずです。

人を活かすという論点においては、こちらの1冊「ギバー従業員が、最高の幸福組織を作る!?『幸せな会社の作り方』本田幸大」も大変おすすめです。ぜひご覧ください。

まとめ

  • 「人を生かして事をなす」――人事の本質的定義――人事とは「人を生かして事をなす」こと。事業推進と人・組織の健全性を実現し続けるプロフェッショナルとして、目的・手段・姿勢の3軸で人事の役割を捉え直す必要があります。
  • 「知る」ことの重要性――経営理解と関係構築の土台――人事の仕事の質の7、8割は「知る」の質で決まります。経営や事業の文脈を深く理解し、それを習慣化することが、人事が経営や現場と対等に対話するための基盤となります。
  • 事業と人事の結びつけ方――アサインとプロの視座――仕事のアサインを事業インパクトの視点から捉え直すことで、人事業務の優先順位が明確になります。人事の専門性を事業部が尊重し、経営陣が人事をパートナーと捉える組織が、人事のプロを育てます。
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