価値は、移転によって生まれる!?『ゼロから創らない戦略 イノベーションを駆動する「価値移転」の法則』野本遼平

『ゼロから創らない戦略 イノベーションを駆動する「価値移転」の法則』野本遼平の書影と手描きアイキャッチ

この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール

【本書の要約】イノベーションは「創造」ではなく「移転」である——2つのエコシステム間で過小評価されたリソースを再定義し、高く評価される場所へ仲介する。リクルート、フェイスブック、LINEなど成功企業に共通する「価値移転」の構造を解き明かし、ゼロから創らずに大きな価値を生む戦略思考を提示する1冊。

  • 新しいビジネスを立ち上げるとき、私たちは「何か画期的なものを創造しなければ」と考えがちです。
  • 実は、巨大な富を生み出してきた企業の多くは、まったく新しいものを創り出したわけではありません。
  • なぜなら、価値の源泉は「創造」ではなく「移転」にあるからです。
  • 本書は、リクルート、フェイスブック、LINE、メルカリなど、急成長を遂げた企業に共通する「価値移転」の仕組みを体系的に解き明かします。
  • 本書を通じて、イノベーションとは2つのエコシステム間でリソースを再配置することであり、ゼロから創らなくても大きな価値を生み出せるという新しい戦略思考を手に入れることができます。
野本遼平
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野本遼平さんは、東京大学工学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーでコンサルタントとして活躍し、その後スタートアップ支援や事業開発に携わってきた人物です。

多様な業界の成長企業を分析する中で、著者は一つの共通パターンに気づきました。急成長する企業は、必ずしも革新的な技術や製品を生み出したわけではなく、既存のリソースを別の文脈に持ち込むことで価値を生んでいたのです。

この洞察を理論化し、実践的な戦略フレームワークとして提示したのが本書ゼロから創らない戦略  イノベーションを駆動する「価値移転」の法則)です。
資本主義の本質的なメカニズムを、現代のビジネス事例を通じて鮮やかに描き出しています。

「創造」より「移転」——価値はエコシステムの境界に生まれる

私たちはイノベーションを語るとき、「まったく新しいもの」を生み出すことだと考えがちです。

しかし本書が提示するのは、まったく逆の視点なんです。

巨大な富の源泉は価値の「創造」ではなく、価値の「移転」にこそ宿るという法則です。

この一文が示すように、優れたビジネスの本質は、ある場所で過小評価されているリソースを、別の高く評価される場所へと仲介することにあります。

たとえば任天堂を見てみましょう。

WiiやNintendo Switchは、技術的な新しさで勝負したわけではありません。

同社はテクノロジーの新しさではなく、「人が自然に楽しいと感じる体験」から プロダクトを設計してきました。

つまり任天堂は、「楽しい」という人間の普遍的な欲求と、それを実現する既存技術を組み合わせることで成功したんです。

もっと明確な事例がiPhoneです。

スティーブ・ジョブズは発表の場で、iPhoneを「まったく新しいデバイス」とは言いませんでした。

「電話、iPod、インターネット通信デバイス」という、ユーザーにすでに馴染みのあった3つの機能を統合して「アップルは電話を再発明する」と明言しました。

この戦略の巧みさは、既存の慣れた手段を「かませ犬」にした点にあります。

アップルは、人間の根源的な欲求である「人とつながりたい」「情報にアクセスしたい」といった普遍的な欲求に対する「電話」という既存の慣れた手段を「かませ犬」にしたのです。

ユーザーは「自分の知っているものが、すごく便利なものに入れ替わった」として受け入れることができました。

この構造を体系的に示すのが、リクルートの「リボンモデル」です。

リボンモデルとは、左右に分かれた企業群と消費者、たとえば求人企業と求職者、飲食店と来店者、不動産業者と住宅購入希望者などの間に立ち、双方の情報を収集・整理したうえで、反対側に流通させるというビジネスモデルの総称です。

リクルートは新しい仕事や店や物件を創造したわけではありません。

すでに存在する情報を、それを必要とする人へと仲介することで巨大なビジネスを築きました。

これが「価値移転」の本質なんです。

重要なのは、この仕組みが機能するためには「2つの異なるエコシステム」が必要だという点です。

利益を生み出す基本は、「遠隔地」間において行う、安く仕入れて高く売るという「仲介」にあるのです。

エコシステムとは市場だけを指すのではありません。

「市場」という表現を用いると、どうしてもそこに人間活動が存在していなければならないように思えてしまいます。こういった先入観を排除するべく、本書では、「市場」ではなく「エコシステム」という表現を用います。

自然環境と人間社会、異なる時代、異なる地域、異なる業界——価値体系が異なる2つのシステムの境界にこそ、価値移転の機会が潜んでいるんです。

リソースは「再定義」によって浮かび上がる

価値移転を実現するためには、3つの柱が必要です。

・価値体系のズレがある2つのエコシステムを発見する
・リソースを再定義して、移転対象として特定する
・価値移転の関所を築き、ゲートキーパーになる

この中で最も創造的なのが、「リソースの再定義」なんです。

私たちの周りには、経済的価値として認識されていない資源が無数に眠っています。

それを「リソース」として見出し、経済価値に変換する視点こそが、価値移転の核心です。

フェイスブックの事例を見てみましょう。

当時すでにMyspaceやミクシィといったSNSが存在していました。

しかしフェイスブックは決定的に異なるアプローチを取ったんです。

Myspaceは、ユーザーが自らのコンテンツを自由に発信し、不特定多数のインターネットユーザーとつながることを主眼とした「SNS」でした。つまり、どちらかというと新しい関係性やネットワークを創造することに重き を置き、「すでに存在するソーシャルグラフ」をそのまま移転するというアプローチは希薄でした。

フェイスブックが移転させたのは、オフラインですでに形成されていた人間関係です。

大学のキャンパスという物理的空間に存在していた友人関係を、デジタル空間に持ち込んだ——これが「後発」のフェイスブックが「先発」だった理由です。

「後発」のフェイスブックが実は「先発」だった

既存のソーシャルグラフというリソースを、誰よりも早くデジタル空間に移転させたからこそ、フェイスブックは急成長できました。

LINEも同じ構造を持っています。

LINEは、ガラケー時代にユーザーが築いてきた人間関係、つまり電話帳に保存されていた連絡先データを、スマートフォン時代にふさわしい形で、新たなエコシステムへと移転させました。

電話帳のデータは、ガラケー時代には単なる「連絡先」でした。

しかしスマートフォンという新しいエコシステムでは、「リアルタイムにつながり続けるネットワーク」というリソースに再定義できたんです。

この再定義を可能にしたのは、テクノロジーの進化です。

スマートフォンの常時接続環境、プッシュ通知、アプリという配信形態——これらの要素が組み合わさることで、電話帳データは新しい価値を持つリソースに変わりました。

ここで重要なのは、すべての事業には「仕入れ」が伴うという視点です。

本書は、「仕入れ」を2種類に大別します。「他社と同じ条件で同じリソースを確保するような一般的な仕入れ」と、「特定のエコシステムでは過小評価されているリソースを安価に取得する仕入れ」です。

後者こそが価値移転の仕入れであり、高い利益率と急速な成長を実現する鍵なんです。

有名な「ゴールドラッシュ」の格言も、この視点で読み解けます。

この格言の本質は、「道具を売る事業が有利」ということではなく、「ツルハシの供給が潤沢な市場で安く仕入れて、需要過多によりツルハシの希少性が高い別の市場で販売する」ということであり、価値移転の仕組みを示しているとも理解できます。

埋もれたスキル、未活用の労働力、既存のネットワーク、遊休資産、過小評価された知財——これらはすべて、適切に再定義されることで経済価値を生むリソースになります。

Uberは「未活用の車両とドライバーの時間」を、タイミーは「スキマ時間の労働力」を、メルカリは「家の中の不要品」を、それぞれリソースとして再定義しました。

重要なのは、「新しいものを創る」のではなく、「すでにあるものを見出す」という視点です。

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タイミングと関所——「鮮度」と「練度」が交差する瞬間

価値移転の機会を見出しても、それだけでは成功できません。

なぜなら、価値移転には決定的な「タイミング」があり、そして「関所」を築かなければ利益を確保できないからです。

まずタイミングについて考えてみましょう。

価値移転において利益が生み出されるのは、あるエコシステムにおいて低く評価されていたリソースが「再定義」され、高く評価される別のエコシステムに持ち込まれるからです。

この再定義を引き起こすのは、政治、経済、社会、テクノロジーという4つの因子の変化です。

特にテクノロジーについて、本書は重要な概念を提示します。

価値移転の観点からすると、テクノロジーには、「練度」と同時に「鮮度」が求められます。そして、これらが絶妙に両立するときにこそ、価値移転を成功させることができるタイミング(価値移転の「ウィンドウ」)が訪れるのです。

「練度」とは、実用に耐えうる安定性・再現性のことです。

技術が新しすぎても、それを運用できる技術者集団や集合的知見が不足していれば、ビジネスとして成立しません。

一方で「鮮度」とは、まだ広く普及していない新しさのことです。

技術が成熟しすぎていれば、誰でもアクセスできるため価値移転の機会は失われます。

事業を起こす「タイミング」は極めて重要です。新たな変化によりリソースが再定義される局面を逃し、産業が均衡状態に至ってしまっては、価値移転の果実にはありつけません。

スマートフォンの事例で考えてみましょう。

2007年のiPhone登場時、タッチスクリーン技術、モバイルインターネット、アプリエコシステムという技術要素は、実用レベルに達していました(練度)。

しかし同時に、それらを統合したデバイスはまだ普及していませんでした(鮮度)。

この「練度」と「鮮度」が交差する瞬間こそ、価値移転のウィンドウだったんです。

しかしタイミングを捉えただけでは不十分です。

ゲートキーパーでなければ、儲からない

価値移転の流れを支配し、追随を許さない「関所」を築く必要があります。

本書が示す関所構築の3つの道具が、テクノロジー、レギュレーション、オペレーションです。

テクノロジー

テクノロジーは、他のテクノロジーやシステムと組み合わさることでその真価を発揮します。

Uberの事例を見てみましょう。

Uberはモバイルテクノロジーやリアルタイムマッチングアルゴリズムを組み合わせることで、未活用の車両とドライバーの時間をリソース化することに成功しましたが、さらに深い地層をみてみると、インターネット、自動車(エンジン)というテクノロジーも組み合わさって、Uberのビジネスが支えられていることがわかります。

複数のテクノロジーを組み合わせ、模倣困難なシステムを構築することが関所になります。

レギュレーション

レギュレーションは、建前上は守るべきルールを提示するものですが、実質的には、「自らに有利なゲームを設計するための交渉領域」だと捉えるほうが実態に即していると思われます。

法制度や業界ルールを味方につけ、あるいは自らに有利なルールを形成することで、競合の参入を阻むことができます。

オペレーション

本書でいうオペレーションとは、単なる業務フローや作業手順のことではなく、リソースの調達・加工・流通(ディストリビューション)を効率化・規模化するための一連のワークフローや仕組みを指します。

物流網、店舗網、サプライチェーン——これらの物理的インフラも、簡単には模倣できない関所になるんです。

組み合わせると3つの「道具」は機能する

これら3つを組み合わせることで、強固な関所が完成します。

しかし忘れてはならないのは、価値移転にも限界があるという事実です。

やがてエコシステム同士は融合します。あるいは、何かしらの外部的な要因で、エコシステムの分離が消滅することがあります。すると、かつてそこにあった価値移転の機会は失われ、単に通常価格でリソースを仕入れ、通常価格で販売する「通常の取引」をするしかなくなってしまいます。

さらに深刻なのは、リソースの枯渇です。

リソース(仕入れ側)の「環境容量」が、事業の「成長の限界」を決定付けるという視点を忘れてはなりません。

化石資源、有用なデータ、未活用の労働力——これらは無限ではありません。

だからこそ資本は常に次の移転先を求め、フロンティアを開拓し続けるんです。

私たちは、「成長の限界」に対抗するには、新たなフロンティアを探し出すほかないのです。

これはある意味で、資本主義の宿命かもしれません。

しかし同時に、新しいフロンティアを見出す視点こそが、次の価値移転の機会を生むということでもあります。

まとめ

  • 「創造」より「移転」——価値はエコシステムの境界に生まれる 価値の源泉は創造ではなく移転にある。iPhoneは既存の3つの機能を統合し、リクルートは既存の情報を仲介した。価値体系が異なる2つのエコシステムの境界にこそ、価値移転の機会が潜んでいる。
  • リソースは「再定義」によって浮かび上がる フェイスブックはオフラインの人間関係を、LINEは電話帳データを、それぞれデジタル空間に移転させた。埋もれた資源を「リソース」として見出し経済価値に変換する視点が、価値移転の核心である。
  • タイミングと関所——「鮮度」と「練度」が交差する瞬間 テクノロジーの「練度」と「鮮度」が交差する瞬間が価値移転のウィンドウ。そしてテクノロジー、レギュレーション、オペレーションという3つの道具で関所を築き、ゲートキーパーになることで持続的な利益を確保できる。
野本遼平
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この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。

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